2010年6月

江戸川乱歩の陰獣 アウトレイジ シーサイドモーテル
ジャコ萬と鉄 国際秘密警察
絶体絶命
四畳半色の濡衣 BOX 袴田事件 命とは
宮廷画家ゴヤは見た 陰獣(フランス版) 孤高のメス 告白
メス 白日夢2 白日夢(1964) 愛しき人妻
ひと夏のたわむれ

江戸川乱歩の陰獣


日時 2010年6月30日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 加藤泰
製作 昭和52年(1977年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


昭和初期。本格探偵小説作家を自称する寒川(あおい輝彦)は小山田静子(香川美子)と
いう美しい婦人と知り合いになる。彼女は寒川の小説のファンだという。
それがきっかけで交際の始まった二人だが、ある日寒川は、静子から昔つきあっていたが
後に別れた男が今は猟奇的な作風で知られる作家大江春泥になり、彼女に昔の恨みをはらさんと
脅迫状を送ってきたと相談を受けた。
彼女を心配する寒川は大江春泥の行方を探るがわからない。大江はもともと人嫌いで編集者とも
手紙を介してしか連絡をとっていなかったという。
今度は静子の元に静子の夫を殺害するという手紙が大江春泥からやってきた!

この映画が公開された頃、角川映画の「犬神家の一族」が大ヒットし、横溝ブームの
まっただ中だった。
「東宝が横溝正史なら松竹は江戸川乱歩だ!」という実にイージーな動機で作られたのが
この映画だった。
いや実は違うのかも知れないが、中学生の映画ファンにはそう見えた。
実際、あんまりヒットすることはなく、江戸川乱歩はその後映画化されることはなく、
「八つ墓村」の大ヒットを迎えることになるのだが。

で、公開当時にもみているが今回30年以上たって再見した。
当時あまり面白くなかった記憶があったが、今回も面白くない。
第一にテンポがだるすぎる。
原作は文庫本で100ページぐらいの中編だが、この映画は約2時間ある。
そんなボリュームないよ、この原作には。
だから映画オリジナルのエピソードが加えられているかと思ったら、原作には割と忠実。
川津祐介が殺害されるシーンが増えたぐらい。

このテンポのだるさはやはり加藤泰のテンポなのだろう。

そして肝心の謎解きだが、最後に20分ぐらいあおい輝彦が話しているだけで、
誠にわかりにくい。
今回、原作を読んでからみたので、私はわかっていたが、初めて見た時はよく
わからなかった覚えがある。

ここはあおい輝彦が謎解きをしながら説明用のインサートカットを入れてほしかった。
もっともそれでは市川崑になってしまうからと避けたのかも知れないけど。

そして原作では寒川はいったん真犯人の罠に引っかかって別の人間を犯人と断定した。
しかしその後、屋根裏に残されていた手袋のボタンが無くなっていた日を知って
自分の誤りに気づく、という2重の面白さがある。
ところがこの映画は長いにも関わらず、この1回目の推理は省略され、1回で
真相にたどり着いてしまう。
それはないやな。江戸川乱歩の面白さが半減してしまう。

しかし悪口ばかり書いたけどこの映画に魅力がないかというとそんなことはない。
SMがモチーフになるのだが、囲碁の石を打つパチン、パチンという音が鞭の音へと
変わっていく効果は印象に残った。
(ちなみにこの映画をみて私はSMというものを知った覚えがある)

そしてラストシークエンス。
「あなたと二人で過ごしための部屋」といって静子は寒川をある土蔵の二階につれていく。
この部屋が真紅の壁、カーペットという異様な部屋。
このセンスはやはり加藤泰だろう。
事件がすべて終わって寒川が謎を解き明かした後、この土蔵の階段を降りて足下から徐々に
あおい輝彦が消えていくシーンも印象に残った。

全体としては面白くなかったが、一部の描写では非常に印象に残った映画だった。



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アウトレイジ


日時 2010年6月27日19:20〜
場所 新宿バルト9・シアター5
監督 北野武

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)
(公式HPへ)



関東最大のヤクザ組織山王会会長・関内(北村総一朗)は配下の組長・池元(國村隼)が
村瀬組の村瀬(石橋蓮司)とつるんでいるのを不快に思っていた。
手を切るように加藤(三浦友和)を通じて伝えるが、適当に聞き流す池元。そんな時、
池元配下の大友(ビートたけし)の組のものが、村瀬配下のぼったくりバーに引っかかる。
これをきっかけに「詫びが足らない」「かっこがつかない」の応酬で村瀬と大友たちは
争うことに。
そしてそれは池元を疎ましく思う関内によって組内を巻き込んでの抗争へと発展していく。


「TAKESHI'S」とか「監督バンザイ」とか「アキレスと亀」最近自分の世界に入りすぎて
面白味に欠けた北野映画。今回は観客の彼のイメージの通りのバイオレンス映画。
アウトローなやくざが戦いあうという「仁義なき戦い」的な世界を描いていく。

こういった男の迫力を描いてはやっぱり武は一流。
しかも今回は三浦友和、北村総一朗、小日向文世、加瀬亮、塚本高史など今までやくざ役
とは無縁のようなキャスティングで楽しませる。
(そのかわり北野映画常連の寺島進や大杉漣はお休み)

