ロング・グッドバイ



監督 ロバート・アルトマン
製作 1973年

(詳しくはキネ旬データベースで)


ロサンゼルスで私立探偵をしているフィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)。
今夜もスーツを着たまま寝ていると夜中の3時に飼い猫に起こされる。
腹がすいた猫が彼を起こしたのだ。猫にえさをやろうとするがお気に入りのキャット
フードはなくなっていて、有り合わせでえさを作っても食べようとしない。
仕方なく24時間営業のスーパーにえさを買いに行く。
しかしお気に入りのキャットフードは売り切れ。
自分のアパートに帰ったマーロウだが、そこに友人のテリー・レノックスがやってくる。
妻と夫婦喧嘩をしてちょっとメキシコとの国境ティワナまで送ってほしいという。
テリーを送って帰ると今度は刑事がやってきた。テリーは妻を殺して逃亡したというのだ。
逃亡幇助で逮捕されるテリー。しかし数日後、テリーの自殺で事件は幕を閉じ、マーロウも
釈放される。
その後、作家のロジャー・ウエイド夫人・アイリーンから行方不明の夫を探してほしいと
いう依頼を受ける。
そして今度はヤクザのマーティがやってくる。テリーが彼の35万ドルの大金を奪ったと
いい、お前も何か知ってるはずだと詰問される。
テリー、ウエイド夫妻、マーティは同じ高級住宅街に住んでいた。
どうやらこの三者にはつながりがあったらしい。
事件の真相は?


私立探偵ミステリーでは有名なレイモンド・チャンドラーの原作「長いお別れ」の映画化。
フィリップ・マーロウはハンフリー・ボガートやロバート・ミッチャムが演じている。
一般的にはハードボイルドの私立探偵というと、トレンチコートを颯爽と着こなし、
悪漢どもとも拳でやりやい、うるさい刑事には減らず口でやり返す、そんなイメージだが
この映画のフィリップ・マーロウは違う。
(公開当時原作ファンからは不評だったらしい。それも納得だが)

マーロウは夏のロサンゼルスの太陽の下、紺のスーツにだらしない赤のネクタイという
およそセンスのない服装。そして犬にはワンワンほえられ、両手を挙げて降参している男。
長い足でがに股気味でひょこひょこ歩く。
しかし能力までないかというとそうでもない。
ロジャー・ウエイドの病院に監禁されていたのをすぐに見つけ、居留守を使う医師や看護婦に
へらへらとやり返す。
ヤクザのマーティの手下を殴ったりしないが、これまたいつもの減らず口で煙にまく。

要はかっこいいのである。
この映画を最初に見たのは学生時代。
私はネクタイをきちっと締めるのが苦手な男だが、ネクタイを緩めるとき実はいつもチラッと
この映画のマーロウを思い出す。
もちろんこの映画のエリオット・グールドほど私がかっこよいとは露も思わないが、
ああなりたいと思う。

全編に漂うユーモア感。
冒頭のキャットフードを買いにいった先で店員に、カレー印のキャットフードはないのかと
訪ね、「それは売り切れです。こっちのはどうですか?どうせ似たようなもんでしょう?」
「ダメだよ、違うのじゃ猫食べないもん。あんた猫飼った事ないの」
「猫なんかいないけど彼女がいるもん」とやり返される。
そしてテリーたちが住んでいる地区のガードマンが物まね好きでやたらと物まねをする。
マーロウの隣に住んでいるヨガをしている宗教か何かの怪しげな女性達の集団。
またマーロウの尾行を命じられたマーティの部下のお間抜けぶり。
これらのユーモアは作品のストーリー上、何の意味もないのだが、全体のムードをかもし出す。

また何度となく繰り返される主題歌。
ドラマの中で演奏される音楽だったり、BGMだったりするのだがジョン・ウイリアムズ
作曲のこの曲がいい。
未だにサントラを探しているのだが、見つからない。
アメリカでは発売されていないのだろうか?

そしてラスト、こんなよれよれの私立探偵だが真の悪党が見つかったとき、マーロウは
一発の銃弾で撃ち殺す。
この映画で銃声が鳴るのはこのときだけだ。

カーアクションもない、銃撃戦もない。
金もない、女もいない、負け犬と馬鹿にされる。
でも許せない何かに出くわしたとき、自分の筋を突き通す。
男の憧れだ。

要はかっこいいのである。
男にとって(少なくとも僕にとっては)この映画のマーロウはあこがれる存在なのだ。