佐藤允さんトークショー


ラピュタ阿佐ヶ谷
2002年1月14日14:30〜15:45

岡本喜八監督新作「助太刀屋助六」が公開されるにあたり、ラピュタ阿佐ヶ谷では
それにちなんだ「喜八アクション健在なり」と題する岡本喜八特集が2002年1月13日から
2月9日まで行われています。

この特集上映に関連し、阿佐ヶ谷ラピュタで
岡本喜八監督代表作「独立愚連隊」に主演なさった佐藤允さんを
招いてのトークショーが行われました。
以下、トークショーの内容ですが、当日は録音、メモなど
一切とらなかったのですべて私の記憶で書き、また内容はその一部である事を
ご了解ください。
(当日は司会は佐藤利明氏です。尚、当日の写真は「荻窪東宝」支配人日記にもあります)



司会「まず佐藤さんが俳優になられたきっかけから」
佐藤「やっぱり『暁の脱走』や黒澤さんの『酔いどれ天使』を
   見てどうしても俳優になりたいと思い、俳優座の養成所に入り
   そして東宝に出演するようになりました」


司会「佐藤さんのデビューは『三十六人の乗客』、岡本喜八監督のデビュー作
   『結婚のすべて』ではケンカをしている男でしたが、岡本監督とは
   これが出会いなんですか?」
佐藤「いや、岡本監督が助監督時代から親交はありましたね」

司会「先日、『血と砂』が賞をおとりになって岡本監督の代わりに授賞式に
   お出になったんですね」
佐藤「そうです。また私事ですが、去年妻を亡くしまして
   新作の準備中の忙しい中、ご夫婦で(葬儀に)来ていただいたりしました」

司会「その後『暗黒街の顔役』があって今度は主役の『独立愚連隊』ですね。
   最初にシナリオを読んだ時はいかがでしたか?」
佐藤「いやー、とにかく出ずっぱりの主役でしょう。主演なんてできるかなって
   不安のほうが強かったですね」

司会「乗馬なんかは出来たんですか?」
佐藤「いや全くやったことがなくて、役が決まってから撮影所の近くの馬場で練習しました」
司会「それは撮影中ではなく、準備として撮影の前に?」
佐藤「そうです。とにかく2階(ぐらいの高さ)から飛び降りて馬に乗れとか
   無茶なことをしましたね。大変でした。今じゃとても出来ないです」

司会「撮影期間はどのくらいだったんですか?」
佐藤「40日間ぐらいです。ずっと御殿場でロケでしたね」

司会「『独立愚連隊』シリーズ第2作『独立愚連隊西へ』で加山雄三さんが出演なさる。
   東宝映画にとっては昭和35年の加山雄三さんのデビューは大きな出来事で
   これ以降主演者の流れが少し変わるんですよね」
佐藤「加山雄三君は出てきてすぐ主役でしょ。当時ケンカしたりしましたね」
司会「どんなことで?」
佐藤「いやー、たいした事じゃないですよ。態度が生意気とかなんとか。
   そんなようなことで。くだらない事が原因でした」

司会「その後夏木陽介さんと3人でよく共演なさったんですよね」
佐藤「そうですね。2枚目同士は仲が悪いもんですが、僕はこんな(顔)だから
   加山君とも仲良くやってたし、夏木君とも仲良かった。
   加山君と夏木君は仲悪かったですけどね」


司会「その後、『独立愚連隊』シリーズは『どぶ鼠作戦』で岡本監督は打ち止め。
   その後監督が代わって『やま猫作戦』『のら犬作戦』『蟻地獄作戦』と続きますが
   監督が代わるとタッチが少し変わりますね。むしろ時代劇の『戦国野郎』の木下藤吉郎の
   ほうが『愚連隊』シリーズっぽい」
佐藤「そうですね。でもとにかく『独立愚連隊』は批判も多かったです。
   戦争をあんな娯楽映画にしてしまってよいのかっていう」

司会「戦争が終ってまだ14年ですものね」

司会「岡本監督とはその後大喧嘩された事があったとか」
佐藤「岡本監督はカット数が多くて大変なので、『一度20分ぐらい長まわしで
   ワンシーンワンカットでやりましょうよ』と言ったら『バカヤロウ!!成瀬巳喜男がスタイルを
   変えたか!!ゴッホがスタイルを変えたか!!ふざけた事いうな!!』と無茶苦茶に
   怒られまして。でもゴッホまで引き合いに出されてびっくりしたなあ」


司会「そして『日本のいちばん長い日』を最後に岡本作品とは離れられるんですね。
   話は変わりますが、よく佐藤さんは日本のリチャード・ウィドマークと言われますが
   ご自身ではどうですが」
佐藤「僕はどっちかって言うとこんな顔してるけどアメリカ映画よりフランス映画のほうが
   好きでねえ。ジャン・ギャバンのほうが趣味にあってます」

司会「いわゆるフィルムノワールって言われる作品でしょうか?」
佐藤「そうですね。最近はフランス映画、日本にあんまり入ってこないんですが、
   先日、『ムーラン・ルージュ』見まして。やっぱり面白かったですね。パリにもよく行きました

司会「それはいつごろです?」
佐藤「10年くらい前までかな?もう何10回も行きました。バブルのころまではよく行ってましたね。
   ルイヴィトン事件とかありまして」

