2024年8月

   
キングコング対ゴジラ(4Kリマスター版) マンガ家、堀マモル ラストマイル SCRAPPER/スクラッパー
マミー/Mommy 恋を知らない僕たちは 心平、 太陽の恋人
アグネス・ラム
劇場版 アナウンサーたちの戦争 ブルーピリオド サンダカン八番娼館 望郷 阿片戦争
八十八年目の太陽 ツイスターズ 田舎刑事(デカ) 時間(とき)よ、とまれ 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!
オレ達のこじらせメロディー 兵六夢物語 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ ブロウアップヒデキ

キングコング対ゴジラ(4Kリマスター版)


日時 2024年8月31日18:50〜
場所 TOHOシネマズ日比谷
監督 本多猪四郎
特技監督 円谷英二
製作 昭和37年(1962年)


キンゴジなんて何十回も観てるし、このサイトにも感想は当然あげてるだろうと思ってみたら短縮版の感想しかあげていない。
今回、久々に全長版を観たので感想をあげてみる。

この全長4K版はたしか2016年(「シン・ゴジラ」の年)に日本映画専門チャンネルの主導で作られ、7月に(「シンゴジラ」公開直前)にTOHOシネマズ新宿で視聴者の応募で当たった人だけ鑑賞できた。
友人が結構当たっていたので「俺も大丈夫かな」と思っていたけどはずれたのである。

その後、しばらくして(その年の秋ぐらい)新文芸座で確かオールナイトで上映され、「キンゴジ」は最初の11時ぐらいからの上映だったと思う。
それ以来スクリーンでは観た記憶がないので、久々の鑑賞である。

とにかく脚本がすばらしい。冒頭パシフィック製薬の「世界驚異シリーズ」(実は昼休みにやっているのもおかしな感じだが)では北極の氷が溶け始めているという話をする。そこから北極のアメリカの潜水艦へとつながっていく。
そして高島忠夫と藤木悠はファロ島へ。

南の島と北極海をカットバックでつなぎつつ両方で怪獣登場!
ゴジラが最初に上陸した場所で、戦車群と戦うが、これがずっと北海道だと思っていた。ところがこれが数年前に戦車に赤い星が描かれていたことに気がついた。そうだ、ここはソ連領なのだ。すると北方領土あたりに上陸したのか??

佐原健二の恋人が根室で降りたとも知らず(なぜ根室で降りたかは去年発売になったコンプリーションに掲載された脚本を見ると根室の漁師に新製品のワイヤーを使ってもらっていて、その聞き取りに行ったのだ)浜美枝は北へ向かう。そしてゴジラに遭遇、それを佐原健二が助ける訳だが、正直ここは強引だな。
もう「マイナスワン」以上に強引である。

そして那須高原でゴジラとコング激突!
有島一郎が樹木で偽装してるが、あの人は戦争経験者だね。南方あたりに行ってたんだろうか?
高島忠夫が16mmカメラを回す。この時時々何かを回してるけど、あれゼンマイなんですね。当時のムービーカメラにはゼンマイでフィルムを回すタイプがあった。ニュース用ともいわれていて、そうやら「月光仮面」はこのタイプのカメラで撮ったらしい。

そしてコング東京上陸。
またしても怪獣に襲われる浜美枝。
とにかく脚本がすばらしく、それをテンポよく演出した本多監督の最高傑作だろう。

コングをつり上げる訳だけど、ここで眠らせるのはファロラクトン(赤い実から抽出した薬)と東京製鋼のワイヤー。東京製鋼にしてみれば宣伝価値絶大ですね。

御殿場対決から熱海へ(おいおい結構距離あるぜ、というツッコミはなし)。
このロングの時の人形のコングとゴジラがかわいい。

熱海城をぶっ壊し、2匹とも海へ。
どちらも負けさせることが出来ずに引き分けである。

とにかくあっという間のスピード感の映画。
怪獣映画の名作中の名作である。




マンガ家、堀マモル


日時 2024年8月31日16:05〜
場所 新宿ピカデリー・シアター5
監督 榊原有佑 武桜子 野田麗未


マンガ家堀マモル(山下幸輝)は新人賞を取ってものの、その後の作品が続かず担当編集の林からいつも怒られていた。担当は「自分のハラワタを見せろ」という。しかしマモル自身はなにを描けばいいのかわからなくなっていた。
高校生の時はマモルは幼なじみの春(桃果)と一緒にマンガを描いていた。しかし元々体の弱かった春はすでに亡くなっていた。それで彼は描けないでいたのだ。
そんな時、マモルの前に3人の男の子の幽霊が現れる。小学生の海(宇陽大輝)、中学生の樹(斎藤汰鷹)、高校生の愛(竹原千代)だった。
3人はそれぞれ自分の物語を描いてほしいと言い出す。マモルは彼らの話を聞く。マンガ好きの友達と出会った話、周りになじめず図書館で絵を描いていた時に自分の味方をしてくれた先生の話、友達と「一緒にマンガを作っていこう」と約束したのにその子に「就職する」と言われてショックを受けた話。
それらは実は自分の過去の物語だった。そのマンガは林にも「お前のことがよく描けてる」とほめられた。
そして春の死と向き合う。彼は春は死んでしまったのに自分だけがマンガを描き続けていることに何か後ろめたさを持っていたのだった。


