2012年6月

ペリリュー決戦 愛欲の宇宙戦争 男痕 THE MAN
エクスタシーの涙
恥淫
ファイナル・ジャッジメント 先生を流産させる会 アブノーマル 陰虐
JAZZ爺MEN ザ・スパイダースの
大進撃
痴漢電車 下着検札 変態家族 兄貴の嫁さん

ペリリュー決戦


日時 2012年6月30日15:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 目羅嘉也
製作 平成23年(2011年)


昭和19年9月。
パラオ群島のペリリュー島は小さな島だったが、米軍の反撃拠点として飛行場建設地として最適と選ばれ、ペリリュー島を浮沈空母と考えた米軍によって攻略作戦が行われる。
圧倒的な米軍に対して日本軍守備隊は不利。
しかし日本軍は珊瑚礁によって出来た洞窟を陣地に改造して待ち受ける。米軍は圧倒的艦砲射撃の後、上陸。
艦砲射撃により日本軍は壊滅状態だと思った米軍だったが、洞窟に隠れていた日本軍は実はほとんど無傷だった。
水際で撃退しようとする日本軍、しかし圧倒的な人員を誇る米軍。死闘が始まる。

自主映画である。
今年の横浜のアクションムービーコンテストで「深作健太賞」を受賞した作品。コンテストでは20分の短縮版だった(こちらは観ていない)が、今回グリソムでは60分の全長版で上映。
自主映画で戦争映画を撮るとどんなものが出来るのかと思ったら、これがなかなかよく出来ている。

ペリリュー戦というのはアメリカでは太平洋戦争の激戦地として有名らしいが、日本では何故か「太平洋で数多くあった戦いの一つ」として知られていない。
私自身もパラオ諸島は知っていたが、ペリリューは知らなかった。
今回映画を観るだけでなく、事前にペリリュー戦記を書いた本を読了。予備知識を入れてから観た。
おかげで映画に描かれている状況も混乱せずに把握出来た。

正直、「沖縄決戦」とかで描かれた消耗戦と同じようなもんだから「映画としては」それほど目新しいものはない。
それよりも24歳の日芸出身の監督が「ペリリュー」を映画化したことが評価されること。

監督は映画ファンである以前に相当なミリタリー、第2次世界大戦マニア。そしてその仲間たちが作った映画だから細かい点にやたら凝る。
出演者たちもそういう人たちだから、ミリタリーとしては正確なんだろうけど、素人が出演してるから、「役者が弱い」という自主映画としての域は出ていない。

それでも出演者たちは喜々として撮影していたようだ。
現場に遅刻してきた人に「遅延の理由は何であるか?」と話しかけるような現場だったそうだ。

こういう映画を撮る人というと妙に右翼チックな人かも知れないと思ったが、そういう政治性は全くなし。
そういう人が時々寄って来るそうだが、溶け込めないらしい。
でも兵器とか戦記について得々と語る監督やその仲間たちの生き生きぶりは「ゴジラファン」がゴジラや特撮のミニチュアについて得々と語るときと同じ空気を感じた。
うん、好きになった対象が日本軍かゴジラかの違いで情熱は同じなんだな。

ペリリュー戦についてちょっと記しておくと、この映画では玉砕するあたりで終わっている。
でもその後も30数名が洞窟ゲリラとなって米軍の食料、武器弾薬を盗みながら生きていた。昭和22年になって米軍が必死の説得で投降させるあたりは涙が出た。
そして帰って来てからも大変。
戸籍はなくなっているし、思わず「2年間も洞窟で頑張った者に対する仕打ちか」と言ってしまうような困難が待ち受けている。本格的な映画にする場合は、この終戦後の部分も描いて欲しいと思う。
いい勉強になった。



