桐島、部活やめるってよ


日時 2012年8月17日19:50〜
場所 新宿バルト9・スクリーン4
監督 吉田大八

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


日本のどこかのある高校。金曜日。
バレー部のキャプテン、桐島が突然部を辞めたらしい。
ところが当の桐島は学校を休んでいて誰も(親友の宏樹も彼女の梨紗さえも)連絡が取れない。
桐島の存在とは関係なく映画部の前田は今度撮る映画のことで先生ともめていた。先生は「テーマは半径1mの自分の日常を描け」という。しかし作りたい映画は大好きなゾンビもの。結局先生に無断で作ることに。
土曜日。桐島の退部で試合は負ける。
日曜日。前田は映画館でクラスの美人かすみと会う。
そういえば中学の時は映画の話をしたけど最近は全くしない。少し話が出来たこともなんか嬉しい。

「桐島、部活やめるってよ」の原作本は以前から知っていた。なんとなくタイトルに惹かれていた。私はこういう文章調のタイトルに弱いのだ(「僕たちは世界を変えることができない」とか)
映画は同じ時間を別々の視点で描き、最初はなんども話が戻ったりする。こういう描き方はガス・ヴァン・サントの「エレファント」をみたいだなと思いながら観る。

映画部の前田(神木隆之介)を見ていて高校生の頃の自分を思い出した。ルックスもあんな感じだったと思う(あくまで自分の記憶の中の私、という条件付きですが)。
運動も出来なかったし気弱だった。クラスの中でも存在感がある訳じゃない。前田はゾンビ映画が好きだけど、私は特撮映画だったともちろん違う点もある。女の子・かすみとちょっと話せただけでなんだか妙に嬉しくなる。ひょっとしたらこの後何か起こるかなあと期待して。(もちろん何もないのだけれど)
だから特別な親近感を持って前田を観てしまう。もちろん彼ほど映画を撮ってなかったし、2割ぐらいは割り引く必要も認める。

クラスの美女グループ、帰宅部の男子3人。
吹奏楽でサックス担当の部長の亜矢(大後寿々花〜「SAYURI」の子もこんなに大きくなったんだ)は帰宅部の中の誰かを好きらしい。

高校生というのは自由そうで実は不自由だ。
学校という狭いコミュニティで暮らしていかねばならない。嫌いな奴がいても四六時中一緒。
大人になって仕事なら自分の意志で辞めることも可能だ(もちろん諸般の事情からそれが簡単でないことも多い。でも可能は可能だ)。でも高校生(中学生もだが)そう簡単に学校は辞められない。

この映画のタイトルは「桐島、部活やめるってよ」。
部活を辞めるらしいという不確かな伝聞に彼らは振り回される。

桐島は梨紗とつきあい、元野球部の宏樹も沙奈とつきあい、竜汰もかすみともつきあっている。
この年頃、(いや今でもそうだけど)彼女がいるいないは人間として非常に重要。理屈っぽく言えば人間としてのステータスが違ってくる。
要はモテル奴はランクが上でもてない奴ってのは下なのだ。金を稼ごうとも社会的地位があろうとももてない奴はもてる奴にコンプレックスを抱く。
もてない奴は自分の世界に閉じこもる。

そして一般的に文化部より運動部の方が派手で女子にはモテる。前田は吹奏楽部の亜矢を見て言う。「同じ文化部だ。理解してくれる」
そう、文化部同士はまだ味方のはずだ。

この映画に登場する人間たちは高校生ではなく大人になっても当てはまる人間関係だ。
高校生という事情がより縮図化させる。
これだけの人間関係を広げておいてどう最後は処理するのだろう。そんな疑問と期待が映画を見ている最中に頭をよぎる。
屋上でメインの登場人物が大集合し、そこに吹奏楽部の音楽が重なるクライマックスは圧巻!

ラスト、その宏樹でさえも劣等感を持っていることが明かされる。自分を野球部の試合に誘ってくれるキャプテン。
「なんで引退しないんですか」と問う宏樹。「うん一応ドラフトが終わるまではな」「どっかスカウトが来てるんですか!」「いや、ないけど」
宏樹は最後の騒動の後、(おそらく今までろくに口を聞いたことがなかったろうに)前田に問う。
「将来は映画監督ですか?」「いやたぶん、それはない」
その直前にフィルムとビデオの違いについてなんだか詳しく話していたのに!
「やっぱりかっこいいね」と前田に「俺なんかだめだ」と答える宏樹。
そう、桐島も俺には何の相談もしてくれなかった。ぜんぜん信頼されてない俺。

前田だった自分に対して宏樹のような存在はいた。
先日、彼の訃報を聞いた。

この映画、携帯電話が出てくるから舞台は一応現代なのだろう。
でも前田のしている大きな、めがねは実は今はほとんど売っていない。まるで70年代のようだ。
監督の吉田大八は昭和38年宇生まれ。私と同じ歳だ。
前田は吉田監督の30年前の姿なのかも知れない。
主題歌「陽はまた昇る」もなんだか70年代フォークみたいだ。そういう70年代ぽさも妙に共感する。

よかった。原作も読んでみたい。
映画ももう一度観たい。

ちなみにこの映画のキャッチコピーの一つが「ハリウッドよ、これが日本映画だ。」
当然同時期に公開の「アベンジャーズ」の「日本よ、これが映画だ」というキャッチコピーに対抗したもの。
「アベンジャーズ」の上から目線のコピーに憤慨していた私は、思わずこの映画のコピーに喝采しました。