2014年4月

キングコング 銀輪 この二人に幸あれ モンスターズ/地球外生命体
おえんさん 青春の殺人者 肉弾 L・DK
大人ドロップ 恋化粧 竜馬暗殺 正午なり
地の群れ 白ゆき姫殺人事件 銀座ネオン川 冬の蝶 シネマパラダイス★ピョンヤン

キングコング


日時 2014年4月29日
場所 DVD
監督 ジョン・ギラーミン
製作 1976年(昭和51年)


アメリカの石油会社ペトロックス社のウィルソン(チャールズ・グローデン)は霧に隠された孤島に油田があるとにらみ、試験採掘を行うために向かった。
この島の事を知っていて探検の機会を伺っていたプレスコット(ジェフ・ブリッジス)はこの船に乗り込む。
そんな時、嵐で遭難した船の生存者ドワン(ジェシカ・ラング)がこの船に救助された。
霧の孤島にたどり着ウィルソンやプレスコット。しかしその島は無人島ではなかった。そしてそこには原住民が作った大きな壁があった。到着した晩、何かの儀式が行われるところだった。原住民たちはドワンをその儀式の捧げ物にするために誘拐する。
ドワンを助けるために駆けつけるプレスコットたち。
その島は巨大な猿、コングがいたのだ!


かの有名な「キング・コング」のリメイク。
当時は僕自身が映画の観始め、映画雑誌の読み始めの頃だったから、この映画は正月大作として話題だった。
しかし当時観てまるで面白くなかった覚えがある。
今回封切り以来の36年ぶりに観たのだが、まるで面白くない。

何でだろう?
ストーリーをよく知ってるからだろうか?
正直、それもあるだろうが、脚本が完全に「あらすじ」以外の何ものでもないのだな。
それにコング登場まで時間かけすぎ。映画が始まって50分ぐらいかかる。
だらだらと長すぎである。
でコングが登場してもドワンを追いかけてきたプレスコットたちが丸太の橋で落とされるとかの見せ場はあるにはあるが、まるで盛り上がらない。ああそうですか、っていう感じ。演出がまるで盛り上がらない。

監督のジョン・ギラーミンは「タワーリング・インフェルノ」というパニック映画の名作があるが、まるでさえない。
音楽はジョン・バリーだが、まるで記憶に残らない音楽。
過去に名作を持つ人を集めても名作が出来るとは限らないいい見本だ。

コングのシーンだが、どうも人間のリアクションの描写が少ないので、迫力とか緊迫感が生まれないのだな。
それを感じさせてくれたのは、タンカーに運ばれるコングが暴れ出し、壁を叩くところ。
その反対側のベッドルームに寝ていた人が吹っ飛ばされるとか、厨房のフライパンなどが揺れるとかのリアクションがよかった。
だから巨大生物が暴れているだけではなく、それに対する人間のリアクションが重要なのだと再認識した。

あと脚本の書き込みも少ないと思うよ。
コングを捕まえる時に穴を掘ってそこにクロロホルムを充満させるっていう作戦を立てるのだが、うまく行き過ぎであっさり終わる。
ここはうまく行きそうで行かないとか、「あわや」とかとにかくもう少し盛り上げなきゃ。

そしてラストのニューヨーク。ここも細部の詰めが甘い。
一事が万事「コングがいました。ニューヨークにつれて帰りました。あばれました。世界貿易センタービルに上りました。空軍によって倒されました」とあらすじを追ってるだけ。
途中途中で紆余曲折を入れなきゃなあ。

それにポスターでは戦闘機を握りつぶすコングの絵が描かれてるが、あれはウソ。
映画ではヘリコプターによって簡単に撃たれておしまい。

やっぱり1976年の時代には合わない設定なのか?
とにかく金をかけたのに失敗した映画の見本のような映画だった。



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銀輪


日時 2014年4月27日16:00〜
場所 フィルムセンター
監督 松本俊夫
特殊撮影 円谷英二
製作 昭和31年(1956年)


フィルセンターの「日本の初期カラー映画」特集での上映。
円谷英二が参加した短編映画だが、この日は「イーストマンカラー短編集」ということで「銀輪」の他、4本の上映。
以下、上映順に内容と一言感想。

「ビール誕生」
(昭和29年 15分 監督 柳沢寿男)
ビールの出来るまでを紹介するPR映画。
「サッポロビール」と「ニッポンビール」提供。はて「ニッポンビール」って今のどこの会社だろう?
麦を発芽させ麦芽となって酵母菌が入ってホップが入って3ヶ月寝かせて樽詰めしたのが生ビール、60度のお湯で殺菌したのが瓶詰めビールとなる。
最初の麦が育つまでや発芽するシーンをコマ撮りで撮っており、撮影に時間をかけた感じがする。
確かにカラーでビールを写さないと美味しそうに見えないから白黒ではだめだわな。

「鋳物の技術ーキュポラ溶解ー」
(昭和29年 18分 監督 野田真吉)
三菱化成がスポンサーのキューポラを使っての鋳物製造のマニュアル映画。鋳物職人向けに製造上の注意事項を説明する映画だから、素人には根本的によく解らない。
「温度を気をつけましょう」「コークスの量を気をつけましょう」「でないと不良品が出来てしまいます」という感じ。
勉強会とかで上映されたんだろうな。その後講師が出てきて「今の映画にありましたように」と言って解説するタイプの勉強会だろうな、きっと。

「銀輪」(昭和31年 12分 監督 松本俊夫)
見ていて思ったが、監督が松本俊夫である。この方の監督作品は劇映画では「薔薇の葬列」と「ドグラ・マグラ」ぐらいしか見ていない。そして実験映画の出身、みたいなことは聞いていた。
確かに実験映画でした。
海外向けPR映画らしく、タイトルが「Bicycle of Japan」と英語ででる。日本の自転車文化を紹介すべきような内容だと思うのだが、一人の金持ちっぽい服装のおぼっちゃんが本をめくっている。その昔の西洋の自転車に乗っている外人の姿が出てきて、やがて少年の夢の世界へ。
そこでは自転車のハンドルだけがたくさん浮いていたり、車輪のフレームが浮いていたり、ギアのアップが出たりする。
そして自転車に乗った人が通り過ぎ、冒頭の少年が目を覚ます、と言った内容。
PR映画にしては意味不明な実験映画になっており、スポンサーの担当者は困惑したのではないか?12分の割には長く感じたし。