山下幸輝主演作。
マンガ家堀マモルが自己と向き合い、亡くなった親友との関係へのこだわりを解決していく物語。
正直、よかった。
私の好みである。

3人の少年少女が幽霊となって現れるが、これはマモル自身の過去の姿だ。そして彼の描けない原因が、もともと話を作っていたのは春の方だったということもあるが、「春が死んでしまったのに自分だけマンガを描いていていいのか」というトラウマが原因だったのだ。

そして彼はマンガを描く過程で春が最後に手帳に残した言葉「マモルと一緒にマンガを描きたかった」と向き合う。
夢の中、幻想の中の春は最後の一文を消し、「マモルは一人でもマンガを描けると思う」に書き換えてくれた。

構成はちょっと複雑で、幻想のマンガのカット(春と愛)が同じアングルで春とマモルになって出てくる。
春が亡くなってどうすべきかわからなくなっていたマモルがそれを自己解決させる物語。

あと私は映画で「色がきれい」と思うことはほとんどないのだが、本作は暖色系(オレンジ)が実に美しく、ろうそくの炎の照り返しなどで実に効果的である。

正直、よかった。
もう1回観てもいい。





ラストマイル


日時 2024年8月30日19:00〜
場所 TOHOシネマズ新宿・スクリーン9
監督 塚原あゆ子


DAILY FAST、通称デリファスは世界最大のネットショッピングサイト。日本国内の4割の流通を扱う関東物流センターに新センター長として舟渡エレナ(満島ひかり)が着任した。部下は梨本(岡田将生)。ここは1000人単位が働くが、ほとんどが派遣社員で正社員は9人だという。
11月のセール、ブラックフライデーを目前に忙しい。
そんな時に都内で連続爆弾事件が発生した。爆弾はデリファスから送られた荷物に仕掛けられていた可能性が高い。
刑事の刈谷(酒向芳)と毛利(大倉孝二)が訪ねてきたが、エレナは「従業員は荷物検査をして倉庫に入っている。爆弾の持ち込みなどあり得ない」と否定した。では宅配便のドライバーが入れたのか?
物流を行う羊急便のドライバーらが疑われるが爆発で被害を受けた人物との接点も見つからない。
そんな中、梨本の前の担当者が不審人物として浮かび上がる。しかし彼は5年前にこの関東物流センターの倉庫から転落し、現在は植物状態にあった。また爆発物の鑑識が調べたところ、爆弾を作った男がわかった。しかしその爆弾はある女性に売ったという。
またその転落した男のマンションに出入りしていた女性がデリファスに恨みを持って犯行に及んだという線が濃厚になった。
その女はエレナではないか?梨本は疑い出す。


明らかにアマゾンをモデルにしたネットショッピングサイトの荷物に爆弾が仕掛けられたというサスペンスドラマ。ヒットもしているようである。
実際、話は面白いし、テーマも好きな話である。

でもテレビドラマ的(昔は漫画的と思った)というべきか出てくる人物のキャラがたちすぎているのでなんか乗れない。
まず満島ひかりの舟渡なのだが、「アメリカの本社から来た仕事の出来るスーパーウーマン」という感じでどうも現実味がないのだな。

その他、テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」のメンバーが同じ役で出演しているというお祭り状態なのだが、どっちも知らない。
それがテレビドラマ的にやたらとキャラが立っている。「警視庁物語」のような地味な、でも実際にいそうな刑事が好きな私にとっては心が離れるだけである。

あと「どうやって爆弾が仕掛けられた商品をセンターに混入させたか」の説明が駆け足すぎる。「デリファスでいったん購入し、今度は納品代行をデリファスに委託、倉庫に働きに行って、納品代行者の在庫シールをはがし、デリファス仕入れの商品として配送させる」ってわかりにくいよ。私は何となくわかったが、もう少し詳しく説明しても。

だがテーマはなかなかシビア。
デリファスは「すべてはお客様のために」というスローガンを掲げているが、それはつまり物流業者に異常に安い配送価格を強いたり、それは納品業者にも同じことがいえる。

末端の物流ドライバーとして佐野親子(火野正平、宇野祥平)が登場。荷物1個の配送料は150円だという。ネットショッピングのおかげでこの20年、宅配業者は扱い量が増えていることだろう。でもその低賃金はきつい。

最後、残った爆弾1個が爆発直前で、佐野の息子がドラム式洗濯機に投げ込んで爆発したが飛散をくい止める。
この洗濯機は佐野の息子が以前勤めていた会社の製品で、いわく「丈夫ないい製品を作っていたが結局価格競争に負けた」という。
高いけど質のいい製品が結局は人の爆弾から救ったという皮肉である。

