2008年4月

裸の大将 鏡の中の野心 南京の真実 第一部
「七人の『死刑囚』」
黒帯 KURO-OBI
フィクサー 僕たちと駐在さんの700日戦争 パラノイドパーク ハッピーストリート裏
猫と鰹節
ある詐話師の物語
あすなろ物語 狙撃 クローバーフィールド
HAKAISHA

裸の大将


日時 2008年4月27日
場所 録画DVD(衛星劇場)
監督 堀川弘通
製作 昭和33年(1958年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


太平洋戦争中の日本。
知恵遅れの山下清少年は施設に入っていたが、窮屈な生活がいやになり放浪生活に。
「両親は死んだ」とウソを言って農家で食べ物を貰いながら生きていたが、やがて
駅前の弁当屋で働くことに。
しかし「死ぬのはいやだからな」というわけで徴兵を逃れるため、弁当屋を逃げ出して
食堂で働くことに。
やがて戦争は終り、清の絵も有名になる。
しかし放浪癖は直らず、彼はまた旅の生活にもどる。


小林桂樹、堀川弘通の代表作「裸の大将」
なるほど評判にたがわぬ面白さだ。
毎日映画コンクール主演男優賞受賞だそうだが、それも納得。
小林桂樹のユーモラスな味わいが全編で堪能できる。

しかし驚いたのは「山下清を描いた映画」というよりは「山下清を通して戦中戦後の日本」を
描いた映画であったことだ。
清は徴兵検査がいやで放浪する。
「兵隊になったら敵の弾に当って死んでしまうのがいやだから」という。
映画中、出征兵士を見送る人々に「死ぬのはいやじゃないのかな?」「死んだら靖国神社で
神様になるんだよ!」「普通に死んだら仏様で戦争で死ぬと神様になるのはどうしてかな?」

そして戦後、戦争中に威張りくさっていた司令官は闇屋になり、その部下だった男は愚連隊で
闇市を仕切っている。

そしてラスト。
自衛隊が組織されその行進を見送る清。
「日本は戦争しないんじゃないかな?」
「戦争をしないのにどうして鉄砲が必要なのかな?」
「軍隊と自衛隊はどう違うのかな?」
こういう質問を人々に投げかけるが、「うるさい!」といわれるばかりで答えてもらえない。
秀逸なラストだ。

出演は他には有島一郎や加東大介、柳家金語楼、東野英治郎などなどオールスター。
最後にクレイジーキャッツがゲストでワンシーン出演。
オープニングのクレジットが出るまで知らなかったので随分得した気分になった。

もう一度みたい面白さだ。



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鏡の中の野心


日時 2008年4月26日16:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 小林悟
製作 昭和47年(1972年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


詐欺師の瀬木山(荒木一郎)は美容組合の熱海での慰安旅行で「パリの美容組合の組合新聞の
特派員だ」と偽って紛れ込む。
組合の理事長らと事務局長の体の関係を録音と盗み撮りした後、別の美容師の部屋に入り込み
ちゃかり体もいただく。
組合の理事長は今度新宿に出来る大型ビルのテナントとして理事長の店を出そうとしていたが、
美容学校の大手谷本美容学校の校長もその場所を狙っていた。
瀬木山は谷本に取り入り、新宿のテナント出店を画策する。
また美容組合の旅行で知り合った美貌の美容師、筒見杏子(堤杏子〜ひし美ゆり子)も
自分の物にしようとしていた!


ピンク映画の東活プロが製作、松竹が配給した異色作。
成人映画扱いなのだが、よくそんな作品を松竹が配給したなあ。
これ、松竹の一般番線に乗ったのだろうか?

ひし美ゆり子さん主演なのだが、ひし美さんの話では東宝を退社させられ、(別にひし美さん
に何か問題があったわけでなく、この頃東宝の俳優は全員フリーになった)女優をしていなかった
時に出演した作品。
なにしろピンク映画なので親に知られては困ると堤杏子の別名での出演でポスターは堤杏子
だが、映画のクレジットでは「ひし見ゆり子」と誤字で表記されている。

こんな感じだからさぞよれよれの映画かと思いきや、それなりに見ごたえがある。
荒木一郎がテキトーなウソを並べてやや強引なお話の展開もあるのだが、悪党が勝ち上がって行く様は
詐欺師映画として充分楽しめる。

まあピンク映画なので強引に濡れ場が登場するのが気になるが(別に必然性はないので)
熟女あり、田舎娘とお風呂場でのシーン、女子高生にいたずら、金髪女性とのSMなどなど
あらゆる濡れ場のオンパレード。
実にサービス精神が行き届いている。

