2022年6月

   
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
東京2020オリンピックSIDE:B PLAN75 メタモルフォーゼの縁側 峠 最後のサムライ
シークレット・エンジェル 恋は光 きさらぎ駅 女同士の痴戯 むせび泣き
変態本番 炎の女体鑑定人 庵野秀明セレクション「ウルトラマン」特別上映(4K上映) トップガン マーヴェリック 戦慄の七日間
トレマーズ ユリイカ 東京2020オリンピック SIDE:A トップガン

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド


日時 2022年6月25日16:45〜
場所 シネマート新宿・スクリーン1
監督 ジョージ・A・ロメロ
製作 1968年(昭和43年)


父の墓参りに行ったバーバラとジョニーの兄妹。帰ろうとした時に不思議な男に襲われた。死んだらしい兄を振り切って逃げ出すバーバラ。
何とか近くの民家に逃げ込んだが、すでに家主と思われる女性は死んでいた。そこへ黒人青年のベンも逃げ込んでくる。ベンが窓を塞いでいると地下室から男が出てきた。その男、クーパーのほかにも彼の妻、汚れた娘、トムとジュディというカップルもいた。
「地下室に立てこもろう」というクーパーと「地下室では外の状況がわからない。それに地下室では追い込まれたら逃げ道がない」とベンが主張。
結局、トムとジュデイはベンに従い、クーパー一家は地下室に隠れる。
ラジオやテレビがついて外の状況が分かってきた。そうやら金星探査衛星の爆発で放射能が発生し、それが死者の脳に影響を与えよみがえったのだ。さらにこの死体は生きている人間の肉を食う。
外にあるトラックにガソリンを補給してみんなで逃げようとなる。ベンとトムがガソリンの補給に向かう。しかしガソリンが補給できずに銃を打ったことから発火、そしてトムとトムを追いかけてきたジュデイも一緒にトラックごと炎上してしまう。
ついにゾンビたちが襲ってきた。ベンやクーパーも応戦、しかしクーパーの娘は逃げてくる前にゾンビに噛まれていたからそれが原因でゾンビ化し、クーパー夫妻は死んだ。バーバラもゾンビ化した兄に襲われ、死んでいく。
外には地元の自警団が保安官とともにやってきた。生き残っていたベンは彼らと合流しようとするが・・・・


「桐島、部活やめるってよ」の前田君(神木隆之介)が大好きだと言っていたのがこの映画。アメリカのクライテリオンによって4Kリマスターされ、日本で公開。
その気になればDVD等で見ることは出来たのだろうけど、元来ホラーは苦手なので、今まで避けてきた。しかし4Kで劇場公開と聞けば一応は見たくなる。

「ゾンビ映画の元祖にして金字塔!」と言われてるそうだが、納得の出来。一応「放射能の影響」という死体がゾンビ化する理由付けがあったのですね。

白黒スタンダードな映像なので50年代(もしくは60年代前半)の映画かと思ったら1968年。意外と新しいんだな。
「ミステリー・ゾーン」のような雰囲気でホラーは苦手の私でも(正確にいうとスプラッター嫌いなのだが)十分楽しめた。
(「ウルトラQ」にも近いものを感じる)

そしてラストはベンも自警団によってゾンビと間違えられ死んでしまう。
アメリカ映画には珍しいアンハッピーエンドなんだな。
ジョージ・A・ロメロ監督って写真で見ると大きめの黒い四角いめがねをしている。このめがね姿、どっかで見たな、と思ったら「桐島」の前田君じゃないですか。

そうか、あの大きめめがねにはそういう意味があったのか!
面白かったです。





東京2020オリンピックSIDE:B


日時 2022年6月25日13:05〜
場所 新宿ピカデリー・シアター4
監督 河瀬直美


2020年。この夏に開催予定だった東京オリンピック、を新型コロナが襲った。世界中が往来を禁止した。3月、オリンピックの1年延期が決まった。
オリンピックには反対派もいる。都庁前ではオリンピック反対のシュプレヒコールが起こる。バッハ会長は「話し合おう」というが反対派は聞こえているのか聞こえていないのかマイクで反対を訴えるだけ。
選手村の食事担当は「思ったよりうまくないね」といわれる。
南スーダンの選手団は2020年の3月に来日し、高崎市で合宿をしていたが、1年延期が決まった。
いよいよ2021年、森喜朗会長は「女性を増やすと会議が長くなる」と発言し、「性差別だ!」と批判され、辞任に追い込まれる。記者会見でも質問を重ねる記者に「君の質問には答えない」と逆ギレしてしまう。
開会式の演出を担当していた野村萬斎は辞任した。後任は電通で広告業務をしていた佐々木氏。記者会見の時、野村氏は不満な表情を見せる。
バッハ会長が来日。広島を訪問するが反対派が叫ぶ。
競歩とマラソンは札幌で行われる。ところが前日になって競技開始が1時間繰り上げられた。無理だ・・・
東京五輪は開催され、そして終わった。


昨日より公開の「SIDE:B」。本当は昨日観たかったが、16時の回と21時の回しかなく、2日目にした次第。
「SIDE:A」を観て単なる「オリンピック万歳映画」ではないだろうことは予想していたのでどこまで踏み込むか、が関心事。

冒頭の延期を決める会議の模様もとにかく編集が細かいので、せりふの応酬をしているかのようだ。そして「エヴァンゲリオン」の影響なのか、時々黒地に白文字で言葉が表示される。しかも90度に曲がっているからまるで市川崑の「金田一」シリーズのようだ。あれ、前のオリンピック記録映画を作った市川崑に対しての敬意だっただろうか?

そして森喜朗会長の辞任劇も描く。森会長が退任の挨拶の記者会見で質問してきた記者に「あなたは私がふさわしいと思いますか?」と逆に質問し「ふさわしくないと思います」「じゃそれは意見として承っておきます」続けて質問しようとする記者に「面白おかしくしようとしてるだけだろ!もう質問には答えない!」と逆ギレするシーンもしっかり納めている。

そして野村萬斎の辞任会見。その前にはバッハ会長と野村萬斎氏たちがミーティングを行う様子も描かれている。後任はメンバーの一人だった電通の佐々木氏。佐々木氏が「広告の力、広告だって芸術だと思っている。それで今までやってきた」という趣旨の発言をしている横で、佐々木氏を写さずに野村萬斎のアップになる。明らかに不愉快そうだ。

バッハ会長が広島を訪ね、原爆資料館を訪問する。あれも現実では非難されたなあ。日本人は往来を遠慮するように言われてる時に大名旅行かよ!という批判だった。反対派もシュプレヒコールをあげている。あれ、批判されている側から観ると滑稽に見えると知った。
原爆資料館で亡くなった子供たちの写真を見て涙を拭っていた。あれだけ批判されたバッハだが、まだ人間らしい心は残っている。

