F2グランプリ

監督 小谷承靖
製作 昭和59年(1984年)

(詳しくはキネ旬データベースで)

日本で唯一と言っていい完全なカーレース映画。
バイクの世界を描いた映画は草刈正雄主演の「汚れた英雄」があったが、本格的な四輪レース
の世界を描いた映画はこの作品が唯一と言っていいのではないか?

映画の冒頭でレースシーンにレーサーのインタビューの音が重なるとか、事故が起こるとか、
ジェームズ・ガーナー、イヴ・モンタン、三船敏郎出演、ジョン・フランケンハイマーの
「グランプリ」を参考にしたことは明らかだが、それにしても負けない迫力だ。

中井貴一の若き新人、もう一歩で常に2番手に甘んじてしまう田中健、多少汚い手を使っても
トップの座を守り抜こうとするベテランドライバーの峰岸徹。
この3人のドライバーを中心にドラマは展開されていく。
途中、中井貴一が恋人役の石原真理子と別れる別れないのドラマがあったりして、ちょっと
間延びするのだが、レースシーンは一級の迫力がある。

特にラストのレースシーンはかつてない盛り上がりを見せる。
レース前夜、レストランで鉢合わせした3人が「どっちから抜かれるのが好きですか?」と
火花を散らすシーンから緊張感は高まる。

その後、峰岸徹が別居中らしい妻に電話をかける。
電話をかける数分間のシーンを、峰岸を正面から捕らえたままカメラはカットを割ることもなく
フィクスで捕らえ続ける。
今まで単なる悪役ドライバーだった峰岸が人間的な弱さを見せる名シーンだ。
峰岸徹にとっても代表的なシーンといっても過言ではないのではないか?

そして最後のレースが始まる。
もはや誰が優勝してもおかしくない3人だが、迫力のレースシーンが展開する。
実際のレースの模様を撮影し、それにあわせてストーリーも多少変更させて映画は完成
したそうだが、その実際の記録シーンと、中井、峰岸、田中の顔がわかるショットが
実に違和感なく編集され、「映画のためにすべてレースを再現させたのか?」と思わせてしまう。
普通実写のシーンと映画用に撮影したシーンを組み合わせるとどこか違和感を覚えるものだが、
この映画ではまったくそれが感じられない。

そして最後には「あっ」というアクシデントが起き、レースの勝敗が決まってしまう。

途中意味もなく中井貴一の歌が挿入されたり、(この頃はまだ歌う映画スターを育てようとして
いたのかと驚く)石原真理子との間延びした恋愛ドラマがあったり、弱点もあるのだが、
レースシーンの迫力は同種のどんな映画にも負けない。

小谷監督にとっても、日本映画にとっても名作として認知されるべき作品だ。