光復60周年記念映画

眩しい一日


日時 2005年10月8日21:30〜
場所 韓国釜山海雲台MEGABOX2
監督 キム・ソンホ(「宝島」)
    キム・ジョンクヮン(「Good−Bye」)
    ミン・ドンヒュン(「空港男女」)

「釜山国際映画祭〜<WIDE ANGLE部門>」にて上映
(釜山国際映画祭の紹介ページへ)



この映画は日本人と韓国人の交流を描いた40分ほどの中篇映画3本のオムニバス。
そして「光復60周年記念映画」記念映画という冠がつけられている。
だからといって韓国全土で大々的に封切られる大作!というわけではなく、
日本で言うところの「単館上映系」「ミニシアター系」の作品になるらしい。
監督は30歳前後の若手たち。低予算からかフィルム撮りではなく、ビデオ撮り。

今回この映画を見ることが目的で釜山まで行ったのだが、「光復60周年記念映画」
だから見に行ったわけではない。
僕の見に行った理由はこのオムニバスの第3話「空港男女」の日本人主演俳優の
塩田貞治さんの応援HP(いわゆるファンサイト)をやっているから。
要は塩田さんのファンだから日本での公開のめどが立っていないこの映画を
わざわざ見に行ったのだ。



第1話「宝島」
大学生ぐらいの日本人の女の子とその友人は韓国済州島へ旅立つ。
女の子のおじいちゃんが死に際に「済州島に行って探して欲しいものがある」と彼女に
ペンダントを渡して死んでいったからだ。そのペンダントは開くと両側に一枚づつ写真が
入る形。しかし写真はおじいちゃんの分しか入っていない。
おじいちゃんは戦争中に済州島にいたのだが、何かを木の下に埋めてきたらしい。
済州島に着いた二人だったが、円をウォンに換えようと思ったが今日は祝日で
両替所がやっていない。困っているところへ怪しげな男がやってきて
「銀行よりいいレートで両替してあげるよ」と話しかける。
疑った二人だったがウォンは必要なので3万円両替する。が、その金はニセモノ。
だまされたと気づいた時はすでに遅く、タクシーも途中で降ろされる有様。
へとへとになりながら歩く二人だが、道端に落ちていたスクーターを見つけ何とか目的地に。
しかしおじいちゃんの言っていた木は見つからない。
そうこうしているうちに不良高校生に絡まれる。
「日本人か?なんか『わさび』くさいなあ(英語字幕ではこうなっていた)」
乱暴をされそうになる二人。二人のかばんは不良高校生どもにぶちまけられてしまう。
しかし、主人公の女の子に同行してきた子のパスポートは赤じゃない。緑だ。
開き直ったその子は韓国語で啖呵を切る。
不良高校生達が着ていたジャージの高校名、名前を読み取り、「あんた達、○○高校の生徒だね。
そして名前は・・・・」一人ひとりの名前を読み上げる。
「手出ししてごらん。強姦罪で訴えるよ!」その勢いに負けてすごすご逃げ出す不良たち。
実は彼女は在日韓国人だったのだ。
不良高校生達からは助かった二人だが、主人公の子はショックで「うそつき!」と
言い残しその場を立ち去ってしまう。
在日の子にしてみると「友達でなくなるのが怖かったから言い出せなかった」。
主人公の子にしてみれば自分の親友が韓国人だったこと、それを隠していたこと、その二つが
ショックだったに違いない。
主人公の子はおじいちゃんの言っていた木を見つけ、その下を掘り返す。
あった!おじいちゃんが60年前に埋めた空き缶があった。
そこにあったのはおじいちゃんの若い頃の写真とおばあちゃんの写真。
結婚証明書も入っている。しかしそこに書いてあったおばあちゃんの名前は韓国人名だった。
一旦は「みんな嘘つき!」とその場を去ろうとする彼女だったが思い直す。
ペンダントにあったおじいちゃんの写真をはずし、おばあちゃんと一緒にして再び埋める。
主人公の女の子は在日の自分の友人と再会。日本に帰る。
「宝物見つかった?」「うん」「何だったの?」「内緒」
彼女にとっては自分の親友との「友情」という宝物を見つけたのだった。
帰りの飛行機の中で、おじいちゃんのペンダントに自分と友人の写真を入れるのだった。


