追悼・ロベールアンリコ

「冒険者たち」

(1967年製作 フランス映画 監督 ロベールアンリコ)


完璧な名作というわけではないのだが、どうしても忘れられない作品だ。
監督のロベール・アンリコ氏の訃報(2001年2月23日死去)
に接し、どうしてもこの作品について書いておきたくなった。

パリに住む小型飛行機のパイロットのマニュ(アラン・ドロン)、自動車整備工場の
ローラン(リノ・バンチェラ)、前衛芸術家のレティシア(ジョアンナ・シムカス)
にはそれぞれ夢があった。マニュは凱旋門の下を飛行機でくぐる事、ローランは
世界最速の自動車エンジンを作ること、レティシアは芸術家として成功すること。
しかし3人の夢はことごとく破れ、アフリカのコンゴ沖に宝が眠ってるかも知れない
を知り合いから聞き、3人で新たな夢に挑戦する。
宝は見つかるが、しかしその宝を狙うギャング達にレティシアは殺されてしまう。
残された二人はレティシアの思い出とともに生きようとするが、再び
ギャング達に襲われマニュも死んでしまう。
ローランは一人取り残される・・・・・

青春の夢と挫折である。
僕はこの映画を最初に見たのは18歳になってすぐのころだが、この映画に
出てくる青春の夢と挫折には大いに泣いた。
この映画の正当な評価としてはレティシアを同時に愛してしまう二人の男を含めた
三人の愛と青春の物語なのは解っている。

しかし僕にとってはこの場合、レティシアの存在などどうでもよく、二人の男の
友情と夢とその挫折に注目していた。
二人の男の友情を表現するちょっとシーンがあった。
凱旋門の下をくぐる事に失敗し、挙句に飛行機のライセンスまで取上げられて
帰ってきたマニュが「どうした?」とローランに聞かれ、マニュは黙ってローランの
胸ポケットからタバコを取り出し、タバコを吸うシーンがある。
なんてこと無いシーンなのだが、他人の(たとえ友人でも)ポケットから黙って
タバコを取りだせるほどの友人関係に強くあこがれたのだ。

はじめてみた当時(もちろんリバイバルだが)私はまだ18歳で、
青春これからという年であったが、高校時代にもいろいろ挫折があり、
未来や青春や友情を無条件に楽しめる心境ではなかった。
むしろ将来についての不安の方がはるかに強かった。
同時に孤独感でいっぱいだった。
マニュとローランのような強い友情、強い信頼関係にあこがれていた。

これでもかこれでもかとばかりにマニュとローランを襲う悲劇に
自分の将来を見ていたに違いない。
それが無性に悲しかったのだろう。
しかし私は何度もこの映画を観て泣いた。自分は将来挫折するであろうが、
自分だけじゃなくマニュもローランも自分の努力とは関係なく挫折し、
悲劇を迎えている。
人生とはそういうものだということを自分に言い聞かせようとしていたに違いない。
それでも何とか挫折しまいと努力した。

結果、夢はかなわなかった。所詮、私に力が無かっただけのことである。
当時の夢の想い出はこの「冒険者たち」をみるとよみがえる。
そういう個人的な理由でこの映画は忘れる事は出来ない。
僕にとってこの映画は僕自身の青春をよみがえらせる貴重な一本なのだ。

そんな映画を作ったロベール・アンリコ氏が亡くなった。
巨匠、名匠といわれるような名作をたくさん作った監督ではなかったが、
私にとってはこの「冒険者たち」を作った監督というだけで充分
「忘れられない監督の一人」になった方だ。
冥福をお祈りする。