ラスト、ひし美ゆり子を物にしたと思いきや、あっさり捨てられる瀬木山。
これに懲りずに今度は洋裁学校の旅行バスを見つけると今度はそれをターゲットにしようとするのだった
というオチがつく。
また瀬木山の一仕事のために軍資金を用意するために、熱海の旅館で知り合った美容室経営の女性から
店と自宅を担保にしてお金を借りさせるのだが、瀬木山が失敗したためにこの女も無一文に。
瀬木山と出来ているときは、店でナニをしているときにその裏にあるバス操車場から、バスを
誘導する笛の音が聞こえる。
その音に女は興奮する習慣がついてしまうのだが、ラストで無一文になって気が触れたその女は
バス操車場で笛を吹き続けるという物悲しいラストがつく。

また戸川昌子原作で、本人もゲスト出演。さらに意味もなく内田良平がゲスト出演し、大泉晃も
ワンシーン出演という、ピンク映画とは思えない豪華さ。
下手な大作映画より楽しめる一篇でした。



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南京の真実 第一部「七人の『死刑囚』」


日時 2008年4月26日10:00〜
場所 靖国神社 遊就館映像ホール2
監督 水島総

(公式HPへ)


東京裁判で死刑に確定した東條英樹、広田弘毅、松井石根、木村兵太郎ら7人の死刑囚。
彼らが死刑実施を知らされてから昭和23年12月23日午前0時1分に実行されるまでの1日を
描く2時間50分の大作!!


スカパーで視聴できるいわゆる右翼系テレビ番組「チャンネル桜」製作のいわゆる「南京大虐殺」
否定映画。
一般の配給網には載らず自主上映という形で細々と公開されていくわけだが、東京での公開は
靖国神社内の博物館、遊就館の映像ホールでの上映。

さぞすごい映画だろうなあと思っていったが完全に期待はずれ。
まずタイトルに偽り有、だよ。
その辺についてはおいおい書いていきます。

映画はまず東京大空襲とか広島長崎の原爆投下の映像を示す。
そしてアメリカが東京大空襲の10万人とか広島長崎の何十万人の大量虐殺を正当化するために
日本軍も南京で大虐殺を行った、とでっち上げたと言いたいらしい。

その後巣鴨プリズンに舞台は移る。
そこで東條ら東京裁判で死刑判決の下った7人にひとりひとり呼び出されて「12月23日午前0時1分
に死刑執行が決まった」と伝えられるシーンになる。
それで翌22日に教誨師との面談のシーンがこれまた一人ひとりあり(だったと思う。実を言うと
この辺でちょっと寝たのだ)、ここまでで1時間半ぐらい。
そして死刑執行の時を、個室から呼び出されて死刑場に行き、ぶどう酒を飲んで水杯を交わし
死刑台に上り実際に絞首刑になるまでをじっくりと(ひょっとしたら実時間より長いくらいに)
描く。
7人の死刑囚は4人、3人の二グループに分かれて行われたので、観客は死刑のシーンを2回
見せられることになる。
この死刑執行で1時間ぐらいかかって、合計で2時間半ぐらい。
であとは死刑が終わった後、教誨師がもう一度死刑場に行ってみるとそこには能面をつけ
能の格好をした7人の人間の姿をみて、「おお!」と驚く。
そして桜の下でこれまた能面をつけた男の子と女の子がいるという観念的なシーンが出てくる。

そんな内容。
だから南京大虐殺の反論に関しては松井石根(南京攻略時の日本軍の司令官)が死刑の日の昼間に
教誨師との面談のシーンで南京入場直後の南京の様子を映画いたニュース映像が流れ、
「こんなに平和そうですよ」という字幕での説明がつく。
また松井は中国から持ち帰った土と日本の土を使って焼き物の観音像を作って中国人や日本人の
戦没者を供養していた、と説明される。

結局映画中ではこの程度なのだよ。
そして映画のクレジットが終わったところで南京攻略に参加した複数の兵士が「南京大虐殺
なんてなかった」と証言するインタビュー映像が付け足される。
つまりその「南京大虐殺」に対する反論のシーンは正味10分程度しかない。

映画としてそれはないんじゃないの?
東京裁判におけるアメリカ側弁護団の主張「日本の首脳を『平和に対する罪』で裁くなら戦勝国側
だって同様だ」という主旨の発言をするシーンが最後に出てきて「東京裁判の正当性の疑義」も
言うのだが、それなら「大東亜戦争の真実」というタイトルでもっと堂々と主張すればいい。

こんな中途半端な映画的にまったく説得力のない映画では存在の意味がないです。
また最後のほうに「草莽崛起」という文字がバーンと出てくる
読み方もよくわからなかったがネット辞書で調べると「そうもうくっき」と読むらしい。
ただし意味がよくわからなかった。

