それでもボクはやってない


日時 2007年2月1日20:30〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえん・スクリーン9
監督 周防正行

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金子徹平(加瀬亮)は面接に行く満員電車の中で痴漢と呼ばれてしまう。
駅の事務室に連れて行かれそのまま警察へ。
「やってない」と否認するのだが誰も聞いてくれない。
「認めればすぐに出してやる」と刑事は自白を強要する。
徹平は「やってない」と否認を続ける。
彼の弁護を引き受けたのは元裁判官の荒川正義(役所広司)だった。


すばらしい。
5年、いや10年に一度の映画かも知れない。
ます脚本がいい。
ムリ・ムラ・ムダというものが一切なく、すべて必要なカットばかりだ。
最近の日本映画はCGや役者のルックス(演技ではない、決して)に頼って映画を作ろう
とする傾向を感じるが、この映画は違う。
映画の基本はやはり脚本だ。
裁判で彼はどう裁かれるか?にのみ話が進む。
鈴木蘭々扮する徹平の元彼女が登場するが、この二人の愛の復活、などということは
一切描かず、裁判を追っていく。
何でもかんでも恋愛を結び付けたがる最近の日本映画だが、そんな安易な展開はしない。

扱われる事件も「痴漢冤罪事件」
一見派手さにかけるが、このほうが現実味がある。
今までも「真昼の暗黒」とか「証人の椅子」などのように冤罪事件を扱った映画はあったが、
殺人事件であり、観客の現実感という面ではやや欠けた。
しかし今回は違う。
満員電車で痴漢に間違われることなど、明日あるかも知れない現実なのだ。

そしてそうなった場合、具体的にどうなっていくかを丹念に描いていく。
拘留とは、検事の取調べとは、裁判とは、どのようなものなのか。
詳しく書くとこれから映画をご覧になる方の楽しみをなくしてしまうので多くは書かない。
ただ一つ感じたのは裁判官は「真実を見抜く人」ではなく「一人の公務員」であるという
現実だ。いいとか悪いではなく、そうなってしまうのだ。

私は以前一度だけある刑事事件に関わり、裁判も傍聴したことがある。
そのときに思ったのは刑事事件裁判というものは被害者の恨みを晴らすためではなく、まして
加害者の更生を考える場でもない。
犯罪を犯した人間に刑罰を与えるのはそうしないと国の秩序が乱れるからだ。
刑事裁判は国家の秩序を保つために行われるのだ。
被害者のために行われるのではない。

そんな裁判の実態を描き出した秀作。
TVCMなんかを見るとなにやらコミカルな作品な印象を受けるがそんなことはない。
実にハードな、緊張感に満ち溢れた映画だ。
今年の映画賞はこの「それでもボクはやってない」が独占するのではないか?

主演の加瀬亮が素晴らしい。
完全な主演は初めてか?ルックスで売っているのではない、若手男優としてこれからの日本映画を
代表する俳優になるのではないか。
瀬戸朝香の女性弁護士は「流行の女性キャラか?」と思ったが、この事件では女性弁護士も
必然性がありますね。
また脇では光石研と高橋長英がいい。

当然役所広司がいいのは言うまでもない。
弁護士役は初めて出そうだ。(考えてみたらTV「合言葉は勇気」は弁護士役をやったことのある
役者の役だった)
役所広司が出てくると本当に画面から安心感が伝わってくる。

DVDを買って何度も見たくなるようなカタルシスはこの映画にはない。
しかし映画の力を見せてくれる作品だ。
必見の映画である。