人々は「安く、早く」を求め続ける。
しかしそれはそれを提供する人々を疲弊させる。それでも「安く早く」をやめれない、止められない。
どこかでこの暴走を止めるのは容易ではない。
「早く安く」は人々が求めることだから。





SCRAPPER/スクラッパー


日時 2024年8月25日16:40〜
場所 上田映劇(長野県上田市)
監督 シャーロット・リーガン


12歳の少女ジョージー(ローラ・キャンベル)は母親と二人暮らしだったが、母親は病気で亡くなった。ジョージーは母と思い出のアパートで暮らし続けるために架空のおじと暮らしている設定にしていた。親友のアルの母親をだますために電話がかかってきた時のために近所の店員に「今大丈夫です」などのせりふを録音し、電話ではそれを再生してやり過ごしている。アルが見張り役で、ジョージーは自転車泥棒をしてそれを買い取ってもらっていた。
そんな日々が続いた頃、突然ジェイソンという男が現れた。ジェイソンは「俺はお前の父親だ」という。自分や母親を捨てて出て行った男を簡単に受け入れることは出来なかった。
一緒に自転車泥棒をしてくれるジェイソン。ある日、ジェイソンに誘われて出かける。そこで誕生日プレゼントだと言って名前をデザインしたブレスレットをくれた。
ある日、自転車泥棒が警官に見つかりそうになり、一緒に逃げてくれたジェイソン。だが夜になってスマホを落としたと気づく。スマホを探しに町へでたが見つからない。そんな時同級生の子に会いスマホをなくした話をするとジョージーはその子を殴ってしまう。
それを知ったジェイソンはその娘の家に謝りに言ってくれた。
ジョージーは自分の部屋にジェイソンを入れようとしなかったが、ジェイソンはジョージーがいないときに部屋に入るとベッドの上にタワーが作られていた。ジョージーの母親が「自分は空に行く」と言っていたから少しでも近づきたいというジョージーの気持ちだった。
それを知ったジェイソンは自分の元にかかってきたジョージーの母親のメッセージをジョージーに聞かせる。それは「私はもうすぐ死ぬ。ジョージーを任せられるのはあなたしかいない」というメッセージだった。


話は全部書いた。
この映画は映画を見たかったわけではなく、上田映劇を見に行ってその時に上映されていた映画だったから。(上田に来た理由は後述)
そんな感じで映画には全く食指が動かずに見た。
映画の予告編は武蔵野館あたりで見たような気もする。

別れていた父と娘が一緒に暮らしだしたが、最初は反発したが結局は心を通わせるようになったという小さい話である。
話自体は興味が湧かないが、描写の面かな。

ジョージーはスマホをなくしてキレるのだが、それは母親が生きている時に撮った動画が残されていたから。それを時々再生している姿が映画の中では描かれる。
だからこそ友人に「スマホなんかまた買ってもらえばいいじゃん」と言われてカッとなってしまう。

そしてジェイソンのスマホに残されていたメッセージがボイスメッセージ。こういうデジタルなスマホで残された動画や音声が二人を結びつかせるアイテムになるというのが21世紀である。

そんなどうでも言いような感想しか出てこないな。

上田には美術館で「特撮のDNA展」が開催されており、8月25日は手塚昌明監督の自伝「ゴジラ×市川崑」の出版記念トークイベント&サイン会が開催された。本自体の発売は8月30日だが、先行してここで買うことが出来た。それが目的で上田まで日帰り旅行である。

上田映劇はTwitterの画像で扉に書かれた上田映劇のロゴや、木製の扉自体がレトロでかっこよかったので興味があったのだが、行ってみたらただの古い昭和の作りの映画館である。
外壁なんか崩れそうな位古くて意外だったな。
昭和30年代の映画館の名残を残した映画館だった。

でも上田はこのほかにもTOHOシネマズもあり、映画館事情は悪くない町だ。松本よりいいかも知れない。
ただしこの「スクラッパー」を見たときのお客さんの数は私を入れて2名。
経営は苦しいだろうなあ。いつ無くなってもおかしくない。
まだまだ続けてもらうことを祈る。
映画のロケとしても使えそうな映画館だった。








マミー/Mommy


日時 2024年8月24日13:30〜
場所 シアターイメージフォーラム・シアター1(地下)
監督 二村真弘


1998年7月に和歌山市園部地区で起こったいわゆる「和歌山毒物カレー事件」の死刑囚、林眞須美は冤罪だとするドキュメンタリー。
この事件に関しては以前鈴木邦男さんが生きていた時代の2010年頃、冤罪を訴える集会に参加したことがある。そのときに感じたのは「林眞須美は容疑者の一人にすぎない」ということである。