そういえばコロナが起こる前にバッハが都庁を訪れた際に都庁の前で反対派がマイクで「反対」を訴えている。
この時にバッハは「話し合おう」と反対派に近づく。「マイクを下ろしてくれ。話し合いにならない」。しかし反対派は「反対!反対!」を叫ぶだけ。案外バッハもまともなところがある。
実際僕もああいう正義を訴える人たちの集会に行ったことがあるが(そのときは和歌山カレー事件の集会)、正義を訴える人たちは自分たちが正義だからと信じているので、逆に話し合いを拒んでしまう。
これでは何も生まれない。鈴木邦男さんなどはこうした「反対の意見」を聞くことをまず大事にしていた。そこは尊敬している。

インタビューが時々挿入されるが、開会式の市川海老蔵もちらっと言っていたが「100年後、この東京オリンピックが分岐点になったと言われる大会にしなければ」と言っていた。ほかにも同様のことを言っていた人はいた。

とにかく東京オリンピックは始まり、そして終わった。
この映画には出てこなかったが(たぶん河瀬直美の参加前)、マーク盗用疑惑問題、国立競技場の設計白紙問題、様々なことがあった。
その後も経費増加の問題、東京の酷暑の問題、マラソンと競歩の札幌開催問題、森会長辞任問題(後任を勝手に指名して余計に騒ぎになった)、野村萬斎の後任の佐々木氏の女性蔑視(渡辺直美に豚の格好をさせ「オリンピッグ」というギャグを使用とした)による辞任、とにかく次から次へと面白いように問題が噴出し、日本のだめなところがむき出しになった。
でも現場ががんばったからなんとか(形だけは)成功したようだ。

東京オリンピックとは何だったのか?
河瀬直美にはこの映画の出来るまでを描いた「東京2020オリンピック SIDE:C」を本にしてもらいたい。
とりあえず彼女の言い分が聞きたい。










PLAN75


日時 2022年6月24日18:25〜
場所 新宿ピカデリー・シアター8
監督 早川千絵


「若者による高齢者殺人事件」が相次ぐ近未来の日本。犯人の主張は「高齢者は社会のお荷物でしかなく、生きていてはいけない。古来、日本人は国家のために命を捨てるという精神を持っているはず」というものだった。この事件をきっかけとし、75歳をすぎたら自らの意志で死を選択できる「PLAN75」が法制化された。
ホテルで清掃の仕事をしている78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)。同世代の仕事仲間たちと励ましあいながらなんとか生きていた。
市役所の「プラン75」の窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)はある日20年ぶりに再会した叔父が申請にやってきて驚く。3親等以内の人間は関われたいため、同僚に担当を変わってもらう。
成宮瑶子(河合優実)はプラン75を申し込んだ人へのサポートのコールセンターのオペレーター。ミチの担当となり、電話でいろいろな話をしていく。
フィリピンから単身来日しているマリア(ステファニー・アリアン)は介護職をしていた。母国に置いてきた心臓病を抱えた娘の手術費用のため、プラン75の関連施設で働くようになる。それは遺体処理、遺品処理の仕事だった。


今年のカンヌ国際映画祭でカメラドールを受賞した早川千絵監督作品。
是枝裕和監督のオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一つだった「PLAN75」を長編として再構築した映画だそうだ。(元の短編は未見)

2016年の相模原の障害者施設での大量殺人事件をモデルにした事件が冒頭に描かれる。長引く(というか慢性化した不景気)のために明るい未来を見いだせず、「生産性のない人間はお荷物」という空気の日本なら将来あり得る未来だ。

倍賞千恵子のエピソードももちろんすばらしいが、私が特によかったのは磯村勇斗の市役所の公務員のエピソードだ。
自分の意見は言わずに淡々と仕事をこなす。相談者にも実に丁寧な対応。ホームレスの人々に炊き出しにいき、そこで「住民票が無くてもできます」という高サービス(!)にも笑顔でこなす。若手地方公務員の鑑のような青年である。

そんな彼が20年間会っていなかったとはいえ、叔父と再会する。
もうすぐ死ぬことが解っている叔父。叔父のことが知りたくて部屋を訪ねる。叔父は全国の現場で働く建設労働者だった。
プラン75の遺体は単なるゴミ処理業者に任せていると知るヒロム。プラン75の当日、叔父を施設まで送っていく。途中飯を食べる。「あっ酒飲む?」と誘う。結局、無くなったあとゴミ処理ではなくちゃんと火葬させたいと遺体を持ち出す。スピード違反で捕まる。
彼のエピソードはここで終わる。

瑶子は電話で話すうちに内緒でミチと会う。そしてミチに最後の電話をする瑶子。静かに泣くことしか出来ない。新人が入ってきて担当者が優しくこの仕事の心構えを話している。

マリアは遺体の遺品を処分する係。使えそうなものは持って行ってもとがめられないらしい。今日はヒロムの叔父の遺体を持ち出すのを手伝った。
仕事が終わり自転車で帰る。

ミチは機械の故障なのか(どうやらガスで死を迎えるらしい)助かった。
彼女は歩いて施設を出る。
峠で朝日が上るのを見る。

映画はここでお終いである。
「えっここで終わり?」とあっけに取られた。
一番気になったのはヒロムである。叔父の遺体を持ち出したことはもうばれてしまう。何らかの罪は問われるだろう。一番軽くてもプラン75の担当から離れることになるだろう。

ミチが朝日を見ることで希望を見いだす人もいるようだし、作者もそのつもるらしいが、私には全く希望は感じられない。だって家に帰ってどうするの?再度プラン75を実行するの?

マリアは最初は遺品整理で金目のものを持ち出すことに抵抗していたが、やがて抵抗しなくなった。そして自転車に乗って帰って行く。

ここでマリアが通りかかり、ミチに「乗っていきますか?」と言って一緒に帰れば希望を感じたかもしれないが、今の終わり方では突き放された気がした。

しかしよく考えればこれは作者からの問いかけなのかもしれない。
「みなさんは登場人物はこの後どうしたと思いますか?」と。
それはつまりは「みなさんはこの後日本をどうしますか?」という問いなのだと。

映画自体、説明的なシーンや感情をむき出しにするシーンはなく、淡々と語り、大胆な省略をもって語られる。好ましい。
プラン75を推奨する動画が流れていたり、逆に反対する人がトマトをヒロムに投げつけたりする。
こういうチラッチラッという情報の出し方がたまらなくいい。説明的でない。

出演では倍賞千恵子はもちろんだが、磯村勇斗、河合優実がいい。磯村氏の出演映画は今まで何本も見ているが、さっぱり記憶に残らなかったが、本作はすばらしかった。
この3人には主演女優、助演男優、助演女優の各賞を差し上げたい。
今年のベストワン候補だ。







メタモルフォーゼの縁側


日時 2022年6月19日18:15〜
場所 TOHOシネマズ新宿・スクリーン1
監督 狩山俊輔


市野井雪(宮本信子)は夫に先立たれて今は一人暮らしの75歳。立ち寄った本屋でたまたまコミックを見かけ、絵がきれいだからと買ってみた。
ところがそれが男同士が愛し合うBLものだった。そのBLのもどかしい愛の世界を楽しんだ。
欲しかった第3巻がなかったときに対応したのは高校2年生の佐山うらら(芦田愛菜)。実は彼女もBLが大好き。つい市野井に解説してしまう。
仕事が終わった後、お茶に誘われたうらら。「なにかお勧めのBLってほかにあるかしら?」。その質問がきっかけでうららは市野井の家に遊びに行き、BL談義を楽しむ。
「あなたもマンガを描いてみたくならない?」と市野井に背中を押され、うららはコミケに出品を決意する。なんとかマンガは完成したが、市野井と二人で店を出す予定だったが、市野井が急に腰が悪くなり、一人では不安で出来ないうららは店を出さなかった。
なんとか会場近くまで来た市野井。そこへ声をかけたのが、二人が知り合ったきっかけになったBLコミック「君のことだけ見ていたい」を描いたコメダ優だった。