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愛欲の宇宙戦争


日時 2012年6月30日13:00〜
場所 ザムザ阿佐ヶ谷
監督 白石雅彦
製作 平成16年(2004年)未公開


1989年(明治21年)。
地球は謎の円盤群に襲われた。日本も例外でなく、東京のある貴族の令嬢・麗子(林由美香)は下男の寅吉(千葉尚之)につれられて山の中に逃げる。
わがまま放題に育てられた麗子は事態をわかっているのかいないのか、お腹が空いたら「シュークリームなら食べる」と言い出すわがままぶり。
寅吉も仕方なく諭す時が続いたが、「もう化け物にみんな殺されたんだ。貴族も下男もねえ」と寅吉は麗子を襲う。
一旦は逃げ出した麗子だったが、近くの村が全滅しているのを見て、やっと考えを変える。寅吉に「二人で子供をたくさん作って、時間はかかってもあの化け物どもをやっつけよう」。
やがて二人は子作りに励み出す。そんな時、足柄の山から梅(里見遥子)という女が、二人の元にたどり着く。

「ゴジラ」シリーズの特撮スタッフとして参加し、近年は円谷一氏や飯島敏宏氏の研究本のライターとしても活躍している白石雅彦氏の監督作品。
白石氏の経歴にふさわしいSF作品だ。
完成時に有料試写会が開催されたが、一般興行は行われなかったそうだ。
今回、林由美香の7回忌にちなんで特別上映。

いかんせん低予算で登場人物も少ないなどの制限があるのはわかるが、それにしても3人というのはつらい。
極限状況に追い込まれた人間たちのドロドロのドラマというのは「マタンゴ」「ミスト」とSFでも時々あるドラマだが、それにしても3人ではドラマになりようがない。
ここはあと2人くらいは(男でいい)が加わると面白くなったと思うのだがなあ。
麗子の婚約者の貴族の青年がサバイバル状況では役にたたないとか、野生の男がいないと日々の食料に困るとか、いろいろと展開も出きると思うのだが。

それでも3人というならここから移動してどこかへ行こうとか仲間を探しに行こうとか場所とか事件が起こればいいのだが、2人と女性が1人の男を取り合う展開では展開がなくつらい。

ドラマの方はその後、料理が出来たりする梅に嫉妬した麗子が梅をいじめ、追い出してしまう。
寅吉はそれを発見し、連れ戻す。
最後は麗子は宇宙船からの光線で死ぬ。
梅と寅吉は子作りに励むが、次のシーンでは梅は墓に埋められている。
で、寅吉は竹槍を作って空飛ぶ宇宙船にむかって「必ず倒すぞ!」と叫んでエンド。

せめてラストにオチがあればよかったのだが、特にそういうわけでもなく、残念だった。
でもCGを多用した特撮シーンは低予算ながら頑張っていたように思う。



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男痕 THE MAN


日時 2012年6月21日21:00〜
場所 銀座シネパトス1
監督 園子温
製作 平成10年(1998年)

(詳しくはピンク映画データベースで)


園子温が撮った2本のピンク映画のうちの1本。
もう1本は「性戯の達人 女体壷さぐり」は去年観た。
それなりにおもしろく観た。
でもう1本がこれ。
タイトルからイメージされるようにゲイ映画だ。
銀座シネパトスのチラシに「せりふがまったくない映画」と書かれていた。しまった。予備知識なしで観た方が驚きがあったな。

サングラスの男が連れの若い男と雀荘に入る。
そしてある卓で麻雀を打ち出す。連れの男が電気を消し、その間にサングラスの男が同じ卓の3人の男女を殺害する。逃亡する2人。3人とも死んだと思われたが、その中で黒人のように顔を黒く塗った男通称エセ黒人だけが生き残る。
サングラスの男と連れの若い男はその後、体を結ぶがサングラスの男は逃亡の足手まといになると思ったのか、若い男を刺してしまう。
サングラスの男は車で移動するが、その途中、クスリで少しラリっている男のカップルを乗せる。
3人は廃ビルでボーリングをしたりして遊ぶが、やがては例のエセ黒人が追跡してくる。
ホテルで別の若い男とエセ黒人が体を重ねているところを逆襲するサングラスの男。しかし風呂場に追いつめた若い男によってサングラスの男は刺されてしまう。
サングラスの男は息を引き取った。
最初のサングラスの男と一緒だった若い男はサングラスの男が最後に大事にしていたロボットのおもちゃを見つめる。

