2008年3月

L change the world クロサギ チーム・バチスタの栄光
明日への遺言 バンテージ・ポイント 母べえ 実録・連合赤軍
あさま山荘への道程(みち)
蠅男の逆襲 蠅男の恐怖 幽霊VS宇宙人 陰日向に咲く

L change the world


日時 2008年3月30日11:00〜
場所 新宿ジョイシネマ3
監督 中田秀夫

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2006年の「デスノート」に登場した探偵役のキャラクター、「L」を主人公にした
番外編。
「デスノート」事件を解決した後、Lが死ぬまで20日ぐらいある設定だが、その間に
Lが解決した事件がお話。

予備知識ナシで見たのだが、殺人事件などを犯人との頭脳戦で解決するのかと思ったら
今度はバイオテロを企むテロ組織との対決。
妙にアメリカ映画っぽい設定。
昔は「日本もアメリカ映画みたいなスケールのでかいアクション映画が出来ないかなあ」
と思っていたのだが、いざこうして作って見るとなんだか面白くない。

多分に話のスケールの割には画がせこいのだろう。
全体的に室内シーンが多いし、途中車によるおっかけもあるのだが中途半端でしかない。
大群衆が逃げ惑うとか、大きな画がないのだな。
でラストも飛行機が飛び立つ前に細菌兵器をばら撒いて病気が発生するのだが、
あれは飛行機が飛び立ってからの方が画的には迫力あるのだな。
(「007シリーズ」とかだったら絶対にそこまでするんだが)

その辺で大きく風呂敷を広げた割には話の広がりが少なく全体としてバランスの悪い映画だった。
それに最後にLが現場にでて大活躍となるのだが、僕の中でのLのイメージは「安楽椅子探偵」
なので、滑走している飛行機に飛び乗るとか似合わないのだよ。
そういうのは別のキャラクターにしてLはずっと座っている方がよかったのでは?
アクション担当の新キャラを登場させたほうがいいんじゃないかな。
そのほうが最後にLと新キャラとの別れがあって効いてきたと思う。
今回、南原清隆が多少そんな感じのだが、どうもうそ臭い(FBIの偽者っぽい)キャラクター
なので、全く役目を果たしていない。

(また細かい突っ込みだが、最後に平泉成の細菌学者が抗ウイルス薬を作るのだが、それを見せる
カットではまだ1本しか出来てないような感じだったのに、Lが飛行機に乗る時には乗客
全員分を持っていた。ちょっと説明不足な感じがした)


役者では顔に傷を負ったテロ組織の首謀を高嶋政伸が好演。
珍しい悪役キャラでなかなか迫力があった。

「デスノート」のブームに乗っかっての登場だったが、デスノートが終了して1年以上経っての
公開ではややブームに乗り遅れた感じがする。
「デスノート」の面白さはLだけでなく、鹿賀丈史など支えるキャラクターがあってこそ。
やはりL一人で全部のパートを受け持つのは無理があったと言わざるを得ない。

期待したが、殺人事件での犯人との頭脳戦ならともかく話のスケールを大きくした分、
反って失敗した気がする。



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クロサギ


日時 2008年3月27日19:55〜
場所 新宿バルト9・スクリーン1
監督 石井康晴

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NEWSの山下智久主演映画。
2006年テレビシリーズで放送され、その映画版。
でも映画になるほど視聴率高かったかなあ?
ともあれ、売りは「山下智久主演!」である。

テレビシリーズは見ていたが、実は面白くない。
詐欺師(シロサギ)をだます詐欺師(クロサギ)、名前は黒崎(山下智久)の
話なのだがテレビ時代も「そんな簡単にはだまされんだろう」と思ってしまうくらい
そこが浅かった。

映画版になって話がうまくなっているかと思ったら、その辺の欠点はそのまんま。
今回の敵は竹中直人の倒産詐欺師なのだが、最初黒崎は電子マネーの
カードを渡し、これをうまく使えばマネーロンダリングが出来る、と
持ちかける。
で竹中直人が使わず、部下の方が使ってそれは実はヤクザの金だったから
だまされた部下はヤクザに殺される、という流れ。
ここで黒崎は自分の詐欺で人が死んだと悩む。