BLが話のモチーフになっているので鑑賞。まあ別にBLじゃなくてもSFでも話は成立するが、BLの方が今の時代は共感を得やすいのかも知れない。
この映画を観た私自身がそうだったし。

母親が進路に迷う娘にこう言う。「人生なんて『せめて』の連続なのよ。マラソンの時『せめてあの電柱まで』『楽しみなドラマが始まるからせめてそれまでに洗い物片づけて』っていう。だからあなたもそんな先のことまで見通さずに頑張れば?」。
結構この映画のテーマを言い得ているのではないか?

また人生は大きな奇跡は起きないかも知れないが、小さな奇跡は起きる。市野井とうららが出会ったこともそう。
コミケには行けなかったけど、逆にそれがきっかけになってコメダ先生とも出会えた。

そして一人では踏み出せないことも誰かが背中を押してくれれば出来る。
逆に誰かがいないと出来ない。うららには幼なじみの男子・紡(高橋恭平〜どこかで見た男の子だと思ったら「なにわ男子」だった)が彼の彼女がアメリカへ留学してしまう。それを見送りに行くのはちょっと勇気がいる。紡はその日、うららを待ち伏せする。「俺が見送りに行かなくていいよね?」「いや」「そこは普通、うん、だろ!」「だっておしゃれして行く気満々に見えたから」
こんな風に誰かに背中を押してもらえないとなかなか動けない。(俺もはじめはそうだったか)

そんな風に誰かに背中を押してもらって、そして小さな偶然の積み重ねで人生は少しずつ動いていく。

それで最後はどう話を閉めるかと思っていた。てっきり市野井が死ぬんだと思っていた。ところが少女コミックでありがちな、「片方が外国に行く」パターン。すでに紡でやってるけど臆面もなくもう一度やる。
市野井が娘がノルウェーに住んでいるので一緒に暮らすことになるんですよね。

うららの進路も特に示されることもなく、なんとなく終わる。
人生ってのは少しずつ、しかし着実に変わっていくんだな。

ところでコメダ優役の女優さん、どこかで見た顔だと思ったら映画が始まる前にやってるJTのCMで美容師姉妹の妹の方だ。古川琴音さんていうのか。









峠 最後のサムライ


日時 2022年6月19日13:10〜
場所 新宿ピカデリー・シアター2
監督 小泉 堯史


慶応3年、徳川慶喜は朝廷に大政奉還をした。平和に政権を明け渡すつもりだったが、官軍側の薩摩長州は納得せず、官軍側の西軍、徳川側の東軍に分かれ、日本は内戦状態に陥った。
長岡の河井継之助(役所広司)は戦は民のためにならないとなんとしても戦を避け、西軍側に戦をとどまらせ、また会津などの諸藩との調停をしようとしていた。
河井は西軍側と面会するが、こちらからの提案は全く聞き入れられない。
ついに戦が始まった。信濃川を渡ってこれないだろうと考えていたが、西軍は信濃川を渡り、ついに一旦長岡城は明け渡した。
その後、奪還したが、やはり敗走せざるを得なかった。


本来は2020年に公開予定で、2019年ぐらいから予告編を観ていてコロナで公開延期に次ぐ延期。松竹はよほど温存していたのだろう。
結局予定より2年遅れて2022年6月17日に公開。
正直、出涸らしの感がある。コロナで一番失敗したのはこの映画かも知れない。

いやコロナ関係なくても大作の割には失敗だったかも知れない。
面白くないのだよ。私も主演が役所広司でなかったら観に行かなかったろう。
まず主役の河井継之助という人が無名。
それで魅力的かというと特別そんな感じでもない。むしろ変。自分が芸者遊びが好きだからといって、自分の妻(松たか子)も連れて行くというずれぶり。カットバックで河井の両親(田中民〜サンズイがつく、香川京子)にも呆れられるカットが挿入されるが。

あとオールスター大作のようで東出昌大(まだ離婚前か?)や吉岡秀隆が出てくるけど、それぞれワンシーンのみ。東出なんか冒頭の5分だけだぞ。
あとはひたすら役所広司がまったりとした口調で話しまくる。
(というほど話してはいないかも知れないが、役所広司の独特の語り口を聞くぐらいしか楽しみがないのだな)

アメリカから取り寄せたガトリング砲もせっかくなんだからもっと見せ場にしてもよかったのではないか?
とにかく主役には魅力を感じないし、戦の描き方も中途半端で迫力ないし、前半のテンポは悪いし(河井が西軍と直談判に言って決裂し、敵の前で何時間を待ったあたりはもう少しうまく描けたと思う)、戦が始まったらもっと戦況を詳しく解説してほしかったし、とにかくすべてが中途半端。

予告編で観た以上のものはなかったし、役所広司が主演でなかったら観にいかなかったろう。
観客は時代劇ファンなのか、普段は映画館に来ないような高齢者が多かった。固定ファンがいるからそれなりにヒットはするのかなあ?










シークレット・エンジェル


日時 2022年6月18日11:10〜
場所 光音座1
監督 市村 譲
製作 大蔵映画


ルポライターの巽(木戸竜作)は旧知の高名な老画家から「ある人物に会ってほしい」とホテルを指定される。老画家の紹介だから年増の女性かと思っていたら出てきたのは美少年(碓田清司)だった。戸惑いながらもその美少年・肇に抱かれる巽。
老画家に会ってみると画家の方も今まで女性とはたくさん付き合ったが彼と出会って人生が変わったという。今では彼のことを思うと絵も描けないという。画家の話によれば彼はバックにやくざ組織がついているボーイで政財界の大物が客ついているという。
肇に興味を持った巽は知り合いのやくざから肇の情報を得ようとする。
どうやら長崎の出身と解り、長崎に行く。父親はキリスト教の牧師だったが女性と子供を二人もうけたらしい。一時期姉の方は長崎で売春をして弟を学校にやっていたという。その姉を追った巽だったが、昨年末に行き倒れで死んでいた。
肇に呼び出される巽。聖母マリア像のある前で二人は絡み合う。
肇は泣いている。


最近光音座はめっきりご無沙汰だが、それはもう以前に観たい映画ばかりが上映されたから。数年通ったが、いよいよ鑑賞可能な作品は少なくなってきてるようだ。
(今回の同時上映は浜野佐知の「どっちの男だ!」〜下落合のおんぼろホテルでロケした作品)

今回は「仮面の誘惑」の碓田清司の主演作なので期待したが、外されたなあ。
話が全く進展しない。前半に出てきた画家などは巽を美少年に紹介しただけでその後の話には関わってこない。

