2009年4月

遭難フリーター 相棒シリーズ 
鑑識・米沢守の事件簿
ワルキューレ ボンボン 沖縄やくざ戦争 北陸代理戦争

遭難フリーター


日時 2009年4月19日14:00〜
場所 ユーロスペース1
監督 岩淵寛樹

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岩淵寛樹は埼玉県本庄市のキャノンの工場で働く派遣労働者。
仕事は簡単で(そうらしい)インクジェットプリンターのインクカートリッジの
組み立て。
給料は安く、出世して将来生活が向上する見込みはない。
生まれは宮城県だが、東京に近付きたくて埼玉まで来た。
休日には東京へ出て別の派遣の仕事をする日々。
こんな生活に希望は全くない。
どうなる、俺。

世間でにぎわす派遣労働者の彼が自分の生活を追ったドキュメンタリー。
もともと彼は「東北芸術工科大学映像コース在学中に制作した、『いのちについて』が
ショートショートフィルムフェスティバルアジア2004に入選」とあるからそれなりに
ただの人ではなさそうだ。
でも結局就職に失敗し、今の派遣の日々を送っている。
派遣は給料が安い、だから金がない、次の就職活動も出来ないという悪循環に
陥ることはよくわかる。
本人にその気があればもっと給料がよくて安定した仕事を与えてやりたいし
それが出来る環境を社会として整えてあげたいと思う。

しかしどうも彼の場合、甘さを感じてしまうのだな。
大手レコード会社に就職した同級生にあって「おれはエントリーシートに10万円
かけたりして誰よりも頑張った自信がある」とのたまう。
そこまで行くとちょっと自信過剰でいやみだが、それにしても岩淵君も人生に対し
思い切りがないと思う。
「将来出版関係の仕事がしたい」と言って「おまえそれに大して何かいま活動してる?」
と問われてもごもごしてしまうわけだが、レコード会社に就職している彼の方が説得力が
ある。

でなければ「出版関係の仕事をしたい」というような夢は諦めて別の仕事を
探したっていいじゃないか。

みんな生きたようには生きられないのだから、自分の出来る範囲で自分に出来る妥協点を
探しながら生きていくべきだ。

僕が派遣の実態を分かっていないから、あるいは自分の身に降りかかっていない他人事
だからこういう批判的な意見が出てしまいのかも知れないが、岩淵君に関しては
まだ人生に対して甘えを感じる。
東京に出たいなら今なら知人を頼って東京に出ることは可能だろう。
そうして派遣以外の仕事を探すのも手ではないか?

ラスト、環七を下って高円寺から平和島まで歩く。
そこに未来があるかも知れないと思って歩いたらただの行き止まりの海だったという
ラストは彼の心情をあらわしている感じでよく出来ている。
これだけの映像作品が出来るなら、彼はなんとかやっていけるだろう。

それにしてもハンディで撮って手ぶれまくりの画面、私はこういうのが苦手でみているうちに
吐きそうになった。
大画面で見る映画じゃない。
それだけは言っておく。



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相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿


日時 2009年4月18日10:40〜
場所 新宿オスカー劇場
監督 長谷部安春

(公式HPへ)


警視庁の鑑識官、米沢守(六角精児)は東京シティマラソンの参加者の分析を
行っているときに3年前に突然家出した妻の姿を見つける。
警察手帳を使って半ば強引に事務局からその参加者の住所氏名を聞きだす。
苗字は変わっていたが、名前は妻と同じ。
彼女のアパートに行ってみたが、結局会う勇気がもてなくて帰ってくる。
しかし翌朝電話がなる。
夕べたずねた女性が死体となって発見されたと言うのだ。
現場の様子から自殺と思われたが、米沢は死体の髪の毛を持って帰り血液型を
調べてみた。自分の妻とは違う。
ほっとした米沢だったが、上野署の刑事から、死んだのは自分の妻だという
連絡を受け、二人で捜査することになったのだが・・・・