第2話「Good−Bye」
高校生、ヨンホワンはパソコンショップでノートPCを見ていた男に話しかけ
自分のノートPCを買わないかと持ちかける。「盗品か?」と疑った男だったが
買うことにする。銀行でお金を下ろしている間にPCの入ったかばんに別のものをいれて
PCが入っていない状態でお金と交換する。
こんな方法でお金を騙し取る事を繰り返すヨンホワン。
友人に「何のために?」と問われて答える。
「日本にいる母親に会いに行くためだ」
お金が溜まり日本行きの航空券を買い出発というそのときに、映画の最初でノートPCを
売りつけた男と街で出くわしてしまい、その男の仲間も加わって路地に引きずり込まれ
せっかくの旅費を全部とられてしまう。
クワンは朦朧とした意識の中で日本への旅を夢見るのだった。


第3話「空港男女」
空港に向かう途中でタクシーが故障し、仕方なく走っている道を走っている日本人青年石田。
一方空港の書店で働くゴニィは今日も店長からがみがみ怒られていた。
新刊本を補充しようと書店の倉庫から店に帰る途中で先ほどの石田が猛スピードで
走ってきて二人はぶつかってしまう。
石田は謝りつつもその場を急いで立ち去ってしまう。
しかし石田の努力もむなしく飛行機は行ってしまった。
今日の成田行きの飛行機は終わってしまい、明日の早朝便しかない。
一方ゴニィの方も店長から「本がだめになった」といやみをたらたら。落ち込むゴニィ。
そんな時、ふと書店の前を見るとさっきの青年、石田がいるではないか!
石田「さっきは本当にすいませんでした」
日本語で謝る石田の言葉はわからないが、その様子から心から謝っている事はよくわかる。
その姿を同僚が見て「誰?」とゴニィに尋ねる。
「ああ、さっき私にぶつかった人」
「あんた、つぶれた本代払いなさいよ!」
何が怒られているかわからずきょとんとする石田。
店先にでて「いいんですよ」という気持ちを伝えようとしたゴニィだったが、石田はそのとき
めまいを起こして倒れこんでしまう。
空港のベンチで目を覚ます石田。
どうやらゴニィがベンチに連れて行ってくれたようだ。

ゴニィたちも仕事を終え店を出る。
空港バスで市内に帰ろうとするのだが、携帯電話を店に忘れてきたことに気づくゴニィ。
携帯電話はレジの裏に落ちていてそれを取ってバス乗り場に急ぐ。
ふと見ると先ほどの青年石田がベンチで鼻血を出して寝ているではないか。
見過ごせないゴニィはティッシュを鼻に詰め、鼻の付け根をぐっと押さえるという
応急処置をしてあげる。
目を覚ます石田。ゴニィが自分の鼻をつまんでいるので驚く。
石田は自分の鼻にティッシュが差し込まれているのに気づく。
「君が手当てしてくれたんだね。どうもありがとう。スイマセン」
ゴニィ「おばあちゃんによくこうやって直してもらったの。あなたも鼻血の出やすい鼻なの?」
しかしゴニィの質問はわからない石田はまたキョトンとしている。
ゴニィは石田に「どうして飛行機に乗らないの?」「仕事は?」などと問いかける。
韓国語はわからない石田、日本語はしゃべれないゴニィだが、なんとなく通じる二人。
しかしそんなおしゃべりをしてるうちにゴニィは帰りのバスを乗り逃がす。

ため息をつくゴニン。
ゴニン「そうだ、いいところに連れてってあげる。私の秘密のスポットなの」
そこは空港が見渡せて、しかも心地よい風が吹く気持ちいい場所だった。
ゴニン「仕事でいやなことがあったりしたときにここに来るの。なんだかいやなことを
忘れさせてくれるから」
石田「僕達って不思議だね。勝手にしゃっべてだけなのに、なんか心が通じてる気がするよ。
眠くなった石田はいつしかゴニンの肩にもたれかかった寝てしまう。
ゴニンはそれを嫌がるでもなく、石田を眠らせてままにしておく。
しばらく経ったころ、目を覚ますゴニン。
ふと見ると石田の飛行機の時間が迫っている!ふたり、出国ゲートに向かって猛ダッシュ!
出国ゲートにたどり着く二人。
石田「また絶対来るから!!!」
と出国ゲートに駆け込んでいく。






