『三人姉妹』を追放されしトゥーゼンバフの物語


日時 2002年4月1日〜4月17日
場所 新国立劇場小劇場-THE PIT
作・演出 岩松了
出演 戸田奈穂、李丹、戸田昌宏、有福正志、朝比奈尚行、塩田貞治、
    高橋珠美子、矢代朝子、岩松了、荻野目慶子


<作品紹介と批評>
2002年の新国立劇場では「シリーズ/チェーホフ・魂の仕事」と題する
チェーホフ関連作品の連続公演を行っている。
その企画の一本としてチェーホフの「三人姉妹」を下敷きにしたオリジナル作品。

自分を「三人姉妹」のトゥーゼンバフだと名乗る男、
チェーホフに多少なりとも影響を受けた、「ガラスの動物園」「欲望という名の電車」の
作者であるテネシー・ウイリアムズとその周辺の人間、
イリーナを演じる女優らが交錯し、テネシー・ウイリアムズの
チェーホフに対するコンプレックスなどを通じてチェーホフ作品への岩松了の
思いを作品化したと言っていいだろう。

しかし、私は前から言うけど舞台は年に2,3本しか見ないし、
ましてチェーホフ作品もウイリアムズもみたり読んだりしたことがない。
各作品よりの引用と思われるせりふや動きも多く、本当にこの作品を
理解したとはいえないと思う。

特に最後に出てきた売り子のイリーナのアパートで落ちていた生爪とか
人体解剖模型とか象徴的な記号が理解できず、わかりにくい作品だった。

黒沢明が小津安二郎の映画に対する気持ちを映画化した作品なら
僕にもそれなりに楽しめたろうがチェーホフ、ウイリアムズとなっては
予備知識がなさすぎた。
一応「三人姉妹」は今読んでいるが今回の公演には間に合わなかったですね。
この辺は作者の責任というより私の知識不足のためで、私にはこの作品について
正当な評価を下す力がないと言って良い。


で肝心の塩田くん。

塩田君はテネシー・ウイリアムズの秘書役(コーチシャ)で登場。
秘書役と聞いて、観る前はてっきり「サイコ」の大杉漣の署長とマナベ巡査のような関係の
コメディリリーフと思っていたら全然違う役。
本人に会ったときそのことを言ったら「今回は大抜擢なんですよ」と照れた表情を
していました。

塩田くんは娼婦イリーナをして「男の格好してる女かと思った」と言わせるほどの
美少年秘書。
そして「テネシー・ウイリアムズ(彼がホモということは有名らしい)の秘書」
と言うよりお気に入りという立場なんですね。

テネシー・ウイリアムズは自分の才能に対しての成功者であるがゆえの不安を持ち、
チェーホフの作風に対して「自分には書けない」というコンプレックスにさいなまれており、
それから抜け出そうとして「三人姉妹」のイリーナ役の女優が自分の次回作に
出演する気になるか試してみたり、塩田くん演じるお気に入りの秘書にさえ、
もっと自分に振り向かせようと嫉妬心をあおるようなことをわざと試したりする。

しかし秘書は逆に「三人姉妹」出演中の女優の娘と結婚しようとし、ウイリアムズか
ら離れるそぶりをしたりする。
ここで「あんたは僕を試しているだけなんだ!」とウイリアムズに迫る
ラストの数分間のウイリアムズとのからみのシーンは、今までの塩田くんではみたこと
ないような迫力があり、この数分間を見るだけでも観劇料金のもとはとった気に
させるほどの名シーン。

俳優・塩田貞治の新しい可能性を予感させる作品となり、これからの彼のキャリアの中
でも重要なポイントとなる作品になったに違いない。

今後の塩田君の活躍がまた楽しみになる。

あと蛇足ながらパンフレットのプロフィールの写真は今まで見せたことのないような
物憂げな表情でいい。
舞台を見た方は是非パンフレットを買って自分の目で塩田くんの新しい表情を
確認していただきたい。


(05/07/23全体位置修正)