政財界の大物に買われ、普段はやくざのボディーガードで移動する売り専ボーイってすげえよな。いったい1回いくらするんだろう?30万円ぐらいか?
画家の話の中で政治家に料亭みたいな部屋で犯されるシーンがあるが、このシーンはなかなかエロさがあってよかったと思う。

それはいいとして肇の過去を探るのだが、せりふが聞きづらくてよくわからない。長崎出身で父親はキリスト教の牧師か何かだったらしく戒律を犯したのかキリスト教は追放されたらしく、姉が15、6の頃から売春して育てられたらしい。ところが姉は死んだ。

んで途中で話の脈絡とは関係なく、巽の行きつけのバーのマスターが巽を好きで酔った巽を犯すエピソードがある。ここは全く肇の話とは関係がない。

そして肇から呼び出される巽。聖母マリア像のある場所で絡み合う(というか肇が絡んでくる)二人。このシーン、撮影の伊藤英男の努力でステンドグラスの光のようなカラーの照明がされているが。所詮全体的に暗いので、エロさもない。
しかし肇はなぜか泣いていて、そして唐突に遠景で首吊り男のショットがインサートされる。そしてキリスト教の十字架のアップで「END」。

私、1回目に観たときは肇に関わりすぎたせいで巽が殺されたと解釈したが、2回目に観たときは首吊り男のショットもあれは肇が死んだ父親を思い出していたのかとも思う。

どっちにしろ話の中身の薄い脚本で、やる気があって作ったようには見えなかった。

同時上映は「どっちの男だ!」







恋は光


日時 2022年6月17日19:50〜
場所 TOHOシネマズ新宿・スクリーン8
監督 小林啓一


西条(神尾楓珠)は恋をする女性を見ると光が見えるという特異体質。
幼なじみの北代(西野七瀬)にはその光は見えない。ある日、大学の教室でノートを拾う。「東雲」と名前が書いてあり、見てみると読んだ小説の内容がまとめてある。
彼女に関心を持った西条は北代を通じて東雲さん(平祐奈)を紹介してもらう。そして「交換ノート」を提案。
二人は「恋の定義」について語り合い出す。そこへ「ほかの女性とつき合っている男を好きになる」という宿木(馬場ふみか)が西条にちょっかいを出す。


神尾楓珠主演作品。つい勢いで前売りを買ってしまった映画(クリアファイルが特典だったのだ)。でも世間的には特に話題になっているようにも思えないが、上映回数が減ってくると見づらくなるので早めに初日に感想。

正直失敗作だよなあ。
まずオープニング。原作を知ってる人間はいいのかも知れないが、登場人物の説明がまったくされないまま進む。ファーストカットは宿木に誰かがドリンクを頭からかけるカット。それを見てつい笑ってしまう北代のカット。二人の関係性がよくわからない。そのうちに西条が出てきて恋する女性に光が見える話が出てきてそのことに対する説明なし。
「僕には恋する女性が光って見える」というOFFのせりふがありそうだが、そういうのなし。西条と北代が仲良く話すのだが、その関係性がわからない。

最初の方で登場人物の関係性が分かるような説明、もしくは展開があることが多いのだが、その辺はすっ飛ばし、連続ドラマの第2話から見始めたような取り残され感を感じた。
だから西条が東雲さんのノートにいきなり赤ペンで添削をし始めると「?」となってしまった。
あそこは「西条は校正のバイトをしている」という設定が事前にないと、「人のノートに勝手に落書きするいやな奴」というイメージが生まれてしまう。

まあそれは許すとしても、その後、東雲さんと恋の定義についてせりふの応酬になる。これ、原作コミックで文字で読めばまた興味深いかも知れないが、映画でやられるとただただ小難しいせりふの応酬で聞いていて疲れる。1週間働いた夜の頭にはなんだかなあ、という感じだ。

さらにだめななのは主演を神尾楓珠にしたこと。
めがねをかけた、なんかファッションもダサい男。これが数年前の神木隆之介ならぴったりだったのかも知れないがねえ。
神尾楓珠ならそのイケメンぶりをしっかり見せてほしいのだ。

後半「北代は西条を好きなのになぜ西条には光が見えないか?」の理屈付けで費やされる。
まあ恋愛コミックもここまで変形が必要になったかとその複雑さを感じた。
結局は北代とついあい始めるんだけどね。

ロケ地となった岡山の景色が地方都市の都会と田舎が同居していて、魅力的だった。







きさらぎ駅


日時 2022年6月12日19:15〜
場所 ヒューマントラストシネマ渋谷・スクリーン3
監督 永江二朗


大学で民族学を専攻する堤春奈(恒松祐里)は卒業論文で以前からネットで話題になっている異世界にあるという「きさらぎ駅」について書いてみることにし、その異世界に行ったという葉山純子(佐藤江梨子)に取材に行った。浜松に住む純子の家に聞き取り調査に行く春奈。
純子の話は2004年1月8日に新浜松駅を出発する終電車に乗り、寝てしまったらあるはずのないトンネルを通り、「きさらぎ駅」というあるはずのない駅に着いたというのだ。
一人で降りたわけではなく、女子高校生の宮崎明日香(本田望結)、翔太、大輔(寺坂頼我)、美紀(莉子)の3人組、それに酔っぱらったサラリーマンの花村(芹澤興人)と一緒だった。
しかし3人組の大輔が何物かによって死んだ。残る5人は線路を元の方向に歩いて逃げることに。しかし何物かが追ってくる。恐怖に狩られた翔太はナイフを取り出す。振り切った純子と明日香。途中、車に乗せてもらって助かったかに見えたが、やはり何物かに襲われる。
車から降り神社のようなところに出た。光る出口のようなものが見つかった。純子は襲ってくる翔太を押さえて明日香を逃がした。
しかしこの世に帰ってきたのは自分だけだった。しかも2011年だった。
その話を聞いて春奈はその前の行動を聞き出す。純子はその前の電車に乗っていたが、寝過ごし、折り返しの電車に乗ったが再び始発駅に来てしまった。そして最終電車に乗ったという。
それを聞いた春奈はその組み合わせの偶然が異世界に行くことになったのでは?と推理する。
春奈はその晩、新浜松駅から全く同じルートで電車に乗った。
思った通り、「きさらぎ駅」に到着した。


全然知らなかったのだが、またまたTwitterでえらく評判がいいので観に行った。しかし都心での上映は池袋と渋谷のみ。しかも1日1回。シネロマン池袋に行った後に池袋で観る予定だったが、満席なので諦めた。
でも諦めきれずに渋谷を見たら19時の回がまだあったので鑑賞。(上映開始の時には満席になっていたけど)

いや面白い!久々に面白いホラーを観た。
まず電車の乗っていたら異世界に行ってしまった、っていうのがいいですね。私も「電車に乗っていたら異世界に行ってしまった」という話を考えかけたのだが、どうにもまとまらなかった。
だからネタとしてもまず気に入ってます。

最初のうちはホラー映画にありがちな音で脅かす効果が気になったが、それは最初のうちだけ。
ゾンビのような何物かに襲われながら逃げる逃げる。
話を聞いた春奈が帰るとき、なぜかにやっと笑う純子の姪の凛。

そして自分もきさらぎ駅へ。
純子から聞いた話と全く同じ。しかしその後のことを知ってる春奈はちょっとずつ違う行動を取る。
果たして春奈は帰れるのか?と思ってみてるが、純子と同じ行動を取っても帰れない。
「えっーーーーーーー」と叫ぶ春奈。

「実は・・・・」というドンデン返しの大逆転。
いやこのラストには恐れ入った。
あの凛のほほえみはこういうことだったのか?