彼女は砒素を入れようと思えば入れるチャンスはあった、家にもヒ素があった、過去にヒ素を夫が飲んで保険金詐欺をした、とめちゃくちゃ怪しい奴なのである。
でもそれだけなのである。怪しいだけで、決定的証拠はない。
僕自身はそういう考えである。

この映画、ドキュメンタリーのあり方など好みもあろうが作りが私は好きではない。
描いてる内容の是非ではなく、あくまで映画の編集、作り方の好みである。(事件に関しての意見は上記の通り)

まず無駄なカットが多い。
もちろん監督としては全部必要なカットだろうけど、テンポが悪くてイライラさせられるのだよ。
飛行機が飛ぶカット、林健治(眞須美の夫)の部屋におかれたヌイグルミなどのカット、その他、インタビューの前後の風景カットなどとにかく無駄で意味がない(もしくは意味を感じない)。
こういう映画ではもう少し迫力のある編集にしなければ観てるものにインパクトを残さない。

もう25年も前の事件だし、今の大学生では生まれる前である。当時を経験した人でも詳細は忘れている。
ここは最初の方で、事件の経過をきちっと説明すべきである。
一応説明はあるけど、地元の人のインタビューとか、ボソボソとした説明なので非常に伝わりづらい。
ここはちゃんと地図など表示し、聞き取りやすいナレーションを入れて、もう1回事件を検証した方がいい。
これがどうにも「そういう解り易さ第一の作り方はしたくない」というカッコつけなのか、監督たちは編集時に何回も聞いているので内容は自分では解っているせいか、初見の人の聞き取りづらさは無視してしまうのである。

それとこっちは最近テレビのインタビューで話に字幕がつくのになれっこになってしまってるので、俳優のせりふではない、素人の話し言葉は実に聞きづらい。

そして砒素の鑑定結果だが、最初の鑑定では現場の紙コップから見つかったヒ素と林家から発見されたヒ素が同じと鑑定された。
しかし別の大学の教授が鑑定結果の資料を見て「同じともいえるけど違う可能性もある」、そして同じヒ素は当時和歌山市内で買った人はたくさんいて、別の人だって持っていたということなのである。

とにかく映画の反証がすべて「違う可能性もある」で終わってしまう。
映画の途中で、眞須美の無罪を訴える団体が和歌山駅前でビラ配りをしているときに通行人に絡まれる。その人は「俺は彼女がやったと思っている。じゃあ誰がやったんだ!」という人が現れる。
もちろん支援者団体は「真犯人を見つけるのは警察の仕事。我々は眞須美さんはやってないと訴えてるだけ」と反論する。

間違いではない。しかしもやもやは残る。
ここが林眞須美の弱いところなのである。もちろんだからと言って死刑にしていいわけではない。

マスコミの例の「眞須美がホースでテレビに水をかけた映像」のインパクトのせいか、思いこまされてる部分もあるだろう。
もっとも当時の林家の周りのテレビカメラ、マスコミの記者の数の多さを見ると、そりゃ水もかけたくなると思う。少なくとも私だったらやっていたかも知れない。

そして林健治氏が保険金詐欺の件をあからさまに語る。
「車に残っていたヒ素をどんな味がするかと思ってなめてみた。味は何もしなかった。試しに保険金を請求したら2億円入った。味をしめてもう1回ヒ素をお茶に混ぜて飲んだ」と言っている。
結構大概な人である。

あと泉氏という人物が登場する。泉氏は眞須美のことが好きで、何でも言うことを聞いてしまうので、睡眠薬を飲んだり、ヒ素も飲んだりして(知らずに飲まされたのではなく、知っていて飲んだらしい)保険金詐欺に荷担したのだ。
そして眞須美の母が亡くなったときの保険金を競輪でスッてしまった健治氏はまた自分がヒ素を飲んで保険金を搾取し、これで眞須美さんに許してもらおうとした、と語る。
何回もいうけど大概な人である。

とんでもないクソ夫婦なのだが、だからと言ってやってない事件で死刑にされるのは間違っている。
彼らが罰に値するか否かではない。
公正な、正しい捜査が行われたか否かである。

今回の映画では追求されなかったが、林眞須美にしてみれば、夏祭りで振る舞われるカレーに毒を入れる動機が全くないのである。
カレーに毒を入れても彼女に保険金は入らない。
そこをもう少し突いてもよかったと思う。
とにかく弱い映画だと思う。

林夫婦の息子が顔にモザイクが入って仮名での出演。
先に書いた集会の時に本人を見たけど、中丸雄一風のなかなかのイケメンだった。
林眞須美も太ってるけど、あれ、若くて痩せてたら結構かわいいと思うよ。
そして姉が自殺していたとは知らなかった。