司会「?」
佐藤「僕が空港でチェックインとかしてると、こっちは手ぶらみたいなもんだから
   女の子がやってきて『このカバンもっていってください』とか言うんですよ。
   一人あたり荷物の持ち込み制限があるから。中にはヴィトンのカバンなんかがいっぱい
   はいってるわけですよ。向こうも必死ですから僕なんかに頼むんです。可愛い女の子
   だったんですが、成田についたら『おじさん、ありがとう』で終わり。
   何にもなくてガッカリでした(笑い)」

司会「それは佐藤允さんと知ってお願いしたんでしょうか?」
佐藤「いやわかってなかったと思いますよ。でもそういう時に麻薬預かったりすることも
   ありますから、今は出来ないですね」


司会「先ほどからお話を伺ってますと俳優の皆さんを『ちゃん』とか『さん』で
   呼ぶでしょう。これが東映だったら『先生』とか『御大』とか途端に堅くなる」
佐藤「そうですね。東宝は親しみをこめてそういう呼び方をする雰囲気がありました」
司会「同じ東宝の中丸忠雄さんは去年俳優を引退なさったそうですね」
佐藤「そうです。少しさびしいですね」
司会「こういうイベントなどには参加いただけるかも知れませんが、
   俳優の方は引退だそうです」
佐藤「中丸くんは奥さんも皆さんもご存知の方で、いろいろと忙しいんだろうなあ」

司会「ここらで皆さんから質問がありましたら・・・・」
女性「共演者の方でうかがいたいんですが、中谷一郎さんてどんな方でした?」
佐藤「うーん、どんな方ってねえ。まじめないい方でしたよ」
司会「中谷さんとは俳優座養成所で同期だったんですよね。
   他の同期の方は佐藤慶さん、仲代達矢さん、あと宇津井健さんという、そうそうたる
   顔ぶれですね。」
女性「『独立愚連隊』などは御殿場で撮影されたとの事ですが、
   将軍廟(『独立愚連隊』に登場する砦)はセットですか?」
佐藤「御殿場にオープンセット組んでやってました。御殿場は天気の
   変わり目が早く、ドピーカンだと思ったら急にガスったりとにかく何かと大変でした」


私、神宮寺誠「『独立愚連隊』とかテレビの『遊撃戦』などで中国語を
        流暢に話してらっしゃいますが、中国語は勉強されたんですか?」
佐藤「いや、セリフとしてそこだけ覚えてました。中国語は難しかったから
   ダメでしたね。そうは言ってもほんの片言は覚えましたから、
   実際に中国へ行った時使ったら通じました」

神宮寺「先月、ここで円谷特集があったんですが、その中で『太平洋の嵐』
     『太平洋の翼』『青島要塞爆撃命令』『ゼロファイター・大空戦』なども
     上映されました。特撮を使った映画ならではのご苦労とか、円谷監督の
      思い出などありましたらお聞かせください」
佐藤「円谷監督はよくドラマ部分を撮影してるセットの方に顔をだされましてね。
    私は見ていて『ああ、円谷監督は本当は映画監督として本編も撮ってみたいんじゃないかなあ』
    という印象をうけましたね」

神宮寺「ありがとうございました」

男性「以前、倍賞千恵子さんに会った時に、いちばん思い出に残ってる映画は
   佐藤さんが共演なさった『皆殺しの霊歌』ですっておしゃってたですが、佐藤さんはいかがですか?」
藤「倍賞さん、そんな風におしゃってましたか。それは嬉しいですねえ。
   加藤泰監督ですよね。一つ思い出があって、ある日雨が降った時、
   倍賞さんが『雨って言うとどんな事連想されます』って聞かれるもんだから
   『そうさなあ、人殺しの血が騒ぐのよ』って言ったんですよ。そういう役だったから。
   そしたら倍賞さん『ひぇ〜〜〜』って恐がっちゃった。しまった余計な事を言ったと
   後悔した事がありました」


司会「そろそろお時間なんですが、岡本監督新作「助太刀屋助六」は主演が真田広之さん
   で佐藤さんはカメオ出演なんですが、我々としては また佐藤さん主演で岡本監督作品を
   見てみたいですね。佐藤さん自身としてはどんな役がやってみたいですか?
   例えばさっき話の出た『戦国野郎』の続きで豊臣秀吉とか?」
佐藤「いや秀吉は、後になってにいろいろ資料読んだら朝鮮出兵とか権力者になってしまったんで
   あんまり興味ないなあ」

司会「となるとどんな役が・・・・・」
佐藤「いや、もう岡本先生が書いてくださった役を全力投球で演じるだけです」
司会「なるほど。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
   『助太刀屋助六』、皆さんも是非ご覧になってください」


以上で終了。最初に書いたように私の記憶のみに頼って書いたため、
発言内容の文責は私にあります。
もし、私の聞き違い、勘違い等ありましたら平にご容赦ください。

お会いするまでは「ガハハハハハハ〜〜」と大声で笑う豪放なイメージだっただけに
(単なる映画の役柄でしかないのだが)実際の佐藤さんは大変物静かな方で、
少し意外な感じでした。

今後のご活躍も期待しております。