黒崎のヒューマニズムをいいたいんだろうが、それで悩むのはちょっと甘すぎる。
自分が英雄だと思い込みすぎてるよ。
でその後、詐欺師の黒幕で黒崎へのネタ元の桂木(山崎努)が実は自分の家族が
死んだ事件の元になっていると知っているからだらだらと黒崎が悩むシーンが
続く。
ここが長い。

こちらは騙しあいの面白さを期待しているので、この辺の悩むシーンはうるさい
だけなのだよ。

まずはじめにIT企業の若きやり手、として1回会っているのに、今度は違う人物、
OA機器の営業マンとして会うのはいかがなものか。
映画の中でも「あなたは一度会っているから無理」と言われたり、堀北真希に
変装が見破られるか、をテストしたのにちゃんとばれている。
にも関わらず竹中が全く気づかないのは竹中がバカ。
実は気づいているのに気づいていないフリをしている、というならわかるけど
そういう伏線もないしなあ。

でラスト竹中直人をはめるのだが、警察の手によって黒崎はエレベーターに
閉じ込められる。
エレベーターの脱出のあたりがアクション映画っぽくて「ミッションインポシブル」
みたいな派手な展開になるかと思ったら、単にエレベーターから脱出するだけ。
がっかり。

さらにがっかりなのは竹中直人をはめるのが以前竹中直人からもらっていた手形を
偽造して、それを五億円分ヤクザに持ち込んで取り立てさせる、というもの。
あまりに単純すぎてがっかりする。

あまり言いたくないのだが、山下智久ははっきり言って演技ヘタ。
ジャニーズの中でもヘタなほうに入る。
顔の表情が乏しいので、微妙な表情、と言うのがないのだな。
山崎努は相変わらずの迫力。
彼がいるからなんとかなっている。
あとは堀北真希とか市川由衣などの女性キャラは今回は出番が少ないので、見ていて
うっとうしくないのでそこが(まあ)よかった。

山下智久、役者としてはまだまだ。
もっともこの映画のつまらなさの原因はそもそも原作にあるのかも知れないけど。



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チーム・バチスタの栄光


日時 2008年3月20日20:00〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえん・スクリーン9
監督 佐藤義洋

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成功率60%といわれる心臓のバチスタ手術をほぼ100%の確率で行ってきた
東城病院第一外科の心臓手術チーム。
だが3件続いて失敗した。
しかし手術中に特に他の手術と違ったことがあったわけでない。
事態の解明を感じた執刀医の桐生(吉川晃司)は病院長(国村準)を通じて
心療内科医の田口(竹内結子)に真相の究明を依頼した。
しかし田口の調査では何も不審な点はなく、失敗の原因もわからない。
そんな時、厚生労働省の技官、白鳥(阿部寛)がやって来て事の真相の究明に
乗り出す。
果たして真相は?

あまり評判はよくないのだが、私は充分楽しくみた。
キャストが竹内結子、阿部寛、田口浩正、田中直樹などなんだか最近のテレビドラマ
の常連俳優が多くてテレビっぽいのだが(製作がTBSなので仕方なし、か)前半の
お人よしそうな竹内結子の聞き取り調査、そして関係者を動物に例えるレポート
はユーモラス。

そして後半(1時間経ってから探偵役の阿部寛は登場する)の阿部寛のサディステックな
までの聞き取り調査。
やがて意外な犯人がわかり、事件は解決する。

事件のトリックは医学ネタなので、医学知識を持たない素人には到底推理できるはずもなく
見てるこちらは「ああそうだったんですか」というしかないのだが、それはいたし方
あるまい。
犯人のラストに見せる真の姿や動機に狂気を感じ、怖かった。

2時間スペシャルドラマのような軽さは否めないが、見ている間は充分楽しかった。
そういう映画です。

(それにしても画が汚い。陰影のないべたっとしたライティング、なんとかならんのか。
本日「明日への遺言」「母べえ」と2本、画のしっかりした映画を見たので余計にそう感じる。
日本映画の今後が心配ですよ、これでは)



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明日への遺言


日時 2008年3月20日17:15〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえん・スクリーン6
監督 小泉尭史

