戦争と人間 完結篇

監督 山本薩夫
製作 昭和48年(1973年)

(詳しくはキネ旬データベースで)



伍代俊介(北大路欣也)と標耕平(山本圭)は片方は五代財閥の次男、片方は反戦運動家の弟
という両極端な立場でありながら親友同志だった。そして俊介の妹(吉永小百合)は耕平を
愛するようになり、父・由介(滝沢修)に内緒で結婚する。
やがて耕平は警察に捕らえられ、拷問を受ける。その後釈放されたが、それは許された
わけではなく、軍隊に入隊することを意味していた。
一方、俊介は叔父・喬介(芦田伸介)が支社長をしている伍代産業の満州支社で働くようになる。
しかし、経済誌の編集長・田島(鈴木瑞穂)と共に国力の面から戦争拡大反対を唱えたために
軍にらまれ、田島と共に逮捕される。
軍隊に行った耕平、そこでは上官が二等兵を執拗に苛め抜く不条理な世界が待っていた。
銃剣術訓練で抗日中国人の処刑をさせられたが、彼には中国人を刺すことは出来なかった。
やがて耕平は実戦へ。
日本軍は中国人の村を襲い、女子を強姦し、無抵抗な農民を次々に虐殺していった。
耕平は中国人をどうしても殺すことが出来ず、上官から半殺しにされる。
一方、俊介は「伍代だから」という理由で一旦は釈放。
しかし彼も軍隊に入隊。そしてノモンハン事変へ!


「戦争と人間」いよいよ完結。
しかし、第1部製作当初の構想では全四部、東京裁判にいたる昭和史の全貌を描き、総上映時間
15時間の予定だったから、相当の後退を余儀なくされての完結。
しかし、この「完結篇」が正直言って私は一番好きだ。
前にも書いたように前2作は話が中途半端な思いがして非常に消化不良に陥ったが、戦争自体は
まだ終わっていないとはいえ、映画の終了時には見終わった満足感が大いに感じられる。
正直、この完結篇だけ見れば、「戦争と人間」は見たといっても充分ではないか。

要因はやはり、話をスリムにしたことだろう。
前2作では抗日中国人、日本の裏稼業を行う人間、反戦活動家とブルジョワ娘のロマンス、中国人と
日本人の国境に引き裂かれる愛などなど要素を詰め込みすぎてしまったことにある。
1本の映画では詰め込める容量が限られているようだ。
上映時間を延ばせばいいというものではないらしい。
人間の集中力とかが関係するのか、限度というものはあるようだ。
その辺の意気込み余って失敗したのが前2作だと思う。

今回は反戦主義者の耕平と俊介に話を絞ったのは正解。
そのため、前2作では魅力的なキャラクターだった、高畠(高橋幸治)、鴨田(三国連太郎)、白
(山本学)、服部(加藤剛)、瑞芳(栗原小巻)、大塩雷太(辻万長)、梅谷那(和泉雅子)
女スパイ(岸田今日子)らの主に満州伍代に関わっていた人々がばっさり切り落とされた。
残念の気もするが、同じことをすればまた中途半端感が残ってしまったろう。

本作品では現実を見ようとしないで威勢ばかりで戦争に突っ走ろうとする軍部、軍隊内部での過酷な
しごき、そして日本兵による中国人虐殺、そういった日本軍の誤りがこれでもかと繰り返し描かれる。
特に中国人の村を襲い、日本兵が女を強姦しまくるシーンがあるが、こういうシーンを他の日本映画では
見たことがない。
「日本人はかつての戦争では被害者でもあったが、それと同様に加害者でもあった」ということを
描いた重要な作品だ。

耕平は一旦は戦死と報告されるが、実は生きていて抗日中国人と合流するシーンで終わる。
そしてノモンハン事変に参加した俊介は日本軍の敗退を目の当たりにする。
最後に戦場から歩いてかえる俊介の元にサイドカーに乗った将校が通りかかる。
その将校に「貴様は何故戦線を離れた!最後の一兵まで何故戦わない!」と叱責され、
俊介が「では自分の部隊はどこにいますか!」と反論するシーンは戦場における不条理を
描いた秀逸なシーン。
その時、将校のサイドカーを運転して兵が、せめてもの助けに水筒を投げてやる描写が
このカットにしか登場しない兵だが深く印象に残る。

またそれだけでなく、耕平と順子の愛(そのベッドシーンも含めて)、東北の農村から俊介の
紹介で伍代家で女中奉公し、やがては身売りされ満州まで俊介を追ってくる苫(夏純子)の一途な
愛情も捨てがたい。
特にラストで戦場から帰ってきた俊介に対し苫が「兵隊さん、今度遊びにおいでよ!可愛がってやっからさ」
と叫ぶカットは忘れられない。

戦争は終わっていない。したがって本当はドラマも終わっていない。
あの後、耕平はどうなったのか?順子と再び再会できるのだろうか?
苫と俊介の愛は?
俊介の姉・由紀子(浅岡ルリ子)は?
やがてやってくる敗戦に際して英介(高橋悦史)、喬介のとった態度は?
当主・由介は?

彼らの運命については我々は想像するのみだ。
しかし今回はそれが消化不良に終わらず、想像する楽しみを与えてもらったような爽快感が残る。

戦闘シーンはソ連の協力を得て、実に迫力ある本物の映像。
また三部作を貫く佐藤勝の壮大なイメージのテーマ曲は日本映画音楽のベスト3に入るような迫力ある音楽。

日本映画が総力を挙げて作った一大戦争映画の名作。
第四部が作られなかったのは、実に残念だ。