全然だめと言うわけではない。
そこそこ面白い。でも「そこそこ」程度だ。
それより宣伝に騙された(と言うほどではないが)。
宣伝ポスターでは「私が今、亡き妻にしてやれることは<真相>を暴くことだけです−。」
というコピーがあって中央に米沢が試験管を見ている姿が描かれている。
これだと普通(というか私は)米沢の妻が死んでその事件を鑑識にしかできない視点で
暴く、という映画だと思う。
ところが死んだのは米沢とはよく似た赤の他人で、その夫(萩原聖人)が刑事で
二人で事件を調査する、というもの。
だから米沢が鑑識としての能力を生かしながら事件を進展させるが、別に彼が主役で
なくても話は成立する。

でも「これほどまでに似ていてしかも下の名前が同じとは天文学的確率ですがそうだった
のです」ということでこの偶然の一致を片づけてしまう。
てっきり(最後まで)実はこれが偶然ではなく何かあるのではと思ってしまった。
この辺でがっかりなのだな。
そんなことなら萩原聖人の刑事と米沢は警察学校の同期で親友とかそういう設定で
米沢が萩原に協力する設定でもよかったのでは?
もっともテレビシリーズのつながりで米沢の妻を話題にしなければならない理由でも
あったのかしらん?

というわけでそこそこ楽しかったが、特に心に残るミステリーではなかった。
残念。



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ワルキューレ


日時 2009年4月17日21:50〜
場所 新宿ピカデリー・スクリーン5
監督 ブライアン・シンガー

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アフリカ戦線の戦場で左目、右手首、左手の指も数本なくしたシュタウフェンベルグ大佐
(トム・クルーズ)。ヒトラーのやり方に疑問を持ち、「自分は祖国には忠誠を誓うが
ヒトラーに忠誠を誓うつもりはない」と同じようにヒトラーに不満を持つ軍人、政治家の
グループに参加し、ヒトラー暗殺、その後の新政権樹立に向け活動を開始する。


久々の大型政治サスペンスを期待したが、正直はずれた。
巷では「トム・クルーズ主演の映画ではそんな大人のサスペンス映画になるはずがない」
といった意見もあるようだが、そうは思わない。

観ている途中で、これは「日本のいちばん長い日」と同じだ、と思い始めた。
戦争遂行派と和平派がいて政権転覆のクーデターを実行するのだから。
しかし、「日本のいちばん長い日」ほどのサスペンスは盛り上がらない。
テンポが岡本喜八に比べ遅い、ということもある。
結論が分かっているからとも思ったが、それは「日本のいちばん長い日」も同じだ。

構成に間違いがあったんではないだろうか?
ヒトラーが死ななかったことは我々全員、知っている。
(もっともヒトラーはこのとき死んで1945年5月まで影武者が勤めた、という
フィクションもありだろうけどそれでは別の映画になるだろう)
ところが映画はトム・クルーズの視点から描き、ヒトラーは死んだもの、ということで
その後の活動を続ける。
「ヒトラーの死を確認できないうちは首都制圧命令を出せない」という将軍の判断は
正しい。ところが映画はトム・クルーズの判断が正しくてこの将軍が「優柔不断なグズ」
的な描かれ方をする。
この感覚が間違いの始まりではないか?

観客はヒトラーが死んでいないことを知っている。
従って、生き残ったヒトラーやその側近がクーデター計画を察知し、それを阻止しようとする、
トム・クルーズたちはクーデターを実行しようとする、果たしてどちらが?!
的な盛り上げ方が出来たのでは?
和平派が失敗することはわかっているが、それにしても「もうちょっとだったのに!」と
思えるような描き方があればもっとサスペンスが盛り上がったろうに。

結末がわかっている歴史的事実を描いてそれを盛り上げたんだから、やはり岡本喜八は
すごかったのだ。

あと蛇足だが、「トム・クルーズは自分が生き残ることを前提に作戦を練っている。
本当に殺したいのなら、爆弾を持ってヒトラーの横に行って自分が確実に殺し、
後のことは仲間に任せればよかったのでは?」という意見をどこかで読んだ。
日本人の特攻精神的だが、なんか一理あるような気がした。



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ボンボン


日時 2009年4月4日15:00〜
場所 シネマバー ザ・グリソムギャング
監督 カルロス・ソリン
製作 

(詳しくはシネマトピックスオンラインで)


