七人の侍


昭和29年公開
監督 黒澤明

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

テレビ放送されてこともあってこの作品を11年ぶりに観た。
最後に見たのが91年の劇場リバイバルだからもう11年も立つんですね。

この映画の思い出を書くと、初めて観たのは黒澤明が「デルス・ウザーラ」で
米国アカデミー外国語映画賞受賞した時に、水曜ロードショーでテレビ放送
された時だと思う。
私はまだ中学生だったが非常に面白かった。
思えばこの作品も僕を邦画好きにさせた作品の一つだろう。

その少し前に「初公開以来の完全版(3時間27分版)の上映」と言う事で
話題になったリバイバルがあり、キネ旬にシナリオが掲載されていた。
(スピルバーグの「ジョーズ」が表紙になった号だったと思う)
そのシナリオは何回も読み込み、おかげで映画は1、2回しか観てない段階で
ストーリーはもちろん、セリフまでほぼ覚えてしまうぐらいになった。

その後、東宝創立50周年記念上映で(今はない)「千代田劇場」でみて
そしてさっき書いた91年のリバイバル上映で見ている。
ってことは私はこの映画を5、6回しか観ていない。
その割にはシナリオを読み込んだり、あちこちでこの映画についての文章を
読んだせいかかなり記憶している。

ストーリーはもう紹介するぐらいよく知られているけど、
一応記しておこう。
「戦国時代、野武士たちの横行にある村の百姓は困り果てていた。
生き残る道はただ一つ。侍を雇って村を自分たちで守る事だ。
村の長老の決断の下、村人の代表が街へ出て侍を探す。
そして勘兵衛(志村喬)ら7人の侍が集められる。
侍たちの指導のもと村では戦の訓練が行われた。
やがて野武士たちとの決戦が始まる」

七人の侍の個性豊かな事!
偉大なリーダーの勘兵衛、その古女房・七郎次(加東大介)、若侍・勝四郎
(木村功)、剣の達人・久蔵(宮口精二)、参謀格の五郎兵衛(稲葉義男)、
剣の腕は中の下だが話していると心が落ち着く男・平八(千秋実)
野生児・菊千代(三船敏郎)。


この映画の魅力の細かい点は、あちこちで書かれているからもう省略するけど、
やはりすごいのは3時間27分の上映時間。
普通3時間を超える映画というと歴史物とかの大河ドラマになるのだが
この映画はそういう内容ではない。
普通だったら2時間ぐらいの映画になりそうだが、黒澤がすごいのは
アクションから階級差の悲恋、人間ドラマまですべて詰め込んでちゃんと
映画が成立しているところという一言に尽きるだろう。

最大の迫力は雨の決戦シーン。
(驚いたことにこの決戦シーン、時間にしたら5分ぐらいしかないのだ!
15分ぐらいあるような気がしたのだが・・・。やはり映像の迫力が
それだけ密度が濃いのだろう)
望遠レンズで侍たちが撮影される。
侍たちの手前にある木の枝とか、はねるドロしぶきが実際以上に
大きく写り、それが迫ってくる感覚が素晴らしい。

とはいってもさすがに2時間半を超えたあたりで少し僕はだれた。
ちょうど久蔵、菊千代、平八と利吉(土屋義男)が山の砦を襲った後。
雨のラストの決戦までの小競り合いのあたりが少し長いのだなあ。
この辺はスパッと省略して欲しかった。
(この映画海外版として2時間44分の短縮版が作られたらしい。
少し上映時間が長いと感じる僕にとってはこの短縮版は観てみたい)


そして今回、今まで印象に残らなかったシーンが逆に印象に残った。
それは明日出発という日に勝四郎に故郷へ帰れと勘兵衛が諭すシーン。
「腕を磨く。戦にでて手柄を立てる。そしていつかは一国一城の主になる。
だがな、そう考えているうちにほれ、このように髪が白くなる。
その時にはな、もう親もなにもない」
もちろんこのセリフがあることは何度も観てるから知っていた。
だが自分も髪が白くなり始めた今、このセリフは胸に迫るものがあった。

10代には10代の、20代には20代の、30代には30代のそれぞれの
「七人の侍」があるらしい。
何年か後、再びこの作品を観る時、何を感じるだろう。

何年経っても見る価値がある、名作の名作たる所以だ。

まだ未見の方はビデオでもDVDでも劇場でもどんな形でもいいから見るべきだ。
極端に言えば、この作品はこの映画はビデオとかDVDとかそんな些細な事で
魅力が変わる作品ではない。

とにかく観てほしい。





余談だが、この映画が製作が開始されたのは昭和25年の警察予備隊
(自衛隊の前身)の発足の頃。
黒澤明は単に娯楽映画を作ろうとしただけだし、そんな思想があった人には
思えないが、「『七人の侍』と自衛隊」というタイトルで一文書けるかも知れない。
そんな気が今回の再観賞だった。
(まあそう感じたのは「宣戦布告」を観た後だからだとは思いますが)