映画としてはそんな感じで面白くもないし、さすがは創価学会の作った「人間革命」のほうが
見ごたえがあった。
しかしそんな中でも寺田濃の広田弘毅や木村兵太郎の久保明出演など見所はある。
特に明るい役の多かった久保さんが今回はまったく笑わずに終始厳しい表情をしていて
新しい面をみた思いがした。
また広田弘毅が死刑になる直前、ぶどう酒を飲んで「この後、前の人たち(東條英樹たち)は
マンザイをやったのですね?」と教誨師に問う。
「は?ああ、万歳のことですね」と教誨師は答え、3人で「天皇陛下万歳!大日本帝国万歳!」
と万歳三唱を行う。
広田弘毅のこの「マンザイ」は何を意味していたのか?
単なる言い違い、勘違いではあるまい。
「天皇陛下万歳!」などとさけぶのは「漫才みたいな行為」という皮肉なのか?

あと出演では三上寛の教誨師が公演。
映像は陰影のコントラストの強い映像で美しかったが、遊就館映像ホールはホール内の
明かりを完全に遮断していないので、暗い部分がスクリーン上ではグレーになってしまい、
その映像の美しさが堪能できず残念。



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黒帯 KURO-OBI


日時 2008年4月20日16:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 長崎俊一

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日本が満州を建国し、軍部が幅を利かせていた昭和7年。
大観(中達也)たちの道場は軍部の憲兵隊に接収されようとしていた。
あまりに無謀な憲兵隊。力ずくでも道場を接収しようとする憲兵隊に対し対決
をする大観。
師(夏木陽介)の教えを守って自分からは決して手を出さない義龍だったが、
師の病死後大観は憲兵隊の師範となり、「空手に先手なし。決して自分から手を出すな」
という師の教えにそむいて自分の思う攻撃的な空手を実践するようになる。
義龍は憲兵中尉(白龍)を道場で倒したのだが、負けを恥じた中尉は自害、その
子供たちに敵討ちされ、崖から落とされる。
しかし義流は奇跡的に助かる。
憲兵隊長(大和田伸也)は次々と近所の道場を大観を使って接収、しかし彼の
目的は接収した道場を使って女の商売をすることにあり、義龍が助けられた
家の娘も売られていく。
見かねた義流は娘を助けるが、それは黒幕の憲兵隊長を敵に回すことであり、
同時に大観との対決を意味していた!


長崎俊一監督の2007年公開作。
友人の中には「2007年ベストワン」という人もいる。
私は公開時はシネパトスでの上映だし(この映画館、あんまり好きじゃないんで)
観なかったが、今回グリソムギャングで主演者、監督のトークイベント付き上映なので
言ってみた。

なるほど、本物の迫力だ!
主演の中達也氏は役者ではなく、実際の空手の師範。
「本物の空手映画を作りたい!」ということで「空手の出来る役者を使う」か「本物の
空手の達人に役者をやらせるか」で悩んで協議した上での選択。
空手のシーンは迫力があるだろうなあ、でもセリフなんか素人なんだろうなあという
心配をよそに堂々たる演技。
少なくともヘタではない。
充分役者として違和感がない。

とにかく動きが早い。
一撃でしとめるところなど、見てるこちらが「は?」となるほどだ。
但しトークイベントの話では、ホントにやったら早すぎて写らないから、実際より
一呼吸置いてから手を出すなどの映画なりの「ウソ」があるそうだ。
中さん曰く「相手に動きが見えては駄目ですから」と動きが見えないのが本物の動きなんだそうで。

CGやワイヤーアクションを見慣れた人には「一瞬で相手を打つ!」というのが見劣りするかも
知れないが、だらだら対決しないで「一瞬の対決」も見ごたえがある。

そしてラストの大観と義龍の対決。
草原での対決で空の雲がぐわぁーと流れる。
もう気分は「姿三四郎」だ。そして対決が始まると義龍は道着になっており、画面はモノクロ。
対決はやがて草原から泥地に移っていく。
そして対決が終わった後、カラーに戻るのだが、そこには植えつけた真っ赤な花が咲いている。
もう「姿三四郎」から「七人の侍」「影武者」「乱」の色使い、あとで思ったが泥に
まみれて倒れている二人など「野良犬」だ。
長崎監督に「この辺のシーンは黒澤明への影響か」と聞いてみたが、「特に意識はしなかった
けどなあ」というお答え。
無意識にそうなったのか、あるいは偶然か、あるいは照れ隠しのウソか?
その辺に真実はわからないが、黒澤アクションの流れを見ることが出来、黒澤ファン(一応)
嬉しい。