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戦後、BC級戦犯として各地で捕虜虐待、捕虜殺害についての戦争犯罪裁判が開かれた。
この映画もその一つ、名古屋で起きた空襲に来て墜落したB29の乗組員殺害についての裁判。
現地東海軍司令官だった岡田中将(藤田まこと)の裁判を描く。

裁判において自分の責任を堂々と主張した岡田中将を描く、というので「アジア太平洋戦争」
日本無罪論的な映画になっていやしないかと心配だったが、どうもそういう意図はなかった
ようだ。
今の世の中、企業や政治家のトップが責任を取らない姿に照らし合わせて「岡田中将、えらい!」
ということが描きたいらしい。
またアメリカのいいなりになるのではなく、堂々と自分の意見を主張した、というのも
えらい!と言いたいらしい。

「墜落したB29の乗組員は正当な捕虜なのだから殺害は国際法違反」と
検察側は主張する。
で弁護士は「そもそも空襲による無差別爆撃こそが国際法違反ではないか」と反論する。
こういう自国に不利な主張をするアメリカ人弁護士もえらい。
そしてその主張を「ここはアメリカ軍を裁く場所でない」といいつつもその主張を
やめさせなかった裁判官、検察もえらい。
「アメリカは懐が深い」と実は作者たちの主張とは関係ないところで感心してしまった。

なぜって未だに日本では「南京大虐殺はなかった」だの「従軍慰安婦は自分の意思だった」
とか自分たちにとって都合の悪いことは見ないようにして、なんとか自分の正当性ばかり
を主張したがる政治家などが多い。
それに比べれば自国にとって耳の痛い話もちゃんと聞いたこの裁判に関わったアメリカ人は
立派だと思うよ。

だから僕にとっては藤田まことや冨士純子の好演より、アメリカ人弁護士や検察官が
ちゃんとした俳優を使って演じられていたのでその点が映画に厚みを持たせた。
昔の日本映画のように、本職は俳優ではないような人を使うとここまでちゃんとしなかった
と思う。

また陰影のある画は美しく、見ていてホッする。
この後「チーム・バチスタの栄光」を見るのだが、画が汚くて見てられなかったものなあ。



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バンテージ・ポイント


日時 2008年3月20日15:00〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえん・スクリーン6
監督 ピート・トラビス

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スペインを外遊中のアメリカ大統領。広場で演説中に何者かに狙撃された!
その現場にいたニュースキャスター、大統領のSP、演説を見ていたアメリカ人観光客、
彼が見たその場の人々。
それぞれの視点(バンテージポイント)で狙撃の瞬間が繰り返し語られる。
彼らそれぞれの体験はばらばらでしかないのだが、やがてその事実がつなぎあったとき、
意外な事実が明らかになる。


大統領狙撃事件が8人の視点で事件が描かれていく、という話を聞いてまず思い出したのは
コスタ・ガブラスの「Z」。
しかし映画にはそういった政治的メッセージはなく、ひたすらエピソードがパズルの
ように組み合わさっていき、最後にぴたりと完結する見事なまでの話のうまさ。
政治フィクションを期待した分、外された格好になったがそれでも充分楽しめた。

登場人物一人一人が主人公になり、彼らの視点で話が進む。
当然全体を見るこちらとしては細切れに話が進み、全体像が見えてこない。
例えばソフトクリームをこぼした女の子がなぜ、一旦引っ込んでまた高架下の道路で
登場するのか見ている途中ではわからないのだが、ラストまでみるとぴたりとはまる。
お見事!

こういった脚本が緻密な映画はアメリカには本当に多い。
日本ではやっぱりまだまだ脚本に時間と金をかける考え方がないのか(あるいは出来ないのか)
こういった緻密な話は少ない。
小説の分野ではあるのだが、やはり金にならないから脚本家ではなく小説家になるのか?
そのほうが個人での作業で映画のようにシナリオを他人にいじられたりしないからな。

あとパンフレットに複数視点の映画の系列、みたいな感じで黒澤の「羅生門」を引き合いに
出していたが、そうなんでもかんでも「羅生門」を引き合いに出すのはどうかと思う。
いい加減に黒澤神話から脱却しようよ。



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母べえ


日時 2008年3月20日12:00〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえんスクリーン2
監督 山田洋次