大体こんな感じ。記憶で書いているので、詳細が違っていたらご容赦を。
フィルムノワールでせりふがない映画。
実験的な手法だが、それ以上の映画ではない。
もちろん今年のアメリカ・アカデミー賞受賞で話題になった「アーティスト」よりずっとサイレント映画としては成功している。
でも基本的にホモ映画、ゲイポルノなのでそういう本来のこの映画の目的からするとあまり誉められたものでもない。

だから園子温の映画テクニックももちろん評価に値するが、こういう映画を作らせてくれた大蔵映画の方も同様に評価していいと思う。
せりふの少ない映画も好きだが、やっぱり登場人物が印象的な台詞を言って心に残ることもある。
だから全編台詞なしだとちょっと寂しさが残る。

この映画は実験映画の域を出ていない感じがする。
フィルムノワールとしては素晴らしい映画とは思えない。
でも実験映画としては大成功だと思う。
説明台詞の多い今の映画を見慣れると、別に説明はいらないということが改めて気づかされる。
そういう点で、気づかされることも多い映画だと思う。



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エクスタシーの涙 恥淫


日時 2012年6月21日20:00〜
場所 銀座シネパトス1
監督 大木裕之
製作 平成7年(1995年)


大木裕之という監督は、私が大好きな映画「あなたが好きです、大好きです」の監督。
四国の高知在住で地元で自主映画などを撮っている監督と聞いた。ENKプロモーションという大阪のゲイピンク映画専門の会社で「ターチトリップ」「心の中」などの映画を撮っている。好評らしい。実は観ていない。

「あなたが好きです、大好きです」は大好きな映画だが、たぶんに実験映画的で、たまたまピンと来るものがあっただけで、他の映画まで積極的に観る気にはなれなかったのかも知れない。ゲイ映画館なんていかないし、たまたま観る機会がなかっただけとも言えるのだが。

長々と前置きを書いたけど、何故かというとこの映画、全く受け付けなかったのだ。

不思議な家族がいる。
父と母と20歳ぐらいの息子と高校生ぐらいの妹がいる。
父と母は妙に若く、二人とも30過ぎぐらいだ。
それ以上はよくわからん。
妹は好きな男(同級生ぐらい)がいて、彼の部屋でセックスする。その部屋に彼の父親らしき人がやってきて、彼には話しかけないがあらぬ方向を見て「友達がきたぞ」と話しかける。
主人公の息子の方は、倉庫のようなところでオナニーばかりしている。
そこへ息子の女友達ときどきやってくる。息子の方は「いくときにUFOが見える」という。
父親はホモらしい。母親は妊娠したという。
両親は自分たちは宇宙人で向こうの世界に行って子供を生むという。

万事そんな感じでイメージ的なシーンの連続。
正直、ついていけない。
またさらに私をいらいらさせたのが、シーンが切り替わる旅に「シーン・ナンバーワン」「シーン・ナンバーイレブン」とか毎回(完全に毎回ではなく、ないときもあったけど)英語のネイティブな発音で(日本人のカタカナ発音ではなかったという意味)ナレーションが入る。
これがなんだか勘に障ってイライラさせられる。
こんなことをする映画を観るのは初めてだ。

でもコントラストが利いた鮮やかな画が多く、その点はよかった。大木裕之のことを「映像の詩人」という紹介を去れた文を読んだことがあるが、それももっともなのかなと思った。
正直、ストーリーらしいストーリーもなく、観ていてつらかったのが本音。大木監督の上記の2本もいつかは観る予定だが、こういうタイプの映画だったらつらいな。
こんな映画を持ってこられた国映もつらかったろうなあ。



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ファイナル・ジャッジメント


日時 2012年6月10日18:00〜
場所 新宿ミラノ1
監督 浜本正機

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


2009年、総選挙の年、鷲尾正吾は選挙に出てオウラン共和国による日本侵略の危機を訴えたが、選挙では当選できずに代わりに正吾の父・哲山(並樹史郎)の率いる民友党が政権を取った。民友党は「平和憲法の堅持」「日米安保条約の見直し」を掲げていた。
正吾は選挙中にかつてオウラン国に侵略された南アジア共和国の娘リンと知り合う。
数年後、オウラン国は沖縄の領有権を主張し日本政府はそれに対して有効な手段を取ることが出来なかった。
やがてオウラン国は突如、武力で侵攻。日本はオウラン国
の極東省になってしまった。
かつて正吾と選挙を戦った中岸が正吾の前に現れる。中岸は父・雄二郎(田村亮)とともにレジスタンスを結成していた。オウラン国は信教の自由を禁じ、すべての宗教を許していなかった。雄二郎はありとあらゆる宗教の信者たちのより所になっていた。
正吾はこれから救世主となることを期待されたが、本人には自覚がなかった。
しかしやがては正吾は自らの救世主としての役割に目覚める。

