マタンゴ


監督 本多猪四郎
特技監督 円谷英二
封切り日 昭和38年8月11日

大企業の御曹司(土屋嘉男)、流行作家(太刀川寛)、ナイトクラブの歌手(水野久美)、
心理学の助教授(久保明)ベテランのヨットマン(小泉博)、ヨットの操舵手(佐原健二)、
彼らの乗るヨットは順調に航海していたが、無理して嵐を避けなかったために
南の無人島に流されてしまう。
海岸には別の難破船が打ち上げられており、彼らはとりあえずそこで暮らし始める。
しかし、この船には一枚の鏡もない。
実はこの島は、食べたらキノコになってしまう「マタンゴ」に支配された島だったのだ!!


普通ならみんなで力を合わせてこの島から脱出する冒険談が繰り広げられるだろう。
ところが違う。

この映画は恐い。
本当に恐い。これを超えるホラー映画を私は知らない。
マタンゴの恐さではない。
恐いのは人間の心だ。
無人島に漂流し、エゴを剥き出しにする人間たち。
食料を奪い合い、自分だけが空腹を満たそうとする。
女性を巡る争い、理性的に協力しようと見せかけて自分だけ助かろうとする者。
そんな自分だけしか考えない恐い人間たち。

マタンゴは単なるキノコではない。
理性をなくし誘惑に負け、自分の欲望にのみ忠実にしたがうようになった人間の姿。
これがマタンゴの真実の姿だ。

オープニングの作り物の毒々しいまでの美しいネオン。
まるでマタンゴの極彩色の美しさに通じる。
ネオンの美しさが人間の欲望を象徴している。
漂流生活での人間たちの醜い争いはとても子供向け映画とは
思えない人間の汚さだ。

そこには「宇宙大戦争」「妖星ゴラス」に見られた人間同士が力を合わせあう姿はない。
人類の理想とは逆の、人間の心の闇を描きだした脚本がよく出来て入る。
これでもかこれでもかと仲間を裏切りエゴに走る人間たち。
「世界大戦争」にも共通する人間に対する絶望が感じられる。

本当に恐いのはマタンゴではない。彼らには罪はない。
恐いのは人間のエゴだ。
この恐さは心に深く残る。
とてもこんな人間の醜い作品、子供に見せられたのもではない。


出演者では佐原健二が右の犬歯がない、野卑な男を演じてるのが印象的。
これが彼の悪役の始まりだったそうな。
個人的には「ウルトラQ」の万条目淳のような2枚目役がすきなのだが・・・・・
また水野久美の濡れた赤い唇でマタンゴを食べるのがなんともいえず官能的だ。
小泉博の艇長も捨てがたい。
天本英世がどこに出てるのかと思ったら、途中出てくるマタンゴに変化した怪人だそうだ。
(これは後で資料を読んで知った)

SF映画、特撮映画のジャンルを超えて世に残る名作だ。
「20世紀の日本映画100選」などに充分残る名作だと思う。
まだまだこの作品(特撮ファン以外では)評価が低い気がしてならない。
もっともっと評価されてもいいと思う。