「富士は生きている」
(昭和31年 34分 監督 下村兼史)
東映マークが出て「製作 大川博」とクレジットされる。
もっとも東映マークは波ではない。一応「東映教育映画」製作だ。
「富士は生きている」っていうから富士の火山活動を描いた映画かと思ったら、富士の裾野の森に生きる、虫、それを食べる鳥、鳥をおそう蛇などの生態を紹介する。
鳥のひなを襲おうとする蛇のシーンが見せ場の一つだが、蛇とひな鳥のカットバックなので、編集でうまくつないだだけなのだろう。
保存の問題なのか、カラーの発色が悪く、逆に緑に染まってしまうようなカットもあった。
残念だと思う。

「ふくすけ」
(昭和32年 18分 監督 横山隆一)
漫画「フクちゃん」で有名な横山隆一が作ったアニメ制作会社「おとぎプロ」作品。
冒頭の「カエルに頭の重たい赤ちゃんが産まれました」という説明タイトル以外はせりふや説明文はなし。
「カエルの子はおたまじゃくしだろう」とも思ったが、そこは野暮なことは言わない。
とにかく生まれた子供は頭が重くてひっくり返ってしまう。父親は子供に風船をつけるが、子供が外出したときに風船が割れてしまう。
今度は病院(?)というか研究所に連れて行かれ、見て貰ってなにやらいろいろして貰ったら、今度は体が軽くなって浮いてしまう。
父親は重い靴を作って子供にはかせたが、脱げた拍子にどんどん体は浮いてしまい、雲の上の雷様に助けられる始末。
雷様に地上に連れてきて貰って、結局普通の体になって愛でたし、という内容。

ディズニーとかMGMの「トムとジェリー」などの影響を感じる作品でした。



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この二人に幸あれ


日時 2014年4月27日10:30〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 本多猪四郎
製作 昭和33年(1958年)


若尾(小泉博)は海運会社のサラリーマン。東京支店支店長から「自分の娘と結婚してくれ。私も派閥の味方が欲しいんでね」。しかし若尾は同じ会社に勤める清水雅子(白川由美)に惚れていた。このことをきっかけにて自分の気持ちを雅子に打ち明ける若尾。雅子も若尾に好意を持っていたので、二人は結婚を約束する。
しかし雅子の父(志村喬)は反対をした。雅子の姉千津子(津島恵子)がホルン奏者の丸山(三船敏郎)と親の反対を押し切って結婚して以来、雅子の父は雅子の結婚相手選びには慎重だったのだ。
雅子の父は会社に若尾の評判を聞きに行くが、支店長は自分の娘との一件があるのでよいことは言わない。
結局雅子の両親の許しを得ないまま、若尾の下宿の主人(藤原釜足)の仲人で結婚。
しかし会社の方では今度は若尾と馬が合わなかった中島(田島義文)が支店長の娘と結婚し、課長になって今の課長は飛ばされることに。課長の送別会の席で若尾は中島と殴りあいの喧嘩をし、会社を辞めてしまう。


非特撮本多監督特集での上映。
脚本も松山善三で親の反対を押し切って結婚した夫婦が、困難にぶつかりながらも生活していく姿を描くというホームドラマ。

年とったおじさんの目からすると若尾が会社を辞めるのは時期尚早である。自分とはあわないいやな奴が上司になって威張り散らして無理難題を命じてくるのは本当に腹が立つ。俺も経験あるから解るけど、もうちょっとがんばらなきゃ。でも俺も最後は辞めたから同じか。

で映画の方は若尾は職探しをするんだが、なかなか見つからない。あるのはニコヨンとか行商とかでイマイチ向かない感じ。
妻には退職のことは隠していたが、会社時代の同僚から聞いてしまう雅子。見かねて雅子も仕事を探し始めて、なんとかその元同僚の紹介で決まる。
それを知った若尾と喧嘩になり、雅子は下宿を飛び出し姉夫婦の元へ。結局姉夫婦に諭されて下宿に戻って、仲直りした二人が見つめあって「終」。
ラストシーンは「ここはキスするだろう」と思ったが、それをしないのが昔の映画らしい奥ゆかしさか。

何度も言うけど小泉博さんは正統派二枚目。
白川由美も期待のヒロインの頃。ちょうど「ラドン」の次の作品らしい。
相手役が佐原健二ではなく、小泉博なのは何か理由があったのか、それとも単に「毎回同じではなんだから」という理由か。

あとキャストで目玉なのは三船敏郎のホルン奏者。はっきり言って似合わない。でも三船敏郎って助演の時はほんとに似合わない役をやることがあるから、拾いものである。
あと志村喬さん。若尾と雅子は神社で結婚式を挙げるのだが、その様子を二人で遠くから見守るシーンあり。
反対していても親子の情を感じさせるいいシーンだった。



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モンスターズ/地球外生命体


日時 2014年4月20日
場所 TSUTAYA宅配レンタルDVD
監督 ギャレス・エドワーズ
製作 2010年(平成23年)


6年前、NASAは太陽系に地球外生命体を確認した。そのサンプルを持ち帰る際、メキシコ上空で宇宙船は落下大破した。その生命体は進化し今やアメリカとメキシコの国境付近に生息していた。その生命体が住む一帯を立ち入り禁止区域とした。
その生命体が生息地域を出て街を襲った。
新聞社のカメラマン、コールダーは上司から社長の娘サラがその付近にいるので安否を確認するよう言われてやってきた。その娘のサラは幸いにも無事だった。
無事を確認し、その場を去ろうとしたコールダーだったが、社長から電話で直々に娘を連れて帰ってくれるよう頼まれる。
取材のために残りたいコールダーだったが、渋々承知。
早速アメリカ行きのフェリーが出る港まで移動したが、フェリーの出航は明朝。しかもフェリーのチケットは一人5000ドルとふっかけてくる。
仕方なく1名分のチケットを買う。しかし翌朝、コールダーの不注意からパスポートを紛失してしまう。フェリーには乗れない。残すは立ち入り禁止エリアを抜けていく方法だ。


「ゴジラ」(2014)の監督に選ばれたギャレス・エドワーズ監督が名を売ったモンスター映画。
「ゴジラ」を観る前にどんな映画を撮る監督なのか気になって観てみた。

正直評判は元々よくなかったので「評判通りだったなあ」というのが第一印象。
怪獣というかモンスターはほとんど出てこない。
冒頭、夜に暴れるモンスターが登場。これがタコ、というか深海生物のクラゲをモデルにしたような生き物。しかも発光生物で触手は電飾のように光っている。
「ゴジラ」の予告編を観てゴジラの他にも怪獣が東欧するらしいのだが、そいつも腕というか触手が電飾のように点滅している。なるほどねえ。ここで「ゴジラ」とはつながっているのだな。

で、話の方はメキシコのフェリーの切符売り場のおじさんが悪徳な奴でふっかけてくる。コールダーが値切り交渉をしても弱みにつけ込んでいっさい値引きなし。
結局5000ドルで承諾して出航は翌朝なのでサラとコールダーは飲みに行く。で、ちょっとその気になったコールダーはサラを口説くがあっさり振られ、バーに戻って地元の女を部屋に連れ込むが、コールダーが目を離した隙に、パスポートや現金を持って逃げてしまう。