「幸福の科学」の大川隆法製作の映画。
今まで大川隆法は何本も映画を作っているが、すべてアニメ。(今までは東映配給だったが、今回は日活配給。そのせいか知らないけど、宍戸錠がオウラン国極東省総裁として登場)
日本占領!という映画的におもしろそうな感じがしたし、「『幸福の科学』の映画ってどんなだ?」という興味もあったので鑑賞。

意外とまともな映画だったなあというのが印象。
もっともオウラン国による日本占領が唐突でいくらなんでも無理だろう、という印象は拭えない。もちろん「宣戦布告」のようなポリティカルフィクションを期待するのは無理だと思っていたから、その辺の点数はあらかじめ甘い。
まあ突っ込みどころは多数あるけどここではそこを指摘する野暮はなし。

オウラン国が中国をモデルにしているのは明らかだが、それほど中国を敵視する内容にはなっていない。
(もっともパンフレットを読んだら「中国は日本を侵略しようとしている!」と危機をあおりまくっていたが)
僕自身は尖閣諸島ぐらいでもめることはあっても日本本土を占領しようとするとは思えない。まあそれがきっと「平和ボケした日本人」なんでしょうけど。

結局正吾は捕まってしまい、味方だと思っていたリンが実はオウランのスパイだったり、そのリンが心変わりして正吾を助けるとかいろいろあって、ラストは正吾の渋谷での大演説で終わる。
この演説が割と普通で「宗教を信じれば人は許しあい、愛し合うようになる。そして世界は平和になる」ということ。
「幸福の科学」独特の宗教観とか教義とか出てくるかも思ったらそれはなかった。
ちょっとがっかりした。

ラストの演説シーンが渋谷なのだが、現実の渋谷の街に看板がオウラン国文字(というか中国風の漢字)になっていて、交差点かどのツタヤとスターバックスの建物の外装が変わっていた。CGだとは思うけど、ひょっとしたらオープンセットだったのだろうか?
パンフレットに書いてあるかと思ったら全くなし。
あと主演の三浦孝太がなんとも貧乏臭い顔をしていて、とても教祖になれるような魅力なし。ここはイケメンを起用したほうがよかったのでは?この人の略歴紹介も知りたかったが、パンフには記載なし。
あと監督の浜本正機という人も。
さらに言うならヒロインのリン(インド人風な顔立ち)のウマリ・ティラカラトナについても知りたかったな。



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先生を流産させる会


日時 2012年6月9日21:05〜
場所 ユーロスペース1
監督 内藤瑛亮

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


郊外の女子中学校教師のサワコ(宮田亜紀)は妊娠した。しかしミヅキ(小林香織)は新しい生命を祝福するより「サワコ、セックスしたんだよ。気持ち悪くない?」と先生に対する嫌悪感を露わにする。ミヅキをリーダーとする5人組は「先生を流産させる会」を結成。
5人は理科の実験で手に入れた薬品をサワコの給食に混入。サワコはその場で吐き、自分に起きていることを察する。ホームルームで匿名で知っていることを生徒たちに書かせる。
犯人の5人組は解った。だが彼女たちの攻撃は止まらない。今度はサワコのいすに仕掛けをしてサワコを椅子から転げさせる。

2009年に愛知県半田市で起こった事件をモチーフ。
現実の事件では犯人は男子中学生だったし、パンフレットにある事件のレポを読むと、「先生に叱られた腹いせ」に事件を起こしたらしいし、映画とはだいぶ違うようだ。
そのことに対する批判もあるようだが、気にすることはない。この映画は現実事件の実録ではないし、あくまで映画のネタにされたにすぎない。