クレジット後まだまだドラマは続く。
今度は凛が試してみる。果たして・・・・

とにかく面白いホラーを見せてもらった。スピード感あふれる展開で実に心地いい。
第2の「カメラを止めるな」の可能性あり。(たぶんそこまでは行かないけど)
それでもそう言いたくなる位に面白かった。
暗い空間の映画館で観てよかった。明るい部屋でテレビで見たら印象が違っていたかも知れない。
とにかく面白かった。






女同士の痴戯 むせび泣き


日時 2022年6月12日14:48〜
場所 シネロマン池袋
監督 渡邉元嗣
製作 新東宝


奥多摩で知り合ったまりえ(林由美香)と透子。最終バスがなくなったので二人で旅館に泊まった。二人は一緒にお風呂に入り、お互いの体を洗い、布団の上でも楽しみあう。
翌日、近くの姉の家に透子を連れて行くまりえ。姉も透子を気に入ってくれたようだ。別れる時、「お互いががんばって3ヶ月後の夕方6時に芝公園で会おう」と約束する、
まりえは絵本作家になるのが夢。女性の恋人と同棲はしていたが、透子を忘れられない。そして本気で絵本作家をめざし出す。
透子はレズバーでダンサーをしているが、そんな生活がいやだった。しかしかつて自分がボロボロになったときに助けてくれたその店のママ(吉行由美)から離れられないでいた。というよりママの方が透子を束縛していたのだ。
ダンス教室を持つのが夢の透子がまずはもう一度ダンス教室のインストラクターになる。
3ヶ月後、透子はママの「一生踊れなくしてやる!」と襲われてしまい、会いにいけなかった。
1年後、絵本作家になったまりえは透子を探しだし、再会する。


これも「たまもの」を観に行って上映されていた映画。
これまた珍しくレズものだが、女性しか登場しない。
私はピンク映画に詳しくないが、「女優しか」登場しない映画って珍しいのではないだろうか?

透子を想い続けるまりえのひたむきさはいいのだが、そもそも彼女には恋人がいる(自分を「僕」と呼ぶショートカットのボーイッシュな子)。
だから透子を好きになってしまうのは裏切ってるようで、何か違和感を感じてしまう。

そこが引っかかって何か映画に乗れないものがあった。
脚本は五代暁子。そうは言っても全体的には五代さんの脚本作は好きである。







変態本番 炎の女体鑑定人


日時 2022年6月12日13:49〜
場所 シネロマン池袋
監督 深町章
製作 新東宝

武田信玄斎(久保新二)を名乗る詐欺師とその弟子のケンイチ(樹かず)。
「女体鑑定」という名目で女とやっている。
詐欺の方はケンイチがまずはペットショップから出てきた女(林由美香)に声をかける。仲良くなってケンイチは「自分は古美術鑑定人」と名乗り、女の部屋に高価な壷を置かせてもらう。デートから帰ってきたらその壷が割れている。もちろん信玄斎が留守中に部屋に忍び込んで割ったものだった。
「どうしよう!壷を700万円で弁償しなきゃ!」と焦り、女に「私300万円ぐらいなら何とかなる!」と言わせて金をもらう約束をした。
ところがもらった金は新聞紙。実は女はかつて信玄斎がつきあっていた女ですべて見通されていたのだった!
女鑑定の方もやくざの議員の女に手を出してしまい、逃げ出す二人だった!トホホ。


こんな感じの話。
6月10日(金)から1週間、いまおかしんじ監督の「たまもの」(今回のタイトルは「タマもの 突きまくられる熟女」)が上映されるので久々にピンク映画を観に来た。
「たまもの」は12:39〜観て、休憩後2本連続上映。


冒頭で「修行」のためにお金を払ってさせてもらう樹かず(相手はマッサージ師)。そして次は夫が浮気していて自分に問題はないか調べてもらいたい女性を相手に久保新二が(樹かずと助手にして)鑑定と称して延々とやりまくる。久保さんのアドリブによるお笑いが見物。

ここで前半が終わって「次は詐欺してもうけるぞ!」となったらなぜか久保新二と樹かずの師弟で絡みまくる。
普通のピンク映画で男同士のカラミを観たのは初めてじゃないか?
思わずびっくりして座り直した。

後半は林由美香をだます樹かず。
でまた町会議員の妾という女の鑑定をするが、「鑑定と違ってゆるいぞ!」と怒りの電話を受け「あれ?おれケツの穴に入れちゃったかなあ?」とかいいながら、逃げ出す二人。で終わり。
まあ久保さんのコメディ演技を楽しむ1本ですね。






庵野秀明セレクション「ウルトラマン」特別上映(4K上映)


日時 2022年6月11日9:00〜
場所 TOHOシネマズ新宿・スクリーン11
監督 野長瀬三摩地、実相寺昭雄他


「シン・ウルトラマン」のヒットを記念して庵野秀明セレクションによるる初代ウルトラマンの4K上映。
選ばれたのは「遊星から来た兄弟」「怪獣殿下(前篇)」「人間標本5・6」「空の贈り物」の4本。
特に編集もなく4本をつないだだけ。

「シン・ウルトラマン」の元になった5本のエピソードを上映するかと思ったらそうでもないのですね。かぶってるのは「遊星から来た兄弟」だけ。「怪獣殿下」も前篇だけという突き放し感が庵野監督らしいと言っていいのか。

客層は年季の入った怪獣ファンらしき60歳前後の男たちが8割。あとは庵野ファンなのか最近のウルトラマンファンなのか、20歳前後の男。
女性客はいない。斉藤工がでてるわけじゃないしなあ。

内容は今更よく知ってるので特に感想はない。
でも「怪獣殿下」の主人公の少年の服装が、縞の長袖のポロシャツに半ズボン。当時の私もこういう服装をしていた。懐かしいなあ。
この当時、この少年のように怪獣に熱狂していた少年の50数年経った人たちがこの上映に来ているおっさんたちなのだな。

あと「人間標本5・6」
これ「5点6」だと思っていたがよく見ると「いままで4体標本を採取したからあと5と6」なのですね。ですからNo5、No6の意味なのですね。
それにしてもダダは何ともいえない不気味さがある。途中攻撃されて顔が火傷するし、顔だけ変わるし、不気味な縞模様で好きではないが、そのデザインの秀逸さは認めねばなるまい。

4K上映なので今の映画館の設備で上映しても遜色のないクリアさ。
「長編怪獣映画ウルトラマン」(ウルトラマンの初映画版)もどこかで上映してほしいものだ。
今更と思って迷ったけど、まあ「お祭り」なので参加してよかった。