主演の中達也氏。
周りは「先生」と呼んでいる。空手の師範だからなあ。
これが映画と違って実物は実に柔和なイケメン。優男。
空手をやっているような人には見えない。
ご本人にそのことを言ったら「いやーこれがほんとで映画が違うんですよ」と笑っていた。
監督に伺ってみると「いや道着を着ると変わるんだよ」ということ。
中先生にも映画にはまた出ていただきたい。
それだけの逸材だと思いますよ。



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フィクサー


日時 2008年4月19日20:20〜
場所 渋谷東宝シネタワー1
監督 トニー・ギルロイ

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ニューヨークにあるマイケル(ジョージ・クルーニー)が勤める法律事務所は長年続いた
農薬会社とそれを使った農民による訴訟が和解に持ち込まれようとしていた。
マイケルはそんな中、ある顧客がひき逃げしてしまいその事後処理で
動いていた。帰り道、彼の車は爆発。
実は彼はここ数日、この農薬会社との裁判を担当していた同僚の弁護士の
失踪の件で動いていた。

面白いことは面白いがイマイチな感じがした。
原因をよく考えてみたが、やっぱり主人公マイケルの設定がはっきりしなかったの
ではないか?
これは日本とアメリカの違いでアメリカ人にはわかっていたのだが、マイケルの
仕事(立場)がよくわからないのだな。
弁護士事務所に勤めながら、弁護士として表立っては活躍せず、事件をことを
荒立てずに解決していく、という日のあたらない仕事をしているのだが、ちょっと
わかりづらいのだよ。

アイテム的にいうとまずクルーニーはベンツに乗っている。
そしてスーツもぱりっとしていて高そう。
この二点で主人公が「社会的地位もあって収入もある」的イメージを抱いてしまう。

実際はポーカー賭博で身を持ち崩したらしいし、副業で開業したレストランもつぶれてしまって
借金を8万ドルぐらい作ってしまったらしい。
で(劇中のセリフで説明されるが)ベンツも事務所の車で彼の車ではない。
実はそんな風に決して恵まれた立場ではないのだが、彼がパリッとしたスーツを来てベンツを
乗っているために、その辺の「能力はあるがうまく行かなかった男」に見えないのだな。
だから即座に彼に感情移入できない。

これがスーツもくたびれていて車もしょぼければ、そんな男が大手弁護士事務所でくだらない
事件の処理を任されていたらもっとわかりやすかったのではないか?
あのパリッとしたスーツをみれば(車は事務所の車にしても)なんのかんの言っても年収
1000万円ぐらいある(そりゃ本人にすればいろいろ不満もあるだろうが)ように見えるので
なんか共感がもてないのだなあ。

それがこの映画の気に入らない点の一つ。
もう一つはラスト。
ネタバレになるが書いちゃうけど、実はその農薬会社は会社が販売する農薬は人体に悪影響を
及ぼす恐れがあることを知っていながら販売を続けていた。
で、それをクルーニーの同僚弁護士が知っていまい、良心の呵責に耐えかねた彼はそれを逆に
告発しようとするのだが、農薬会社のほうが雇ったヤクザに殺されてしまう。クルーニーは
彼が残したその内部告発文書を手に、農薬会社から金をゆするフリをしてやったことを
自白させる、という展開。
最後が「強請っといて今のは録音した」というのは脚本としてひねりがない。
残念。

そしてこの映画、2時間あるのだが話がぐるぐる同じとこを回ってる感じがあるし、
1時間40分ぐらいにまで刈り込めばもっとよくなったと思う。

かといってこの映画に魅力がないかと言えばそんなことはない。
ラストシーン、クルーニーは農薬会社から自白を引き出し、現場を去る。
そしてタクシーに乗り込み「50ドル分走ってくれ」という。
タクシーは走り出すが、その後1分ぐらいクルーニーの表情をとらえ続ける。
事件が解決した満足感があるような表情はしていない。
かといって後悔してる訳でもなく、なんともいえない複雑な表情をしている。
この演技はいい。
今までみた映画における役者の表情の中でも記憶に残るカットだ。
このカットだけでもこの映画は評価に値すべきだ。



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僕たちと駐在さんの700日戦争


日時 2008年4月19日18:00〜
場所 渋谷シネマGAGA!
監督 塚本連平

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1979年の栃木県のある田舎町。
スピード違反のネズミ捕りをする町の駐在さん(佐々木蔵之助)にパクられた
ことを恨みに思ったママチャリ(市原隼人)をはじめとする高校生グループは
ネズミ捕りのスピードガンの前で自転車で走ったり、反応する金属を持って通過したりと
対抗する。
彼らのいたずら合戦は終わらない!?