イメージフォーラム1館の上映だが、土日は満席も多い。
世間ではまだ多少は関心は残っているようである。







恋を知らない僕たちは


日時 2024年3月23日15:10〜
場所 新宿ピカデリー・シアター1
監督 酒井麻衣


英二(大西流星)と直彦(窪塚愛流)は中学の同級生で親友だった。2年の時に泉(莉子)が転校してきた。英二と泉は小学校の同級生で、親の都合で転勤していたのだった。英二と直彦、泉は毎日一緒に帰るようになった。直彦は泉を好きになる。直彦は英二に「お前は泉に告白したりしないのか?」と聞くが「するわけねーだろ」と答えてしまう。
直彦は泉に告白。二人はつきあうようになる。泉の幸せを願う英二はだまって見ていた。しかし3年の冬、泉はまた引っ越していった。
高校2年になった頃、また泉が英二たちの高校に転入してきた。
そんな時、英二と直彦は小春(齊藤なぎさ)が俺様な彼氏(小宮璃央)に振り回されあげくフられる姿を目撃してしまう。直彦の慰めの言葉に恋してしまう小春。英二は図書委員をしていたが、同じく図書委員の瑞穂(志田彩良)は英二のことが好きだった。だがバンドでギターを弾く太一(猪狩蒼弥)は瑞穂のことが好きだった。
小春は英二に今度の花火大会に直彦と一緒に行きたいと言い出す。泉から直彦を奪おうとしているのを知った英二は、花火大会の日「じゃ俺たち付き合おう」と言ってしまう。
6人の恋の行方は?


なにわ男子の大西流星の映画初主演作。映画の出演は前にもあったけど大西流星でなくても・・という役だった(映画は覚えているが題名は忘れた)。
今回は少女コミック原作の高校生恋愛もの。そういえば女子が主人公になることが多いが、今回は男子が主人公である。
たいていは男女4人がいろいろあるけど、今回は6人である。

「違う惑星の変な恋人」のムっちゃんの莉子が6人の一人だが、「ちがわく」風に言うと恋のベクトルが4本ではなく6本あって、それが交わったりすれ違ったり向きが変わったりと忙しい。

英二も最初は泉のことが好きで、学園祭で勢いでキスしてしまったりして、直彦と気まずくなりながらも英二も泉に告白。しかしあっさり撃沈。
あれれ?

そして最初は「お前は直彦たちのじゃまするな!」と嫌っていた小春のことを意識するようになり、最後は二人は付き合うようになるというあれれ?な展開。
そんなむりくりに付き合わなくても・・・・。

だから図書委員の瑞穂は英二に告白するも撃沈。クリスマスの学園ライブで太一は瑞穂に対するラブソングを歌うが、ここで映画は終わる。
太一と瑞穂が出来たかは映画でははっきりしない。
ここは観客の想像に任せるのかな。たぶんだめだな。

とにかく大西流星の美少年ぶりを楽しむだけの映画。
直彦役の窪塚愛流は(知らなかったが)窪塚洋介の息子。へーこんなに大きくなったんだ。正直言うけどあまり男前ではないので、役のイメージからいうと窪塚が英二で直彦が大西ではないだろうか。
でも大西流星主演ってのは決まってたろうからそうはいかないか。

本日は初日舞台挨拶中継付き上映(平日の夕方だが会社は振り替え休日なので)。
監督の酒井麻衣さんは名前の通り女性。おじさんの監督ではない。
この映画、今年の5月に福岡、北九州で撮影されたそうで(それは中州の夜景が出てくるカットがあったのでわかった)、8月に公開だから最近の映画としてはずいぶんと早い。

「皆さんの今愛してるもの、好きなものをフリップに書いていただきました」と司会が言って6人がそれぞれ発表するのだが、志田彩良の飼っている犬から始まったが、印象に残ったのは猪狩が「渋沢栄一」と答えたのはのけぞった。お金が好きらしい。バラエティ番組での「俺様」キャラのまんまだった。
窪塚は「鮨」で、大西流星は「ドーナツ!」とかわいい答え。
帰りにドーナツ買って家で食べました。





心平、


日時 2024年6月22日18:30〜
場所 新宿K's cinema
監督 山城達郎


2014年、震災後の福島県。心平(奥野瑛太)は知的障害を持ち35歳だが自転車で近所をぶらぶらする毎日だった。心平の父一平(下元史郎)は原発事故で今は田を売り払って、交通整理のバイトをしていた。は妹のいちご(芦原優愛)は近所の天文台でバイトをしながら兄と父の世話は毎日を過ごし、いらだっている。
心平は最近、近所の町の傘屋の娘が好きだった。彼女が好きで毎日のように傘屋に行き、傘を買っている。心平は震災で避難して空き家になっている家に忍び込んでお金を盗んでいた。
ある日、妹が冗談で「今度の誕生日にこの財布がほしい」とイブサンローランの財布の画像を見せる。
一平は近所の金持ちの家に入り、その財布を見つけてきた。誕生日当日、それを渡されて戸惑ういちご。
一平の同僚から心平が近所の家に盗みに入っていると聞かされる一平。
しかし心平は家出をしてしまう。いちごや一平は心平をさがす。
いちごは避難して今は無人の友達の家に行っていると思い探し出す。
二人で子供の頃に行った海岸で、子供の頃のように相撲を取る。
一平も海岸にたどり着き、その兄妹の様子を見るのだった。