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野上家の父、滋はドイツ文学者だったが治安維持法により危険思想の持ち主とされ
逮捕された。
野上の教え子の山崎(浅野忠信)の助けを受けながら、母べえ(吉永小百合)は
娘二人を懸命に育てていくのだった。

山田洋次が藤沢周平の時代劇を離れ、戦時下における夫が捕らえられた一家を描く。
もう娯楽色一切(と言っていいほど)なし。
別に難解な映画ではないが、勧善懲悪のカタルシスも鳴ければ笑いもほとんどなし。
ひたすらに大真面目にこの家族を描き続ける。
主演が吉永小百合でなければ売り方(宣伝の仕方)に困るような映画だ。

しかしつまらないわけではない。
美術セットのすばらしさ。
手を抜いたようなところが全くない。
いまどきこういう映画が取れるのは、いまや日本の現役監督で長老格となった
山田洋次だからこそ。

原作は野上照代。野上照代といえば黒澤明映画のスクリプターとして活躍し
後にプロデューサーとしても活躍するあの野上照代。
ラストに娘二人が大人になって現代(平成20年ではなく昭和60年ぐらい)に登場するのだが
姉は医者になっていて(倍賞三恵子が演じる)妹の照代(戸田恵子)は中学校の美術教師に
なっている。
ラストは映画撮影のシーンが出るかと思ったら、そういう楽屋落ちはなし。

母べえが亡くなるラスト、娘たちが獄中で死んだ夫にもうすぐ会えるね、と声を
かけるが「死んでいる父べえになんか会いたくない。生きている父べえに会いたい」という
セリフには迫るものがある。
魂のこもった一言だ。

戦争の時代を山田洋次なりの視点で描いた一編。



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実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)


日時 2008年3月19日19:10〜
場所 テアトル新宿
監督 若松孝二

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60年安保闘争の敗北から左翼学生の連合赤軍結成、彼らの軍事訓練、
「総括」「自己批判」という名のリンチ、そして逮捕、一部のメンバーによる
「あさま山荘事件」までを3時間10分で堂々と描き切る!

連合赤軍関連の映画はこれまでに何本かあったが、これはもう長さといい、
密度といい、決定版でしょう。
実際にメンバーとも交流のあった若松孝二が渾身の力を込めて描いている。

こちらがその気になっているのもあるのだが、画面は緊張感にあふれ、3時間を
長いと思わせない(とは実は言わないが)それにしてもまだ描き足りない
はしょったような印象を感じてしまう。
これ以上知りたければ、1470円もするパンフレットという名の解説本(もちろん買った、
A4サイズで厚さ2cmぐらいあって写真は少なく字がびっしりという内容の濃さだ。
まだ読みきっていない)を手始めに本を読んでいくしかない。

彼らが地下に潜ったときの描いた映画に「光の雨」がある。
この映画を見たときに私は初めて彼らの「自己批判」「総括」という名のリンチを知った。
そして今その映画の見たときの感想を読み直すと嫌悪感をいだき、「あんな奴らに革命
など出来るはずがない」と言い切っている。

その辺の事情は知っているから今回の映画を見たときはそれほどの衝撃は受けなかった。
しかしこの映画を見ると若松孝二の視点は彼らに対する視点は暖かい。
そこまでは行かなくても「悪者」として描ききっていないような気がした。
では若松はこの映画に登場した「革命を失敗した若者」をどのように考えているのか?

その答えは最後になってあさま山荘に閉じこもったメンバーの最年少の少年によって
口にされる。

「みんな勇気がなかったんだ!」

勇気がなかったからこそ、「総括」「自己批判」を強要するリーダーに対して
彼らの言葉を借りるなら「異議」がとなえられなかった。
いやそれだけではない。
勇気がなかったからこそ本当の敵と立ち向かわず、仲間内でこもってしまい、追い詰められた
彼らは精神論に走り「更なる精神の共産化」を求め「総括」「自己批判」を繰り返してしまった。
(人間負けが込んだり、追い詰められると仲間の批判に走ってしまうものだ。これは数々の
映画、事件、いやいや実体験でも感じることがある)

原田芳雄のナレーションが妙暖かく、彼らを養護しながら語っていく効果を出しているように思う。
また発色を抑えたカラーが美しい。


赤軍のメンバーは一般市民を傷つける方向に走り、「戦争や不平等のない社会を建設する」という
理想からどんどん外れてしまった。
しかし、出発点は正しかった。
彼らを見つめる若松孝二の視点は優しく、そして暖かい。
若松孝二なりの「あの時代」を総括した映画がこの「実録・連合赤軍」だ。