コールダー、バカである。
仕方なく昨日の切符売り場の親父に陸路の手配をしてもらう。金がないのでサラの婚約指輪がダイヤで2万ドルの価値がありそれならと二人を陸路で手配してもらうことに。
でも4WD車で行って検問所も何とか越えて船に乗って川を上る。そしてまた車に乗ってと特にトラブルもなく旅は続く。
襲われて仲間が一人づつ死ぬという事もない。
途中テレビで深海クラゲの交尾の話を説明される。(ここ伏線になるようだ)

モンスターは木に卵を植え付け、大きくなったら自ら離れてまた戻ってくるという生態系らしい。だからどうしたって話ですが。
その子供モンスターが夜のうちに仲間を全員殺し、車もつぶしてしまう。
しかしアメリカ国境まではもうすぐなので歩いてアメリカに入る。ところが街は廃墟のよう。モンスターに襲われたのだ。
歩いて行くうちにガソリンスタンドが見つかり、そこから軍に電話して助けにきてもらう。
最後の最後になってガソリンスタンドに例のモンスターがやってきて、襲われるかと思いきや、気づかなかったのか助かる。
何だよそれ。

そしてもう1匹のモンスターが現れまるで交尾のように触手を絡ませる。ここが見せ場と言えば見せ場。
で、軍の車が助けにきてくれてめでたしめでたし。
サラとコールダーはいつしか愛し合うようになってキスをしてEND。

単なるだらだらと危険そうだけど結果的には危険がなかった旅をしただけ。しかも自分でしたのではなく、ほとんど連れていってもらってる。
これでは映画は盛り上がりようがなく、酷評されるのも納得な気がした。



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おえんさん


日時 2014年4月20日10:30〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 本多猪四郎
製作 昭和30年(1955年)


築地の魚河岸で仲買商をしているおえんさん(水谷八重子)は息子・広志(小泉博)の縁談がまとまって周りからお祝いを言われている。息子の相手は近所の天ぷらやの娘・珠子(司葉子)だ。ところがおえんはいざとなると不安になった。息子が珠子にとられるような気がしてきたのだ。
現に広志たちはおえんに断りもなく新居を建てる準備をしている。それを知ったおえんは手続きにきた不動産屋を「息子の結婚は無期延期になった」と勝手に断ってしまう。それだけでなく珠子の父親(藤原釜足)にも婚約の解消を申し出る始末。
怒った広志に母親は「あんたが珠子さんにとられるような気がしてきて」。そんな事はないという広志だが、母親は信じない。
そんな頃、母のかつての恋人で今はブラジルで成功した谷清太郎(清水将夫)が東京にやってくる。おえんの姉は今は妻に先立たれ独り身となった清太郎に「おえんをもらってくれないか」と相談するのだが。


非特撮本多特集の3週目。
以前(確かシネパトスの特撮関連の特集上映で番外編的に上映されたことがあった気がする)からタイトルだけは聞いていたこの映画。

いやいや母おえんの息子の溺愛ぶりがものすごい。
今で言うならモンスターペアレントになりかねない溺愛ぶり。
洋服を二人で見に行こうと広志と珠子は出かけるのだが、「私も一緒に行く」と言いだし、デパート(日本橋高島屋)であれこれ口を挟む。
嫁に息子をとられるならとおえんはダンスを習い出す。
「お前とダンスがしたいと思ったんだよ。そりゃあんたはもっと若い子がいいだろうけど、あたしが寂しくなるから我慢しておくれ」という。

度重なる結婚の邪魔についに珠子がキレてしまい「一緒に家を出よう」と駆け落ちをしようとする。

で、谷さんの方だけど、実はおえんと谷さんは若い頃結婚するつもりだったが、彼の母親が反対して結婚は別の女性とした。谷さんはおえんを忘れるためにブラジルに渡ったというわけ。
おえんも谷に説得されて広志と珠子の結婚を不承不承認める。
そこへ駆け落ちしようとした広志が帰ってくる。「珠子とは別れた」という。
そこでおえんは「あたしが死に水をとるまで広志は誰にも渡さないよ」
おいおい、あんたどうかしてるよ。もはや狂ってるよ。と画面に向かって声をかけたくなった。

で、珠子はそれまで珠子に惚れていた質屋のせがれ(山本廉)と婚約の段取りが進み、それを知った広志はやけ酒。
質屋のせがれの取り巻きと飲み屋で喧嘩。
それを知った珠子はやっぱり自分は広志が好きと広志の元へ行き、二人の気持ちを確かめあう。
でおえんも諦める、というハッピーエンド。
よかった、よかった。この調子で行くと「サイコ」になってしまうところだったよ。

小泉博さんは正統派の二枚目。司葉子はまだ幼く、ほっぺがふっくらしていて、「その場所に女ありて」のイメージとは違う「娘さん」役だった。



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青春の殺人者


日時 2014年4月19日14:40〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 長谷川和彦
製作 昭和51年(1976年)


斉木順(水谷豊)は今は両親が出したお金で成田空港の近くで幼なじみのケイ子(原田美枝子)とスナックを開いていた。市原でトラックタイヤのパンク修理店を営む両親に呼び出され実家へ行ってみると、父親(内田良平)はケイ子とは別れろと言ってきた。あの女はおまえをだめにすると言う。
「あんたはいつもそうだ。俺に何かを与え、俺がそれに夢中になると後で取り上げる。そんな事なら初めからくれなきゃいいのに」。
買い物に出た母(市原悦子)が帰ってくると、順が父親を包丁で刺した後だった。自首するという順に対し、「二人で逃げよう。時効になるまで静かに暮らしてその後あなたはおとなしい人と結婚すればいい」。
ケイ子と別れろという母親と口論になるうちに母が順を殺そうとする。結局順は母も殺してしまう。
自分の店に戻ってケイ子と逃げようとする順だったが。


長谷川和彦第一回監督作品。
この映画を観たのはキネマ旬報を読み始めた頃で、初めて「ベストテン」の発表を見たときに1位だったのがこの映画だった。水谷豊も主演男優賞だったはずだ。
世の中に東宝、松竹、東映、大映、日活以外に「ATG」という会社があると知ったのもこの映画。
「ベストワンに選ばれる映画とはいかなる映画なのか?」と興味津々で中学生だった私は名画座に観に行ったのだ。
(それがどこの映画館だったか、同時上映はなんだったか覚えていない)

