あなたがすきです、だいすきです

(1994年ENKプロ製作 監督 大木裕之)

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ホモ映画(ゲイムービーなどとかっこつけて言わない)
専門の製作会社ENKプロ作品。上映時間も他のホモ映画と
同じく一時間の小品である。

ある地方都市に同棲する若いホモカップルがいた。
ある日、その主人公の子(コウ)は駅でよく見かけるノンケの男に
「あなたのことがすきです。大好きです」と告白してしまう。
コウはそのことを同棲相手のシンちゃんに告げる。
表向きは平然とするシンちゃんだが内心はどうしていいか
解らず動揺してしまう。
シンちゃんは悩んだ末にコウが好きだと告げた男に
「あいつと僕は付き合ってるんです」と言いに行く。
だが言ってる途中でとなりに居合わせたコウは
その場から駆けて行く。
追いかけるシンちゃん。
コウは追いついたシンちゃんに「シンちゃんなんて大嫌いだ!」
言い捨て、やけくそになって夜のハッテン公園で複数の男達に
身を任せてしまう。
シンちゃんは以前遊びでセックスした友人に相談してみる。
翌朝、結局よりを戻した二人だったが、河原で二人で朝食の
サンドイッチを食べている時に、例のノンケの男がジョギングしてるのを
見かける。
軽やかにトンボを切りながらジョギングする男を見て
コウはつぶやく。
「やっぱりかっこいいなあ」


はっきり言って技術的には最低の映画である。
ハンディカメラで画は常にゆれている、露出はばらばら、
ハレーションしまくりで見づらいことこの上ない。
おまけに音も無茶苦茶。
指向性のないマイクを使っているので、セリフも
周りの音(ドアの閉まる音とか、街の音、車の通過音など)も
おんなじレベルで録音再生されているため、
周りの音に隠されて非常に聞きづらい。

しかしそれも意図したものに思えてくる。
撮影や音声などが全て段取りされた後で、俳優が演技するのではなく
俳優の演技を追いかけるようにカメラが撮影し、
音声が音を拾っていくかのようだ。
まるでドキュメンタリー映画、いや現実の人物の生活を
記録していくかの錯覚さえ起きてくる。
もちろんこれは錯覚に過ぎない。
主人公を演じる渋谷和則はホモ映画に何本も主演作を持つ
ENKの常連役者である。セリフもすべてあらかじめ
指示されたものにすぎない

(特にシンちゃんがコンビニの前にたむろしている高校生に
「自分の彼女がほかの男に『すきだって告白してみた』
言われたら君たちならどうする?」って聞く所など
とても役者が演技してるようには思えない。
あの高校生達は用意された役者なのか?それともゲリラ的に
たまたまそこに居合わせた高校生にインタビューして
撮られたものなのだろうか?)

しかしこのドキュメンタリー(実際のドキュメンタリー作品
の方がよっぽど作っている)のような手法が、
現実にはありがちな、「付き合ってる人がいるんだけど、
時には他の男に心を奪われてしまう男心の瞬間」を表現しきっていた。

低予算のための技術レベルの低さが偶然生み出した手法なのか、
はたまた低予算を逆手にとってあらかじめ計算されたうえでの
手法なのか、僕にはちょっと解らない。
しかし、偶然であろうと計算であろうとどっちでも構わない。
作品は結果がすべてである。
実験的な手法が非常に成功した作品だ。
テレビドラマのようにセッティングされ尽くした現場では
出来なかった味わいの作品として記憶に残したい。