拳銃無頼帖 不敵に笑う男

監督 野口博志
製作 昭和35年

(詳しくはキネ旬データベースで〜キネ旬の資料にはストーリーに誤りがあります)

(日活DVD作品のHPはこちら


赤木圭一郎主演「拳銃無頼帖」シリーズ第3作にして、最高作!

金沢の船場組(二本柳寛)の一員だった「早撃ちの竜」(赤木圭一郎)は
組を抜ける条件として敵対する浜田組の浜田(藤村有広)を殺すよう命じられる。
「はじきは使っても人は殺さない」が信条の竜は浜田の足を撃っただけだった。
2年が経ち、竜は金沢に戻ってきた。
途中の列車で札束を持った拳銃使い「コルトの謙」(宍戸錠)と偶然出会う。
しかし待っていてくれるはずの恋人のユリは金沢駅で列車に轢かれて死んでいた。
船場は浜田が復讐のために殺したという。その上で時価4000万円のダイヤ
を浜田に売る取引の話をする。相手は何をするか解らない奴だから取引の
現場に立ち会って欲しいと言う。
断った竜だったが今度は浜田が接触してきた。
なんと彼も竜を雇いたいという。
その上でユリを殺したのは船場だという浜田。

果たしてユリを殺したのはどちらか?
「お前とサシで勝負をつけたい」というコルトの謙。コイツは敵か味方か?
そして時価4000万円のダイヤの取引は?

一応金沢が話の舞台だが、別に金沢でなくても構わない。
ヤクザが出てくるが後の東映仁侠映画のような日本的な様式美はない。
また敵の一人浜田は映画中「三国人」と称され、怪しげな国籍不明の男だ。
演じるは藤村有広だが、彼は数多くの日活映画で彼独特の持ちネタである
外国語なまりの日本語を駆使し登場する。
こういったバタ臭さ(もはや死語だが)が一連の日活作品をして
「無国籍アクション」と呼ばれる所以だ。

その中でもこの作品が面白いのは脚本が特によく出来ていて、(それこそ
「マルタの鷹」のように)登場人物がほとんど悪人でお互いに敵になったり
味方になったり、対立したり手を組んだり、状況によってクルクル変わる。
竜の拳銃の腕を生かしつつ、そして彼を同時に消してしまいたい浜田と船場。
お互いに協力して竜を殺そうとしつつ、しかし「お前の恋人を殺したのは
あっちだ」と竜をたき付け、相手を亡き者にしようとする。
そういいつつダイヤの取引では、どちらも相手に一杯食わせようと仕掛けを
仕込む。(どんな仕掛けかは見てのお楽しみ)


主演は日活第三の男と言われた赤木圭一郎。
今回観たのはこの10月に発売されたDVDだが、改めて見てみて驚いたが、
スターとして一番乗ってる頃の赤木、一瞬表情がちょっと木村拓哉に似ている
時がある。

そういった2枚目ぶりと合わせて彼には独特の暗さ、影がある。
かげりのある表情がたまらなくいい。
この映画でも「俺は本当は拳銃は握りたくない。足を洗いたいんだ」と常に
思いつつ、周りの奴がそれを許さない。
自分の意志とは裏腹に物事が進んでいき、それに逆らい切れない弱さが
彼のカッコよさでもある。
言い換えればスーパーヒーローではない、どこか等身大のヒーローなのだ。

そしていつもながらの宍戸錠。
彼のこれまた独特の(しかしどの作品にも共通な)キザなプロの殺し屋。
粋なセリフの数々。
赤木「どうして俺がムショから出てきたんだと解ったんだい?」
宍戸「その服は2年前の流行だからさ」

宍戸「いつかお前とサシで勝負をする。だからそれまで持っていな」
赤木「気前がいいんだな」
宍戸「質屋じゃあるまいし出したりしまったりじゃめんどくせいや」

(拳銃を撃とうとしたチンピラの拳銃をサイレンサー付の拳銃で撃った後で)
宍戸「町中で撃つ時はこういうものをつけなきゃな」

キリがないのでこの辺で止めるが、彼独特の演技スタイルがあり、それが妙に
はまっている。
他の役者が同じセリフ、同じ動きをしてもこうは決まらないだろう。
また口では「お前をばらしたい」と言いながら竜がピンチになったとき、
ふっと現われて彼を助ける。
「お前をやるのは俺だ。それまで他の奴にやられちゃかなわなねえ」と
照れ隠しとも本音ともつかないセリフをはく。

この二人の奇妙な友情は「拳銃無頼帖」シリーズに共通したもので、
(実は小林旭の「渡り鳥」シリーズでもそう)でいつものお決まりなのだが
今回のこの作品が先にあげた脚本の細部の面白さ、伏線の面白さとあいまって
彼の面白さが一層際立っている。

そして敵役・船場には二本柳寛。
竜の元の親分だが、可愛がっている振りをして、裏では竜を殺そうとする卑怯者。
また敵対する浜田には藤村有広。先に記したようなおかーしなキャラクターが
ユーモアと殺気を共有している。

忘れちゃいけないのが女優陣。
死んだ恋人ユリの妹に扮するのは笹森礼子。
美女、というのとはちょっと違う、くりくりっとした大きな目がとても
チャーミング。
また彼女の天性の明るさが影のある赤木を励まし、支えるかのように
画面に華を添える。
そしてまだデビューしたての吉永小百合。
赤木の妹役で登場だが、登場場面数は少ないものの実に可憐な少女で
後の大スターの片鱗を感じさせる。


脚本の面白さ、出演スターの顔ぶれ、「拳銃無頼帖」シリーズの
面白さのエッセンスがすべてつまったシリーズ最高傑作にして
「紅の拳銃」にならぶ赤木圭一郎の代表作!

日活アクションを堪能する上で見逃せない一本。
ぜひともご観賞願いたい。


追記
DVDのオーディオコメンタリーは宍戸錠氏。
その中で「バンサ(藤村有宏)は僕より歳が一つ下。どう見ても40過ぎの貫禄が
あるけど当時僕は27歳、だからバンサは26歳だったんだ。」
と言っていたのは驚いた。
調べてみたら藤村氏、1934年生まれ、宍戸氏1933年生まれ。
知らなかったなあ。