「セックスしたんだよ。気持ち悪くない?」この感覚はまったく忘れていた。思春期の頃、セックスに嫌悪感を感じることもあるという感覚をまったく忘れていた。
私にはこの映画は出来ない。まだ20代の内藤監督は忘れていなかったのかも知れない。
だってフェラチオなんて普段おしっこが出てくるところを舐めるんだよ。汚いと言えば汚い。だがやがてはその汚さを感じなくなっていく。
それは世間の汚さを受け入れることにつながるのかも知れない。

一方的に先生がやられるだけの映画と思ったがそうではない。サワコも彼らに対抗する。
その中でモンスターペアレンツの対決、事なかれ主義の教頭などとも戦わなければならない。
まるでハードボイルド映画の女主人公のようだ。
サワコの戦いが映画を一層もり立てる。

先生にちくった仲間フミホを殺そうとするミヅキ。
フミホの母親も同行し、あわやという所でミヅキたちを発見。フミホは助かる。
しかしミヅキと対峙したサワコはついに流産してしまう。

その後の展開が内藤監督の良心を感じさせる。
フミホの親はミヅキを殺そうとする。しかしそれをサワコは全身で盾になり、ミヅキを守る。
ミヅキは結局流産させたことは法律上殺人にはならず、傷害罪となる。
そしてサワコとミヅキの二人の亡くなった胎児のお葬式。
「生まれて来てない子だからいなかったことにすればいい」と言っていたミヅキ。
だがサワコは言う。「なかったことにはならないんだよ」
ミヅキの表情のカットで映画は終わる。
ここで「先生ごめんなさい」と泣けば白々しいし、「ばっかみたい」と笑えば後味が悪すぎる。
絶妙なラストだと思う。

出演ではミヅキ役の小林香織が圧倒的迫力を持つ。
私の中では今年の新人賞はもう決まった。
撮影当時小6だったというからさらに驚く。
サワコ役の宮田亜紀も僕は知らない方だったが、こちらも目が力強かった。記憶に残る名演だ。

この映画、62分の中編。だがインパクトは時間の短さを忘れさせる。この強烈な毒のある映画はこの時間で十分だ。これが2時間の映画だったら観ていてつらい。
多くの人にこの内藤瑛亮という才能を観てもらいたいと思う。真に思う。



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アブノーマル 陰虐


日時 2012年6月8日20:00〜
場所 銀座シネパトス3
監督 佐藤寿保
製作 昭和63年(1988年)


クライムハンターを自称する美保(伊藤清美)は恋人の刑事からUVFを見せられる。UVFとは「アンダー・ビデオ・フィルム」つまり裏ビデオとは違ってエロではなく、殺人やレイプなどの犯罪的残虐行為を写したビデオのことだ。一部の愛好家の間では出回っているらしい。
ビデオボックスで働く彰は客が忘れていったビデオを観てみた。それはUVFで女性がレイプされる様子が写っていて、その真に迫った表情はとても作りものには見えなかった。ビデオの勉強をしている彰はビデオカメラで夜の西新宿ビル街を写しているときに美保と知り合う。
彰にUVFのことを聞いた美保は彰のバイト先に行き、そこでビデオボックスのマネージャー茉莉(風見怜香)とサングラスの男・黒須(佐野和宏)を見かける。
UVFの世界ではかつて「夢遊」という伝説的な作品があり、彰はマネージャーが主演女優で黒須が監督ではないかと疑っていた。
ある日、彰は店にあったビデオカメラを自宅に持ち帰り、妹を撮影してみた。そのカメラには仕掛けがあって、レンズの横からナイフが被写体に向かって突き出る仕掛けがあった。

UVF、こういう殺人とかレイプのシーンを撮影したビデオについては三池崇史のWOWOWドラマ「サイコ」でも扱われていた。
僕にはどうにも理解できないが、そういうのを好んでさらに性的興奮をする人もいるらしい。
僕は好まないけど、そういうのが好きな人がいるのはなんとなく解る。悪趣味だとは思うし止めてほしいなあとは思うけど。だってスカトロ好きな人もいます。人間どんなものに性的興奮を覚えるかは様々です。