まるで面白くなかったのだ。
メジャー会社が作る娯楽映画以外のアート系の映画を観たのは初めてだっただからなのかも知れないが、なにが面白いかさっぱりわからない。
ラストのトラックで何処かへ行く水谷豊の姿は印象に残っていて、「これで終わり?」という「?」という感覚だけがあったような気がする。
その後「太陽を盗んだ男」は封切り当時観てえらく気に入った記憶がある。
ソフト化もされてるし、観ようと思えば観る機会はあったと思うが、基本的にいい印象の映画ではないので足が向かなかった。

でも今回のATG特集で「肉弾」と同じ日に上映される。いい機会だと重い腰を上げ、しかしひょっとしたら今なら面白く感じるかも知れないと重い観た次第。

しかし結論を言えば撃沈だった。
まるで面白くないのである。主人公に共感できないというか。
市原悦子が母親として「これはよその人を殺したんじゃない。うちの問題なの。何で国の法律にあれこれ言われなきゃいけないの?」という無茶苦茶な、しかしある種一理あるような理屈を言いだし、順の自首をやめさせようとするあたりはさすが迫力満点である。

でもそれ以外は・・・・原田美枝子の美しさ、かわいらしさに加えて巨乳だろうか?

結局「”やる気じゃなかったんだ、俺” 父を殺し 母を殺し 恋人を捨て 地獄の岸辺をさまよう ひとつの青春!」(ポスターのコピー)は全く私の心には届かず、まるで映画の世界には乗れずにただただ「ああ水谷豊、がんばってるね〜」「桃井かおりも出てるんだ」「回想シーンの開店パーティの客で長谷川和彦も出てるなあ」と他人事の世界が繰り広げられるのをただただ退屈に観てるだけの映画だった。
残念。



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肉弾


日時 2014年4月19日12:20〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
脚本・監督 岡本喜八
製作 昭和43年(1968年)


あいつ(寺田農)は魚雷にくくりつけられたドラム缶に一人で太平洋に浮かんでいる。
あいつは大学生から召集され士官候補生になった。やがてくる本土決戦でアメリカの戦車に爆弾攻撃を仕掛ける練習ばかりさせられていた。しかしろくな食料もなく腹は減るばかり。食べ物を盗もうとした罪で以後素っ裸で訓練させられる羽目に。
そしていよいよ出撃が決まり24時間の外出が認められた。あいつは実はまだ女を知らない。
街へ出る。たまたま入った古本屋の爺さん(笠智衆)に「最初はやっぱり観音様がいい」と言われる。
行ってみた女郎屋。そこでセーラー服の美少女(大谷直子)を見かける。


岡本喜八の代表作。
この映画は最初に観たのは高校生の頃だったか?深夜映画で放送されていたのが最初だった気がする。
その後、大学時代に映画館で1回ぐらいは観ていると思う。だからたぶん2、3回しか観ておらず、しかも最後に観てから30年ぐらい経っていると思う。

にも関わらず、かなり記憶していた。特に前半の24時間休暇で大谷直子と結ばれるあたりまではほとんどせりふまで記憶していた。
特に笠智衆の古本屋のシーンがいい。「B29に持っていかれちまった」「壊れちまったかな?」「そう観音様だ。だからまだ私は生きている」北林谷栄のばあさんがいい。
ばあさんなのだが「観音様」なのだな。

そして春谷ますみの女郎のシーンでは笑い、大谷直子の雨の中の因数分解(「カッコカッコ!」)でも涙する。
雷の光を爆弾の光に見せてしまう演出には初見の頃からうなった。

しかしそれだけ面白かった前半だが、後半、砂丘のシーンになるとややだれる。いやもちろん面白いのだが、前半と比べるとやや見劣りする。
「日本よい国、強い国」の教科書を無理矢理、頭師佳孝に読ませる教師(園田裕久)などは表現がストレート過ぎたせいだろうか?

そして魚雷を抱いて「もし敵艦が目の前を通過したら魚雷を撃つ」というほとんど無駄という戦法。
いやゼロ戦の特攻でさえも戦果はほとんどなかったらしいが。
命令を伝言する高橋悦史の虚無的な感じがたまらない。

そして最後にあいつを見つけてくれる伊藤雄之助のユーモラスな船長。
するっと溶けてしまうロープ。時代は飛んで昭和43年盛夏。
浮かんでいるドラム缶。
初めてこのラストシーンを観たときはなんて意地悪なラストだと感動とともに憤りさえ覚えた。
しかし昭和43年でなく平成26年の今でも通じるラストだ。

こういう言い方は好きではないが、「永遠の0」も結構だが、この「肉弾」を観て、戦争など命の無駄使い、とわかって欲しい。
真にそう思う。



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L・DK


日時 2014年4月18日19:50〜
場所 新宿バルト9・シアター1
監督 川村泰祐


西森葵(剛力彩芽)は親が海外へ転勤したため自分は日本に残るために一人暮らししている高校3年生。親友の萌(岡本玲)が学校で一番のツンデレ男子久我山柊聖(山崎賢人)に告白するがあっけなくふられる。「うざい」と言って断った柊聖。その断り方に腹を立てた葵は柊聖に「あんた何様!」と怒りをぶつける。しかしその喧嘩の最中に柊聖を階段から落としてしまう。
仕方なく柊聖を彼の家まで送り届ける葵。それはなんと自分のアパートと同じだった。部屋が隣だったのだが、彼のために夕飯を作ってる最中にちょっかいを出してきた柊聖のせいでスプリンクラーを作動させてしまい、部屋は水浸し。柊聖は強引に葵の部屋にしばらく住むことになった。


剛力彩芽=山崎賢人の美男美女コンビのラブコメ。
山崎賢人ってイケメンだがもう一つブレイクしていない気がする。これからなのかな?
橋本愛主演の「アナザー」で観て以来記憶に残っていたのだ。
さすがに2年も経って少し大人っぽくなっている山崎だが、今回はツンデレイケメンというラブコメにありがちなお話。

というかこの映画、ラブコメにありそうな展開や設定がすべて詰まった王道映画である。
親のいない一人暮らし、隣のイケメンが引っ越してくる、最初は喧嘩ばかりだがやがて恋に落ちる、彼には何か秘密がある、元カノが邪魔をする、応援してくれる親友、年上のイケメン大学生が優しくしてくれる、遊園地デート、実はジェットコースターが苦手なイケメン、花火大会などの夏のイベント。
いけないと言っているのではない。ここまで王道でやる照れのなさは感心する。普通は「それって当たり前じゃない?」とあえて変えようとしてしまうものだ。