トップガン マーヴェリック


日時 2022年6月10日18:05〜
場所 新宿ピカデリー・シアター6
監督 ジョセフ・コシンスキー


マーヴェリック(トム・クルーズ)は昇進も拒み、新型機のテストパイロットをしていた。しかし時代は無人戦闘機。今後はパイロットは不要なものとなると言われる時代。そんな時代にあらがっていたマーヴェリックだったが、トップガンの教官に任命された。
かつてのライバルで今は司令官となったアイスマン大将の依頼だ。
実は某国で核開発が進められており、その研究施設を破壊するミッションのためにパイロットの選抜と訓練を依頼された。
集められたのは12名の優秀なパイロット。その中にはかつてマーヴェリックとコンビを組み、事故で亡くなったグースの息子、ルースターもいた。ルースターはマーヴェリックのことを恨んでいた。
敵の施設は渓谷の中にあり、対空ミサイルなどで防備されている。これを破壊するには低空で谷を進み、急降下、急上昇を行う危険で不可能に思えるミッションだった。
果たして成功するのか?


コロナのせいで公開が遅れに遅れていた本作。最初は2020年公開予定だっけ?それだけ自信作だったのだろうから中途半端な形では公開したくなかったのだろう。
そしてやっと公開。前作も観てないし、スルーするつもりでいたらTwitterでは「感動した!」「泣いた!」「すげー」の連呼。
しかもかなり映画を見てる人たちも言っている。

「そんな〜」と疑っていたが、まあ映画の流行には乗る方なので配信で前作を観て鑑賞。
ところが前作がイケイケでナウなヤングのスーパー男のトム・クルーズが「俺って最高!」という映画だったのでますます疑う。でもまあここまで予習したからには観てみる。

観てみたらこれは周囲の評判も納得。
前作と違って最初からミッションがある。これが谷をすり抜けてピンポイントで爆弾を投下するって「スター・ウォーズ(第1作)」とまんま同じ。
「ナバロンの要塞」からの秘密基地攻撃もの、で戦争映画の伝統のお約束。ここからしていい。

攻撃目標は難攻不落で訓練は熾烈を極める。「君は不可能と説明してるようなものだ!」と教官を解かれるが、マーヴェリック自身が可能であると訓練で証明。
思えば、働いている人の大半の人は現場の人間である。
ピラミッド構造を考えれば人間、年を取ったからといて全員指揮官になれる訳ではない。課長なんて指揮官でもあるけど、半分は現場の人間で、現場仕事に「他の社員の面倒を見る」という仕事が増えただけだ。

そうなるとずっと現場にいるマーヴェリックのような立場の人間には感情移入しやすい。
「上の人間は現場の苦労などわかっちゃいねえ!」という思いは全世界共通だ。

それに若い頃はイケイケでいけ好かないマーヴェリックだったが、それなりに苦労もしたのだろう。それは共感する。
若い頃は生意気だったけど、いつまでも生意気ではいられない。いろいろある。

バーのマダムとの恋も描かれてあれが不要だという意見も見たが、日本でいえば行きつけの居酒屋の女将としっぽりするということで、中年男の夢なのだ。

映画が残り30分となった段階で作戦開始。明らかに戦争行為だが、そんなことは気にしない。
「攻撃は2分半で終わらせなきゃいけないんでしょ?時間余らない?」と思いつつ何とか作戦成功。
おいおいまだ時間あるぜ、と思っていたらマーヴェリックとグースの息子が墜落。
さて脱出をどうする?となって敵のF14を奪って逃走という「大脱走」的展開。

この展開は恐れ入ったなあ。
007にはアストンマーチンのように、マーヴェリックにはF14なのだろう。むしろ「最後にF14に乗せるにはどういう展開にすれば持っていけるか?」を逆算して作ったのではないか?

とにかく大満足の展開で、前作が気に入らなかった私も満足できた。
そうだよねえ、みんな年とって世代は変わっていくんだよねえ。





戦慄の七日間


日時 2022年6月8日
場所 amazonPrimeVideo
監督 ジョン・ブールディング
製作 1950年(日本公開1954年)


月曜日の朝、首相宛に一通の手紙が配達された。それは国立科学研究所のウィリントン教授からで現在開発している小型核兵器の製造を中止すると発表せよ。さもなくば今度の日曜日の12時その小型核兵器をロンドン中心部で爆発させる、というものだった。
真偽を確かめるために警視庁フォランド警視が動き出す。教授の助手、よく言っていた教会の牧師などに話を聞く。教授は最近悩んでいたと判明する。
軍用列車や軍隊の動きが盛んになり、人々は新しい戦争が起こるのでは?ソ連が戦争を始めるのでは?と噂を始める。
首相は教授に語りかけることを目的でラジオで放送を行う。
「あなたの要求は受け入れられない。仮に爆発させても各国の政府はイギリスで起こったことを事故として報じずにあなたの努力は何の影響も与えないであろう」と。
一方ウィリントン教授はロンドンで下宿に入ったものの、家主に怪しまれてその下宿を出る。町には自分のポスターが貼ってあり隠れ場所がなくなってきた。そのとき着替えるためにコートを買った質屋で知り合った女優の部屋に泊めてもらうのだが。
万が一に備えて政府はロンドンより住民の避難を実行する。
そして日曜日がやってきた。


Twitterでどなたかがつぶやいていて存在を知ったこの映画。
核兵器開発を中止させるためにテロ行為に出てしまう科学者ってすごい設定だ。
昭和25年製作の映画で、イギリスが核兵器を持つのはこの後。
「教授が簡単に核兵器を持ち出せて警備が甘い」とか、「小型核兵器がカバンに入る大きさで現代でもあり得ない」とかの指摘がアマゾンのレビューで読んだけど、そんなことは些細なこと。
第二次大戦直後でもう核兵器の恐ろしさに警鐘を鳴らす作品が出来ていたということが重要だ。

もちろん「博士の異常な愛情」のほどの迫力はないけど、それでも「科学者が自分の研究を否定するのは興味深い。「ゴジラ」の芹沢博士も自分の研究を否定した。
「核兵器をやめさせるために核兵器を使用する」という一見矛盾に見える行為しか教授には残されていない。たぶん自分が辞職しても誰かが自分の代わりをやるだろう。

そしてロンドン市民の疎開。
「荷物は一つだけ」「スポーツ器具はだめ」「ペットもだめ」などの規則があり、係員と市民がもめるシーンが数回ある。
また誰もいなくなった町で夜中に宝石店に泥棒に入るが、それを撃ち殺す兵士。しかしその兵士さえも家宅捜索に入った先で引き出しの下着を盗む。(最初は女性のブラジャーを手にするが、それを捨てて男物のパンツをポケットにいれるのだ)
こういった細かい人間描写が興味深い。

また博物館や美術館

そして首相のラジオでの回答。
「仮にロンドンで爆発させてもそのことは海外では隠され、あなたの行動に各国の政府が従うことはないだろう。弱者は常に負ける」と言い切る。
教授の行動も無意味だと言い切る。

