人間の條件 第一部〜第六部日時 2015年8月1日 第一部第二部 10:40〜14:10 第三部第四部 14:30〜17:35 第五部第六部 18:15〜21:25 場所 丸の内ピカデリー2 監督 小林正樹 製作 (一部二部)昭和34年(1959年) (三部四部)昭和35年(1960年) (五部六部)昭和36年(1961年) この映画を観るのは4回目である。 いずれの時も全六部まとめてみている。実際の公開は3回に分けているので、この感想文も3回分書こうか迷ったが、私にとってはこの6部は1本の映画である。 だから1本の映画として感想を書く。 この映画を初めて見たのは高校1年、15歳の夏だったと思う。動機は簡単。「世界最長の映画」などと紹介された文章を読んだことがあったので、「どんなものか観てみよう」という軽い気持ちだったと思う。 (最初に観た時は「生まれる前の古い映画」という意識だったが、観たのは1978年だと思うから20年ちょっと前の映画だったわけだ) 正直、衝撃を受けた。 人生に影響を与えた1本だろう。その後原作を読み、高校2年の時には1部2部を原作とした舞台劇のシナリオを書いた。(事情があって上演はされていない) 第二次大戦中の満州でなにがあったか、私はこの映画で知ったのだ。 以後、私の歴史観はこの映画によって作られた。 それが自虐史観と言われようが、なんと言われようが。 物語は昭和18年から始まる。 主人公梶(仲代達矢)は南満州鉄鋼会社の調査部の社員。 鉱山の中国人労働者の待遇をよくしてやれば生産は向上する筈だというレポートを書く。「君も机上の空論で終わらせたくないだろう」「もし君が行く気なら召集免除の申請をする」。召集を恐れて今まで結婚出来なかった梶は愛する女性・美千子(新珠美千代)と結婚、山に入る。 しかし中国人労働者を奴隷のように扱うのが当然と考える岡崎(小沢栄太郎)たちの抵抗は大きい。 やがて軍から数百人の捕虜を特殊工人として引き受ける。 彼らは脱走をする。梶は間にたってなんとか待遇改善を試みるがやはり脱走は止まらない。 脱走を手引きする奴がいる。しかし彼らとて善意ではない。 ついに軍は脱走者を処罰すると言い出した。 3人目が処刑されたとき、梶は一歩踏み出した。 「やめろ!」 ここまでが第1部第2部だ。 この後、梶は軍隊に送られ、内務班で古年兵からしごきを受ける。 4部では軍隊生活の後半。彼も2年兵となって後輩を指導する立場になるが、自分が受けたようなしごきは受けさせまいと努力する。しかしそれは古年兵から恨みを買うことになる。 やがてソ連は国境を越えた! 梶も否応なしに戦いへと。 (3部4部終了) そして部隊は全滅。 3名になった梶たちは自分の家に帰るべく歩き始める。 途中途中で会う民間の避難民や同じような敗残の日本兵。しかし最後にはソ連の捕虜に。 それほど期待していた訳ではないが、共産主義の軍隊でもやはり非人間的な扱いを受ける。 ついに梶は・・・・ (5部6部) 物語は常に虐げる者、虐げられる者、それを正そうとする者という構成で作られていく。 1部2部では梶は中間の立場であり続ける、3部4部では虐げられる者になる。そして5部6部では戦場にかり出され、逃避行の中で自分の意志に関係なく、人を殺めなければ自分が生きて行かれない立場になる。 そんな彼は常に「人間らしく」あろうとする。 「人間の條件とは何か?」を自問し続ける。 この圧倒的命題に対し、原作の五味川純平は逃げない。 そして映画もこの圧倒的原作を逃げずに完全映画化をする。 3時間の映画にするために大胆な省略などしない。 9時間半の上映時間で応える。 エキストラだって多いし、ソ連戦車部隊も立派なものだ。映像が逃げてない。 今ならこういう映画は「偏向的だ」と映画にならないかも知れない。出来ても低予算の映画だろう。 日本映画の黄金期ならではと言えるのかも知れない。 観る者にも容赦なく「人間の條件とは何か?どうあれば人間らしいと言えるのか?」と問い続ける。 そして観客である私は考え続ける。「私だったらどうであったか?」 「自分がその立場にならなければ分からない」 その通り。 私は中国人の労務管理をしていないし、ソ連との戦闘に破れた敗残兵でもない。 しかしやっぱり考えてしまう。「私だったらどうであったか?」 梶の周りには常に相談相手がいる。沖島(山村聡)、新城(佐藤慶)、影山(佐田啓二)、丹下(内藤武敏)。 時には励まされ、時には止められながら、梶は人間であろうと苦闘する。 その苦闘は物語が進むにつれて楽になるどころか追い込まれていく。 「あんなに過酷な苦しみを味わったのだから、ラストは美千子と再会するに違いない」 ところがそれを裏切るラストである。 今までの苦労は何だったのか。 今回、約30年ぶりに観直して(2回目は新宿東映でのオールナイト、3回目は銀座松竹でのオールナイト。銀座の時は満席で驚いた)、特に前半に覚えている台詞が多いのに気づいた。やはり自分で脚色もしたので何度も原作を読んだのだろう。 5部6部では梶が歩いているシーンが多いせいか、自分で自問自答するモノローグが多くなってるのがちょっと気になった。 しかしだからといってこの映画の欠点とは言い切れない。 「七人の侍」だって気に入らない点はある。 私にとっては「人生に影響を絶対に与えた映画」ということには変わりない。 9時間半の映画だから見直すこともそうないと思う。 その必要はないかも知れない。 だって忘れることの出来ないほど衝撃を受けた映画なのだから。 |