山崎賢人、剛力彩芽という美男美女を楽しむ王道映画であり、その目的は十分達成されている娯楽映画。

ストーリーはその後どうなったかというと結局親友の萌にも同居はばれるが、応援してくれ(萌は柊聖の友人〜中尾明慶〜とつきあうようになる)、同じアパートに住むイケメン慶応大学生でおしゃれな食料品店でバイトする(最初店長かと思った。そういう態度なので)三条さん(桐山漣)とか出てきて元カノが束縛欲が強くてちょっと自殺願望(というかいわゆるメンヘラってやつ?)だったりの悩みを抱えつつ、街で見かけた呉服屋の女主人(高島礼子)に励まされつつ、ハート型の花火が打ち上げられる花火大会に間に合うか?というクライマックス。
結局こちらが照れてしまうようなハッピーエンド。

王道恋愛映画で面白かった。
また横浜が舞台になっていることもメモ。



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大人ドロップ


日時 2014年4月13日14:10〜
場所 ヒューマントラストシネマ渋谷・シアター3
監督 飯塚健


高校3年生の浅井由(池松壮亮)と岡崎ハジメ(前野朋哉)は親友。ハジメは女の子とろくに話したことがないタイプだったが、ある日、クラスの美少女、入江杏(橋本愛)とデートしたいと言い出した。
浅井は杏と仲がいいハル(小林愛)と席が前後で普段から話していたし、杏とも小中学と一緒でよく知っているからだ。杏とハルと浅井とハジメも4人で日曜日に遊びに行くことに。
しかし緊張で杏とろくに話せないと思ったハジメは携帯で何を話せばいいか指示をしてもらうとするが、結局杏にばれて杏は怒って帰ってしまう。「悪かった」と謝ろうと思い直した浅井だったが、学校ではなかなかタイミングがつかめない。
夏休み、杏は学校を辞めてしまうという話をハジメから浅井は聞いた。杏に手紙を書く浅井。杏から手紙の返事が来た。住所は書いてなかったが、和歌山県にいるらしい。
消印から見当をつけて浅井とハジメは和歌山に向かった。


橋本愛と前野朋哉の出演と聞けばどうしても「桐島、部活やめるってよ」を思い出させる。さらに今一番注目中の俳優、池末荘亮主演と聞けば内容は関係なく観たくなる。

浅井はハジメのように今誰かを好きではない。
でもハジメが杏を好きだと聞くと、そしてデートしたいと聞くとなんとなく心がざわつく。
杏のことが好きなのか、そうでないのか自分でもよく解らない。
デートの失敗を謝ろうと手紙を書こうとするが出せない。
夏休み直前になって謝るタイミングを計っていたが、結局失敗。このシーンで奥田民生の「息子」のカバーヴァージョンがかかるがこの曲は好きだし、よかった。

そしてハジメから杏が高校を辞めて引っ越すと聞く。
意を決して手紙を書く。ハジメも手紙を書いて二人とも返事が来た。
やっぱり杏は自分のことを好きというわけではないのかな?
しかし二人は手がかりも少ないのに和歌山まで突っ走る。

なんかこう思い出すなあ。
いやもちろん同じような経験があるとは言わないが、「好きなような好きでないような」「でも友人が好きだというと対抗してしまう」「とりあえず突っ走る」って言うのは心当たりがあります。
最近は誰かを好きになっても昔のように追いかけたりしないでしょう。
どっか達観してしまって。

そして浅井も唐突に初体験を迎える。
うん、初体験って意外にそんなもんかも知れません。
「好きな子と感動の初体験!」って言うほうが少ないんじゃないか?

そんな色々も会ってラストで大人になって再会。
結婚していたり結婚を控えていたり。
なんか切なくてよかった。

池松壮亮と橋本愛が総じてよい。
二人のシーンなど何とも言えない緊張感のあるシーンばかりだ。
よかった。
ソフト化されたら欲しいなと思う。
何回と観たいとは思わないが、手元に置いておきたい1本だ。



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恋化粧


日時 2014年4月13日10:30〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 本多猪四郎
製作 昭和30年(1955年)


隅田川で船頭をしている力彌(池部良)は幼なじみの柳橋の芸者初子(越路吹雪)に惚れられていたが、力弥はかつての恋人園子(岡田茉莉子)を忘れられないでいた。
戦争中に行方不明になって今はどこで何をしてるか解らない。
ある晩、力彌の会社の社長(藤原釜足)の車が盗まれた。力彌は乗っていった連中を見かけた。その中に頬に傷のある男(小泉博)が印象に残る。警察の事情徴収を受け、最近起こっている高級車専門の窃盗団の犯行とにらみ、刑事は力彌をつれて連中が立ち回りそうなところを回る。
結局その日は空振りに終わり、あるバーにふと入ったところそこには園子が女給をしていた。
再会を喜ぶ二人。しかし今は園子には男がいるらしい。明日の晩にまた会う約束をして別れる二人。
しかし翌日に店に力彌が行ってみると園子は辞めたという。
しばらくして浅草で偶然園子と会う初子。話してみると今は千住で石島という男と暮らしているという。その石島は車の窃盗団のメンバーだった。


今年のレジェンダリー版「ゴジラ」の公開を記念してなのか、関連企画的に本多猪四郎監督の非特撮作品をモーニングショーで連続上映。第一週は「若い樹」だったが、こちらは以前観ているのでパス。

この「恋化粧」だが正直まるで面白くない。
本多監督は非特撮作品だとまるで没個性的な東宝プログラムピクチュア(それもあまり面白くない)になってしまう。

せっかく10年ぶりに初恋の人と再会で、しかし翌日にはまた見失ってしまう力彌だが、すぐに初子との偶然の出会いによって会うことができてしまう。一度の偶然は許せても二度目となるとご都合主義です。

で園子は石島が窃盗団と知らなかった訳だが、知ってからは彼に自首を勧める。初めは「そうやって俺を追い払って力彌のところに行くつもりだろう!」と疑っていた石島だが、園子の真摯な態度に彼女を信用して自首の決意を固めるが、小杉義男らの仲間によってそれを止められる。最後の仕事と新たな窃盗に向かうが、結局力彌たちの協力もあって逮捕。
園子は石島を待つことになって、力彌は初子と結婚することに。

本作の見所としては珍しく悪役の小泉博さん。
左の頬に傷のある顔で、結構似合っている。小泉さんは普通の二枚目が多いが、「モスラ」の時も当初は髭面の変わり者、という設定も考えられたそうだから、ちょっと変わったメイクをさせるのが、本多監督の趣味なのかも知れない。

あと、初子の弟が井上大介で彼を好きな積極的な芸者に青山京子。この頃の青山京子はほんとにかわいい。
あとデブ役が多い千葉信男が両国らしく相撲取りで出演。



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竜馬暗殺


日時 2014年4月12日19:50〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 黒木和雄
製作 昭和49年(1974年)