結局は教授も隠れ場所に困り、例の女優の部屋で日曜日まで過ごす。
そして日曜日、恐怖におびえる兵士たちとともに捜索する教授の助手と娘。
教会で爆発させようとしたところを見つかり、結局は核兵器は取り上げられ、助手によって無効化され、教授は射殺される。

やや迫力不足の感はあるけど、それにしても「核兵器をやめさせるために良心からくるテロ行為」というモチーフが面白く、観る価値はあったと思う。
アマゾンプライム、侮れない。

スタンダード作品のはずだが、ビスタ(というか現代のテレビサイズ)に上下をトリミングされている。ありがちなことだけど、こういうの止めてほしいなあ。







トレマーズ


日時 2022年6月5日
場所 DVD
監督 ロン・アンダーウッド
製作 1990年(平成3年)


ネバタ州の田舎町で便利屋として働くバル(ケヴィン・ベーコン)とアール(フレッド・ウォード)。別の町でやり直そうと町を出掛かったが、鉄塔の上で人が死んでいるのを発見。死因は脱水症状。3日間ぐらい鉄塔の上にいたらしい。なぜ降りなかったのか。
同じ頃、地震の研究をしているロンダ(フィン・カーター)は何か地中で振動をキャッチした。
死体を戻した後、町を出ようとして崖崩れに出くわす。そして車の車輪に何か蛇のようなものが巻き付いていたのを発見した。
大きな町に助けを呼びにいこうと今度は車でなく馬を使った。しかし逆に馬は地中から出てきた蛇のようなものに殺された。逃げるところをロンダと出会う。そしてその怪物はやってきた。岩の上にいれば奴は襲えないとわかったが、いつまでも岩の上にいるわけにもいかない。
ロンダとバルとアールの3人は車まで駆ける。そして用水路のコンクリートにぶつかって怪物は死んだ。
ロンダは地震計の記録からこういう怪物はあと3頭いると推測。
地中の中を高速で自在に動き、口からは触手のようなものが出てきて掴んだり、食ったりする。
取り合えず町の食堂まで戻ってきたが、いよいよこの怪物はこの町までやってきた!


知らない映画だったし(90年といえば私は映画から離れていた時期)、噂も聞かないのだが以前に知人からもらった(たぶんいらなくなったから)DVDの1本。怪獣映画好きだと知ってたからくれたのかな。

という訳で長年棚に置きっぱなしだったのだが、整理も兼ねてやっと鑑賞。
一言でいうと「砂漠のジョーズ」である。

なになら得体の知れないものが地中を這い回っている!という怪物目線(ではないのだが。あくまで地上だし)で地面すれすれの高速で進んでいく映像!
怖さがあおられますねえ。

さらに設定が都会ではなく、「アメリカの田舎」というB級SFの伝統を受け継いでいる。
後半、武器マニア(というか防衛マニア。核シェルターも持っているらしい)が拳銃やらライフルやら、散弾銃で対決しまくり。

4頭いる、という設定のため、時々倒してカタルシスがあり、最後最後で大苦戦。崖に追い込んで落としてしまうあたりは「やった〜」のカタルシス満点。
「ジョーズ」ですよ。

にも関わらず日本の怪獣映画ファンの間でも語られないのはその造形ではないか?
口の中から蛇状の舌(?)が出てきて、それには牙がついている。
ビオランテの触手に近い。
本体は地中にいる、という設定にも原因があるのだが、怪物の全体を観ると太った芋虫みたいな形でかっこよくないんだよねえ。

最後にはかっこいい姿で地上で暴れてくれるともっとよかったのだがなあ。
そういう不満はあるけど総じて面白かった。
5本ぐらいシリーズがあるらしい。
観るかって言われれば暇なら観てもいいかな。





ユリイカ


日時 2022年6月4日12:15〜
場所 テアトル新宿
監督 青山真治
製作 2001年


福岡県の田舎町で起こったバスジャック事件。犯人は乗客を数名殺し、最後には射殺された。生き残ったのは運転手の沢木信(役所広司)とまだ中学生と小学生の兄妹の直樹(宮崎将)と梢(宮崎あおい)だった。
生き残った3人だったが、中傷の日々が待っていた。直樹と梢の両親は離婚、父親は交通事故で亡くなった。沢木も家出をする。
2年後、沢木が戻ってきた。そのころ、町では連続通り魔事件が起こり、沢木もなぜか疑われる。実家に居づらくなった沢木は兄妹二人で暮らしている梢たちの家に居候する。
そこへ直樹たちの従兄弟という秋彦(斉藤陽一郎)も一緒に住むことになる。また通り魔事件が起き、被害者が沢木の勤め先の同僚女性だったことから刑事(松重豊)に疑われる。
居場所をなくした沢木は小型バスを購入し、直樹、梢、秋彦の4人でバスで旅にでる。刑事も今は見送るしかない。
旅先の阿蘇でも殺人事件が起きる。秋彦は沢木か直樹が犯人だと疑い出す。
やはり直樹が犯人だった。沢木は直樹を自首させ、「生きてくれとはいわん。せめて死なないでくれ」と諭す。秋彦が直樹のことを「捕まった方がいっそ幸せなのだろうな」と言ったことに沢木は激怒しバスから降ろす。
梢と沢木は山の頂にバスを止める。梢はやっと口を開き、家族や沢木の名を叫んだ。


やたらと評価の高い青山真治監督。先日亡くなり、その追悼で評価の高い「ユリイカ」のデジタルリマスター版の上映。
公開時も知っていたが上映時間が3時間半と聞いて見るのを止めていたが、今回折角だから観てきた。

私は自分のアンテナに引っかからなくても評判がよかったり、話題になっていると観てしまう癖がある。そして(全部ではないが)多くの場合「観なくてもよかったな」と思う。

今回はその最たるものだった。ネットで検索しても評判がいい。
だけど完全に受け付けない。

まず、映像がセピア色なのである。白黒ではない、セピアなのである。
冒頭のバスジャック事件部分だけがセピアで本題になったらカラーになるかと思ったがそうではない。ずっとセピアである。
全編セピアなんて映画初めて観た。
でもセピアって画像が劣化したイメージだから私はイライラしっぱなし立ったなあ。
最後の空撮カットでカラーになる。

そして上映時間3時間37分。
「七人の侍」より長いぜ。いちいちカットが長い。まあ「1秒だって無駄じゃない」という人も少なくないようだが、私にはだめ。しかも休憩なし。最後の1時間はトイレとの戦いである。
こういう長い映画って観客の生理を無視した監督の自己満足の映画である。

また梢と直樹のキャラクターも気に入らない。
事件の後遺症でまったく口を利かなくなったという設定なのだが、口を利かない人は苦手である。実生活でも異様に口数が少なく「はい」と「いいえ」を言えばまだいい方で顎で示す、返事をしない、という人には意志の疎通が出来なくてさんざん困らされる。
現実社会で嫌いなタイプと映画中のキャラを比較するのもどうかと思うが、このキャラクターにはイライラさせられっぱなしである。

結論をいうととにかく1から10まで気に入らない映画で、こういう映画を面白いと思えない自分の映画鑑賞眼がいやになる。
何本観ても映画鑑賞眼が向上しない。
映画を見ること自体がいやになる。