こんな感じの話。
田尻祐司、坂本礼、いまおかしんじがプロデューサーで参加した作品。
監督は「ダラダラ」(2022年)の山城達郎。映画はほとんど覚えていないが、その時の感想文を読み直したらつまらなくはなかったようだ。

でも今回はどうにもだめだったなあ。
まず、知的障害者を主人公にした点がだめ。「知的障害者=いい人、心が純粋な人」的なイメージも嫌いだし、かといって悪い知的障害者を描くのも知的障害者に悪いイメージをもたらしてしまいそうで私は気が引ける。

そして福島、原発、避難地域などの要素が入り込み、何が焦点なのか(何を描きたいのかが)はっきりしない。
それに話も「家族の話」という小さい話だし、そういう小さい話だと何か自分との接点がなければ共感は難しいと思うけど、そういう感じでもない。

そもそもこの映画の発想の始まりは何だったかを知りたいところである。
何かこう「映画にしたい!」という力が感じられないんだな。

出演はピンク映画の常連の下元史郎さん、一平の同僚で河屋秀俊さん、守屋文雄さん、天文台(プラネタリウム併設)の館長に川瀬陽太さん、河屋さんの息子役で心平とも幼なじみで(「にじいろトリップ」の)小林リュージュさんなどなど。
国映界隈の人たちの映画だった。





太陽の恋人 アグネス・ラム


日時 2024年8月17日19:45〜
場所 神保町シアター
監督 三堀 篤
製作 昭和51年(1976年)


一世を風靡したアグネス・ラム主演映画。といっても25分の短編である。何かの映画の添え物だったんだろう。こういう映画があったことは覚えている。
「ずうとるび」の同じような25分ぐらいの映画も「新幹線大爆破」の添え物だったしなあ(少なくとも自分の見た地方館ではそうだった)。

内容は今でいうならイメージビデオ。
アグネス・ラムが砂浜でビキニ姿で歩いたり、プールサイドで寝そべったり、オープンカーでドライブしていたりする。
(冒頭の東映マークもいつもの犬吠埼の岩でなく、ハワイで撮った岩と波になっているのはご愛敬)

そういえばアグネス・ラムの声って聞いたことないなあ、と思っていたら短いインタビューあり。
「趣味は?」「乗馬にドライブ」、「体のサイズは?」「答えたくないです」、「好きな食べ物は?」「やきそば」、「ボーイフレンドはいますか?」「友達は多いです」、「特定の恋人は?」「いません」、「将来やりたいことは?」「今はモデルを続けていきたいです。その先は考えていません」、「日本のファンにメッセージを」「いつも応援ありがとうございます」
こんな感じ。体のサイズを聞かれたときは「恥ずかしくて答えたくない」という感じだった。映画の中ではその前に「プロフィール紹介」で出ていたのにね。

とにかくアグネス・ラムは笑顔と胸の大きさではピカイチだった。特に胸は水着の上からだけど形がよかったよね。
時代は1976年。ちょうど「エマニエル夫人」と同じ頃なんだなあ。
シルビア・クリステルはおっぱい丸出しだったから、「ホントは見てはいけないもの」感があったけど(何せまだ中学生だったから)、アグネス・ラムは平気で見れた。どこか健康的だったのだろう。

スタンダードサイズなのでおそらくは16mmで撮影。音楽や波の音はあとで入れたんだろうから、音声はインタビューの時だけだろう。それもカセットテープで録音されたようにも見えるが。
たぶんハワイに行ったのは監督、撮影、撮影助手の3人ぐらい立ったノンじゃないだろうか?(違うかも知れないけど)

映画の最後に「8mmで販売されます」との告知が入る。
(だからサイズもスタンダードなんだ)
完全に今のイメージDVDと同じだ。

今日の神保町シアターのお客さんは還暦ぐらいの人が多かった。
終わったらすこし拍手が起こっていた。青春だったんだよね、きっと。





劇場版 アナウンサーたちの戦争


日時 2024年8月16日16:30〜
場所 TOHOシネマズ日比谷・スクリーン8
監督 一木正恵
製作 令話5年(2023年)放送


太平洋戦争前夜、NHKの花形アナウンサーの和田信賢(森田剛)はクサっていた。東京オリンピックのメインアナウンサーをする予定だったのが中止になり、仕事に身が入らない。
忠魂祭のラジオ中継を任されたが、「お母さん、私がいなくなって寂しいでしょう。でも私はお国のために死んだのです。悲しまないでください」と中継し、軍から叱責される。
やがて太平洋戦争勃発。情報局からの連絡を和田が受け、館野守男(高良健吾)アナが放送する。
NHKのアナウンサーは海外に赴任し、現地で敵攪乱のための偽情報を放送したり、現地の人向けに日本文化の普及の仕事をする。
和田もアナウンサーとして戦果を放送するが、アッツ島玉砕の頃から戦局は実は悪いのではないかと思い始める。
昭和18年10月の神宮球場での学徒出陣の中継を任される和田。和田はいつものように学生たちに事前に綿密に取材。表向きは勇ましいこといいながら本音では「死にたくない」と思っていることを聞いてしまう。
学徒出陣の本番の放送では耐えきれずに放送を放棄し、後輩に代わってもらった。
館野も戦地の電波戦(情報戦)の一員としてインパール作戦に従軍。現地の死の行軍を目のあたりにする。
やがて昭和20年8月15日がやってくる。