特に加瀬亮は七三分けをしてサングラスをかけ英語を操るインテリやくざとして印象に残る。
さすが加瀬亮は何をやらせてもうまい。
あと北村総一朗の大親分というのも面白い。でもここまでいったなら石橋蓮司ではなく、
もっとやくざ役などやってない人でもよかったような気がする。

相変わらず北野バイオレンスは痛そう。
特に今回は歯医者にいっている石橋蓮司を襲うシーンで、ここで拳銃でも口にくわえさせるか
と思ったら、歯医者の器具で口中をかき回すシーンは恐れ入った。
まいるよ。「マラソンマン」以来の恐怖だ。

あと塚本高史が抗争のきっかけになる事件を起こすわけだけど、わりと最初の方で殺されて
しまったのは残念。
もう少し活躍してほしかった。
たけしが最後に単独で北村総一朗に殴り込みでもかけるかと思ったら、そうはならなかった。
単なる東映調のやくざ映画にはしたくなかったのだろう。

また私が現在期待をしているオフィス北野の藤井貴規(ふじいあつのり)君も出演。
北村総一朗の身の回りの世話をする若い衆役。(最後には三浦友和に殺される)
将来いい俳優になってくれればうれしいですが。
(ちなみにエンディングのクレジットが日本語と英語表記。藤井くんの名前が英語では
「TAKANORI HUJII」と誤って表記されていたのにはがっかり。でもパンフレットは「ATSUNORI HUJII」
と表記されていた)

北野バイオレンスが堪能できる一本。
監督としては同じような映画ばかり作るのは面白く無いかも知れませんが、またこういう
「男の映画」を作っていただきたいものです。
最近はこういう映画を撮れる(撮る)のは(興業的な意味も含めて)北野監督だけみたいですから。



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シーサイドモーテル


日時 2010年6月27日15:00〜
場所 新宿ピカデリー・スクリーン6
監督 守屋健太郎

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)
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「シーサイドモーテル」という名前でありながら山の中にあるこのモーテルに、インチキ化粧品の
セールスマン亀田(生田斗真)がやってきた。そこへ部屋を間違えたコールガール(麻生久美子)が
やってくる。
別の部屋ではバクチの借金を踏み倒して逃げているチンピラ(山田孝之)とその女がいて、
そこへ追いかけていたヤクザ(玉山鉄二)がやってくる。別の部屋ではスーパーの社長(古田新太)
とその妻が泊まっている。また別の部屋にはキャバクラ嬢と旅行にきた男(池田鉄洋)がいる。
彼らのこの一晩の行方は??

「告白」に引き続き、始まって10分ぐらいで帰りたくなった。
素早いズームダウンやズームアップがあるのだが、その時に「ズーン」というような効果音が
はいる。
全く不要。こういうチャラい瞬間的な面白さを狙う映像を撮る人はきっとCMとかミュージック
クリップ出身なんだろうなと思ったら、やっぱりそう。
こういう人は30秒の映像も90分の映画も全く同じスタイルで撮ろうとするから始末に負えない。
これらは全く別物だ。
映画に素人の私でさえそんなことがわかるのだから、人から金をもらう映画を作る人がわかって
いなくては本当に困る。「日本で有料の映画を監督する人は少なくても映画を1000本観ること」
という法律を作ってほしい。

その効果音だけでなく、多すぎるナレーション(というか独白)、濃すぎるキャストなどなど観ていて
途中で帰りたくなった。
特にナレーションで心情を説明するなど映画としての魅力を半減させている。言葉にしないで
表現するのが役者の力だったり演出の力でしょう。その辺をすべて放棄したプロとはいえない脚本だ。

また警察官役の二人(赤堀雅秋、ノゾエ征爾)とかチンピラ見習い(柄本時生)とか拷問屋の
温水洋一とか無駄に濃い演技、自己主張の強い演技をするのでうっとうしい。
そして登場する女がみんながみんなわがままで自己主張の強い性格でこれも観ていて
イライラさせられる。
「俺なんかいろいろ失格っていわれてる」と「人間失格」のセルフパロディをするセンスも
気に入らない。

「偽物も時には本物になる」という生田斗真のセリフが数回出てくるが、この映画に関しては
偽物は偽物でしかない。

とにかく何から何まで気に入らない映画で、観ていてつらかった。
生田斗真が出ていなかったら観なかったろうし、最後の方で生田斗真の美青年ぶりは楽しめたから、
その分は観てよかったけど。



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ジャコ萬と鉄


日時 2010年6月26日17:10〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 谷口千吉
製作 昭和24年(1949年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


北海道ではニシン漁のために北海道各地や東北から出稼ぎ漁師が集まっていた。
その中の漁場の一つにジャコ萬(月形竜之介)と呼ばれる猟師がやってきていた。
漁場の持ち主(進藤英太郎)は彼の出現に驚く。実は終戦のどさくさの時に
ソ連の侵攻から逃れようとしたときにジャコ萬の船を盗んで逃げてきた過去があったのだ。
その恨みを晴らそうと機会を伺うジャコ萬。
そんなとき、漁場の持ち主の息子・鉄(三船敏郎)が帰ってくる。腕っぷしも強い鉄は
たちまち漁師たちを束ねていくのだが。

黒澤明も脚本に参加したことでも有名な谷口千吉の代表作と言われる映画。
学生時代に文芸地下で見たような気もするが全く記憶に残っていない。
それもそのはず、正直あんまり面白くないのだな。
このころの映画はみんなテンポがだるくて退屈するのだよ。
これが昭和29年ぐらいになって「七人の侍」とか「ゴジラ」の頃になると違うのだ。