黒須と茉莉は彰に自分たちがUVFを撮っていることを知られたために、妹を誘拐、彼女を被写体にUVFを撮る。
彰は黒須に会うために秘密スタジオに行き、美保も追う、という展開。
結末は実は冒頭の彰が関心を持ったビデオに出ていたのはかつての美保、彰は黒須をそのナイフ付きのビデオで刺し、それがスタジオのモニターに映ってエンド。
こういうUVFの世界って本当にあるんだろうか?
ありそうな気もするし、映画だけの作りごとの世界の気もする。

佐藤寿保監督は「仮面の誘惑」というゲイ映画だが、同じくサイコサスペンスものがあったと思う。
これももう一度観てみたい。

(この日の2本目は佐野和宏監督の「変態テレフォンONANIE」。前に見た事があるのでパス)



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JAZZ爺MEN


日時 2012年6月3日15:00〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 宮武由衣
製作 平成23年(2011年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


埼玉県本庄市。町の活性化のためにJAZZで町おこしをしようと商工会議所の事務局長は考え、地元のショッピングモールの支配人笹井(徳井優)と市民バンドを結成しようと計画する。
かつてはJAZZメンとして活躍し、先日中学の音楽教師を定年退職した野津手(清水章吾)に指導を依頼する。
だが応募してきたのはピアノの瞳とケーキ屋の後藤(井上順)だけだった。あとは笹井や事務局長が無理矢理集めてきた全くの初心者たち。キュウリ農家の花山(上田耕一)、製麺業の中野(河原さぶ)、和菓子屋の登代子(ふくまつみ)たちはやる気もなく、野津手はがっかりする。
特に中野は中学時代一番ペットがうまかったと自慢ばかりで何もせず、逆に足を引っ張るばかり。
ついに野津手も指導を辞めることに。
しかし後藤の妻がガンで余命半年と宣告される。
今まで苦労させてきた妻にせめて自分のJAZZを聞かせたいと決意、頭を下げてみんなの協力を求める。

本庄市と聞いて山形県と勘違いしていた。どうやら新庄市と勘違いしていたらしい。本庄市は埼玉県北部。
いわゆるご当地映画で本庄市が主体になっている。
正直、新人監督だし、期待していなかったが、これが面白かった。

素人が集まっていろんな事件がありつつ、プロジェクトを達成するという映画のパターンだ。
その王道を歩みつつ、妙に奇をてらったりしない。
ラストになるにつれ、正直、少し泣いた。

前半は兎に角河原さぶの中野が進行をじゃまをする。
「あんたの教え方が悪い」「基本はいいから曲にいこう」「ところで我々のマークはこうしよう」「みんな町おこしで来てるんだ。あんたのバンドの為じゃない」
正直、観ているこっちもいらいらし、映画世界に一気に引き込まれる。

そして突然井上順の妻の余命が半年となり、邪魔をする中野を外してバンド再結成となる。
でも中野も改心してみんなで本気。一挙にクリスマスコンサートへ。
普通ならコンサートの前日、メンバーの一人に何かあるとか事件が起こるが、それはなし。
ピアノの子が何か訳ありな感じがするが、それもなし。
ラスト近くで野津手がつれてきた女子高生とロックドラムをやっていた花山の孫の関係とか和菓子屋の登代子の家族が出てこないとか、話がひろがる可能性はあるが、まあその辺はなし。
寂しい気もするがそれを全部やったら冗長な映画になってしまったろう。

90分程度のプログラムピクチャの快作。
東京では去年の秋に渋谷で1週間モーニングでじょうえいされただけ。
もったいないと思う。
超大ヒットする映画でもないけど、もうちょっと多くの人に観てもらいたいと思う。
残念だ。

でもどのご当地映画でもそうらしいが映画について何も知らない人が(しかも金は少ない)作る。
現場は映画の内容さながらに大変だったようだ。
映画を作るまでも映画になりそうな話をこの日、監督のトークショーで聞いた。



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ザ・スパイダースの大進撃


日時 2012年6月3日13:30〜
場所 ザ・グリソムギャング
監督 中平康
製作 昭和43年(1968年)