ファン・ビジェカスは20年務めていたガソリンスタンドを首になり今は失業中の身。
手先が器用なので手彫りの柄のナイフを売り歩くが「高い!」と誰も買ってくれない。
今日も工事現場で休憩時間の職人たち相手に商売をするが、相手にされず、挙句は
警備員にとがめられ、見逃してもらうためにせっかくのナイフを1本渡す羽目に
なってしまう。
道で故障で止まっていた車を直してあげたファン、そのお礼にと白いデカイ犬
ボンボンをもらってしまう。
ところがこの犬、見る人が見ればものすごくいい犬だそうで、銀行に行った時には
支店長に「この犬の愛好家たちを紹介しますよ。調教してドックショーに出せば
優勝ですよ」と褒められる。
とりあえず、調教師のもとに行ってみると「地方のドックショーで優勝すれば
種付けの依頼も来る、そして大きなドッグショーに行けばもっと知名度が上がって
儲けられる」と勧められる。
調教師と訓練に励むファン。参加したドッグショーではトントン拍子に好成績。
早速種付けの依頼が来る。
ボンボンに種付けをさせてみたのだが・・・・


アルゼンチン映画なんて(たぶん)初めて見た。
世界中どんな国でも映画は作られている。
ほのぼのとした映画で、心温まるハートウォーミングムービーだ。
ただし根本的に「心温まるハートウォーミングムービー」というのが好きではないので
そんなに好きな映画ではない。いい映画だとは思うけど。

映画はその後、ボンボンが種付けをしないので医者に見せたところ「この犬は性欲がない」
つまり(映画ではそうは言ってないけど)インポ犬だと言われる。
種付けが出来ない=儲けられないということで一気に現実に戻ったファンは調教師に
ボンボンを預けて仕事を新たに探し始める。
しかしボンボンが気になったファンは戻ってみると、犬は逃げ出したという。
探してみたら工事現場の影でメスの野良犬相手に後ろから励んでいました!というオチ!

何とも下品というか、子供には見せられないとか、アルゼンチンの映画はこういうことを
するのか日本人とは感性が違うなあとかいろいろな感想が一気に出てきました。
でも思い出しても笑えてきますね、このオチは。

ハッピーエンドでもあるんですが、例えばファンが家に帰ったらボンボンが待っていたとかの
「いかにも」的な盛り上がりがない。
あくまでも観客(あるいは映画の作り手)にこびないラストのオチは、日本の映画作家にはない
発想の(あるいは発想する人はいるかもしれないが採用されない)ような気がして、その点は
目新しかったです。
また主人公の不況感が今の時代とマッチしていますね、個人的感傷ですけど。



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沖縄やくざ戦争


日時 2009年4月3日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 中島貞夫
脚本 高田宏治 神波史男
製作 昭和51年(1976年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


本土復帰を控え、沖縄海洋博も迫ってきている沖縄市(コザ)。
沖縄のやくざはコザを中心とする国頭(クニガミ)(千葉真一)と那覇を
中心とする翁長(オキナ)(成田三樹夫)と大城(織本順吉)に分かれていて
本土のやくざの進出を防ぐため、一応は団結していたが、実は対立している。
また国頭の舎弟、中里(松方弘樹)は前の抗争の際にコザの一本化のために
戦って刑務所に入った。出てきたらコザの半分を国頭は中里に渡すはずだったのに
渡さない。
かくして中里、国頭、翁長たちに本土大阪の浅田組も加わっての大戦争に!