ジャコ萬を惚れた女がいてこれが漁場まで追っかけてくるが、ジャコ萬が邪険にする。
鉄は好きな女がいてそれが町の教会でオルガンを弾いている女の子(久我美子)。
鉄の久我美子に対する想いはストイックなものでオルガンを弾いている姿を遠くから
見つめているだけ。

しかしそういったロマンスはあくまで添え物で、中心はやっぱりアクション。
時化がきたときに海に張ってある網をしまわないと網がだめになってしまう、ということで
時化の中を船を出して網をしまうあたりがまず見せ場。

そしてラストではニシンがいよいよ来た!30分も時間を逃したらニシンがとれなくなる!
というクライマックスにジャコ萬が漁師たちを漁に出させまいとする。
鉄がジャコ萬と対決するが・・というのが見せ場。
もちろん無事漁は行われてめでたしになるのだが。

あとここで今まで病弱で疎まれていた通称学生と呼ばれる男が「ニシンは誰かのものとか
考えずに漁に行きましょう。日本の食料事情がそれでよくなるんです」と訴えところは
当時の食料事情とか、その共産主義的発想に時代を感じた。

で、久我美子と鉄はどうなったかが気になったが、鉄は結局「俺は船乗りになる」と漁場を
姉夫婦(堺左千夫と賀原夏子)に任せ、そこを出ていく。
久我美子のいる教会に向かい、遠くから見つめるだけで言葉を交わすことなく去っていくと
いうストイックなもの。

そうそう前半に宴会のシーンがあって、鉄が「戦争で行った南方の酋長に教えてもらった」
という土人の踊りを踊る珍シーンあり。
ちょっと記憶しておくためにメモしておく。



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国際秘密警察 絶体絶命


日時 2010年6月26日15:10〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 谷口千吉
製作 昭和42年(1967年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


東南アジアのブッタバルの首相(田崎潤)が来日した。
しかし何者かにより首相を暗殺しようとする計画があった。
それを阻止する任務が国際秘密警察の北見(三橋達也)とジョン(ニック・アダムス)
に下される。
彼らを狙う国際的暗殺組織団ZZZの殺し屋たち(佐藤允、真理アンヌ、天本英世他)。
そして北見たちの前にたびたび現れる謎の女(水野久美)
ZZZは空気に触れると3000倍に膨張し、密室にいる者を圧迫死させる薬品を
用いて挑んでくる!

10年位前のケーブルテレビを引いた頃にこの映画を映画専門チャンネルで見たことがある。
しかしこのHPには記載されてないから見たのは1999年か2000年ごろだと思う。
三橋達也とニック・アダムスが二人で活躍するお馬鹿映画でがっかりした覚えがあったが、
今回見直してみたらこれはこれで面白かった。
脚本が関沢新一だからなのだろうが、三橋達也とニック・アダムスの掛け合い漫才のような
コミカルか会話はまるで「キングコング対ゴジラ」や「海底軍艦」の高島忠夫と藤木悠の
コンビのよう。
その辺の会話の妙がとってつけたような印象があったのだろうが今回は十分楽しめた。

国際秘密警察の日本支部は刑務所の中にあるので、本部に行くときには護送車に乗って
向かうという笑いもあり。
その二人に加えて二人の上司(宇佐見淳)の部屋に「油断大敵」と書いてあるボードが
飾ってあるが三橋達也がそれを裏返すと水着の女性グラビアが出てくるというオチが付く。
これがまた次の機会に三橋達也がめくると「仕事第一」という紙がグラビア嬢の上に貼って
あるというオチが付く。

全編こういったギャグに満ちている。
まじめに007を目指してもうまくスケール的に無理だからこういったお馬鹿路線に
徹した方がよかったのでは?
だから逆にニック・アダムスと佐藤允が朝鮮戦争で戦友だったので今回は敵味方に
分かれてしまい悩む、といったシーンは不要に思えてくる。

「国際秘密警察」シリーズも007に始まるスパイ映画ブームに乗っての企画だが、
最初が「中野学校卒業生の悲哀」みたいなものがあったが、だんだんコミカルアクション路線に
転向していく。
最初からこの路線で行けばよかったのに、というかこの三橋達也=ニック・アダムスのコンビで
もう2作ぐらい見たかった気がする。

あと最後になったが、本作では「国際秘密警察の助手にしてほしい」と勝手に押し掛け、
ただの女の子と思わせてレコード投げで殺し屋たちをやっつける、その正体は?という
謎の女性の水野久美がよかった。

あとはいかにも怪しげな首相の側近土屋嘉男や平田昭彦も東宝無国籍アクションらしくていい。



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四畳半色の濡衣


日時 2010年6月24日21:00〜
場所 銀座シネパトス1
監督 向井寛
製作 昭和58年(1983年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


昭和初期。遊郭旭楼にその場には不似合いな朝子(美保純)がつれられてくる。
先輩女郎の久子(ひし美ゆり子)のいじめにあいながら女郎として生きていく
日々だったが、ある日久子と喧嘩して階段から落ちたときの捻挫の治療にいった
病院で、院長の息子杉山昭彦(村嶋修)と出会う。
昭彦は朝子と結婚を決意するが当然のことながら親(根上淳)は許さない。