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


スパイダースの7人は、アメリカ公演を終えて帰国した。
マチャアキと順はお揃いのタンバリンをアメリカの楽器店で購入したが、順は飾りの宝石が気に入らない。
でもマチャアキはお気に入りで肌身離さず持ち歩いている。
そのタンバリンを狙う美人(真理アンヌ)とサングラスの男(草薙幸二郎)がいた。
空港の税関を出たところで、リーダーの昭知は楽譜を入れたアタッシュケースをソフト帽の男のケースと取り違えてしまう。しかし昭知は気づかず、マネージャー(和泉雅子)に預けたままにしてしまう。
ソフト帽の男はすぐにケースが違っていることに気づく。
入っていた書類は男にとっては重大な価値があるものだ。
一方、マチャアキたちのタンバリンもサングラスの男にねらわれる。
ソフト帽の男も昭知のケースを狙う。
スパイダースたちは常に襲われることに!

GSブームの真っ直中にGS主演映画が何本か作られた。
その中の一本。この映画、脚本は倉本総だ。(伊奈洸と共同)。倉本総というだけでもびっくりするのに、さらに驚いたのはまるで面白くないのだ。
しかも監督は中平康。
やる気のなさ全開。(つまり出来はひどい)

要するに元ネタはビートルズの「HELP!」。
メンバーが持っているものが何者かに狙われるという訳で、今回それが二つのものが狙われるというのがミソ。
でも全然面白くない。

楽屋が襲われる、ホテルで襲われる、鹿児島に行っても襲われるの連続。
で「HELP」の時は襲われた方がバリエーションに飛んでいたが、今回は似たような部屋で襲われるとかばっかりで話が全然前に進まない。
まあ予算も時間もなかったろうから、セットを使った大がかりなギャグなど作れなかった事情は察するけど、申し越し工夫がほしい。

その点「進め!ジャガーズ敵前上陸」はまだ面白かったように思う。
出演者もとにかくお笑い芸人でも落語家でも何でもワンシーンでもぶち込んでおけば、まだ何とかなった気がするが。一応堺駿二が息子のためにワンシーンゲスト出演。
スパイダースのコンサートを見に来たおばあちゃんの役で出演し「その人たち床屋にいくお金が無いのかしらねえ」「まったく親の顔が見てみたいものだわ」と楽屋オチのギャグをいう。そのくらい。
「急げ!若者」など田波靖男さんすごいよ。

それにしてもGSはジャニーズと違ってタレント性がないのだなあ。ジャニーズはなんだかんだ言っても美形だからタレント性はある訳です。
この映画で家なタレント性があるのは堺正章と井上順だけ。後は名前は知ってるけど、顔と一致しない。
つまり出演者としての魅力はまるでない。
その辺が映画としての弱点に一層つながっている気もした。



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痴漢電車 下着検札


日時 2012年6月1日21:00〜
場所 銀座シネパトス1
監督 滝田洋二郎
製作 昭和59年(1984年)


ピンク映画は絡みのシーンに話が止まる。なにせセックスしてるを写すだけだから、それ目当てで見に来ているわけではない私など退屈する。
退屈するだけならまだいいが、眠くなる。
余計な話を書いたけど、実は少し寝たのでストーリーの詳細がよくわからない。
1時間のはじめを観て少し寝てしまって、残りの40分ぐらいはちゃんと観た。
だから物語の肝は観たけど、それに至る過程が見逃した。

だらだら書いたけど、映画は昭和3年の満州からはじまる。張作りん爆殺事件から話が始まる。
この時に張作りんが持っていた黒真珠の指輪を持ち去った兵隊がいた。
時は移って現代。
今は老人となったその兵隊だが、若い妻からその指輪の在処を訊かれても「そのうち教えてやる」とごまかす。
このあたりからしばらく記憶がない。
松木清張なる作家(竹中ナオト、現・直人)がその妻と絡んでいる。
場面変わって探偵(蛍雪二朗)が登場し、その妻に「息子さんを呼んでください」という。
妻は戻ってきて「部屋に鍵がかかっていて入れません。中からレコードの音がするのでいるとは思うのですが」
探偵と松木がその部屋に駆けつけ、中からかかった引っかけ式の鍵を壊し中に入る。
そこで息子は死んでいた。しかもその窓の外にはその妹も死んでいた。
いったい誰がどうやって二人を殺害したのか。