慶応三年十一月十三日、京都。
命が狙われている坂本竜馬(原田芳雄)は近江屋の土蔵に身を隠す。意外と悠然と構えている竜馬は隣の質屋の2階に囲われている遊女の幡(中川梨絵)と知り合い意気投合する。
かつての親友の竜馬を斬らねばならないのは同じ土佐藩の中岡慎太郎(石橋蓮司)だった。しかし竜馬は「まあまあ」と慎太郎の戦意を喪失させてしまう。
また薩摩藩の配下の右太(松田優作)も竜馬を狙っていた。右太は幡の弟で、やがて右太も竜馬に取り込まれる。
「ええじゃないか」の騒動の中、やがて十一月十五日がやってくる。


黒木和雄、原田芳雄の代表作として紹介されることの多い本作品。名前だけはよく聞いていたが、観るのは実は今回が初めて。
基本幕末史は詳しくないし(というか興味もあまりない。勉強した方がいいとは思ってるんですが)、きっと今まで観る機会はあっただろうけど、パスしてきた。
今回のラピュタ阿佐ヶ谷での「ATG特集」で上映されるので、観てきた次第。

観終わってから調べてみたが、坂本竜馬を殺したのは誰だが特定されていないらしい。しかし幕府側からも薩摩からも土佐からも狙われていたから誰が殺してもおかしくない状況だったようだ。

観初めて驚いたのはその画質。モノクロ、スタンダードサイズで非常に粗い粒子の画。それは昔の写真のような画質なのだ。それこそ坂本竜馬の写真のような画質。昔のサイレント映画もこんな粗い画質だが、坂本竜馬の時代にはまだ映画はない。映画が発明されるのは19世紀末だから、まだ3、40年先である。
でも坂本竜馬が映画を観たらきっと気に入ってくれたことだろう。

坂本竜馬はとにかく「発想の転換」の重要性を説く。
彼が映画の中で「木に登った子猫を助けようとしたが、人が近づくと逆にどんどん上ってしまう。仕方ないから『いっそ木を切れ』と言ってみたら周りが大笑いした。確かに子猫一匹のために大木を切るのはばからしい。しかしそうやって物の見方を変えると今まで見えてなかったものが見えてくる」と語る。
そうやって従来の発想にとらわれない発想で物事を計画していった点が彼が今でも愛される理由なのだろう。

映画はときどきサイレント映画のような字幕画面が出る。
「竜馬、実はド近眼」といったような。こういった昔風の演出が面白いですね。(さっきも書いたようにこの時代、まだ映画はないけど)
そして竜馬、中岡、右太、幡の4人で記念撮影をするのだが、この時代は露光に10分かかり、10分間制止していなければならなかったそうだ。(ちなみにまたまた字幕で「この写真は現存していない」と出る)

ラスト、坂本竜馬と中岡は惨殺される。
名作の誉れ高い本作だが、私にとってはよかったというほどの映画ではなかったというのが本音。
もちろん悪い映画だとは思いませんが。



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正午なり


日時 2014年4月12日17:40〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 後藤幸一
製作 昭和53年(1978年)


忠夫(金田賢一)は東京から生まれ故郷の田舎町に帰ってきた。家では父(垂水吾郎)と母(南田洋子)が細々と農業を営んでいる。
町の電器店で修理をできる人を募集していて東京での経験もあって採用された忠夫。
学校時代の友達哲治と出会う。哲治は実家のリンゴ農園を手伝っていたが、「こんな田舎町はいやだ」と言っていた。哲治に誘われるままに町のバーに飲みに行く忠夫。哲治はバーの女といい仲のようだったが、彼に言わせると本気ではないらしい。哲治の紹介でそのバーの女、あけみ(結城しのぶ)と知り合う。あけみは誘ってきたが、忠夫はその気になれない。
夏、自然を求めて都会から観光客が集まっていた。
牧場で夏の間バイトしている女の子の部屋をのぞく忠夫。


この映画は封切りの時に観ている。
どうして観たのかはさっぱり覚えていない。何か別の映画の同時上映だったのだろうか。
女性に対して潔癖な考え(あるいは幻想)を持ちながら、しかし自信のセックスに対する欲望を抱えている心情が当時高校生だった私には共感できたのだ。
今初見だったら面白くなかったかも知れない。

忠夫は特に水商売の女に対し警戒心が強い。
哲治が夜中に来て「この町を出ていくから金を貸してくれ」と言ったらあっさり貸したのに、彼がバーの女と一緒と知ると途端に気を変えて「今貸した金を返せ」という。

忠夫は一人で川の水をせき止めてあるところで泳ぐ。
ある日そこへ堅気でなさそうな男(原田芳雄)が泳いでいるのを見つけると「ここは僕だけが泳ぐ場所なんです」という。

そういう潔癖な所、私も若いときにはありました。
同じように「お見合いをしない」と言っていた哲治がお見合いをしてその彼女を連れて3人でデートする。
実は哲治は彼女とする気まんまんなので、湖でボートに乗って小さな島に行く。そこで哲治は「気を利かせてくれ」と忠夫を追い払おうとする。
そういった「汚い欲望」に怒りを覚える忠夫。

しかし彼も都会から来た女性3人組の部屋を覗いたり、部屋に入ってその布団のにおいを嗅いだりしてしまう。
そういった欲望と潔癖の狭間に揺れる気持ち。
ラスト、やはり東京に出ていくという忠夫。
翌日の切符を買った帰り道、見かけた女を川に追い込み強姦してしまう。

一見矛盾している彼の行動だが、潔癖と欲望の間で揺れる気持ちは初めて観た当時痛いほど解った。
だからこそ、その後この映画を観ることはなかったが記憶には残っていた。
今回36年ぶりに観たわけだが、当時の気持ちを思いだし、面白かった。

またこの映画では萩本欽一が湖畔の店の主人役でゲスト出演。
この日は後藤監督もご覧になっていて、観終わった後感想を言ってすこしお話させていただいた。
見直してよかった。



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地の群れ


日時 2014年4月12日13:00〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 熊井啓
製作 昭和45年(1970年)


昭和16年、宇南はまだ少年だったが、海底炭坑で働く朝鮮人の少女を妊娠させた。しかし彼は責任をとらずに逃げた。
現代の佐世保、宇南(鈴木瑞穂)は町医者となって地域の診療をしている。近くには海塔新田と呼ばれる地区があり、原爆の被爆者が多く集まった集落だ。
その海塔新田の信夫(麦人)という少年が徳子という少女を強姦したことで警察に呼ばれていた。しかし結局決め手がなく釈放。徳子も被差別部落出身で母親(北林谷栄)らは誰が強姦したかを問うていた。
そんな頃、光子(奈良岡朋子)という女が娘の病気のことで宇南に相談に来ていた。
話を聞いて診察した宇南だったが、彼女の症状は原爆病によく似ていた。しかし光子は長崎の原爆投下時には疎開していて長崎にいなかったし、長崎に帰ったのも2ヶ月も経ってからだという。
徳子は信夫から自分を強姦した男の特徴を話し、誰がやったかを特定する。そしてその男、宮地真の家に押し掛けるが父親(宇野重吉)に「言いがかりをつけるな!」と追い返されてしまう。
その夜、徳子の母親が死んだ。
娘に変わって宮地の家に行った母親は誰という訳でなく、部落の人々に投石されて死んだのだ。