面白かった。
久々に映画で笑った気がする。
この映画の明るさを支えているのはなんといっても市原隼人だろう。
大口を開けて自転車で笑いながらかっ飛ばす姿は実に見ていて気持ちがいい。
いままで彼の映画は「虹の女神」などを観ていても「今ひとつ」感がぬぐえなかったが
この映画の弾けた感じが実に楽しい。

前半のマンガチックな演出(怒ったマークを額にCG合成するなど)とか1979年
の流行(CMやらアグネスラムなど)が気になったが、それも徐々になくなり
アップテンポな田舎町のおばかな青春が軽やかに進行する。
後半、病気の女の子のために花火を見せる、という人情話になり、やがて出てきた
大人がみんないいひとになる、という出来すぎた話がちょっと気になるといえば気になる。

が2時間の上映時間を見せきったテンポのよさ、そしてなにより市原隼人の明るさが
印象に残る。
(実は具体的なエピソードやストーリーはあまり残らないのだ)
「見ている間は楽しいが、後に何も残らない映画」だとも言えるのだが、
とりあえず2時間見せきったことはいいことだ。
明るい爽快感は残る。
市原隼人に妻夫木に負けずに伸びてもらいたい。期待する。



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パラノイドパーク


日時 2008年4月19日15:00〜
場所 シネセゾン渋谷
監督 ガス・ヴァン・サント

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16歳の高校生アレックス。
両親は離婚を調停中、彼女はいるがイマイチ彼女にも夢中になれない。
初めたばかりのスケートボードに関心がある。
ある日、スケートボードのたまり場「パラノイドパーク」に出かけた夜、
近くの列車操作場で係員を死なせてしまった。
彼は一人で悩み始める。


とストーリーを簡単に紹介してしまったが、これが実はそう簡単ではない。
アレックスが友人に「悩みがあるなら手紙にして書いてみれば?書いた後は
誰かに出しても捨ててもいいし」と言われたことが劇中で紹介される。
本人が「作文は苦手だから話がバラバラ」と言っているけど、映画も断片的な
記憶が紹介され、今示されている映像が「その事件」のあとなのか前なのか
はっきりしない。

だからある意味話がわかりにくい。
まあ単純に時間の流れのままにつないでいったらストレートすぎて面白くも
なかったかも知れない。
ただしこの事件の流れをバラバラにして観客に見せる、という手法、考えように
よってはすごく安易だと思う。

観客を映画に対して真剣に向かい合わせるように仕向ける手法としては安易な
感じがするのだなあ。
「エレファント」は登場人物の各視点から同じエピソードを何回も語らせるという
ことで時間軸がずれても違和感がなく、むしろ好ましかったが、今回は単に
話を複雑化させ、観客にともすれば緊張感がなくなりそうな内容に引きずりこむ
ための手法にしか見えず、あまり好感は持てなかった。
結局日本とアメリカの日常の違いなのか、主人公アレックスの気持ちは僕には
伝わってくるものがなかった。

あまり誉めなかったが、この映画を見たいと思ったのはポスターの少年の物憂げな表情が
とてもよかったから。
ガス・ヴァン・サントの少年に対する愛情が感じられるポスターで、このポスターの
よさが動員に少なからず影響を与えていると思う。
なんか「見たい!」て気にさせますからね。



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ハッピーストリート裏


日時 2008年4月13日
場所 ザ・グリソムギャング
監督 長崎俊一
製作 昭和54年(1979年)

(詳しくは日本映画データベースで)


アパートの一室でどこかを襲撃して金を奪う相談をしている男三人と女一人。
リーダー格の男(諏訪太朗)は元プロ野球選手で八百長試合が縁でヤクザと関わり、
今は殺し屋として暮らしている。雑誌記者(内藤剛志)が雑誌の企画でその男を捜すうちに
他の男も女も仲間になっていった。
彼らが襲うのは殺し屋が関わったヤクザの麻薬の取引現場。
ここで麻薬の買い付け金をいただこうと言うわけだ。
計画は成功したのだが、ヤクザたちの反撃が始まる!


長崎俊一監督が日大在籍時代に作った自主製作映画。
タイトルはよく聞いていたが今回初めて見た。

いや驚いた。
学生の自主製作映画、のレベルをはるかに超えている。
長崎俊一は当時22歳だったのだ!
自主制作映画としていう条件付で面白いのではない。
1本の映画として充分人に見せるに足りうる映画になっているのだ!

