

このコンテンツの内容はすべて創作です。くれぐれも塩田くん所属事務所、テレビ局、映画会社など関係各位に問い合わせなどしないようお願いいたします。
男はつらいよ・寅次郎のいない柴又
<作品紹介>
渥美清の死とともに終了した寅さんシリーズ。
その後、松竹は大船撮影所の閉鎖、定期的な映画製作の打ち切りなど
暗いニュースが相次いだが、人気シリーズ「男はつらいよ」の復活
を望むファンも多かった。
もちろん渥美清は出演しないわけだし、企画の不可能を上げる声も多かったが、
「寅さんが出なくても柴又のさくらさんや、おいちゃん、おばちゃんにだけでも
会いたい」と言う声も多く、企画されたのがこの作品。
「男はつらいよ」のテイストを残しつつ、柴又を舞台にした人情喜劇を
作り上げた。
脚本・監督はもちろん山田洋次。
出演は倍賞千恵子、前田吟、吉岡秀隆、三崎千恵子、下条正巳などの
旧レギュラーメンバーのまま。
<ストーリー>
寅次郎から連絡が途絶えてもう何年もたつ。
おいちゃん、おばちゃんの会話も「寅はどうしてるかねえ」という
ことばかりだ。
さくらは「きっと奄美大島でリリーさんと暮らしてるんじゃないかしら」
と二人を励ます毎日。
そんなある日、柴又の団子やに貞夫(塩田貞治)という名の育ちのよさそうな青年がやってきた。
貞夫は団子を食べてその味に感激。是非弟子入りして修行したいという。
「うちはそんな人を雇う余裕なんてないよ」といったんは断ったおいちゃんだが、
貞夫のあまり落胆ぶりに自分が悪い事をしてる気分になってしまう。
さくらがそれとなく事情を聞くと、「自分は両親とも死に別れ今は天蓋孤独の身。
お菓子職人になりたいとケーキの勉強はしたけど、ここの団子を食べ、
学校で習った事のない、人間味ある味に惚れた」のだという。
さくらの口添えもあり住み込みで働くことになった貞夫だった。
貞夫はケーキの勉強をしたことがあるというだけあって、お菓子つくりの
センスはなかなか。憶えもよくたちまち一人前と同じ味が出せるようになる。
彼の持ち前の明るさと笑顔は柴又中の評判となる。
また雑誌の柴又特集にも掲載され、連日お客さんが絶えないようになる。
そんないい事ずくめの毎日だったが、近頃の貞夫になんだか元気がない。
不思議に思ったさくらは、「歳も近いんだし、いろいろ相談にのってあげたら」
とすでに結婚している満男に貞夫の様子を探るように言う。
言われたとおりに飲みに誘った満男だが、貞夫は酒が全く飲めず、すぐに
酔っ払ってしまう。その中で聞き出せたことはなんと同じ帝釈天参道の
煎餅やの娘に惚れたらしい。
それを知ったおいちゃん、おばちゃんは何とか貞夫の応援をするが
どれもこれもうまくいかない。
ついに満男が「俺はおじさんにいろいろ教わったから」と恋愛指南をはじめる。
そんな満男の姿を見て博は思わず「あいつなんだか兄さんに似てきたなあ」とつぶやいた。
満男のアドバイスもあり、何とかこぎつける二人のデート。
お台場の観覧車に二人で乗り、二人は付き合うようになった。
「このまま二人が結婚してくれたらこの店を二人に譲ってやってもいいなあ」
おいちゃんもすっかり二人に期待を寄せている。
ところがここ2、3日柴又に見慣れない男がやってきてくるま菓子舗を監視している。
それを知った貞夫の様子が暗い。何か知ってる様子だ。
源公がその見慣れない男に「やいやいテメーらこの店に何のようだい!」と
啖呵を切り、喧嘩になりかけたとき、貞夫がそれをたしなめる。
「坊ちゃん、お戻りください。おかみさんはついに寝込んでしまいやした」
男が言う。
訳がわからずきょとんとするおいちゃん、おばちゃん、さくらだったが
「皆さん、ウソをついていてスイマセンでした。僕は実は九州の
大きなケーキ屋の息子なんです。和菓子が作りたかったんですが両親に
反対され家出してしまいました」
だが母親が寝込んだと聞き、実家に戻る決心をしたという。
「勝手ばかり言って申し訳ありません」
以前雑誌に掲載されたので、実家に居場所が知られてしまったのだ。
東京駅で煎餅やの娘と別れを惜しむ二人。
柴又は元の日々が戻った。
数ヵ月後、数々の非礼をわびるハガキが貞夫から柴又に届いた。
同じころ、九州に出張でやってきた満男は貞夫の店にやってくる。
再会を喜ぶ貞夫。
素朴な風景のなか近況を語り合う二人。
いつかまた柴又に行きたいという貞夫だった。
(終わり)
<作品批評>
当然の事ながら渥美清の出演がないのがさびしい。
だが山田洋次とそのスタッフは同じ味わいを持つ作品を作ることに
成功した。
新人・塩田貞治のフレッシュな演技に注目。
実際にケーキの専門学校卒業とあってお菓子つくりのシーンの
手際は鮮やか。
また吉岡秀隆が渥美清のように恋愛指南をするシーンは、寅次郎に対する
オマージュとも思われ、いい演技をしている。
特においちゃん、おばちゃんが、貞夫と煎餅やの娘を二人っきりに
しようとするが、源公などが間が悪く登場し、なかなか二人っきりに
ならないシーンの笑いの呼吸はさすがなものだ。
数年後にもう一本作ってほしい「寅さん抜きの寅さん映画」だ。

