映画「のんきな姉さん」

日時 2004年1月9日〜2月13日
場所 テアトル新宿ほか
監督 七里圭
出演 梶原阿貴、塩田貞治、三浦友和、佐藤允、大森南朋

現在DVD発売中!

(公式HPへ)

(DVD製作発売会社「トランスフォーマー」の公式HPへ)

<作品紹介&感想>

クリスマスの夜、残業をしているOLの安寿子(ヤスコ)の元に弟の寿司夫(スシオ)から
電話がかかってくる。
彼はこれから死ぬのだという。
そして彼女の元には寿司夫から「のんきな姉さん」という彼が書いた本が
送られていた。
その本は街のショーウインドウに多数飾られている。
安寿子の婚約者もその本を見つけて読む。そして安寿子にいう。
「君に弟がいるなんて知らなかった」
「この本は小説よ。現実じゃないわ」


夢、虚構、創作、幻想、現実すべてが入り混じって描かれていく安寿子と寿司夫
の愛の物語。
一応、残業している誰もいなくなった夜の職場が現実のシーンらしいのだが、
実はそれすらはっきりしない。

時々安寿子に励ましのアドバイスを送る課長(三浦友和)がひょこっと登場する。
今までいないと思っていた場所に突然そこにいたりする。
課長すらも安寿子の作り出した幻想なのか?

寿司夫の子をお腹に宿してしまった安寿子、最後には「もういなくなった」という。
本当に彼女は妊娠していたのか?
寿司夫との一体感を保つための彼女の想像だったとは考えられないのだろか?
この映画のすべての内容が実は「のんきな姉さん」という本の中の物語なのか?

寿司夫が小説を書くような伏線は映画の中では出てこない。
「のんきな姉さん」という小説でさえ、実は存在しないのではないだろうか?

現実なのか、幻想なのかすべてが判然としない不思議な空間の物語だ。
最近見たことなかったようなタイプの映画。
2、3回見れば自分なりの解釈を持てそうな・・・・
とに角何度か観て数々の疑問を解いてみたい衝動に駆られる作品だ。


出演者で特筆すべきはやっぱり弟・寿司夫役の塩田貞治くん。
雪の中で寝そべりながら「僕、これから死ぬんだ」と携帯電話の向こうの
姉に向かって話すトップシーンから見るものの興味をひきつけてやまない。
この姉弟に何があったのか?
何も知らない無邪気なこどものような笑顔をしながら狂気にも
似た愛に走る塩田の姿はゾクっとするような色気と魅力がある。

特に安寿子の妊娠を知るシーンの戸惑った動揺の表情、また最初に安寿子の婚約者に
出会った時の、婚約者を無視し安寿子に「遊ぼうよ〜」と甘えた声を出す態度なが
特に印象深い。

「卓球温泉」やTV「サイコ」で見せた三枚目的な役柄とは違った味、
舞台「三人姉妹を追放されしトゥーゼンバフの物語」で劇作家の
テネシー・ウイリアムズと同性愛関係の秘書を演じたが、今回も
それに近い禁断の愛。
普段の笑顔が憎めない分、一転して狂気に走る姿の迫力は彼の
魅力の一つと言っていい。

また本作では絵画教室でヌードモデルをし、全裸シーンにも挑戦。

彼の代表作として記憶に値する作品であることは間違いない。
この作品が多くの人の目に触れることにより、塩田が活動の幅を
広がる事を願ってやまない。

七里圭の演出はカットを切らず、長回しが中心。
しかしそれもシーンによってはよいが(佐藤允が猟銃を持って
オフィスに現われるところなど)、場面によってはカットの変化が無く
やや冗長な感じがする時があるのが惜しい。


(05年6月5日更新)