紅の拳銃


日時 2010年8月28日17:20〜
場所 銀座シネパトス3
監督 牛原陽一
製作 昭和36年(1961年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)



東京の小寺組の小寺(芦田伸介)に殺し屋を養成するよう頼まれた石岡(垂水吾郎)は
あるクラブで飲んだくれている中田(赤木圭一郎)と出会う。
中田は石岡の期待以上の実力を発揮した。
小寺は神戸の三国人のボス陳万昌(小沢昭一)を殺して直接香港のボスと取引しようとしていた。
表向きは陳万昌ともうまくやっていこうとする小寺は、陳からの殺しの依頼を引き受ける。
殺しの相手は陳の妻千加子(白木マリ)だった。ボスが怖くなって東京へ逃げ出したのだ。
しかし千加子は石岡と中田が出会った晩に中田が助けた女だった。
殺しに向かった中田だったが殺すことを拒否し、千加子を連れて神戸へと向かう。
陳と取引しようというのだ。
意外な展開にあわてる小寺と石岡。石岡は盲目の妹・菊代(笹森礼子)の治療が出来る
先生がいるというその神戸へ、中田を追いかけて向かうのだが。


赤木圭一郎の遺作にして最高傑作!
日活の殺し屋ものとしても代表的な映画と言えるだろう。
スクリーンで見るのはおそらく20数年ぶりだが、一時期ビデオで何回も見たので
シーンはほとんど記憶していた。

何といっても圧巻なのは冒頭だ。この映画はファーストカットに特に意味がある。
垂水吾郎ががくるっと振り返り、「また殺し屋の話ですか。いい加減にしてくださいよ。
日本では拳銃を持つことすら銃刀法違反なんですから」と日本では殺し屋は成立しない
と話していく。
実はこれは「殺し屋を見つけて来い」としつこくいう小寺に対しての石岡の返答なのだが
日活映画では多数存在する殺し屋が登場する映画を一旦否定する。
しかし否定しながら、殺し屋を一から作っていくというスタイルで映画を始めるのだ!
これぞ今までの日活映画にはなかったリアリティだ!

そして石岡は中田に拳銃の持ち方、構造などの基本から拳銃の撃ち方について
逐一解説し、教え込んでいく。
(映画に登場するリボルバーを「コルト45」と言って紹介するシーンが実は
違うので白けるが、拳銃の撃ち方の名称までいちいち教えてくれるあたり
そのこだわりに感心してしまう)

中田が鏡を見ながら自分の姿勢を確認したり、「拳銃は持ち始めは5分もすれば
腕がしびれる。しかし慣れてくればその重さを感じなくなる」と言われ、その後のシーンでは
鉄アレイで腕の筋肉のトレーニングをする。
この一連の石岡のトレーニングシーンは今までの荒唐無稽の世界ばかりを描く日活には
(後半日活らしい三国人も登場しての拳銃アクションになっていくのだが)、珍しい新たな
切り口を示している。
(もしくは荒唐無稽と反論し続ける野暮な人々への反論とも言える)

やがて実戦。
中田は思いもよらぬ行動をとり、観客は彼の真意を測りかね垂水吾郎たちと同じく混乱の
迷宮へと入っていく。
そして登場する謎の中国人たち!
小沢昭一の神戸のボス、そしてその弟の草薙幸二郎、そして待ってましたの藤村有弘!
特に藤村有弘がやっぱり強烈。
黒のダッフルコートだが、裏地は深紅という実に目立たないようで目立つ服装!
「お国離れて何百里!よくも劉徳源先生(センション)を殺したな!ワタシ、敵討つよ!」
という名セリフと共に登場!
これだけでなく「あなたお金欲しい、私あなたの腕買いたい。世の中持ちつ持たれつネ」
「世の中ホントうまく出来てるよ、ホントよ」など名セリフも多い。

そしてついに香港のボス登場。演じるは小沢栄太郎。
小沢栄太郎はさすがにテレがあったのか変な日本語は話さない。
でも小沢の情婦になっているのが、中田の以前の恋人(吉行和子)と言うのが強引すぎる。
この吉行和子だが、丸くてぽっちゃりとした顔立ちなので、後のおばさんになった
吉行和子しか知らないとびっくりする(というか私が最初に見たときには気づかなかった)

これで東京、神戸、香港の三つ巴の戦いへとなだれ込んでいき、最後に中田が衝撃の
事実を打ち明ける。
ここで唐突だと怒るか(笑うか)、すんなり受け入れるかでそもそも日活アクションを
見る資格(あるいは受け入れられる性格)を持っているかの境目になろう、きっと。

まあ強引すぎる展開もあるのだが、そこは目をつぶっていただいてもそれを有り余る
魅力がある映画と信じている。

やっぱりトニーはかっこいい!
それに付きますよ。

そしてここでは書き忘れたけど、盲目少女との恋もあり、そちらの淡いストイックな
ラブロマンスも捨てがたい。
ラストの列車での再会も名乗らないで終わるというのも、チャップリンの「街の灯」の
裏返し的ラストで、赤木圭一郎らしいストイックさがなんとも言えない。

赤木圭一郎、そして日活アクションの最高級傑作!