恐怖の報酬

監督 アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
製作 1952年(昭和27年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


中米のある田舎町。ここには世界各地から食い詰め者の流れ者が居合わせていた。
その中でマリオ(イヴ・モンタン)は酒場女の恋人がいたが、そこへジョー(シャルル・
バネル)というパリの暗黒街の顔役だった男が現れる。
ジョーに何か大物感を感じたマリオは彼の後をついて回るようになる。
そこへ500キロ先の油田で大事故が発生し、火災が収まらないという知らせが入る。
石油会社はニトログリセリンを使って一挙に火災を消しとめようとする。
ところがニトログリセリンという奴は振動などのショックで爆発をしてしまうという
危険極まりないシロモノ。
これをトラック2台で運ぶこととなり、食い詰め者たちが運転手として雇われる。
報酬は2000ドル。この土地を脱出するには充分だ。
マリオ、ルイジ、ビンバが選ばれる。ジョーも小細工をして運転手になり、出発する男たち。
果たして彼らの運命は?


映画というものは実はこの頃にもう完成しているのではないだろうか?
この映画のサスペンスはこれ以後作られたどんな映画にも負けていない。

トラックが出発するまでに1時間かかっており、ここが長すぎる。
しかしこの映画の欠点はそれだけで、あとは完璧と言っていい。
(前半の1時間は主にマリオがジョーにあこがれる様を描いており、ここが後の出発して
からの二人の人間関係の伏線になることは大いに理解するのだが、ちょっと長すぎる)

何しろ積荷はニトログリセリン。
いつ爆発するかわからない。
見てるこちらは終始緊張感に襲われる。
この映画は最初、テレビの洋画劇場で子供の頃(小学2年だったと思う)に見たのだが
トラックが出発してからのサスペンスははっきり覚えている。
多分、私の映画原体験といっていいかも知れない。

最初のヤマは波形の道。道が波打っているのだが、スピードを落とすと逆に振動が増える。
一気に走りきったほうがいいのだ。
ここは夜間のせいもあって映像でわかるはっきりしたサスペンスは乏しい。
しかし後に来る難関の序章というべきくだりだ。

このあたりでジョーは体の調子が悪いだの悪寒がするだのなんだか妙なことを言い出す。
そして次の橋げたのシーンでマリオとの仲の亀裂は決定的になる。

橋げた。
山道で急カーブなのだが、大きなトラックでは曲がりきれない。
そこで切り返し用の橋げたがある。1台目のルイジたちは何とか曲がりきったが、橋げたの
一部を壊してしまう。橋げたの木が腐っているのだ。
そしてマリオたち。
泥でスリップしてトラックは前に進まない。崩れそうになる橋げた。スリルは最高潮だ。
このときに橋げたから落ちそうになったトラックをローアングルで捉えた構図がたまらなく
素晴らしい。


そして道をふさぐ岩の爆破。
ある爆発によって出来たパイプラインの破損による原油の池。
このあたりは詳しく書くとネタバレになるし、また文章にしたところで、面白さは伝わるまい。


マリオは自分が大物だと思っていたジョーが、今はただの臆病な老人に過ぎないと気づき
二人の仲は悪化する。
しかし彼は最後には許す。
このあたりの男同士の友情が昨今の恋愛映画ブームにはない、男らしさだ。
何しろ映画の原体験がこういう男の信頼関係をサイドストーリーにしたサスペンス映画なのだ。
昨今の恋愛大バーゲンセール映画など気に入るはずがない。

またこの映画は表現に小道具やある部分のアップを多用し、映画的な表現をする。
実は「揺れるニトロ」と言ったようなストレートな表現はない。
トラックにしてもスリップするタイヤのアップやちぎれかかるワイヤー、途中の大爆発は
最初は突風で巻こうとしていたタバコの葉がふっと吹き飛ばされる、といった
物でその恐怖は表現され、マリオの心情を説明するのはパリの地下鉄の切符。

そして意外な、意地悪なラスト。
何度見てこのラストは納得いかない。
これがフランス映画なのだといわれればそんなものかと思うのだが。

文章にしたってこの映画の面白さは伝わるまい。
何十年たっても色あせない、名作映画。

これこそ映画。