熊井啓のATG作品。
この映画は30年くらい前の学生時代に文芸地下で見ている。「日本列島」が好きだったので、見に行ったのだ。
でも当時「なんか取っつきにくい映画だなあ」という印象を持った。
でももう一度観たいなと思って再見した次第。

「取っつきにくい」という印象は変わらない。
宇南の話〜結婚前に共産党の活動をしていてその時の親友と妻はつきあっていたとかその友人は山で死んだとか妻は子供を産みたいが宇南は反対しているとか〜と徳子と信夫の話と光子親子の話がどうにもバラバラでいまいちまとまりが悪いのだ。
一応宇南という男を通じて3つはつながるが、昭和16年での炭坑の妊娠話と宇南がどうつながるかなかなか示されずに漠然とした「話のわかりにくさ」だけが目立った。

それにしても学生時代に観て印象に残ったのは北林谷栄(こちらも被差別部落だが)が宇野重吉に対し「お前たちの血は汚れている。何代も汚れたままだ」と罵るところ。
原爆の被害者がこのように差別されている現実があるのだと知って非常に驚いた。

映画には原爆を落としたアメリカの象徴として佐世保の海軍基地も登場する。

朝鮮人差別とか被差別部落とか被爆者差別とか様々な差別が登場する。そして本来はその差別する側に戦うエネルギーは向かうべきなのに(と私は思うのだが)、その弱者同士が争っている。
この不条理はなんなのか?

ラスト、部落の人々が逆に信夫を襲撃して追いかけ回す。
米軍基地に入ろうとしたりする。団地に逃げ込む。しかし団地の主婦は笑っている。
何か不気味なものがある。

タイトルバックはネズミが無数いる箱に鶏が一羽おり、その鶏がやがてネズミに食われてしまう。そしてそのネズミも焼き払われる。
そしてラストでもその焼き払われるネズミが出てくる。
いまいち解りにくい象徴的な映像だし、熊井啓の怒りは解るが、映画としては詰め込みすぎてうまくまとまってないような気がした。



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白ゆき姫殺人事件


日時 2014年4月6日20:10〜
場所 TOHOシネマズ日本橋・スクリーン4
監督 中村義洋


長野県茅野市にある国定公園で女性の焼死体が発見された。刃物でめった刺しにされてから火をつけられたのだ。
殺人事件としてネットでは大騒ぎ。
テレビのワイドショー「ミミカベッ!」の冴えないディレクターの赤星(綾野剛)は大学時代の狩野里沙子(蓮佛美沙子)から電話を受ける。
殺されたのは里沙子の会社の先輩の三木典子だというのだ。早速取材に向かう赤星。不用意にも今回の取材内容の一部をツイッターで赤星は拡散させてしまう。
里沙子は三木典子と同期の城野美姫(井上真央)が怪しいという。
事件当日は会社の送別会があって、その帰り道典子は美姫の車に乗っていった。しかも美姫の行方はわからない。
美姫は当日の夜、駅の階段を走って上っていくのを目撃されている。
赤星は里沙子をはじめとして会社の同僚、上司に話を聞いていき、美姫の小学校時代に友人を呪い殺したという噂も聞きつけていく。


湊かなえ原作。湊かなえは「告白」を読んだとき、「すごい新人が現れたなあ」と思った。宮部みゆきに続く女性ミステリー作家である。(いや男女で区別をするのはよくないな)
映画館は3月20日にオープンしたばかりのTOHOシネマズ日本橋に行ってきた。相変わらすシネスコのスクリーンにビスタを上映している。スクリーンの両端をカーテンで隠すということをしていない。

映画の方だが、正直面白かった。
赤星は美姫の小学校中学校時代の同級生に会い、彼女が友達と「呪いの儀式」をして火事を起こしたことがあることを知る。
ワイドショーではそれを報道し、司会者は美姫が犯人であるかのようにミスリードしていく。

そして最後の証言者として美姫の独白となる。
彼女はあの夜に向かった先で起こった事故の原因を作ったのではないかと思いこみ、出るに出られなかったのだ。
(ちなみに彼女が籠もっていたビジネスホテルが新宿のはずれの知ってるホテルだった)

彼女は自分が記憶していた事柄が他人の口を持って語られるとまるで違った人間になっているとして自分がわからなくなる。
「他人から見ると自分はこう見えていたのか」という驚きを感じる。確かにそういう経験てあまりないけど、自分の記憶と他人の記憶では違うのだろうなあ。

そしてツイッターなどで「やってるな」「死ね」などのツイートんび追いつめられた彼女は自殺を計る。
ここでテレビから犯人逮捕の速報。

このどんでん返しには驚いた。
でも正直言ってもう一度どんでん返しがあったらもっと印象が深かったと思う。美姫じゃなくて他人が犯人だったけど、やっぱり美姫だったとか、犯人は別の人間に導かれていた!とか。
まあもちろん今のままでも十分面白かったけど。

テレビ番組が他人を犯人と決めつけるというのはみのもんたがやらかして一時問題になった。
今回は赤星だけしか取材していない。
他局も取材して地元はカメラやヘリが来て大騒ぎとか美姫の潜伏場所を巡ってツイッターで大騒ぎとか関係ない他人の個人情報がネットで暴露されるとか、その辺はおとなしめ。
原作はどうだったかわからないが、映画ではネット社会やマスコミの暴走という社会派的な題材は押さえられていてミステリーとしてのみ作られていた印象を受けた。
もうちょっとこの辺は深くやって欲しかった気がする。



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銀座ネオン川 冬の蝶


日時 2014年4月6日15:08〜
場所 光音座1
監督 小林悟
製作 


マドカ(MADOKA)とアキラはかつては新宿の売り専で仲間だった。しかしアキラはマドカの常連の弁護士の先生(久須美欽一)を寝取って新宿で店を出してもらった。
実はアキラは他の男がマドカを犯しているところを写真に撮り「マドカはこんな浮気者で先生がかわいそう」と言って先生を寝取ったのだ。
アキラは「先生からの手切れ金代わりよ」と先生の車のキーを渡す。
悔しがるマドカ。「向こうが新宿ならあたしは銀座に店を出す」と酔っぱらって銀座に行き、道で寝てしまう。
それを通りかかったサミーが介抱してくれた。
サミーはある金持ちを紹介してくれた。その金持ちはマドカをMにしてSプレイを楽しむ。
やがてマドカはその金持ちの金で銀座に店を出す。


