半月〜half moon


日時2001年10月3日〜10月8日
場所 麻布DIE PRATZE
作・演出 鯨エマ
出演 安東桂吾、瓜生和成、塩田貞治、末松一仁、冷泉公裕 伊藤結加、萩原利映


<作品紹介と批評>

南国行きの飛行機の座席横一列に乗り合わせた男たち。
彼らは「新婚旅行で失敗しないように下見しよう」という企画のツアーの参加者。
こういう変わったツアーにくるだけあって、どこか変わった男たちだ。

不動産屋〜実はバツイチ〜(安東)、博多ですし屋を経営するドイ(冷泉)、サラリーマンのエバラ(瓜生)、
ホテルで配膳のバイトをする21歳の青年(塩田)、女子校で日本史を教える先生(末松)、
また機中で彼らの接客をするスチュワーデスたち(伊藤、萩原)。
7人の男女の過去の恋愛経験、人生をバックに繰り広げられる道中。
一体どうなるこの旅行?


結局5回見た。
もちろん3回目ぐらいになるとセリフもかなり頭に入ってくるので、次のセリフは
わかってくる。
それでも笑った。面白かった。

個性的な5人男優たちによる掛け合い漫才のようなテンポのいい会話は、見ていて
あきを感じさせない。またふたりのスチュワーデスはの会話も楽しい。

瓜生ふんするエバラにより各人物に執拗な突っ込みがなされ
旅は引っかきまわされていく。
軽妙な会話の中、時々現れる回想シーンが登場人物の性格の厚みを
ましている。
5人の男たちの結婚観、女性観はさまざまだ。

ホテルの少年はちょっとアニメオタクのところがあり、
まだ女性との付き合い方がわからない。
不動産屋は子供の頃、父が早死にし、母はそのことにちっとも悲しみを
感じなかったことから少し母を憎んでいる。
すし屋はボケてしまった祖母を見て
子供や孫を作ったあとの自分に対して不安を感じている。
先生は結婚相手に理想を追い求め、妥協をする事が出来ない。
エバラは子供の頃、好きな子に対して素直になれず、ちょっとストーカーじみた
経験をしたことがある。

この作品のテンポある会話の楽しさは僕の文章では再現できないし、
仮にシナリオを採録したところで、セリフを音で聞かない限り
そのリズムは伝わらないので詳細ははぶかさせていただく。
仮にたとえれば「三谷幸喜の映画(『12人に優しい日本人』、『ラヂオの時間』)
のような感じだった」とだけ、惜しくもこの作品を見ることが出来なかった方たちに
言っておきたい。


少年は海外旅行の楽しさに目覚め、この旅行が終ってから再び旅行に
出ることを決める。
すし屋は家業を継ぐ人として少年に目をつけ、
博多に来ないかと誘う。
不動産屋はネットで知り合った女性と結婚の予定はあるが
とげのあるスチュワーデス(伊藤)にちょっと関心を持たれる。
先生はもう一人のスチュワーデスがかつて結婚紹介所で紹介されたのだが
気の迷いで断ってしまったことのある女性だとわかり、
改めて付き合いが始まる。

ラストシーンは飛行機のジェットエンジンを模したオブジェの丸のなかに入った先生と
スチュワーデスが、まるで満月に抱かれてるように見える中でエンディングを向かえる。


全編、笑いにあふれた結婚に対する期待と不安を表した良質のコメディーだ。


ただ回想シーンで登場した男たちのトラウマがこの旅行によってどう変化したか、
どう解決したのか、あるいは解決しなかったのがはっきりしない。
言い換えると回想シーンによって出てきた彼らの過去が、何か伏線となって
ラストにそれぞれ回答が出てくるのを期待してしまったため、
回想シーンが回想シーンだけで終ってしまったのが不満。

もっともそれは受け手(つまり私)の感じ方の問題かも知れないけど。


出演者の中では(塩田くんの他には)個人的には瓜生和成さんと安東桂吾さんが気に入った。
他の公演も観てみたいと思う。

(話はそれるが、私は常々日本の映画、TV界は俳優の層が薄く、
同じ役者ばかりが出演していると思っていた。でもそれは大きな間違いだった。
今回久々に小劇場公演を見たけど、みんな魅力的な俳優たちだった。
同じような人たちしか出演しないのは映画TVのプロデューサーたちの勉強不足だ)


塩田くんが全編にわたってでていることもあるが、それにしても面白かった。
今年みた映画演劇の中で今のところベストといっていい。
再演の機会があれば是非見てみたい、仮にそのとき塩田くんが出ていなくても。

それだけ面白かった。


<塩田くんの活躍>


で塩田くん。
上で述べたようにホテルで配膳のバイトをするちょっとアニメおたくな
青年を演じる。

初めて塩田くんが登場したのを見たとき、驚いた。
テレビで見るよりずっと色の白い青年だった。
思わず、「どこかお体悪いんですか?」と声を
掛けたくなるくらい。

他の4人の個性的な男優の中、1人だけ若者キャラとして登場。
瓜生扮するエバラに執拗な突っ込みでいじめられたり、
安東ふんするバツイチに「結婚式の残り物食うなよ!!」と怒られたり
責められる事の多いキャラだが、各役者との会話のテンポもよく、
今後の活躍を期待させた。

この作品の好演が是非、次につながる事を祈りたい。
5回観て本当によかった。
それだけの価値はあった。

(05/07/23全体位置修正)