野良犬日時 2015年1月5日 場所 DVD 監督 黒澤明 製作 昭和24年(1954年) 警視庁捜査1課の村上刑事(三船敏郎)はバスの中で自分のコルト拳銃をすられた。弾は7発入ったままだ。 上司中島警部の助言により処分が決定するまでとりあえずスリ係に相談してみた。手口から隣にいた洋装の中年女お銀が怪しいと睨む。早速出向いた村上とスリ係の刑事だが、お銀は口を割らない。執拗な村上の尾行に根を上げたお銀は「街にピストル屋がいるって話さ」と言われ、村上はあてどなく東京の繁華街を歩く。 やがて「ピストルを貸してやる」という話がきた。待ち合わせの場所で受け渡しの女(千石規子)を逮捕。 しかし彼女は使いでしかない。 その晩、淀橋区でピストル強盗発生。使われた拳銃は村上から盗まれたものだった。 村上は辞職を考えたが、中島警部より淀橋署のベテラン、佐藤刑事(志村喬)を組むように言われる。 佐藤はベテランらしく聞き込みを続けていく。 黒澤明の映画の中で「七人の侍」についで好きな映画。観た回数ではこっちの方が多いかも知れない。 初めて観たのはいつだろう? 「影武者」の公開された高校生だったような気がする。 でもどの映画館で観たかはさっぱり記憶がない。 大学に入って上京してからは文芸地下などで観た記憶がある。 小国英雄の脚本集が高校の図書館にあり、そこでシナリオも読んだと思う。あとはドナルド・リッチーさんの「黒澤明の映画」なども読んだ。 だからかなりのシーン、カット、台詞は覚えていて、忘れることもなかったので、極端に言えば頭の中に全部入っているので見直す必要がなかったのだ。だから観なかった。 今回、20年ぶりぐらいに見直したが記憶の通りだった。 正直、志村喬の佐藤刑事がかっこいいのだ。 この映画は新人刑事がベテランの指導で成長する話だ。 その先輩のかっこいいこと。 ピストル貸しの女を取り調べようと留置場に行くとすでに別の人が取り調べている。 それが佐藤刑事。 談笑している声がする。もうここで刑事としての格の違いが感じられる。 女とにこやかに談笑していく。しかし時々「嘘つけ!」と一喝。 また「女がこうやって隠すときはね、気がある時なんだ」と後輩に教える振りをして相手にプレッシャーを与える。 実に見事な取り調べ。 その後も犯人・遊佐の友人でホテルのボーイの清さんを取り調べる時の粋さ。 ワンカットでつなぎ、村上はメモを取るだけ。 佐藤はひょうひょうとして風呂場を見て回りながら聞き込んでいく。(このあたりの演出は自分が映画を作ったときにも参考にした。自分が映画を撮る頃には家庭用ビデオがあった) また新聞記者相手に「星は?」「今日は曇ってるからたぶん出ないよ」と煙に巻く。 正直、後半もたつくところもある。 遊佐が第2の犯行を犯し、踊り子の並木ハルミ(淡路恵子)のアパートを訪ねる。 村上をおいて佐藤一人で出かける。 追いつめる佐藤はいいのだが、アパートに残ったハルミが「こんな上等な服を売ってる世の中が悪いのよ!」と一説ぶつあたり。 そして最大の失敗は佐藤がハルミのアパートに電話して村上を呼んでもらうのだが、管理人(高堂国典)が耳が遠くて勘違い、ハルミを呼んでしまう。 そこでハルミたちは「遊佐からの電話だ」と勝手に思ってしまい、躊躇するシーン。 観客は電話したのは佐藤だとわかっているので、ここでじらされると返ってしらける。 電話口から拳銃音が聞こえるのだが、この音が「コン、コン」と拳銃っぽくないのだな。 あとラストの大泉での逮捕シーンでの「体位法」もうまく言ったとは思えない。 後半、欠点を書いてしまったが、実はそれは大したことではない。いい点を書き出したら時間がいくらあっても足りない。 「野良犬」は映画史に刑事もの、というジャンルを確立した画期的な映画である。 |