見るべき映画だ。



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蠅男の逆襲


日時 2008年3月18日
場所 DVD
監督 エドワード・L・バーンズ
製作 1959年(昭和34年)



前作から数年後(?)。
アンドレの妻は逮捕こそされなかったものの、精神的ショックも大きく、早死にした。
その葬式の場面から映画は始まる。
前作ではまだまだ8歳ぐらいだったアンドレの息子は何故かもう成人している。
で、父の研究していた物質電送機の研究を再開したいという。
伯父は最初反対したが、アンドレの息子は会社の友人を助手に引き込み、独自で
研究をはじめ、伯父もやがてはそれを認めざるを得なくなる。
ところが研究を手伝っていた友人が実は前科何犯で死刑確定というワル。
物質電送機の研究を見逃すはずがない。
研究資料を持ち出そうとしたところを見つかってしまい、アンドレの息子を
蠅と共に物質電送機にぶち込み、再び蠅男が誕生してしまった!!!


いきなり息子が成人している!というあたりの突っ込みを除けば前作を踏襲している。
前作で登場した実験室も出てくるし、伯父役が同じ役者だ。
映画は蠅男が登場してから、蠅男は実験室から逃げ出し自分を裏切った男を探す。
まずその「ワル」に協力していた男(何故か職業が葬儀屋だ)を殺す。
このときドアの影から突然現れるのだが、ここが一番驚いた。
で、そのワルも蠅男は殺す。
そして実験室の方では前作と違い、人間蠅は簡単に見つかり捕獲される。
ラストは二つを電送機に入れて再生が出来てメデタシメデタシ。

前作と違ってアクション調の映画。
しかしあんまり面白くない。
これが蠅男が街をさまよい町中がパニックになるようなシーンがあれば
また違った面白さもあったのだが、田舎道を走ったりするだけで極力人と出くわさない。

前半の方でモルモットの電送実験をしたときに、再生の倍率が違った、という理由で
モルモットが3倍ぐらいの大きさになってしまう間違いがあった。
これが伏線になって蠅男も巨大化して怪獣になって街を襲えばまた違う面白さも
あったのだろうが、アメリカ映画ではあんまり怪獣は登場しない。

あと、面白かったのは電送実験を行った時、原子化だけをまず行って再生を遅らせる
実験をする。
そして「ワル」が資料を盗み出そうとしたときに刑事がやってきて逮捕しようとするが
刑事はやられてしまう。それでその刑事を隠すために「ワル」は電送機に入れるが
再生したときに手足がモルモットの人間が出来る。そして手足が人間のモルモットも
出来てしまう。

そういうゲテモノ映画になってしまってそれはそれでもちろん面白いが、前作にはあった
「人間の科学の発展を皮肉る文明批判」が全くない。
その点がやはり格が落ちる。

あとは蠅男が歩くとき、片足が蠅なのでギリギリと引きずるような音がするのですね。
それと蠅が飛ぶときの「ぶ〜〜〜ん」という羽音が妙に観客をいらつかせて効果的でした。



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蠅男の恐怖


日時 2008年3月16日
場所 DVD
監督 カート・ニューマン
製作 1958年(昭和33年)



大手電機メーカーの工場で深夜に大型プレス機を女性が動かし一人の男が圧死した。
彼女はこの会社の社長の弟で発明家であるアンドレの妻。
死んだのはそのアンドレで、妻は自分がプレス機を操作して夫を殺したと言う。
夫婦仲のよかった二人。何か事情があるに違いない。
精神異常も考えられ、自宅療養を続ける妻だが、蠅が部屋に入ってくると異常な
関心を示した。
しかもアンドレの息子は母親から事件の起こる前に「頭の白い蠅」を捕まえるように言われた
というのだ。
一体何があったのか?