女郎屋を舞台にした恋愛ものだけど、正直退屈。
病院長の息子と女郎の恋なんて聞き飽きた話。
それが美保純がだましていくならともかく、まじめに恋愛してしまうからなあ。
そして美保純の父親も共産党に間違えられれて警察に拷問され死んでいったとか、
結核で苦しむ女郎とかでてきてエピソードが全部どこかの映画で見たようなシーンの
連続で面白くも何ともない。

最後に結局は別れさせられて、父親からお金を渡されるのだが、それを女郎仲間に見せて
「だましてやったよ」と泣きながらいうとかが見せ場なのだろうけど、演出のせいか脚本
のせいか盛り上がらないのだなあ。

美保純がでてくれば客としては裸を期待するわけだが、東映セントラル製作でせっかく
日活から美保純をつれてきたのに、妙に着衣したままの濡れ場だから中途半端なこと
この上ない。
しかも画面上で顔が上下逆になるようなアングルが多く、顔が逆になると一瞬誰だか
わからなくなるのだよ。
女郎の話だから誰の濡れ場があってもいいわけだから、美保純かも知れないし、
ひし美ゆり子かも知れないので余計にわからなくなる。

そんな感じで映画の方はどうにも盛り上がらない。
ひし美さん自身もチラシの映画紹介で「私ももう中年でしたね(笑)」みたいなことを
書いていたが、確かにひし美さんも30代半ばで、さすがにかつてのはじける感じはない。
アンヌファンの感想はいかがだったでしょうか?



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BOX 袴田事件 命とは


日時 2010年6月20日16:00〜
場所 ユーロスペース1
監督 高橋伴明

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昭和41年6月30日、静岡県清水市で味噌工場が放火され、焼け跡から工場の
専務一家の死体が発見される。
現場の状況から内部犯行という捜査方針を固めた警察は、専務が柔道の有段者で
あったことから元プロボクサーの袴田巌(新井浩文)を容疑者として逮捕する。
しかし袴田は否認。物証は乏しく、自供を取ることを優先させ連日の刑事たち
(石橋凌ら)の厳しい取り調べ上、自供する。
しかし裁判では一転否認。裁判官の一人の熊本判事(萩原聖人)は3人の裁判官の中で
ひとり袴田犯人説に疑問を抱き始める。

最近無かった実在の冤罪(と思われる)事件の映画化。
昔は「証人の椅子」「真昼の暗黒」などがあったが、この手の映画は久しぶりだ。

今回の映画では今までと大きく違っているのは、裁く側の裁判官の苦悩も描かれていること。
実際の裁判でも熊本判事は苦悩の末に死刑判決を出し、その後袴田無罪を立証すべく
奮闘している。
従って事件は袴田や弁護士の視点ではなく、この苦悩する裁判官の視点になる。
再三の裁判映画で感じているが、裁判というのは真実を追求するのではなく、
やっぱり一つの役所にすぎないということだ。
裁判長(村野武憲)や先輩の裁判官(保坂尚希)に押し切られてしまう。
結局熊本は裁判官という職業に疑問を感じ、退職することになる。

この後、裁判の後半で新たに発見された犯行時の着衣が味噌樽の中から発見された
にも関わらず、味噌による変色が全くないのはおかしいと指摘する文書を担当弁護士に送る。

その後、被害者宅の門を自分で作って侵入の不可能性を追求したようだが、このあたりを
もう少し詳しく描いてほしかった。ミステリーとしても面白さも映画を見ている方として
はやっぱりほしいですから。

袴田事件、結局再審は行われず袴田さんは死刑を待つだけの日々を送っているという。
現在は精神を病んでいる状態であるとか。
誤審裁判はなんとしてもなくしたい。
そういう気持ちになる。

主演の萩原聖人、新井浩文は好演。二人にとっての代表作になろう。
また刑事役の石橋凌、出演場面は少ないが捜査検事役の大杉漣もよかったこと書き添えておく。



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宮廷画家ゴヤは見た


日時 2010年6月19日19:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 ミロス・フォアマン
製作 2006年(平成18年)(日本公開2008年)

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ナポレオンが活躍していた頃のヨーロッパ。
スペインでは教会が風紀のみだれを憂いて教会による裁判を強化することに決定。
ロレンソ(ハビエル・パルデム)にその活動の中心的役割を果たさせることになる。
そんなとき、豪商の娘イネス(ナタリー・ポートマン)は友人たちと食事をした際に
豚肉を食べなかったことをユダヤ教徒ではないかととがめられ、連行されてしまう。
父親は友人で宮廷画家もつとめるゴヤ(ステラン・スカルスガルド)のつてを
たどってロレンソに娘の無実を掛け合う。


歴史ものは洋の東西を問わずどうも興味がわかない。
今回はグリソムギャング支配人のお勧めということで観賞。グリソム支配人のお勧めは
大当たりもない代わりに大きくはずれる映画はないから。

結論からいうと面白かった。
タイトルが「宮廷画家ゴヤは見た」だからゴヤが見た宮廷で起こった数々の事件を
オムニバス的に描いていくのかと思ったらそうでもなく、要は権力志向のロレンソと
無垢な娘イネスの悲愁物語ともいえる。

ロレンソはイネスの父に「教会は絶対に間違えない」と言い放ち、怒ったイネスの父は
ロレンソを軟禁し「自分は猿の子供だ」と無理に告白を書かせる。
それを問題視されることを恐れたロレンソはどこかに逃亡する。
しかし一旦とらえてしまった者を釈放することは教会の権威に関わるので許されない。

