U・ボート(オリジナル劇場公開版)


監督 ウォルガンフ・ペーターゼン
製作 1981年

(詳しくはキネ旬データベースで)


第2次世界大戦下の大西洋におけるドイツの潜水艦、Uボートの存在は
脅威であった。
だが戦局がドイツに不利になるにつれ、Uボートの被害も増していき、
4万人と言われたUボートの乗組員のうち、3万人は帰らなかったという。
この映画は、そんなあるUボートの戦いの日々を描いた映画だ。

この映画には「○○砲台を撃破せよ」とか「原爆の攻撃を阻止せよ」と言ったような
いわゆる「映画的な」指令はない。
大西洋での敵輸送船団を見つけ次第、撃沈させるという地味なものだ。
今度の出撃には、報道部記者も加わる。
その報道部記者を案内人にしてUボートの日常を追う。

そこに描かれるのは圧倒的な生活感だ。
艦内は狭く、食料や魚雷であふれている。ベッドは2人でひとつ。
当然、風呂やシャワーなどろくにないだろうから、無精ひげの男たちで
むせ返る艦内は不潔感がいっぱいだ。
空気はいかにも悪そうで悪臭がにおい立つように見えてくる。

そんな中、敵駆逐艦との対決、爆雷にやられ襲われ、深く潜行する。
安全深度はとっくに超え、水圧でボルトが飛び散り、艦はきしむ。
恐怖により、機関長は外へ脱出しようと狂気に駆られる。

やっと敵をかわし、浮上してみるとそこには自分たちが攻撃した敵のタンカーが
炎上している。タンカーの乗組員が次々と海に飛び込み「HELP ME!」と
叫んでいる。
見えない敵に魚雷を打ち込むのは比較的容易だが、いくら敵とはいえ、目の前で
助けを求める姿を見せられるとさすがに参る。

一度の補給の後、ジブラリタル海峡を抜けイタリアの向かう。
しかしジブラルタル海峡ははば11キロの狭い水道。
敵の支配下にあり、猛攻撃を受ける。沈む艦、深度280メートル。
そこは水圧計の針が振り切った世界だ。
派手な海戦などなく、修理の完了するのを待つ。
じりじりとした圧迫感が緊張感を呼ぶ。

この映画にはいわゆる笑いをとるようなシーンはない。
閉所恐怖症になるような緊張感に満ち溢れている。
そしてやっと帰り着いた母港で直面する運命。
あれほど苦労して帰り着いたのに空襲にあってしまう。

そして艦長は死に、Uボートは沈んでいく。
この過酷な運命にわれわれは呆然とするだけだ。

何度も書くがいわゆる映画的なカタルシスはこの映画にはない。
自分もUボートに乗ったような息苦しさと緊張感の体験だ。
その圧倒的な表現の前では見てるわれわれは座り込むだけだ。

この映画は潜水艦もののあたらしいフォーマットを作り上げた。
短いカットの積み重ねによる急速潜行のシーンなど、いまや潜水艦ものの
定番のシーンだが、すべてはこの映画からだ。

映画の音楽も暗く、重たい雰囲気をかもし出す。

監督はウォルガンフ・ペーターゼン。
日本ではこの映画の以前はまったく無名だったが、この映画のために多くの人に
記憶された。
その後ハリウッドに渡り多くの話題作を作ることになる。

この映画以降の潜水艦ものの映画でこの映画の影響を受けていないものはほとんどないだろう。
もちろん日本の「ローレライ」もその1本だ。
映画の歴史を変えた偉大な作品だ。