新宿ピカデリー閉館?



タイトルからして怪しげですが、新宿の一等地の大型劇場、新宿ピカデリー劇場が2006年5月14日、
ついに閉館になりました。
去年ぐらいから閉館のうわさは聞いていましたので、閉館自体にはそれほど驚きはないのですが、
いざ決定となると「来るものが来たかあ」という感じです。
私事ですが、実は私は学生時代、ピカデリーの地下にあった松竹の封切館、新宿松竹で
アルバイトをしていたことがありました。

但しアルバイトをしていたのは20年前。
ここでアルバイトをしていたおかげでたくさんの映画俳優、スターに会うことが出来ましたね。
渥美清が帽子をかぶってふらっと劇場事務所に入ってきたときには誰だかわからなかったし、
同じく三崎千恵子(寅さんのおばちゃん)もただのおばさんにしか見えなかった。
当時看板女優だった松坂慶子は何回か見かけたなあ。
青島幸男が寅さんを客として見に来たこともあったけ。
都はるみは明るいおばさんだったなあ。
そうそう岡本喜八監督や植木等さんにサインを貰うことが出来たのもひとえに
この映画館でバイトをしていたおかげです。

しかしその後新宿松竹は真ん中に壁を作り一つだった映画館を二つに分割。
新宿ピカデリー2と新宿松竹になった時代もありましたが、それも数年間。
1999年の松竹のブロックブッキング制度廃止と共に新宿ピカデリー2、3となったわけです。
またピカデリー(ピカデリー1)も椅子の交換、ロビーの大改装で僕がアルバイトをしていた
頃とはまったく変わっており、学生時代の思い出はすでにこのときになくなりました。



そうは言ってもやはり閉館となれば感慨もひとしお。
靖国通り沿いのウエンディーズは元は松竹パーラーという喫茶店だったし、今カレーショップが
あるところはかつては松竹直営のビデオショップで、シュークリームの「ヒロタ」があるところは
天津甘栗の店、その隣の現在は自動販売機が並んでいるところは「タイラック」という藤田田が
やっていたネクタイショップ、その前は立ち食いうどんだったはず。
ピカデリー4になったミニシアターは昔は何があったけ?雀荘だったかな?

そんな思い出を抱きながら5月14日閉館の夜に駆けつけました。
今回の閉館はよくある「さよなら興行」としてかつてのヒット作を上映する、なんていう
ファンサービスはなく、通常のプログラムのまま。
ピカデリー2は韓国映画の「デュエリスト」、ピカデリー3は「ナルニア国物語」。
実は「小さき勇者たち〜ガメラ〜」が旧新宿松竹の「2」か「3」で上映されていると思って行ったら
「ガメラ」はピカデリー1で上映していてちょっとびっくり。。



劇場に入ってみればピカデリー1の入り口前にはかつての上映作品のチラシが貼り付けてある。
全上映作品、というわけではありませんが、「タワーリング・インフェルノ」「遠すぎた橋」
などの70年代作品からはじまって最近のハリーポッターのチラシも。
へーよく保存してあったなあ。
しかし両面テープで壁に貼り付けたものなので、いかにも劇場スタッフが片手間に張りつけた感じが
して今回の閉館に対する松竹の思い入れのなさが伝わってくるよう。



場内に入ると私同様に写真を撮っている人が数名。
しかし観客の数は数えてみたら20名ほど。
いや私は新宿昭和館、中野武蔵野ホール、浅草東宝などの閉館に行きましたが、そのときは満員で
したからねえ。
なんだかこの状況を見ると「ホントに閉館するのか?」と疑わずにはいられません。



場内、ロビーの写真を数点撮影。
映画の中ではガメラたちの怪獣によって名古屋の駅前は破壊され、ガメラはかろうじて勝って
無事上映終了。
拍手もなく、実にさびしーい幕引き。
劇場スタッフも淡々としていて、まるで明日も通常営業するかのよう。
まあ松竹にしてみれば閉館して無くなるのではなく、新しい21世紀型シネコンを作るための
「一時的な」閉館という認識なのかも知れませんから、こういう状況になってしまうのかも知れませんが。

私自身、六本木、豊島園にシネコンが出来てからは、封切り作品はほとんどどちらかで見る状況で
新宿の映画館には「六本木、豊島園で上映されていない」というときにしか来なくなりました。
もう時代は旧来の映画館は必要とせず、シネコン型映画館へ移行していくことは自分が
よく自覚しています。
なんて言ったって私自身が新宿の映画館には行かなくなってきましたから。

しかしピカデリーの最後の作品が「ガメラ」であったというのは偶然にしては出来すぎな気が・・・
「ガメラ」という映画は大映なき後、平成になってから東宝配給で東宝マークが付いての上映だった
わけですが、今回は松竹系での上映。
邦洋混合、大映松竹混合、建物の老朽化に伴う大劇場閉館、という現在の映画界の混沌
(あくまで「かつて」から見ればですが)とした状況を象徴するには、ふさわしすぎる作品だった
気がしてなりません。

翌日の朝、出勤途中にピカデリーの前を通ってみた。
すでに看板は外され、次回上映作の他劇場での上映の案内文のみ。
「無くなったんだなあ」と改めて寂しさをかみ締めた。



(このページの内容はリンクしている「DAY FOR NIGHT」の2006年5月15日付けの更新に
掲載された文章を加筆訂正してこのサイトにもアップしました。写真の一部は「DAY FOR NIGHT」
の管理人・映画館主F氏より頂戴しています。
ここに改めて御礼申し上げます)