数年たって今度はナポレオン軍が「スペインを圧制から解放する!」という
名目のもと侵攻を開始する。
しかしナポレオン軍はスペインで略奪を行う。
(なんだか昔の日本軍みたいだ)
そして占領軍の幹部としてあのロレンソが帰ってくる!
いやすごいね。節操ないというかたくましいというか。
恐れ入る。

それを知ったゴヤはロレンソに掛け合ってイネスがどうなったか調べさせる。
彼女は幽閉に耐えられずついには正気を失っていたが、実はロレンソが犯したことがあり、
その娘がいるらしいのだ。ゴヤもロレンソも調べていくと、その娘は今は公園で身売りをしてる。

そんな感じで10数年に渡る悲劇の連続で、飽きさせない。大河ドラマとして十分楽しめた。
出演はなんと言ってもロレンソ役のハビエル・パルデム。
権力のためなら思想は関係ない男を悪辣に演じる。
また悲劇のヒロイン・イネスにナタリー・ポートマン(成人した娘役と二役)。
清楚な美しさがすばらしかった。



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陰獣(フランス版)


日時 2010年6月19日16:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 バーベッド・シュローダー
製作 2008年(平成20年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


フランスの推理作家アレックスは日本の推理作家大江春泥を尊敬しており、
自著の日本語版発売のキャンペーンで来日した際に会いたいと思って
来日した。
京都でテレビ出演をしたり、書店でサイン会を行ううちに、出版社に
連れられたお茶屋である芸者(源利華)に出会う。
翌日、彼女から連絡があり会いたいという。彼女は大江春泥から脅迫を
受けているというのだった。

なんと江戸川乱歩がフランスで映画化!
しかし日本ではひっそりと公開され、見た人はほとんどいない(らしい)。
はっきり言うけど一言でいえばやっぱり「ゲイシャ・フジヤマ」の域を
出ていないということだ。
(富士山は出てこないけど)

まず脅迫される女主人公が原作では実業家夫人で、殺されるのはその夫、
という話なのだが、この実業家夫人をやっぱり日本のイメージに合わせるために
「ゲイシャ」にしてしまった。
監督は江戸川乱歩ファンだそうだから原作との変更に抵抗があったかも知れないが
(ないかも知れないけど)やっぱり「日本の原作を映画化するならゲイシャを出せ!」
プロデューサーサイドから言われたんだろうなあ。
フランスの観客なんか江戸川乱歩なんてほとんど知らないだろうから、フランスの
観客を喜ばせるために「ゲイシャ」が必要だったと思われる。
あと新幹線も重要らしく、わざわざ合成で新幹線がいれこまれる。

あと石橋稜が殺される実業家なのだが、これが拳銃持っているボディガードを
引き連れていてどう見てもヤクザにしか見えない。
「ゲイシャ、フジヤマ」じゃなくて「ゲイシャ、ヤクザ、シンカンセン」が
今のフランス人の日本のイメージなのか?

原作は犯人が実業家を殺しその犯人を大江春泥に仕立て上げ、それを主人公の
推理作家に証明させる、というのが大体の筋書きだが、今回はその推理作家に
実業家を大江春泥と思わせ殺させるという大胆な変更だ。
原作は推理作家はその犯人の罠には結局引っかからないのだが、今回はまんまと
乗ってしまい、推理作家は殺人を犯し逮捕され、面会に来た犯人の協力者に
真相を教えてもらうというなさけな〜い顛末。
主人公の推理作家がバカすぎるよ。

登場する日本人は主要な人はフランス語を話す必要があるので日本では見かけない人。
しかし石橋稜のほかには藤村志保や菅田俊がワンシーンづつ登場。

あとオープニングで何やら刑事が犯人逮捕のために日本家屋に入っていって
首が飛びまくる殺陣を演じるが(西村和彦が刑事役)これが長くて混乱する。
多分劇中映画の設定だろうなと思っていたらやっぱりそうで主人公の推理作家が
大学の講義で大江春泥の映画化作品を参考上映していたというもの。
監督としてはこの冒頭の推理作家のように江戸川乱歩をフランスに紹介する
のが大きな目的であったと思う。
それが成功しているかは解らんけど。



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孤高のメス


日時 2010年6月19日12:30〜
場所 新宿バルト9・スクリーン
監督 成島出
 
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看護婦であった母・浪子(夏川結衣)の葬儀の後、母の日記を発見した弘平
(成宮寛貴)は母の20年前の日記を発見した。
当時市民病院に勤める母は医師たちとの関係も悪く、仕事の生きがいを
見いだせないでいた。そんな時、当麻(堤真一)という優秀な外科医
が赴任する。
患者第一に考える当麻の医師としての素晴らしさゆえに尊敬していく同僚の医師たち。
そんな時、病院の運営の後ろ盾の市長(柄本明)が入院してくる。
肝硬変だ。それを救う方法は生体肝移植だ。
提供者が見つからない中、浪子の友人の息子が交通事故で運ばれる。
彼は脳死した。遺族は肝移植をしてくれるよう訴えるが。


最近テレビドラマでははやりの医療もの。
これは「白い巨塔」のような権力抗争ものではなくヒューマンドラマ。
良心的な当麻医師の医療に立ち向かう戦いが描かれる。
大学から医師を派遣してもらっている手前、大学の意向を無視できないで
常に顔色をうかがっているような実態。
それはまず着任時の人事から始まる。
そして「難しい手術はすべて大学病院へ」という慣例に象徴されるように
すべてが事なかれ主義に陥っている。

