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あんにょん・サヨナラ



日時 2005年10月9日19:30〜
場所 韓国釜山海雲台MEGABOX3
監督 キム・テイル
    加藤久美子


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この映画を見たのは実に偶然だった。
私はこの10月、「眩しい一日」という韓国映画を見るために釜山国際映画祭に行った。
そしてせっかくだからもう1本ぐらい映画を見ようと思って、公式サイトで映画を検索する時に「日本」で選んでみた。
私は韓国語がさっぱりなので、少しでも日本語のある映画と思って日本関連の映画を探してみたのだ。
その中にあったのがこの「あんにょん・サヨナラ」。
公式HPの紹介文を翻訳すると靖国問題を扱った日韓合作の映画ではないか!
「靖国問題を扱った映画」と聞いたら見ないわけにはいかない。



韓国人のリ・ヒジャさんは日本統治時代の韓国で父親が日本軍に戦争に連れてかれていた。
父の消息を知らなかった彼女だが、10年ほど前に父は中国の病院で戦病死し、しかも靖国神社に祀られてることを知った。
神戸の古川さんは阪神大震災の時に神戸市役所の職員で、神戸を訪れたリ・ヒジャさんと知りあう。
無理やり日本軍に戦争に連れていかれてしかも戦病死、そんな父は靖国神社に祀られたってちっとも喜んでいるはずはない。
ヒジャさんは靖国神社の合祀取り下げ裁判を起こし、古川さんもそれに協力するようになる。
リ・ヒジャさんだけでなく、台湾の方も同様の思いで彼らと一緒に活動するようになる。
国籍など関係ない、戦争を、戦争を起こした人々を、そしてまた戦争を起こそうとしている人々を許さない市民たちの姿がそこにある。


先に断っておくが私は政府閣僚による靖国神社参拝問題に関して参拝反対派だ。
これは最初にはっきりさせておく。
靖国神社参拝賛成派の方々は以下の文章は気を悪くさせるかも知れないのではじめに断りしておきたい。

靖国神社参拝賛成派の人はこういう。
「先の戦争で亡くなった方々の犠牲の上に現在の日本の繁栄がある。その人々を称えて何が悪い」
私は学生時代ニュースを見ていた母が同じようなことを言った時にこう言った覚えがある。
「その意見はある意味正しい。しかし称えることが過剰になって『戦争で死ぬことは素晴らしいことだ』という論理に話をすり返られるのが困る」

基本的にこの考えは今もぶれていない。

この映画も完全に閣僚の靖国参拝反対派映画だ。
映画はそもそも日本の神社とは何か、から話を始める。
そして一般の神社と靖国神社はかなり性格の異なるものだと説明。
日本軍人の士気高揚のために神社を設立。そこに天皇が参拝することにより、戦争で死んだら天皇陛下に参拝してもらえるという事で日本軍人の戦意を高揚させてきたと説明する。

その靖国神社がある限り再び戦意高揚に使われる可能性があると説く。
靖国神社を世間から忘れさせないために時の指導者は靖国に参拝し続けるのだと。
単なる遺族会の票欲しさという底の浅い話ではないのだ。

靖国神社だけではない、同様の施設は全国にあり、金沢の同様の慰霊碑に反対運動を起こす人々もいる。

そしてヒジャさんの父の死亡した中国の病院跡までいってみる。
記録に残っている病院の病棟の跡はわからない。
そしてその帰り、南京大虐殺の資料館に行き、日本軍が加害者であったことを再確認する。

ヒジャさんと同様に肉親を戦争に持っていかれてしまった台湾の遺族の方と靖国神社に直接合祀取り下げの願い出るシーンは秀逸だ。
「誰が靖国神社に祀られることを願ったのか?父は絶対に望んでいなかったはずだ」と訴える遺族。
「戦争で亡くなった方は無条件で靖国神社に祀られることになっております。お父様が望んでないとおっしゃいましたが、それは確かめられたんですか?」と答える。
「父は絶対望んでいないはずだ、遺族の気持ちも考えて欲しい」
「一旦合祀されますとそれを取り消すことは出来ません」
と会話はいつまで経っても平行線のまま。

また時折、「大東亜戦争はアジア開放のための正しい戦争だった。東條英樹が犯罪者だというがそれはアメリカから見た場合の話。自分達が正しいことを証明するために犯罪者にしたに過ぎない」と主張する映像が挿入される。
どちらの言い分を選択するかは見てる人にゆだねられる。

また靖国神社に彼らが行った際に靖国神社を支援する人々から暴力的抗議を受け、「薄汚いチョーセン人は帰れ!」とまで罵声を浴びせかけられる。

そんな激しいシーンばかりではなく、ヒジャさんがキムチの作り方をこの運動をしている女性達に教えるという交流も描かれる。
大阪ミナミの支援者が言う。
「我々には言葉の壁はあるかも知れないが、人間としての壁などない」

この映画にあるのは国境の壁を越えて戦争を憎み、戦争を起こそうとする勢力と対決する市民の姿だ。
正直、この映画を見たとき、もう戦争関連の映画を見る気がなくなった。

私が戦争に関する映画に期待していたものがここに描かれている。
数多くの人々に見て欲しい。
今はそんな気持ちでいっぱいだ。


公式HPにおいてこの映画の上映の案内があります。
いわゆる劇場公開はなく、全国でのホール等での自主上映になります。
なかなか観にくいとは思いますが、ぜひご覧ください。