タイトルからするとなんだかラブコメみたいな映画だが、上に書いたようなストーリー。
オープニングの打ち合わせのシーンなど名作「血とダイヤモンド」を思い起こさせ、
わくわくする。
そして彼らが集まっていった流れを回想シーンで織り交ぜながら、山奥での射撃練習など
を行っていく

そして廃墟での襲撃シーンとなるのだが、拳銃を使ったアクションはカット割りのテンポも
すばやく、迫力あるシーンはすばらしい。
また主人公たちが乗る車が銃撃され、フロントガラスを叩き割って走るという手抜きのなさ。
敵の車も横転し、火を噴く。
最近の映画では全くといいってほどなくなったカーアクションを行っており、新鮮。

全くもってこの映画は石原プロか日活ニューアクションで作られたかのようなアクション映画だ。
また主人公とのラブロマンス、みたいなべとべとしたシーンがないので、ドライな男たちの
物語としても楽しめる。

後半、逆襲する敵たちは主人公の仲間を二人を殺してしまう。
そしてラストは残った二人で復讐するのだ。
アクション映画の傑作。

しかしこれを製作当時観ていたらどう思ったろう?
自分にはとてもかなわないと自分の映画製作をあきらめたろうか?
それとも俺も頑張ろうと奮起しただろうか?
もしこの映画を自分が学生時代に観ていたらよくも悪くも人生になんらかの影響を与えたろう。
今となってはそれがよかったのか悪かったのか判断に迷うところだが。



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猫と鰹節 ある詐話師の物語


日時 2008年4月12日
場所 TSUTAYAレンタル
監督 堀川弘通
製作 昭和36年

(詳しくはキネ旬データベースで)


大阪で詐欺師を働く善六(森繁久弥)とその仲間達(三木のり平、千葉信男、ミッキー・カーチス)
彼らの手口はカモを見つけてくるとイカサマばくちに誘い込み、金が2倍になると持ちかける。
今日も岡山から大阪に仕入れに出てきた男(西村晃)から巻き上げた。
そして次なるカモは新地でバーのマダムをやっている章子(草笛光子)。
彼らの仕掛けは大成功。
しかし善六はその後章子とばったり出会ってしまう。
章子は訴えない代わりに損した分を取り返そうと大掛かりな詐欺を彼らと仕組むのだが。


サブタイトルは「詐欺師」ではない。「詐話師」です。
映画中で森繁久弥が自分たちのことを詐話師と呼んでいます。

それはいいのですが、正直面白かったのは前半だけ。
ある席に同席した草笛光子があれよあれよというまにイカサマばくちに乗ってしまう
あたりの詐話師持っていき方は実に面白い。
「あ〜なるほどネエ」とその手口に参ってしまう。

しかし面白いのはその辺まで。
草笛光子から金をだました取ったにも関わらず、次のシーンではなぜか彼らは「金がない」とか
言っている。その辺はカットがあったらしいのだが、千葉信男が西村晃に見つかって
通天閣に逃げ込んでそこで誤って天辺から落ちて死んでしまう。
この辺がちょっと暗いのだな。

そして草笛光子にたけつけられ、またその千葉信男の娘(団令子)の借金返済のために
大阪の詐話師が集合して大イカサマばくちをする展開。
結局こちらでも前半に見せた方法で詐欺をするのだな。
それじゃなあ。
ここは後半は別の手を使って欲しかった。
(それにオチがあるのだが、それは想像がついたし)

かといってまったく面白くなかったわけでなく、やはり森繁久弥、三木のり平、伴淳三郎、西村晃
千葉信男、賀原夏子、団令子、ミッキー・カーチスなどなどの役者陣の芸達者ぶりは楽しい。
また中盤、森繁たちは「どっかにパーッと行こう」と化粧品会社の販売店への接待ツアーに
もぐりこむのだが、このときの化粧品会社の社長がトニー谷なのだよ。
これは知らなかっただけにうれしかった。



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あすなろ物語


日時 2008年4月12日
場所 TSUTAYAレンタル
監督 堀川弘通
製作 昭和30年(1955年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


