日本列島

日時 2009年2月20日
場所 DVD
監督 熊井啓
製作 昭和40年(1965年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


埼玉県の米軍基地のCID(憲兵隊私服刑事部)で通訳を務める秋山(宇野重吉)は
新任の上司ポラック中尉より昨年変死したリミット曹長の死の原因についての調査を
依頼される。
リミット曹長は何かの事件を追っていてその事件の全貌の発覚を恐れた何者かに
殺されたらしい。
リミット曹長の遺族は偶然にも秋山が以前札幌の女学校で英語教師をしていた頃の
教え子だった。彼女は病気で死期も近い。秋山の動きを嗅ぎつけた新聞記者の原島
(二谷英明)とともに彼女のもとに向かい話を聞くと、リミットは「ザンメル」
「柄沢に殺される」という言葉を残して彼女と別れどこかに逃げ去ったという。
秋山と原島は警視庁の黒崎(鈴木瑞穂)、元検事の弁護士・日高(内藤武敏)たちと
事件の真相を追う!


「帝銀事件・死刑囚」に続く熊井啓の監督第2作。
正直言ってこの映画が熊井啓作品では一番好きだ。
劇場、ビデオ等で数回見ている。きちんと見たのはたぶん10年ぶりぐらいだと思うが、
ほとんどのシーン、カットは覚えていた。

変死したリミット曹長。その死の真相を追う、ということをきっかけに日本を支配する
アメリカ勢力の真相を追っていくというまずミステリーとしての面白さ!

リミットが最後に言い残した「ザンメル」とは何か?彼はどんな事件を追っていたのか?
彼が「柄沢に殺される」と言った柄沢とは誰か?元日本軍の工作員佐々木が語る真実とその死。
その裏にある大いなる謀略機関。
そしてその機関が絡んだスチュワーデス殺人事件。

時折挿入される米軍基地を飛び立つジェット戦闘機の轟音が観客の胸を打つ。

そして捜査中止の命令。主人公の迎える結末。
しかしそれに負けない人々。
エンディングの国会議事堂をバックにしたシーンは忘れられない。

出演は何といっても宇野重吉。
闘志をむき出しにするのではなく、淡々としながら事件を追う強さ。
彼自身、妻を米兵に殺されている。
そのことを語るシーンは静かさの中に力強さを感じさせる。
そして沖縄に調査に向かう前日、米軍機の爆音の中で死んだ妻、佐々木、スチュワーデスを
回想するシーンは米軍機、秋山、被害者のスチルショットのモンタージュだけで胸に
迫るものがある。
黒幕たちが集まっている結婚式場で「あの3人の会話が聞けたらなあ」と惜しがる仲間に対し
「公然と会えるのはこういう機会だけだからな。一言でも漏れたら日本中がひっくり
かえるんじゃないのか」と淡々というジョークがたまらない。

そしてアメリカの謀略機関の日本の下請け機関というべき組織(これも旧日本軍の謀略部隊の
生き残りだが)を受け持つ柄沢を演じる大滝秀治。
出演シーンも少なく、セリフもないのだが、圧倒的迫力で演じ切る。
(ちなみに同じ熊井啓の「謀殺・下山事件」でも大滝秀治は同名の男を演じる。同一人物なのだろう)

鈴木瑞穂や加藤嘉の刑事たち。
鈴木瑞穂はラスト近くになって国会議事堂がバックに見える喫茶店で「こういう事件はなんだかんで
結局は・・・」と悔しがるシーンがいい。
「人間なんだかんだで結局は・・・」は実に多い。
その弱さを見せられるのだが、もちろんその前の鈴木瑞穂の努力を知っているだけにその言葉は
心にしみる。
そして加藤嘉。スチュワーデス殺人事件で犯人が国外逃亡をしたと聞いた時の机を「バン!」と
叩くシーンは、その音の効果を加えた熊井啓の演出もあって迫真の迫力。
続く下元勉の警視総監に「大変だったね」と嫌みのようにねぎらわれるシーンは、彼らの怒りを
象徴させるだろう。

二谷英明も宇野重吉、鈴木瑞穂らに負けない力強さを持ち、スターとしての華を添える。

そして芦川いづみ。
「ザンメル」とは旧日本軍が持っていたドイツ製の偽札印刷機。
それを使いこなす技師として謀略機関に拉致された男を父に持つ。
小学校の先生をしているが、秋山の死を伝えられて、悲鳴を上げるシーンは米軍機の騒音で
窓ガラスが割れる演出と相まって観客に強い印象を残す。
そしてラストシーン。
国会議事堂をバックに歩くシーンは「見えない力に負けない決意」を象徴し、映画史に残ると
言っても過言ではない。

熊井啓の最高傑作。必見。