最近高田宏治さんのトークイベントの準備のために高田さん作品を集中的に鑑賞。
これもその1本。たぶん未見だと思う。記憶にあるシーンが全くなかったから。
「北陸代理戦争」より前の製作になる。

監督は中島貞夫。
速すぎるともいえる中島演出は見ていて見やすい。これが山下耕作とかだとねっとり
しすぎていて退屈するから、これぐらいのスピードの方がいいかも。
松方弘樹、千葉真一、成田三樹夫、織本順吉、梅宮辰夫の面々の出演で、異色キャストは
なし。

千葉真一のキャラクターが徹底的に本土の人間を嫌っていて、一般の観光客にまで
嫌がらせをする始末。
だから本土のやくざはさらに嫌い。キャバレーで「清水の次郎長」の歌を歌っただけで
それを止めさせ、沖縄ジャミセンに合わせて演武を披露するし、しかもホテルに帰って
来たところを車で轢き殺してしまう。
こういった沖縄の人間の本土に対する嫌悪感は(この映画ではあまり露骨には言ってないが)
やはり沖縄戦が関わっているのだろう。

「お前本土の犬か!」千葉真一に罵倒された松方弘樹が「生きるためです、生きるためなら
犬にも豚にもなります」という沖縄の人々の苦しさがよく出ていたし、
またラスト近くに松方が最後の戦いの前に黙々と飯を食うところのバックに基地の風景など
をスクリーンプロセスで表示されるあたりが彼の複雑な心境を出していた。

最後に尾藤イサオが沖縄のヤクザ連合の会長になった織本順吉を殺すあたりなど「日本の黒幕」
を思わせる。
大阪の浅田組幹部の梅宮辰夫と成田三樹夫が海で釣りをしているところに松方弘樹とチンピラ
渡瀬恒彦がボートで乗り込んで撃ち殺すあたりは映画的カタルシスがあった。
面白かった。



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北陸代理戦争


日時 2009年4月1日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 深作欣二
脚本 高田宏治
製作 昭和52年(1977年)

(詳しくはキネ旬データベースで)


福井の富安組の安井(西村晃)の子分、川田(松方弘樹)は「刑務所から出てきたら
競艇場の上がりを渡す」の言葉を信じてきた。しかしム所からでても親分は上がりを
わたさない。
それをきっかけに安井と川田の対立が始める。安井の弟分の万谷(ハナ肇)はなんとか
二人の間を取り持とうとするが埒が明かない。
また関西の大組織の浅田組の切り込み隊長・金井(千葉真一)はそれに乗じて安井を
応援し始める。
一方浅田組内部でも金井を快く思わない岡野(遠藤太津朗)や久保(成田三樹夫)は
川田を応援し始める。
かくして福井の親子喧嘩が大抗争へとなっていく。


面白いことは面白いが、もう実録路線は何をやってもおんなじ感じだ。
いや見ている間は面白いのだが、翌日になったら話の細部は忘れている。
この映画なんか完全に「新仁義なき戦い 北陸代理戦争」とタイトルを変えても
違和感はない。
主演が菅原文太と松方弘樹の違いぐらいなものだ。

深作欣二のスピーディな演出と高田宏治の展開の早い脚本によって見るものを
完全に飽きさせない。
敵味方がころころ変わり、映画のはじめでは対立したていたのがラストでは味方に
なり、逆もまたある。

実録路線は同じ、とは言っても細部には変化はある。
特に今回目玉は二つ。
一つはオープニングとラストに登場する雪の平原に人間を埋め、その周りをジープで
走ると言う残酷なリンチシーン。
実はこの映画、20年以上前に新宿昭和館で見ているが、ハナ肇が出ていたことと
この雪のジープのシーンしか覚えていなかった。
言い換えればその2点は滅茶苦茶印象に残ったのだ。
モデルになったヤクザがいたそうだが、本当にこんなことをしたのだろうか?

そして今回は川田の女房になる高橋洋子だ。
もとは川田が付き合っていた料理屋の女将(野川由美子)の妹だったが、女将が
川田を匿った時その介抱をしたのが縁で二人は結ばれる。
強い意志を秘めた女で、高橋洋子の兄(地井武男)が川田を裏切って殺そうと
したときに、川田を守って兄を殺してしまう。
今まで女性がそんなキャラクターを与えられたことがあったろうか?
「仁義なき戦い」シリーズでは女性のキャラクターで記憶に残っているのは山守の
妻ぐらい。
よかった。

で、今回の親分を西村晃が演じるのだが、これはもう山守と「こんなが帰ってくるのを
待っておったんじゃ。やっぱりお前のような筋が通った奴がおらにゃいかん!」と
おだててたきつけるあたりは山守そっくり。
笑った。



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