昨年2023年8月に放送された終戦記念ドラマの劇場公開。
普段NHKとは縁のない生活を送っているので、このドラマのことは知らなかった。数日前にネット(確かTwitter)でこの作品のことを知り、和田信賢が主役と聞いて駆けつけた。

和田信賢といえば「日本のいちばん長い日」で玉音放送の始まりに「ただいまより重大な放送があります。国民の皆様はご起立願います」と言った小泉博が演じたアナウンサー。対比として出てくる館野守男は畑中少佐に拳銃を突きつけられたが「現在は東部軍の許可がない限り放送できません」と断った加山雄三が演じたアナウンサー。

もともとはNHKドラマだからどうもフォーマットがNHKのドキュメンタリー再現ドラマっぽい(当たり前だ)
女性の登場人物(今回は和田の妻となるアナウンサー(橋本愛))のナレーションが入ったり、随所にニュースフィルムが挿入される。
また画質もそもそもテレビ放送を目的とした形式だから、照明その他もそれ用なのだろう、どうも白っぽい。
(このあたりは本当はカラコレをやり直せば解決できるのかも知れないが)

とにかく和田信賢のイメージは「日本のいちばん長い日」の沈着冷静なイメージなので、飲んだくれで仕事に身が入らない姿は驚く。
本当はこういう人だったんだ。
もともとはスポーツ中継など得意とし、スポーツ中継で国民を熱狂させた。そのアジテーターぶりが軍に利用されてしまう。

また館野は自分の仕事に誇りを持ってやっているが、インパール作戦参加で考えが変わる。
これも知らなかった。

8月15日の和田信賢の「只今より重大な放送があります。国民の皆様はご起立願います」の台詞には涙が出た。彼の胸中はいかばかりであったか。(天皇の放送後にもう一度内容をかみ砕いて放送していたのだ)
また終戦後、一度はNHKをやめたが、戦後ヘルシンキオリンピックで中継を行った後亡くなったという。
そうだったのかあ。

とにかく観てよかったと思える内容だった。

内容とは関係ないけど和田が取材する早稲田の学徒兵役で水上恒司が出演。こっちが公開は先だが「君花」と同様に学徒兵の役をやっているのは笑った。そういうイメージになりつつあるのか。




ブルーピリオド


日時 2024年8月17日11:25〜
場所 TOHOシネマズ日比谷・スクリーン13
監督 萩原健太郎


高校2年生の矢口八虎(眞栄田郷敦)は成績もよかったが、目標もなくただ友達と流されて生きていた。絵を描くことに情熱を燃やす中学から一緒のユカちゃんこと鮎川龍二はないもないことを見透かされていた。
美術の課題で「あなたの好きな風景」という課題を書くときにオールで遊んだあとの夜明けの渋谷の風景が青く見えたことからそれを絵にする。
佐伯先生にほめられ、それがきっかけで絵を描くことに喜びを見いだす。
家が私立大学は学費が高いから無理と言われていて、国立東京芸術大学を目指すことにする。しかし倍率は200倍とも言われる狭き門だ。
矢口は美術受験のための専門学校夜間部に通い出す。
自分ではうまく描けてると思っていたが、ここには自分よりうまい奴がたくさんいた。特に高橋(板垣李光人)は初めてのデッサンで自分よりが力が高い。
矢口は芸大合格に向かって全力で向かっていく。


原作は人気コミックだそうである。
予告編がよくやっていて眞栄田郷敦目当てでの鑑賞。
芸大合格というミッションに向かって進んでいく青春ものでマイナー部活もののフォーマットだ。
課題や試験はスポーツもので言うところの「試合」になる。

芸大そのものも受験が厳しいのに、卒業しても絵で食べていけるとは限らない。
その辺の迷いから始まるのだが、佐伯先生の「人生好きなことするのが一番いいじゃない」という言葉に背中を押される。

美術学校に行ったら自分よりうまいばかり。
矢口の絵だけ見るとうまく描けているように見えるが、他の生徒の作品と並べると明らかに見劣りする。それは私のような素人にもわかる。

天才の高橋が「ここでは自分が評価されない」と辞めていく。
そういった自分よりうまい連中の中での焦りと苦悩は伝わってくる。
ただしこの天才高橋とかゲイの鮎川など魅力的なキャラクターなのだが、突っ込んで描けていないのが寂しい。
多分に上映時間の関係で描ききれなかったのだろう。
その辺が惜しい。