ずーと以前からちゃんと見たかった古典SF。
以前、何年前だが(多分まだ高校生ぐらいかも知れない)深夜のテレビ放送で
途中から見たのだが、全編を見たかった映画。

思ったよりテンポの遅い映画だったが、妻の告白により、物質電送機を発明した
夫アンドレが、徐々に実験を繰り返す過程が面白い。
まず猫の電送を試みてこれが失敗して、中空から「にゃ〜」と猫の鳴き声が聞こえるあたりが
不気味。

そしていつまで経っても実験室から出てこない夫を心配して実験室の前に行くと
ドアの下から手紙が。
「ミルクを持ってきてくれ」
妻はミルクを持って戻り部屋に入れてもらう。
しかしそこにいるのは夫だが、左腕や顔をコートで隠して見せようとしないし、
言葉を発しない。
「頭の白い蠅を見つけて欲しい」

妻は子供も手伝わせて頭の白い蠅を見つけ捕まえようとするが逃げられる。
このあたりのじりじりするサスペンスがたまらないですね。

ついにこうなった事情を説明する夫。彼は生き物の電送にも成功し、自らが電送実験したのだが
そのときに電送機に蠅が入り込んでしまい、頭と左腕が蠅と入れ替わってしまったのだ!

それを知った妻が顔を見せてとせがむ。
被っていたコートをはがすとそこには蠅の顔をした夫。
叫ぶ妻。(このあたりの美女が叫ぶ、シチュエーションはこの手の映画の王道だ)
そして夫の視点になり、フィルターをかけてまるでハエの目で見たように画面いっぱいに
たくさんの妻が出るカットは短いとはいえ、衝撃的なカット。
(先に書いた深夜放送にみた時の記憶でもこのカットは憶えていた)

結局妻の話は信憑性がないということで逮捕される。
しかしその連行されるときに子供が例の頭が白い蠅を見つける。
蜘蛛の巣につかまって蜘蛛に食べられるところだ!
ごく小さい人間の顔をしたハエが「HELP ME!」と叫びながら蜘蛛が近づいていくカットも
衝撃的。
(もちろんこのカットも憶えていた)

テンポが思ったより遅い映画だったが、やたらショッキングな映像を繰り返さない分、
じわりじわりとしたSFスリラーとして傑作。
好きな映画だ。

(関係ないが物質電送機のセットなど、円谷の同時代作品、「電送人間」や「美女と液体人間」
「ガス人間第1号」などに登場するメカになんとなく似ている。影響はあったのだろう)



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幽霊VS宇宙人


日時 2008年3月15日21:20〜
場所 シネセゾン渋谷
監督 清水崇、豊島圭介

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ホラー映画の旗手、清水崇と豊島圭介が「幽霊VS宇宙人」というお題で作った2本の中篇
(約1時間)をつないだオムニバス。
最初と途中と最後にお笑い芸人のハリセンボンが画面に出てきて面白くもないことを話す。

最初は清水崇監督の「ロックハンター伊右衛もん」で次が豊島圭介の「略奪愛」。
「ロックハンター〜」は有名な四谷怪談を現代風にアレンジする。
元ヤクザ竜二は結婚して岩子の父親の会社に就職するが、真面目に働くことが出来ない。
小言を言った岩子の父親を殺してしまう。そんな時、岩子の父の会社は買収騒動に
あっていたが、その買収先の会社の社長の娘に惚れられて財産目当てに結婚の約束を
する竜二。それで終いには実は竜二は宇宙人で岩子は幽霊で、殺された岩子の父親が幽霊で
出てきて、会社買収に絡んでいた男が別の宇宙人で、という話。

「略奪愛」は高橋和也扮する以前は売れていた作曲家がセクシーな宇宙人の女と知り合うが、
実は彼女はキスするときに人間の精気を吸い取ってしまうのだった。高橋和也には看護婦の
付き合っている女がいて、その彼女は恐山のイタコの血を引く女で、宇宙人と幽霊とで
高橋和也をめぐって争う、という話。

映画自体はビデオ撮りでスクリーンに拡大して映写すると画が汚くてとても鑑賞に
絶えられるものではない。
なんで監督や製作者はそのことに気付かないのだろう?