そんな病院に赴任した当麻医師だが、見事なメスさばきで
難しいと思われた患者も手術を成功させてしまう。
後の市長の娘とのお見合いのシーンで「先生はこの町のブラック
ジャックですね」と誉められるが、まあヒーローぶりがたくましい。
こんな医師がどの町にもいてくれたらと思うような外科医だ。

そんなヒーロー物語と言ってしまえばそれまでなんだけどこの映画では
手術のシーンが比較的丁寧に描かれる。
どっちかというと私は手術のシーンで内蔵なんかが写されると目を
背けたくなるたちなので、ちょっと閉口もしたが
やはり後半の肝移植のシーンで、最後に手術が成功した証に肝臓に血液が
循環し始めうっすらと赤みを帯びるところは見せ場と言ってよい。
ただし今も書いたように手術のシーンが苦手な方にはつらいかも?

それにしても外科医というのは大変な仕事だと思う。
常々こういう外科医のドラマをみていて思うのは手先が器用でなければ
つとめられないなあという言うことだ。
あれだけ複雑な血管や神経の間をメスをはわせていくのだからその器用さは
ほとほと感心する。
もっとも映画の中では誤って血管を傷つけてしまうしーんもあったけど。
この映画の中でも「外科医の仕事は手編みのセーターを編むような地味な仕事」
という表現がされるが、実によくわかる。
しかも大手術となると10時間を越えることもある。
普通に10時間働いても疲れるのに、あんな細かい作業を10時間も
(しかも立ったままでだ)続けるなんてその体力にはほとほと感心する。
映画とは直接関係ないですが、普段から感じている外科医の仕事のハードさを
改めて感じさせます。

映画のほうは肝移植のシーンが丁寧に描かれ、ここがクライマックス。
また当麻の足を引っ張ろうとする医師が最後には別件での医療ミスを
追求されるというオチが付く。
ここはこうならなければいけません。

しかし成宮寛貴のシーンは映画としては不要。
ああいうシーンがあるから最近の映画はなにか事情があって2時間以上に
しているのか?と疑われてしまう。

出演は主演の堤康彦が好演。
脇では当麻を尊敬する医師で吉沢悠。映画では「夕凪の街桜の国」以来だと思うが
実直な医師役がよかった。
大人が主演の大人も楽しめる映画。



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告白


日時 2010年6月18日20:15〜
場所 新宿バルト9・スクリーン9
監督 中島哲也

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)
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1年B組の3学期の終業式のホームルーム。
担任の森口悠子は先月4歳の愛娘を学校のプールに落ちる事故で
亡くしていた。しかし彼女はあれは事故ではなく、殺人だと言う。
しかもこのクラスの生徒だと。
彼女はその犯人をA、Bと呼んだが、生徒たちにはそれが誰であるか
明白だった。
森口の夫はマスコミで話題の熱血教師。しかしHIVに感染していた。
生徒たちは毎朝牛乳を学校で飲むが、その夫の血液をA、Bの生徒の
牛乳に混入させたという。
そして森口は退職していくのだが。

おととし出版されベストセラーのミステリーの映画化。
先月私も読んだが、面白い!ベストセラーも納得の出来だし、ここ数年
で一番面白かった小説と言える。一気に読ませる。
これが映画化されると聞いて果たしてどうなるか?
しかも監督は私がここ数年で一番嫌いな中島哲也。
彼の映画は常に途中で出たくなる。前作「パコのなんとか」も途中で
出ようかと思った記憶がある。(出なかったけど)

でも評判がいいので「もしや?」という期待もあった。
しかしやっぱり駄目だった。中島哲也はやっぱり中島哲也だ。

カラフルな色使いだけはやめた。
しかしカット数の多さで時々ミュージカルシーンもどきもあり、時折
洋楽の曲がインサート。
まったく以前と変わっていない。
今回は原作を先に読んでいるだけにイメージがあったので余計に気になった。
そして真上からのカットとかスローモーションの多用とか流れる雲のカットとか、
とにかくカットカットに目立つ映像を作り出してはいるが、それが
映画全体のクォリティを高めているとは思えない。
少なくとも私にはうっとうしいだけだった。

で出演者では松たか子。30過ぎて今までのようなお嬢様役では行き詰まりを
感じたか、あるいは新しい可能性を見せたくてか今までになかった役で
大成功。ひょっとしたら演技賞を取るかも知れない。
岡田将生も勘違い熱血教師を好演。
また生徒A、Bの犯人たち、クラスメートのミズホ役の橋本愛など3人とも
よかった。
これからに期待する。
やっぱり中島哲也の映画は今度こそ見たくない。



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メス


日時 2010年6月16日21:00〜 
場所 銀座シネパトス1
監督 貞永方久
製作 昭和49年(1974年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


優秀な外科医、式根(高橋幸治)は葛城病院長(金田龍之介)が今度
行う手術に反対した。患者の状態から失敗の確率が高いということだ。
「家族も手術を希望している」と病院長は手術は決行。やはり死亡した。
死亡した患者は大協薬品会社の社長だった。
そんな時、医学界に力を持つ菊川(三国連太郎)が入院してきた。
彼の執刀は式根が行うことに。
実は大協薬品社長の死はそれを願う菊川の指示により、葛城が行った
ことだった。
しかも式根は菊川が昔、看護婦に産ませたことだった。
様々な陰謀が渦巻く中、菊川の手術は行われる。


