華麗なる一族


監督 山本薩夫
製作 1974年

(詳しい内容はこちらのキネ旬データベースで)


万俵財閥は阪神銀行を中心にして阪神特殊鋼、万俵倉庫、万俵不動産などを
抱え、阪神地方に強力な地盤を持つ。
その万俵家は当主・大介(佐分利信)妻・寧子(月岡夢路)、長男・鉄平(仲代達矢)
その妻・早苗(山本陽子)、次男・銀平(目黒裕樹)、長女・一子(香川京子)
その夫・美馬中(田宮二郎)、次女・次子(酒井和歌子)に加え、表向きは
家庭教師兼執事、実態は大介のお妾の高須相子(京マチ子)で構成されていた。
阪神銀行のオーナー頭取である大介は来る金融再編成に対応するために
他行との合併を模索中であった。
鉄平は阪神特殊鋼の専務で長年の夢であった自社の高炉建設に着手する。
もちろんメインバンクである阪神銀行の後ろ盾があればこその計画だ。
大介は阪神特殊鋼のサブバンクであり、預金高では阪神銀行より上位にある
大同銀行(頭取・三雲祥一〜二谷英明)を合併相手として目をつける。


銀行の合併を中心に万俵家の人間模様が華麗に描かれる山本薩夫の
上映時間3時間30分の大作!
何しろ3時間30分の作品だから登場人物も数多く、ストーリーも書ききれない。
クレジットタイトルも役者の格を考えたらきりが無いのか、登場順で表記。
主なところでは志村喬、小沢栄太郎、神山繁、滝沢修、加藤嘉、西村晃、平田昭彦
北大路欣也、大滝秀治、北林谷栄、大空真弓、高城淳一、中村哲、浜田寅彦、
稲葉義男、高原駿雄、伊東光一、下川辰平、河津清三郎、細川俊夫、金田龍之介、
花沢徳衛、若宮大佑、そして鈴木瑞穂(兼ナレーター)などなど。
よくぞここまで豪華に!と思わせるほど。

もちろん銀行合併に関する政財界の大物の腹探りあいも充分面白いが、それに加えて
当主大介と長男鉄平との出生の秘密をめぐる親子の確執(さながら横溝正史の
世界のようなドロドロの骨肉の争い)もこの一族をめぐるドラマの中核をなす。
他にも妻・寧子と妾・相子静かな対立、次子と一之瀬四々彦との恋愛の行方、
ニヒルな皮肉屋・銀平の生き方、美馬中の野心など見所満点。

同じ山本薩夫の「金環蝕」はこのドラマ部分が少なく、ドキュメンタリー的であったのに
対し、こちらはそれだけでも1本の映画が出来そうなくらいのストーリーを多数詰め込み、
見てる方のお腹がはちきれんばかりの豪華フルコース料理なのだ。
これらの並行して進んでいたドラマがそれぞれの結末を迎えていくエンディングの
見事さは「さすが山本薩夫!」としか言いようが無い。

「兄さんの代わりの僕が死ねばよかった」とつぶやく目黒裕樹、
「あなたもお子様がおありになればよかったのにねえ」と勝利を静かに宣言する
月岡夢路、「いえ、将来政界入りを目指している事には変わりありません」と
決意を表明する田宮二郎、企業のあり方に人間性の重要性を大介に説く二谷英明
などなどは彼らの代表作とも言える名シーンだ。

特に目黒裕樹は後に「ルパン三世・念力珍作戦」でおちゃらけた役をやってたけど、
こういったニヒルな役が本当にうまい。
また二谷英明は日活時代とは完全に決別し、良心的なインテリ像の一つの姿として
この後の「日本沈没」「片翼だけの天使」につながる作品だったのではないか?
そして京マチ子は妖艶な熟女パワー全開で、胸がすけるようなランジェリー姿も
披露しての活躍。
エンディングでこの怪物のような熟女がやり込められて、おろおろする姿は
観ているこちらがニヤニヤしてしまうようなシーンだが、それも前半の
妖艶な怪物のような存在感があればこそ。

そして忘れちゃいけない主役の佐分利信。
この方は70年代、数々の映画、テレビで大物役としてご活躍。
この作品の他には「日本の首領(ドン)三部作」「日本の黒幕(フィクサー)」
「皇帝のいない八月」「砂の器」「地震列島」、テレビでは「白い巨塔」「ザ・商社」。
日本を牛耳るような人物の迫力を備えている。
その始まりがこの「華麗なる一族」だったのではないか。


この映画には日本の政財界のトップクラス、絵に描いたような金持ちが登場する。
もちろん映画の中の彼らの生活が実像に基づいているかは解らない。
彼らのきらびやかな生活は多くの(自分自身の良心をも)犠牲に成り立っている。
そして彼らの行動が日本の経済を動かし、大多数の庶民の生活を左右するのだ。
彼ら銀行家を中心とする日本の支配階級の、普段我々が見ることが
出来ない世界をこの映画は見せてくれる。

金融界は激動の時代の2000年代、この映画は30年前の映画だが
今観てもちっとも古さを感じさせない。
現在でもどこかで政財界の野望の魑魅魍魎が暗躍してるに違いない。
私がこの映画を最初に見たのは中学生の頃だったと思うが、
このような作品を10代に観賞出来たことを本当に幸せに思う。
いい勉強になった。


なお最後に記しておくがこの作品のモデルは神戸銀行と太陽銀行。
そして太陽神戸銀行となり、やがて現実は太陽神戸三井銀行、さくら銀行、
三井住友銀行となっていく。
まさしく映画のエンディングで語られた世界が(時はずれてるようだが)現実と
なっていくのだ。


(蛇足ながら、本当に蛇足ながらだが、映画の後半に起こる阪神特殊鋼での
工場爆発事故のシーン、特撮ファンを納得させるなかなかの迫力。
一言書いておきたい)