内容なんだが、まあ前半のほうが話しに展開があってテンポがある分、面白かったかな。
でも見る価値がない作品であることにはどっこいどっこいなんだが。
オールロケだが両作品とも中野駅周辺でロケしていてその辺が余計に学生の自主映画っぽい。

どうしてこういう映画が作られるのだろう?
面白くもない低予算の映画が。
監督の自己満足以外の何物でもなく、少なくとも他人に見せようというサービス精神が感じられない。
作っている監督だけが楽しい映画だ。
昔なら番組を埋めるために面白くもない映画が作られることがあったが、この映画はレイトショー公開
だし、取り立てて番組を埋めるため、という理由があって作られるわけではあるまい。
見せられるこちらいい迷惑だ。
こういう映画は「面白くもないがヒットする映画」より害悪だ。
「ヒットする映画」は何のかんの言っても存在する価値はあるというものだ。

で何で見に行ったかというとこの日は映画終了後に主演の高橋和也の主題歌熱唱のミニライブの
イベント付きだから。

実はちょっと今、たくらんでいることがあって、「宣伝の乏しい映画で、高橋和也が渋谷でレイトショー上映後に
歌を歌うイベントを行ったら何人ぐらい来るか?」が知りたかったのだ。

観客はキャパシティ200ちょいの会場の半分くらい。
(つまり100人ぐらいか)
でもロビーでお客さん同士が「お久しぶりです」などと挨拶し合っている姿をあちこちで見たから、
ある種関係者か、関係者の知り合いが数多く見に来ているのだろう。

で高橋和也の熱唱に声援を送る「男闘呼組」時代からのファンと思われる女性は10人ぐらいと見た。

なるほど、これが高橋和也の現在の動員力か。
了解。



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陰日向に咲く


日時 2008年3月2日14:00〜
場所 シネマート新宿1
監督 平川雄一郎

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観光バスの運転手、シンヤ(岡田准一)はギャンブル好きでサラ金から多額の借金を
背負っていた。
そんな中、寿子(宮崎あおい)と知り合う。彼女の母親は結婚前に浅草で雷太(伊藤淳史)という
芸人と漫才コンビを組んでいたらしいのだが、その雷太を探したいのだという。
新宿西口ではエリートサラリーマン(三浦友和)が浮浪者のモーゼ(西田敏行)にあこがれて
浮浪者になる。
秋葉原では売れない25歳のアイドルみゃーこの応援をしているアイドルオタクのゆうすけ
(塚本高史)がいた。
一見無関係な彼ら。
しかし彼らのエピソードはやがてつながっていく。


岡田准一の主演作。というか群像劇なので、主演ともいえない。
ネタバレを書いちゃうけど、実は三浦友和が岡田の父親で、西田敏行が雷太だった、という展開。
彼らがやがてつながっていくストーリー展開は(途中で予想は出来るものの)面白い。

シンヤは途中、闇金からの借金を返すために、オレオレ詐欺をはじめる。
公衆電話から適当に電話をしてつながったお年寄りの子供のフリをして交通事故の示談金という
名目で50万円せしめようとする。しかし元来根が優しいシンヤはそのだますはずのおばあさんに
同情してしまう、という展開。
このおばあさんが西田敏行が芸人時代に憧れていたストリッパーであり、それが原因で
宮崎あおいの母親とコンビ解消してしまうのだが、金をせしめる前に亡くなってしまった
そのおばあさんをシンヤがたずねると、そこに西田敏行がいる。

今まで無関係だった西田敏行と岡田准一がここでつながるのだが、そもそも岡田准一が
オレオレ詐欺をそのおばあさんに仕掛けるきっかけとなった電話が、西田敏行が公衆電話から
電話をかけた後にリダイヤルしたことがきっかけだったわけだから、その伏線はうまい。

で、結局塚本高史たちと岡田准一たちが最後で結びつくのかと思ったらそれはなかった。
ここが残念。どうせなら全員つながって欲しかったなあ。

あと、アイドルみゃーこが引き受けたテレビ番組の情けないキャラクターを番組HPの掲示板に
応援メッセージを名前を変えて書きこんでブームを作る設定があるが、番組HPの掲示板は
無条件に掲載されるわけでないし、連続投稿はいまは普通の掲示板でも出来ないですよ。

どうでもいいことですが、ちょっと気になりました。

岡田准一、今回見ていると妙に体が筋肉質でマッチョになっていて、なんだか体と顔のアンバランス
を感じた。
鍛えすぎは反って似合わない場合もあると思うのですが。



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