ローレライ

監督 樋口真嗣

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昭和20年8月、海軍少佐・絹見真一(役所広司)はドイツよりの戦利潜水艦
伊507の艦長を軍令部の朝倉大佐(堤真一)により命じられる。
使命は広島に続く原爆を阻止すること。そしてこの艦には「ローレライシステム」と
呼ばれる新兵器が搭載されていた。
寄せ集めの乗組員に謎の「ローレライ・システム」、何かを隠している軍属技師の高須、
不可解なことが多い作戦だ。
「ローレライ・システム」とはいかなるものか?
そして伊507を出航させた朝倉大佐の真の目的とは?

日本戦争映画史上の最高傑作が誕生した!

この映画のことは2004年5月に日本映画専門チャンネルでの製作発表記者会見と
特報が紹介されたときから期待していた。
特報で見た映像は今までの日本の潜水艦映画では見たこともないようなリアルさがあり、
セットもすばらしく、何より暖色系の画面がめちゃくちゃ美しかった。
しかもキャストは役所広司に妻夫木聡!
以前より妻夫木には特攻隊の役をやらせたいと思っていたので、私にとっては
念願のかなった配役。
これでは期待するなというほうが無理だろう。

公開直前に見た予告編では上川隆也が退役アメリカ軍人を訪ねているシーンから
始まり、また香椎由宇と妻夫木聡が甲板上で会話するシーンもあり、
「なんだか『タイタニック』になっていなきゃいいがなあ」と一時は不安に駆られたが
すべて杞憂に終わった。

この映画については極力ストーリーについての前情報を入れないようにしていたので、
そのおかげで逆転逆転のストーリー展開を充分楽しむことが出来た。
「ローレライ・システム」の正体についてはSF的飛躍があり、今までのような
正統派戦記戦争映画を想像していくとやや外される。
この「ローレライ・システム」を理解する(受け入れる)ことが出来るかどうかが
この映画を楽しめるポイントになるかも知れない。

出航してすぐの最初の急速潜行訓練シーンは、、もはや海外の潜水艦映画での「お決まり」
だが、すばやいカットつなぎと狭い艦内を走り回る緊張感、日本では始めて。
このあたりで私はヒートアップしてしまう。

前半の駆逐艦との対決を経て、ラストの一大海戦へと向かうその映像は、従来の
どんな潜水艦映画より迫力があり、佐藤隆太、柳葉敏郎の最後のシーンなど
潜水艦映画のセオリーを受け継いでおり、観客を裏切らない。
また「ローレライシステム」は相手に死者がでると途絶するという欠点があり、
敵艦を沈めずに敵艦隊を潜り抜ける決戦は実にユニーク。

そして真の目的については戦後の日本社会のあり方の原因を問うており、単なるドンパチ
の戦争映画では終わらない。

また主人公たちの小道具の使い方もうまい。
艦長の腕時計、柳葉のあやとりひも、軍医のカメラ、妻夫木の写真、佐藤隆太のボール、
ピエール瀧のアイスクリームなどなど彼らの性格、過去を現す小道具の使い方は
実に効果的だ。

戦闘シーンのCG(海に広がる米艦隊のシーンなど)ややチャチだというそしりも
あろうが、(私も予告を見たときは少し不安だったのだが)完成した映画を見ると
まるでかつてのプラモデル「ウォーターラインシリーズ」の箱絵を思わせる楽しささえある。

べた褒めしたが、不満もないではない。不要なナレーションや回想シーンが作品のテンポを
妨げるという気がするのだが、今後の樋口監督に期待しよう。

多少の不満はあるが、大型アクション作品として充分に楽しめる作品だ。
日本には新しい巨匠が誕生した。
こういう映画こそ見たかった作品だ。
最後の爽快感は何物にも変えがたい。