鮎太(久保賢)は祖母(三好栄子)と二人で暮らす少年。ある日鮎太が12歳の時、祖母の妹の娘冴子
(岡田茉莉子)が同居する。彼女は鮎太の住む村に療養に来ている学生加島(木村功)に手紙を
届けさせる。どうやら冴子は恋仲だったが、何か事情があるらしい。
鮎太は手紙を何回か届けるうち加島に好意を寄せ、加島は鮎太にあすなろの木を示し
「この木は檜にているが檜じゃない。『明日檜になろう、あすなろう』と思っているから
あすなろというんだ」と教えられ、それが彼の向上心のきっかけになる。
加島は鮎太に勉強することを薦め、鮎太もそれにならって勉強する。
しかし冴子と加島は道ならぬ恋だったのか心中してしまう。
3年後、鮎太(鹿島信哉)は中学に進学。しかし祖母は亡くなった。鮎太は禅宗のお寺に住むように
なり、その寺の娘雪枝(根岸明美)と知り合う。
鮎太は勉強は出来たが、運動は出来ず喧嘩は弱い。雪枝は鮎太に鉄棒をやるように言い、運動会で
上級生を抜いて優勝する。雪枝にはその頃縁談があったが、彼女に言い寄る悪い男がいた。
鮎太はその男をやっつけるのだった。
また3年が経ち鮎太(久保明)は高等学校に進学。彼は下宿するのだが、その家には玲子(久我美子)
という美しい娘がいた。この家には他に若い男が数人下宿していたが、みんな玲子に振り回され
またそれを楽しんでいるような男たちだった。
鮎太は玲子に好かれたが、それは玲子のいたずら心なのか?ある日、玲子は鮎太に「私のことが
好きならその石垣から飛び降りなさい」と高い石垣のうえから飛び降りることを命じる。
飛び降りた鮎太に玲子はキスをした。
しかし玲子は家のために気の進まない金持ちとの結婚をしなければならない身。
玲子は鮎太にこの家を出るようにいい、鮎太もそれに従うのだった。


珍しくストーリーを詳しく書きました。
この映画は井上靖の原作を黒澤明が脚色、「七人の侍」などでチーフ助監督を勤めた堀川弘通の
監督昇進第1作。

鮎太少年の成長物語。
12歳を久保賢(山内賢)が演じ、19歳の鮎太を実兄の久保明が演じる。
鮎太少年が偶然一緒に暮らしていく三人の女性達との出会いによって成長して行く。
冴子との出会いで勉強することを教えられ、雪枝からは体を鍛えることを教えられ、玲子との
出会いで女性との恋を教えられていく。

「自分はまだ檜ではない。でも檜になろうと努力しよう」と前向きに努力をして行く優等生な
少年だ。その前向きな向上心の塊のような姿はいじらしく、理想的な少年だ。
見ていてその向上心は頭が下がる。うん、人間いくつになっても向上心を忘れてはいかん。

中でも新人の久保賢は凛々しい少年で好演。

で、ちょっと気になったのは第三話。美しいわがまま娘の周りに取り巻きが大勢いて
少年が好かれる。というシチュエーションはツルゲーネフの「はつ恋」に似ている。
また美しい娘が石垣から飛びさせる、というのも「はつ恋」にあったぞ。
いや私も「はつ恋」に関しては小谷承靖の映画版しか見ておらず、原作は読んでいないので
なんともいいがたいのだが、ツルゲーネフの原作にあって井上靖の原作になかったら
これはもう脚色の黒澤明の発案ということになる。
ロシア文学に造詣の深かった黒澤だ。ありえない話ではない。
これはちょっとツルゲーネフの「はつ恋」を読むのが楽しみになってきた。



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狙撃


日時 2008年4月8日
場所 TSUTAYAレンタル
監督 堀川弘通
製作 昭和43年

(詳しくはキネ旬データベースで)


早朝の東京。ビルの屋上から新幹線に乗る乗客をライフルで狙撃し一発でしとめる男
(加山雄三)がいた。男は現場からトヨタ2000GTに乗って走り去る。
射撃練習場で男はファッションモデルの女(浅丘ルリ子)と知り合い惹かれあう。
男は今度は金塊の取引現場を襲って金塊を奪う仕事を実行する。
しかしそれは金の持ち主を怒らせ、男は凄腕の射撃の名手(森雅之)に狙われるようになる。


評判の高い主演・加山雄三、監督・堀川弘通のハードボイルドアクション。
でも私はあまり面白くなかった。

まず加山雄三が無口で笑わない男を演じるのだが、どうも似合わないのだなあ。
もう好きか嫌いかの世界かも知れないが、違和感を感じてしまう。
その辺で映画の世界に乗れないので、あとは欠点ばかり目だってしまう。

次に面白くないのは脚本に細部の作りこみがないのだな。
この映画に限らず日本のアクション映画は細部が雑な感じがするのだよ。
金塊の取引現場を襲うあたりなど中盤のクライマックスだと思うのだが、
ただバンバンと撃ち合うだけ。
ラストの森雅之との対決もこちらもただ撃ち合うだけでなんか知恵がない。

相手がこうきたからこうでる、こう来るかも知れないからこうする、といったような
敵と味方の知恵比べ、みたいな物がないとどうも私は盛り上がらないのだ。

だが別にこの映画に魅力がないと言っているのではない。
加山は岸田森演じる横田基地の近くで米兵から横流しの銃を買い付けている男から
銃を買っているのだが、金の強奪を行うときに渡される銃が共産圏で活躍したソ連製の
AK47カラシニコフなのだが、「よくこんなものが手に入るな」という加山に
岸田森が「この基地(横田基地)から飛び立っていく飛行機はベトナムに行く。
そこでソ連から提供された銃が使われているからそのおこぼれが日本に来るわけさ」と
解説してくれる親切さ。

