チャップリンの独裁者


監督・主演 チャーリー・チャップリン
製作 1940年(昭和15年) 

(公式HPへ)
(詳しいデータはキネ旬データベースで)


ユダヤ人の床屋(チャップリン)は第1次大戦中にトメニア空軍の将校シュルツを助ける。
結局敗戦になったが床屋は戦時中の飛行機の墜落のショックで記憶喪失に
なり、政変を知らなかった。
トメニア国はいまや独裁者ヒンケル(チャップリン・二役)の支配する国家となり
彼の演説は世界に中継され、またユダヤ人迫害を行っていた。
シュルツはヒンケルの側近となっていたが、彼のユダヤ人迫害政策に反対し
逮捕されるが逃亡、ユダヤ人街に隠れていた。
ヒンケルは隣国の独裁者ナパロニとのオスタリッチ不可侵条約を破り
ついにオスタリッチに侵攻する。


言わずと知れたチャップリンの反戦映画の名作。
この映画の製作が昭和15年、まだヒットラーが快進撃を続けていた頃の作品だと
いうことをまず記しておきたい。
ラストに床屋がヒンケルと入れ替わり、大観衆を前に大演説を打つところは
まさにワン・アンド・オンリーの名シーン。

画面に向かってただ演説するだけというのは映画表現方法としてどうかという気も
するのだが、チャップリンの圧倒的迫力の前にはそんな批判はかすんでしまう。
またそれ以前のシーンで彼のパントマイム芸、及び練り上げられた笑いの
数々を充分堪能しているから映画的テクニックを排したこのシーンも許せてしまう。

私はこの映画を5、6回以上見ているし、笑わせどころもかなり憶えていたが
それでも笑った。

オープニングの戦闘シーンの巨大大砲、手榴弾を投げようとして袖の中に入ってしまう、
飛行機の迷走(懐中時計が上に下がるところなど初歩的だなと思いつつ笑ってしまう)。
床屋のシーンでハンガリー舞踊曲にあわせての髭剃り、そして極めつけが
コインの入ったお菓子のシーン。

ヒンケルネタでは最初の演説シーンのチャップリンの国籍不明言葉芸(このときの
大群衆シーンはどうやって撮ったのか?)、歓迎の赤ん坊を抱き上げたらおしっこを
したとか、新型兵器紹介(防弾服や落下傘)、そして数十秒の自画像製作などなどなど。
またナパロニ歓迎のシーンでのヒンケルを見上げさせようとしての低いイス、
二人並んでの床屋のイス高さ比べなど何度見ても笑ってしまう。

ホントによく練られた笑いの数々だ。
私が最近のテレビのお笑いは好まずに、練りに練り上げられた笑いを好むように
なったのはチャップリンの影響なのだろう。

また「モダンタイムズ」のように資本主義批判をやられてしまうと「じゃ共産主義が
正しかったのかい?」と反論したくなってしまうが、反戦、反独裁者なら
今でも文句のつけようがなく楽しめる。

トレードマークの浮浪者スタイルからぬけだしたチャップリンだが、彼の笑いの芸の
極めつけがここにあると思う。

映画史上、もっとも好きな喜劇と言っていいかも知れない。