銀座シネパトスでのひし美ゆり子特集の1本として上映。
貞永監督は一時期松竹のサスペンス路線を担っていた監督。
代表作を問われるとちょっと迷うけど、安定した作品を撮っていた
イメージがある。またこの作品は以前グリソムで上映作品候補
だったけど、その時の企画者が「ひし美ゆり子さんゲストで『メス』」
とこだわっていたので、関心があった映画なのだ。

結論からいうと結構面白い。
最近は医療物もテレビ番組のジャンルとして確立しているが
(それもヒューマンなヒーロー物と権力抗争物に分かれるけど)
この「メス」は後者の方。
菊川がなぜ医学界で実力を持ちえたか?彼の秘密とは?手術は成功するのか
などなど複数のサスペンスがある。

途中、式根の後輩医師の恋人(まだ17歳)の手術をするのだが、
過去に妊娠経験があるなら手術は危険、という判断になるが、17歳の
少女だもん、妊娠してるかしてないか?純潔かどうかを問われることになり
最後は夜の病室で裸になり「私は純潔です!」と訴える。
それを信用して手術をしたが、過去に不良にレイプさせられたことがあった
ために彼女は死んでしまう。
そのレイプした不良が式根に好意を寄せる看護婦の夏純子の弟。
ちなみにその彼女がひし美ゆり子。だからあまりいい役ではない。

実は菊川は自分の精神病院に軽症の患者も薬漬けにして重症にして
さらに人体実験まで行っていた、というわけ。
その人体実験を行ったのが葛城院長たちで・・・というオチ。

式根はそれを暴き、自分の恩師(岡田英次)も関わっていたことを知り、
良心に従い、自分の医者としての地位をすて告発するというエンディング。
三国連太郎、金田龍之介、米倉斉加年(三国の弁護士)、岡田英次などの
芸達者たちの共演は見ていてホントに飽きない。
特に主演が高橋幸治というのが珍しい。
「連合艦隊」の宇垣纏役が印象深いが本作もよかった。
あとはこの頃の松竹では常連の夏純子、東宝の水野久美が高橋幸治と
米倉斉加年がかつて恋人として争いあった女性として登場。

面白かったです。



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白日夢2


日時 2010年6月6日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 武智鉄二
製作 昭和62年(1987年)

(詳しくは日本映画データベースで)



葉室千枝子(愛染恭子)の歯科医を一人の若き女性が患者として
訪れる。
彼女は千枝子に麻酔をかけられ、エロスの漂う白日夢をさまよいだすのだった。


もうストーリーもへったくれもないね。
64年版「白日夢」を見て一応この「白日夢2」も見る。
話の流れは今までの「白日夢」と同じで若い女が歯医者で犯されていくという
流れ。今度は医者が女医になって基本がレズプレイになる。
状況が変わるだけで愛染恭子が新人の霧浪千寿を責めまくるというシーンが
続く。

ここまで来るともう映画じゃない。アダルトビデオっぽくなるがアダルト
ビデオはまだ飽きさせないようにアングルを変えたり編集でつまんだりするが
これはもう延々と映していく。
はっきり言って飽きる。
寝た。DVDだから起きてから続きを見たのでなんとか最後まで見れた。

その中でイメージとして面白かったのは裸でホテルの一室らしきところに
監禁された霧浪千寿が部屋の扉を開けるとそこは西新宿のビル街。
トラックが突進してきたので思わず扉を閉める。
別の扉を開けると幻想のお花畑で愛染恭子が裸でいる。
またまた別の扉(クローゼットみたいな扉)を開けるとそこは大波。
閉めてもその隙間から水が入ってきたカットは少し笑った。
扉の外には別の風景と言うのはSFチックな幻想で少し面白かった。

あとは最初に愛染恭子が霧浪千寿を責めまくるところ(陰部に顔のアップ
が合成されるという演出)「好きな男の名を言いなさい。峰岸徹?名高達郎?」
と80年代後半に人気俳優だった実名を挙げるのも今となっては面白い。

でもまあ兎に角映画というより完全にブルーフィルム状態で(ピンク映画でも
もう少し話めいたものはある)いい加減にしてほしかったですがね。
配給のグローバルは「ナチ卍第三帝国 残酷女収容所」とかも配給していた
ようだから、要するにエログロ映画が中心の会社だったんでしょうね。



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白日夢(1964)


日時 2010年6月6日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 武智鉄二
製作 昭和39年(1964年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


歯の治療を受ける倉橋(石浜朗)。抜歯のために麻酔を受けるが
その朦朧とした意識の中で隣の美女・葉室千枝子(路加奈子)の胸に
医師がかみつくのを見る。
やがて千枝子はホテルやデパートで医師に犯されていくのを倉橋は
見ていくのだった。


1981年に武智鉄二がセルフリメイクした同名映画の最初の奴。
松竹マークが最初に出てきてびっくりした。
そうか、松竹系での公開だったのか。
映画も東京オリンピック以降の時代でテレビに押されっぱなしで
松竹も混迷していたのだなあ。