また加山を付け狙う謎の殺し屋(森雅之)が空港の税関を潜り抜けホテルでスーツケースを
開けるとき、取っ手の仕掛けを操作すると反対側の蓋が開き隠してあった銃が
出てくると言う007なみの仕掛け。しかも出てくる銃がモーゼルというこれまた凝った銃。
それなりに細部は凝っている。
でも個人的にはモーゼルは大きくて見栄えがするけど、小型拳銃としては大きすぎて使いづらい
という持論があるので、こういう都会で使う拳銃としては好きではないのだな。
でもこの辺はもう拳銃に対する趣味の問題。

キャスティングの話題に移るとまず加山雄三と浅丘ルリ子の共演というのが驚いた。
昭和43年だからまだ日活がポルノ路線に移る前じゃないのか?
五社協定もなくなってきた時代ならではだ。
そして殺し屋に森雅之!
私の中では森雅之は「羅生門」や「浮雲」などの文芸作品のイメージが強かったので
殺し屋の役とは驚いた。
ただし似合っていたかどうかは別の問題。
あと敵のボス役で小沢昭一が登場するのだが、何故か後姿だけ。
日活の悪ボスを思わせる役立ったのにもったいない。

もう一つ難点を言わせてもらえばホテルで浅丘ルリ子と加山雄三が、浅丘が憧れるニューギニアを
イメージして土人(という言葉は今は適切なのか)のように黒塗りをして浅丘が
踊り加山がゴミ箱をひっくり返して太鼓のように叩く、というシーンがあるんだが
イメージシーンとしてもなんだか珍妙だった。

ラスト、(書いちゃうけど)加山も浅丘も森雅之の弾に倒れ、しかし加山が絶命直前に
撃った弾で森も死ぬ。
映画全体の暗さから多分こうなることは想像できたけど、映画としてはなんとか加山には
森雅之を倒して欲しかった。
この頃の映画は(アメリカンニューシネマを含めて)ハッピーエンドでないのが時代の
空気だったのかも知れない。

個人的な好みに過ぎない気もするが、世間の評判ほど楽しめませんでした。



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クローバーフィールド HAKAISHA


日時 2008年4月5日18:00〜
場所 ユナイテッドシネマとしまえん・スクリーン8
監督 マット・リーブス

(公式HPへ)


映画の内容を秘密にするという宣伝をした話題作。
公開間近になってその内容が徐々に伝えられてきたが、要はニューヨークが
巨大生物に襲われ、その後アメリカ国防総省に保管されていたその時にニューヨーク
にいた市民が録画したビデオ、という内容。
やっぱり数年前の「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」と同じ手法。

あの時もカメラがぶれまくりで、フィクスな画面が好きな私としてはひたすらに
観ずらかったがあれは低予算ゆえの逆転の発想の映画。
今度は充分予算をかけてそれをやっちゃおうという映画。

内容をもう少し詳しく言うと、ある大企業の若き(30歳ぐらい)エリートサラリーマンが
今度日本支社長に栄転が決定し、友人たちが開いた送別会のパーティの最中に
ニューヨークは突如として怪物に襲われた、という感じ。
ただしこの映画、90分弱なのだが、この最初のパーティのシーンが20分くらいある。

で、エンドクレクレジットが7、8分あるので事件が起こってから映画が終わるまで
正味50数分しかない。
ワンアイデア映画なので時間が短いのはわかるが、最初の20分などは完全に上映時間
の水増し、最後のクレジットも上げ底。
正直1本の映画としては無理があるわな。

観る価値がないというわけではない。
あれだけカメラ(映像)がぶれているのに、爆発や自由の女神の首が飛んでくる
映像の合成カット(という言い方でいいのか)は実に見事。
映像技術の進歩を認識させられる。

ただしさっきも書いたが画面はぶれまくりで吐きそうになった。
映画の公式HPや劇場でチケットを買うときに「この映画は車酔いに似た症状を起こす場合が
あります」などと注意書きが貼られ、(注意書きのメモまで渡された)劇場に入るときに
もぎりのお姉ちゃんにさらに注意される。
そんなに注意書きが必要な映画つくんなよって感じなのだな。

ただし今普通に怪獣映画を作ってもやはりヒットしないのかも知れないからこういう変化球で
勝負するしかないのかなあ。
普通に撮って欲しかったと昔ながらの怪獣ファンとしては思いますね。



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