「痴漢電車」シリーズってどの作品も痴漢シーンがメインではなく、電車での痴漢のシーンがちょっとあるだけらしい。別に痴漢シーンが目当てじゃないからいいんだけど。
密室トリックという古典的な(でも面白い)けど最近はだれもやらなくなったミステリー。
種明かしを来てみればそれほどでもないんだけど、でも懐かしくて楽しかった。
この当時でももうなかったと思う。

オチとしてはレコードが回転することにより、レコードの下にあったひもが巻きとられ、そのひもを鍵にうまく巻き付けてあったためにひもが引っ張られて鍵がかかったということ。
単純だけど楽しかった。
そして老人が隠していた黒真珠の指輪の隠し場所が解る。
しかしすでに謎を説いていた松木に先を越される。
松木がテレビ出演したときに指にその指輪を発見し、指輪の在処が解った探偵と美人助手は、満員電車で松木に置換させ、松木にお尻の穴に指を入れさせ、まんまと指輪を肛門で抜き去る。

ここで肛門の中からのカットが入る。
作りものの肛門の中で、穴から指輪がついた指が進入してきて挟んで抜き取るのは笑った。
そうして抜き去った指輪だが、探偵事務所で力んで出したはいいけど勢いあまって外に飛び出し、中国に帰るという青年の荷物の中に落ちてしまう。

そして青年は中国に帰り、なにも知らないうちにその指輪を落とす。そこは冒頭で張作りんが指輪を取られた場所。
そこから骸骨の手がでてきて指輪をつかもうとするところで「終」。

「マルタの鷹」と本格密室トリックとセックスを組み合わせた娯楽色豊かなピンク映画。
眠くない時にもう一度観たい。



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変態家族 兄貴の嫁さん


日時 2012年6月1日20:00〜
場所 銀座シネパトス
監督 周防正行
製作 昭和59年(1984年)

(詳しくはallcinemaで)


間宮周吉(大杉漣)の息子(下元史郎)が結婚し、嫁がいえにやってきた。
周吉は近所のスナックの常連で、そのママが亡くなった自分の妻によく似ているという。
しかし娘や下の息子は「そんなことはない」という。
妹は会社勤めがいやになってトルコ(ソープランド)で働き始める。最初の客は兄だったが、兄は内緒にしてくれた。
兄は実はSM好きで、妻にSMプレイを強いていたが、やがて周吉が常連の店のママがSMの女王と知ると、二人は関係が出来てしまう。
やがて妹もトルコの支配人と結婚。弟はこんな家がいやになって家を出ていった。
息子の嫁と周吉が家に残される。
周吉は嫁に実家に帰ることを勧めたが、「お父さんが一人になってしまいますから」と家に残ったのだった。

「Shall we dance?」で世界的な監督の一人になった周防正行監督のデビュー作。
有名な話だが小津安二郎監督のパロディ、というかオマージュだ。

新東宝マークが終わってからのファーストカット。
なにやらちょっと形の変わった(なんだか性器みたいな、いやどうして性器みたいだ?と言われると困るのだが)富士山が登場する。この絵は後に間宮家に飾ってあった絵のなのだが。
もちろん松竹マークのオマージュだ。

続いて東京タワーのカットがサイズを変えて3カットほど入る。
この丁寧な場所説明も小津さんの特徴の一つ。
同じく周吉が通うスナックのシーンの前にネオン街の説明カットが入る。
笑った。

ラストの「お父さんが一人になってしまう」というのも(確か)「東京物語」で原節子が言うせりふだ。
もちろん他にも繰り返しが多いせりふ回しもオマージュだ。

「似てないよ」
「似てないか」
「似てないよ」
「そうか、似てないか」
こんな感じで実生活では意外に繰り返されることの多い会話をする。

大杉漣がいわゆる笠智衆を演じるのだが、正直、あの風格は出来ていない。
他の出演者もやっぱり小津映画にでてくる女優男優にはかなわない。
小津映画って単純そうで誰にでも、真似できそうだが実は形だけ真似ても全く似て非なるものにしかならない感じ。
だから返って小津の偉大さが解るのだが、形ばかり真似てもだめ、では何が小津映画の小津映画たらしめているのか考える材料にはなると思う。
そういう意味でも楽しめる一品だ。




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