内容は原作とはこの段階でかなり違っていて81年版はこれとほぼ同じ
と言える。
冒頭にまだ存命だった谷崎潤一郎から「初めて上演をしたいと武智君から
話があったのは随分前のこと。最初はオペラとかミュージカルに
したいという話だったが、今回の映画になった。今僕が書いたら
こうなったという感じに仕上がっている」というコメントが字幕で
表示される。
その後武智鉄二のあいさつ文も出てきたが大したことは書いていなかったと
思う。

で映画は始まるとそこはアバンギャルドの世界。
当時の観客は(今でもだけど)わけわかんなかったろう。
さらにセリフもなくて映像だけで示されて、しかもそれがネチネチくどくて
飽きるのだ。
今回日曜日の昼間に自宅で見たが、1時間ぐらい昼寝して準備をして見始めたが
1時間を超えたあたりでやっぱり寝た。
それぐらい退屈なのだよ。

歯医者でドクトルが千枝子の胸にかみついて歯型がついて、それから
ホテルに行ったりして倉橋がそれを追いかけていくのだが、ホテルの
部屋の外から千枝子が責められるのを何もできずに見ているだけになる。
それで(このシーンだけではないのだが)千枝子が責められるシーンに
なると歯医者の「うい〜ん」というドリルの音が挿入され、歯医者そのもの
のエロティックを表すが、何度もやると笑えてくる。

そして途中パートカラ―になって(映画自体は白黒作品)で、デパートに
舞台は移る。
デパートのエスカレーターを下りて千枝子はドクトルから逃げようとするが
エスカレーターが登って行ってしまい千枝子は下りても下りても逃げられない
というシーンが長く非常に退屈する。

ラスト、夢から覚めた倉橋が治療を終えた千枝子がハンカチを忘れたのを見て
追いかける。
しかし千枝子の胸にはドクトルがつけたであろう歯型の跡がある、という感じで
あながち夢ではなかったという話で終わる。
千枝子が自分の車に乗っていこうとするのを倉橋が追いかけ、千枝子は自分の
車に倉橋を乗せる。その車は皇居のお堀に止まっており、カメラは大手町方向の上から
南向きで狙い、車は東京タワー方面に走っていく。
で左に(つまり東京駅方向に)パンして「終」。
ここは右にパンして皇居とか国会議事堂を映してくれれば意味もあった気もするが
なんだか東京のビルを映されてもねええ。

その中途半端さが武智鉄二にリメイクをさせるきっかけになったのかもしれない。



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愛しき人妻 ひと夏のたわむれ


日時 2010年6月1日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 今岡信治
製作 平成12年(2000年)



朝焼けの町を行くユカリとその子リョウ。ユカリは家出してきて今は行くあてもない。
テレクラに電話して「なんでもします。お小遣いください」と繰り返す。
そこでフリーターのヨシオと知り合う。子供連れのユカリをじゃけんにも扱えず
家に置いてしまう。
バイトに出かけるときになって困ったヨシオは隣の部屋に住むマチコに
子供を預かってもらうよう頼む。
ユカリはテレクラで知り合った男にだまされつつ、ピンサロで働くように。
そんな時、マチコの昔の男、ゴロウが帰ってくる。
3人で家族のような暮らしを始めるユカリやヨシオだったが、そこへ
逃げてきたユカリの夫が現れる。

いまおか監督のオリジナルビデオ作品。
劇場公開はしていないと思う。だからこのサイトに感想を書こうか迷ったけど、
上映時間も65分とピンク映画と同じサイズなので、今回は映画扱いとする。
ビデオ作品だから作品の作り方が違うかと思ったが、フィルムかビデオカメラか
の違いだけで、作品に対するスタンスは違うようには思えなかった。

2000年作品で10年前になるが、テレクラで男を捜すというあたりがすでに
懐かしい。2000年ならまだまだネットは今ほど一般的ではなかったし、
今なら出会い系サイトと言うべきか。

一人の子連れの人妻がふらりとやってきて知り合った人と世話になる、という
基本的展開は「寅さん」的人情話だ。
笑いどころもあって、リョウを預かったマチコが間を持て余してリョウに
おもちゃを渡すのだが、それがバイブというあたり。
スイッチを入れて先端がグルグル回るのを見せて楽しませるあたりは
ピンク映画らしい笑いどころで大いに笑った。

ラスト、ユカリは迎えに来た夫を一旦は拒否するものの、子供が夫に
抱きついたのを見て結局よりを戻す。
マチコの男、ゴロウも一旦はマチコのもとに帰ってきたが、すぐに
いなくなってしまう。
しかしラストで「仕事見つけて来た」と帰ってくる。
この辺のラストが私には違和感があった。
ユカリの夫は借金を作ってユカリを困らせて今までにも何回も「これからは
ちゃんとする」と言って裏切ってきたようなダメ男。
私はダメ男が嫌いなのでここは「かえるのうた」や「たまもの」のように
ダメ男には鉄槌を食らわしてやりたかった。
マチコの男も同様。

最後にユカリたちと遊んだ花火で一人さみしく遊ぶヨシオが切ない。

また今回は「靴をはく」「はだし」が意味あるように思えた。
ユカリが初めにテレクラで男を見つけた時にやり逃げされて、追いかけて
外へ出て見つからずにあきらめた時に道で見つけた靴をはいているし、
マチコのもとに帰ってきたゴロウがいなくなって探しに行くときはマチコは
はだしで外に出て、犬のウンチをふんでしまうところが印象的。
もう1回見れば隠された意味が解るかも知れない。



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