日本語セリフが多い本作だが韓国語の部分ももちろんある。
その部分は英語字幕を読んで解釈した。しかし僕の英語力も知れているので
ストーリーの解釈に誤りが含まれている可能性はある。
特に第2話「Good−Bye」は全編韓国語で、英語字幕のみで解釈したため、
解釈にあやふやなところがあり、そのためストーリー紹介がかなり他の作品と比べ
バランスを欠いたものになってしまった。


韓国では日本の映画、音楽が解禁になったり、日本での韓流ブームによる日本から
韓国への観光客の増加など、昨今の日本と韓国の敷居はずいぶん低くなったように感じていた。
しかしそこへ起こった竹島問題、日本海呼称問題、靖国問題などがニュースで
話題になるたびに「実は韓国人は心の底では日本人のことが嫌いではないのか?」
と不安になることが度々あった。
ぺ・ヨンジュンの微笑みも見せ掛けだけの微笑みなのかと。

そんなところへ「光復60周年記念映画」だ。
抗日、反日的な映画かも知れない。覚悟してみようと決めていた。
ところが意に反してこれは実はまったくの杞憂、取り越し苦労だった。
第1話「宝島」は日本人と在日韓国人の友情物語、第2話「Good-bye」は日本にいる
母親に会いに行こうとする少年の話、そして第3話「空港男女」は言葉はまったく通じない
日本人と韓国人の間に芽生えたほのかな愛情の物語。
すべて日本人と韓国人の友好関係を描いた作品なのだ。

第1話は在日韓国人差別を扱っている。日本での在日韓国人差別に関しては韓国人から
すれば噴飯ものでしかなく、許しがたい問題であっても不思議はない。
しかしこの映画の作者は、在日韓国人差別による友情の亀裂も映画の主人公達のように
絶対に乗り越えられるはずだと説く。

また第2話は日本にいる母親に会いに行こうとする少年の話。
彼にとっては日本は憎むべき存在ではなく、母親がいるあこがれの土地だ。
不運にも彼は日本にはたどり着けない。
日本と韓国にはまだまだ乗り越えなければならない課題があるということか。
しかし映画中では主人公は犯罪的行為で日本に行こうとしており、ラストのような
不運な展開にならなくてもいずれは警察に捕まる可能性だってある。
「日本に行きたくても行けない少年」ということに今の日韓関係を投影させたかったのかも
知れないが、今書いたような犯罪的行為を行っていたのでは私には「自業自得」の印象が
ぬぐえず、イマイチ主人公の無念さが伝わってこない。
もっともこの解釈は僕の語学力のなさによる勘違いから来るものかも知れない。
(ひょっとしたら日韓に溝があるのは韓国人にも非があると考えているのか?
だとしたら驚くべきことだ)

第3話では別に日本人と韓国人でなくても話は成立する。
アメリカ人と日本人、中国人とイギリス人、日本人とフランス人に置き換えても話は成立し、
面白いラブコメが出来上がるだろう。

在日の問題も日韓併合の問題もこの映画には出てこない。
それでは「光復60周年記念映画」にならんと批判も出来るが、別の見方をすれば
いまや在日の問題も日韓併合の問題も関係なく、日本人と韓国人の間には言葉の問題だけしかなく
それも必ず乗り越えられるはずだというのが作者の主張という解釈も成り立つ。

今回注目したいのは、このオムニバス映画を韓国の映画界が「光復60周年記念映画」という
「冠」の元に作ったということなのだ。
ニュースなどの反日的な運動とはまったく違う、日本人と韓国人の個人レベルでの友好的な交流を
描いている。
韓国の若い映画作家たちは日韓の交流についてこのように友好的に考えているのだなあと
いうことを確実に確認できて、それが何よりうれしかった。

私はこの映画に感動した。
しかしそれは映画としての素晴らしさによる感動というより、こういう映画を韓国人が
作ったという事実に感動したのかも知れない。
でもそれでもいい。
私はこの映画を見て韓国に対する見方が確実に変わった。


韓国での評判はどうなったろう?
親日的過ぎると批判されたりしなかったろうか?

日本での公開のめどは立っていないが、ぜひ公開して欲しいと思う。
ニュースにおける反日的な活動を見て韓国を嫌いになる日本人は多いかも知れない。
しかしそんな日本人にこそこの映画を観て欲しい。
ニュースで報道される姿も嘘ではないだろうが、若い韓国人は反日的な考えは持っていない
ということがよくわかる。
日韓の新時代を予感させる素晴らしい映画だった。

いろんな意味で日本での公開を願ってやまない。