ゲイピンクとしてもおそらく初期の映画。
正直、売り専と単なるホステスの区別がついていない。何か普通のピンク映画用のシナリオを書き直したような感じ。
売り専は体を売るだけだから別にバーを出すことにはこだわらんだろうに。それに銀座に店を出すことという感覚は女性のホステスの発想でゲイバーをやりたい人にはないのではないか。

映画の方はマドカが銀座に店を出した開店の日に用意したスタッフ(ホステスというかホストというか)が全員こなくて大失敗の初日となってしまう。
映画でははっきり描かれないが、たぶんアキラの差し金。
それで今度はサミーが例の弁護士先生に近づき、彼の援助を受け、店は順調に再スタート。
その様子をアキラは悔しがり、マドカは例の車のキーを渡す。
この後アキラが車内で悔しがっている独白がある。高級車なんだろうが、予算のせいか写せない。
ここで実はサミーがブレーキに細工をしていて事故でアキラは死ぬ、という展開を予想したが、別になし。

店は成功し、マドカとサミーは幸せに。
「僕、マドカの力になりたかった。実はあの金持ちは僕の父なんだ」という衝撃の告白があっても続きはなく「終」。
80年代(おそらく)の新宿のネオンが懐かしい。

同時上映は佐藤寿保監督の「仮面の誘惑」
以前にDVDで観ているので感想は略。



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シネマパラダイス★ピョンヤン


日時 2014年4月4日〜
場所 シアターイメージフォーラム・シアター1(1F)
監督 ジェイムス・ロン、リン・リー


シンガポールのドキュメンタリー映画監督ジェイムスとリンは自分たちの映画がピョンヤンの映画祭で上映されたことがきっかけで北朝鮮の映画界と知り合いになった。
北朝鮮の映画業界を取材しようと思い立つ。先方から様々な制約をつけられたが、その大きな二つが「撮影時には常に係員がつきそう」「撮影当日にすべてチェックさせて欲しい」ということ。
ピョンヤン映画演劇大学の俳優コースで学ぶ学生たち、先軍体制50周年記念の抗日映画を撮る映画監督。
そこから見える北朝鮮とは?


先日シネロマン池袋に行ったときにチラシを見かけて急遽見に行った映画。北朝鮮ウオッチャーとしては押さえておきたい。私にとっては是非行ってみたい外国が北朝鮮だ。
私と北朝鮮の出会いは「金日成のパレード」を観て以来。
金正日が大変な映画ファンでフィルムライブラリーも充実しているという噂だし、撮影所も立派だとか。

この映画で主に取材されるのは3人。
まずは父は映画俳優から監督に転身し、母は人気女優という映画一家に育った男子大学生、抗日映画を撮る監督、さっきの男子学生が映画大学で主演をつとめる短編映画の相手女優の学生。
もちろんピョンヤンの街の風景を登場するが、大都会で貧乏なイメージはない。

大学生は「他の国映画人は自分の利益のために映画を作りますが、我々は国のため、将軍様のために作ります!そこが違います!」と言う。
それが本音なのか言わされているのかわからない。
母も「立派な愛国者になれ!いい俳優になることが立派な愛国者になることだ」とアドバイスする。

映画監督は撮影所を案内してくれる。
中国、南朝鮮、日本(60年代だそうだ)を模したオープンセットを見せてくれる。「将軍様のおかげで外国に行かずとも映画が作れる」という。
そこが一番の楽しみだったが、正直60年代の日本ぽくはなかった。ここで撮影された映画をちょっと紹介して欲しいところだが、日本人が撮った訳ではないし、あるいは権利とか予算とかの制約か、そういうシーンはない。残念。

その後、彼が今撮っている抗日映画を撮影風景が出てくる。軍の兵士をエキストラにして、日本軍によって朝鮮軍が解体されるシーンを撮る。
エキストラに対し「軍靴をはいている人、前に。履いてない人、後ろ。履いてないのを隠す」という。
やっぱり物資がないのだろか?
もともと俳優ではないので、彼らはどうしても笑ってしまう。「バカ野郎!何で笑ってるんだ!朝鮮軍が負けたシーンだぞ!もっと感情を込めろ!」って言っても無理だろうなあ。
その後も武装解除のシーンを撮るが「銃の捨て方がなってない!もっと悔しさを表現しろ」だから素人相手に無理だって。

その後例の演技学生二人が主演する映画になる。
北朝鮮では病気の治療、予防が(建前では)無料らしい。
どうやらその保険制度を称える映画らしい。

男子学生の方が29歳の医師に扮し、女子学生はその助手の看護婦。
一軒の家に行き、予防接種を勧めるシーンらしい。
でも監督(これも学生)から「お前29歳に見えないぞ!もっと大人っぽくやれ!」とか言われる。
でリハーサルが終わってからそれぞれの段取りの反省会が行われる。
「あそこで自分は座ってしまった」「せりふを飛ばした」とか割と初歩的なミスをしている。
正直「そんなレベルなんだ。高校生の自主映画並みだなあ」というのが思ったこと。実際の映画を見てないので評価を下すのはまだ早いけど。

そうそう北朝鮮ではあちこちで「金正日偉人伝説」というのがあってこの映画でももちろん出てくる。
ある映画の撮影指導をし、その夜にも編集にも立ち会った金正日、音楽もつけて「これでいい」と言った翌日、同じシーンを観てみると「何かが違う」という。
編集者は「特にいじってません」という。
「23コマほど短い」。
よく調べてみると実は編集者が(どういう理由か知らないが)「この位なら」と少し切ったそうだ。そしてその切った部分のコマを数えてみたら「23コマ」だったという。
いや〜金正日の映画的才能を感じさせるエピソードだ。

ラスト、映画大学の学生たちはスケートリンクでスケートの練習をする。手をつないでリンクを滑る姿は生き生きとして他の国の若者と変わらない。
ここでやっと作者の主張的展開になる。
今まで取材した映像(それも検閲済みの)を見せられ、若干退屈していたが、この学生たちの姿と、街にあふれる「団結!」とか「将軍様の喜びは私たちの喜び」といった北朝鮮らしいスローガンの看板のカットがモンタージュされる。
生き生きとした若者と(外国人からすると)奇妙なスローガン。この対比がこの国の(あくまで外国人からすると)異常さを際だたせていた。

衝撃的なカットやシーンがあるわけではなく、正直退屈さも漂う映画だけど、北朝鮮ウオッチャーとして観てよかった。



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