東京2020オリンピック SIDE:A


日時 2022年6月3日18:45〜
場所 新宿ピカデリー・シアター4
監督 河瀬直美


コロナで1年延期になった2020年東京大会。
日本は前の東京大会では柔道で金メダルがとれずに今回は!と執念を持っている。また世界各国からさまざまな事情を抱えた選手が集まってくる。
戦争による亡命、イスラエルと直接対決を避けるように命じられた選手、子育て中で夫に赤ん坊を東京まで連れてきてもらったカナダの女子バスケ選手。何かすれば何か批判を浴びるアメリカの黒人女性選手。
彼らは東京に集まった。


昨年大反対を受けながら開催が強行された東京オリンピック。私なんかオリンピック反対派だったから(いや東京以外でもだが)ろくに見なくて朝のニュースでちょろと放送されているのを観ただけ。
さらに河瀬直美は過去のスタッフに対する暴力問題も最近週刊文春などで叩かれている。
さらに公開直前になってシネコンの予約状況がわかるようになるとがらがらで「東京五輪と同じく『無観客上映』!」などと揶揄される始末。

64年の東京五輪の時はともかく、今は画質のいいテレビで去年みなさん観てますからねえ。いまさら観る気にもならないでしょう。
テレビの芸能ニュースでも全く取り上げられない。
宣伝もしてないのでガラガラは当然。しかし新宿で言えば、TOHO、ピカデリー、バルト9とシネコン3つで1日5回上映するという大作なみの公開。なんなんだろうねえ。

という訳で今「観られないこと」が話題の本作だが逆に「祭りに参加しろ」という気になって公開初日の夜の回でポイントで無料鑑賞。

いや驚いた。
オリンピックの競技のダイジェスト版かと思ったらそうではない。
選手たちの背景を取材し、「内戦」「亡命」「人種差別」「育児批判」などの様々なものを背負って東京にやってきた選手たちを描く。
従って試合の様子など眼中にない。

赤ん坊を連れて行きたいと願ったカナダ女子バスケの選手は、関係者以外の入国が制限されているにも関わらず、夫と娘をホテルに泊めて東京に来る。
同じように日本女子バスケの選手は子育てのためにオリンピックを諦める。「私なんか『ルールがこうだから』と言われると素直に従ってしまう。彼女はすごいわあ」と感心している。

またアメリカの黒人選手はなにかすると「反米だ」「国に忠誠心がない」とSNSで叩かれる。私が想像する以上に黒人差別はあるようだ。
黒人が警官に射殺され「過剰防衛ではないか?」と批判される事件もあったしなあ。
彼女は「こんなもの気にしない。たかがSNSだ」と言い切る。

一方日本の柔道界についても描かれる。前の東京大会でオランダのヘーシンクに破れたことがトラウマらしい。「発祥の地の日本で、日本人選手が外国人に負けた」ということがよほど衝撃だったようだ。
調べてみたらヘーシンクは身長198cm。
勝てる訳ないだろ!
でも「日本柔道すごい!」に思考がなっている人たちには悔しくてたまらないのだろう。
山下会長などは「目先の勝負で勝つことが重要ですか?人生の勝負で勝つことが重要じゃないですか?」ということを言う。
とにかく日本柔道界にとっては東京五輪2020では金メダルが人生で一番大切らしい。

そんなこんなの選手たちのバックボーンを描くことを主眼とし、競技そのものにはあまり関心を払っていないようだ。

つまり今回取り上げられた人々は人生において何らかの被害者意識を持っている。それが正当かどうかはこの映画の情報だけでは判断しないが、とにかく何らかの「虐げられた」と思ってる人々が「この五輪で見返してやる!」という思いを抱えてやってきている。

面白い視点だと思うよ。やはり観て損はなかったと思う。
そうかあ。
となると彼女はこの映画の選手たちを通して「虐げられたものたち」を描きたかったのでは?

インタビューや試合前の姿も出てくるから、あらかじめ取材対象はある程度絞ってあったのだろう。

これは完全に邪推だが河瀬直美は自分のことを「私は女性であるが故に世間からは舐められ、虐げられている」と思ってるのではないだろうか?
「あん」もらい病患者差別の映画だった。
そう考えると彼女のパワハラ事件も諸々納得がいく気がした。
河瀬直美の代表的な作品になることは間違いない。

映画とは直接関係ないけど、この映画、配給は東宝だが、制作に「木下グループ」。木下グループについて詳しく知りたくなった。






トップガン


日時 2022年6月1日
場所 amazonPrimeVideo
監督 トニー・スコット
製作 1986年(昭和61年)


インド洋上で艦載機F14のパイロットのマーベリック(トム・クルーズ)とレーダー要員のグース(アンソニー・エドワーズ)はミグと遭遇した。同僚のパイロットは一瞬ミグにロックオンされ、恐怖のあまり自信を失いパイロットを辞めた。そのために海軍のエリート・パイロットを養成する「トップガン」にマーベリックたちが派遣されることになった。
近くのバーで美人と知り合ったマーベリックだったが、翌日の講義で彼女、チャーリー(ケリー・マクリギス)が戦闘機研究家の教官として再会した。
「生徒とはデートしないのよ」と言いながらもチャーリーはマーベリックに惹かれていく。
やがて訓練中の事故でグースは脱出時に死亡した。さすがのマーベリックも自信を失う。その時、インド洋でミッションが下った!


先週末からこの映画の続編が公開され、絶賛の嵐である。「シン・ウルトラマン」も絶賛の嵐だがこの映画の方が裾野は広そう。
でその「トップガン・マーベリック」だがやはり観る前に予習を、と思ってアマゾンプライムにあったので鑑賞。

観始めて「なんだこれ?」である。
まあ主人公のマーベリックが好きになれない。
自信過剰でとにかくやな奴、である。一応それは作る方も分かっているらしく、「あいつは性格に難がある」と言われている。

「俺は天才パイロット!爺どもはルール、ルールとうるさいけどしったこっちゃねえ。何てったって俺は天才パイロットなんだから。しかも顔もハンサムで体もいい。女はみんな俺に惚れるぜ。お堅い教官も俺のぶっといミサイルでイチコロさ。相棒は事故で死んだけど戦闘機だからたまにはこういうこともあるだろう。ちょっと落ち込んだけど、すぐに復活。インド洋のミッションではミグを4機撃墜したぜ。あと100機ぐらいこないかなあ」みたいな感じである。

しかも全編ディスコミュージック(?)の洋楽が全開。いやこの世界にはついていけない。1986年の俺はなんとなくそんな映画の雰囲気を察して観に行かなかったのだろう。
正解だよ。

だいたい最後にミグを撃墜したシーンでは俺は「第三次世界大戦だ!」ってハラハラしたよ。撃墜せずに追っ払う、という話の選択肢はなかったんかいな。

出演では死んだグースの妻役でメグ・ライアン。90年代後半ぐらいからアメリカラブコメ(全くと言っていいほど観てないけど)で売れたイメージだが、この頃から出てたんだな。

「マーベリック」どうしようかなあ。