眞栄田郷敦はよし。兄貴の新田真剣祐よりも私は郷敦の方が好きである。
キャンバスに大きな丸を描くカットがあるが、きれいな円を描く。意外に難しいんじゃないか、あれ。
あとは最後の試験の前に高橋とそれぞれ自分の全裸の自画像を描くカットがあるが、ここでバックヌードも披露。

結局合格して話としては王道すぎる気もするが、自分に対する自信のなさと不安感の感情がよくでており、その辺がよかったと思う。
ラストで合格するのだが、その結末がイマイチな気もするが、原作者が芸大出身なので、仕方ないか。

眞栄田郷敦が一皮むけた感じがいい。
彼にとっては代表作といえるだろう。







サンダカン八番娼館 望郷


日時 2024年8月17日
場所 TSUTAYA宅配レンタルDVD
監督 熊井啓
製作 昭和49年(1974年)


ボルネオのサンダカンを訪ねる三谷圭子(栗原小巻)。彼女は女性史研究家でかつて「からゆきさん」と呼ばれた海外に渡航した娼婦について調べていた。
圭子は3年前、島原にからゆきさんの調査に言ったものの、人々の口は堅く、成果がないまま帰京しようという時、食堂でサキ(田中絹代)という小柄な老婆に出会う。「わしゃ昔は外国に行っていた」というサキをからゆきさんと確信するが、その場ではなにも聞けなかった。
サキは島原の片隅で一人で暮らしていた。サキの話を聞くには彼女の信頼を得て時間をかけるしかない、そう思った圭子はしばらくしてから再び島原のサキの家を訪ねた。
ある晩、地元の男(山谷初男)が圭子に夜這いに来た。「どうせどこぞの商売女のくせに」。その言葉をきっかけにサキは子供の頃の話を始める。
明治40年、サキの家は父が死に、働き手がなく貧しかった。母は父の弟と再婚したが、サキの兄は炭坑に、サキは海外に出稼ぎにいくことになった。
太郎造(小沢栄太郎)につれてこられたのはボルネオ・サンダカンの八番娼館。ここで最初の1年は女中のようなことをしていたが、やがて客を取れと言われる。抵抗したサキだったが仕方なく客を取るようになる。最初の客は地元の男だった。
そんなサキも一人の男だけは愛したことがあった。地元のゴム園で働く竹内秀夫(田中健)という一つ年下の18歳の青年だった。結婚の約束をしたが、結局秀夫は農園主の娘と結婚した。
一度は島原に帰ったが、兄は歓迎してくれなかった。近所への挨拶は外聞が悪いからしなくていいという。兄の家はサキの仕送りで建てられたものだったが、兄の嫁が「サキさんがなにか言い出したらどうしよう」「この家は俺の名前で登記してある。それにどうせすぐ出て行くだろう」という会話を聞いてしまう。ショックを受けたサキは同じ境遇の女と満州に渡る。
満州に渡り結婚し子供が出来たが、終戦で帰国するときに夫は亡くなった。京都に息子の勇治と住んでいたが、結婚を機に母が娼婦をしていたのでは外聞が悪いということで島原に帰らされたという。
現在のサンダカンを訪ねた圭子。サキの話にあったサンダカンの娼婦たちの共同墓地を訪ねてみた。墓地はあった。しかしその墓はすべて日本に背を向けていた。


話は全部書いた。
高校生の時に今は亡き名古屋・栄のロマン座で最終回にみた覚えがある。たしか「忍ぶ川」と2本立てだったが、こちらはラストシーンしか見ていない。最終回の1本だけ観たのだろう。

生まれて初めて映画を観て泣いたというのがこの映画である。
たぶんキネ旬のベストテンで1位だったので観たのだと思う。
田中絹代に圧倒されたのである。
今DVDで見直してみても田中絹代がすごい迫力である。
共演の栗原小巻(当時俳優座の人気女優だった)などへたくそに見えた、という感想を持ったのを覚えている。その感想は今も変わらなかった。
演技の質が違うというか、栗原小巻は「泣く、笑う、怒る」が具体的なのだが、田中絹代の演技というのは淡々としてなにも大げさにしないのだ。

それでも圧倒的な迫力があるのがすごいのだ。
この映画の成功はひとえに田中絹代である。
私が泣いたのは、村の人々に圭子の正体がばれ人々の噂になってしまった後、「私のことを何故聞かなかったのですか?」「話せん理由があるのじゃろ。自分から話せんことを他人のわしが聞くことなど出来ない」というシーン。この田中絹代のアップで泣いたなあ。

この映画、2時間あるし、夜の11時から観たのでつまらなかったら寝落ちするところだが、それはなかった。
話は淡々としているし、大げさな演出もない。
しかし観るものを圧倒する迫力である。

そして今改めて思うのは時代と人々の残酷さ。
国の方針で海外進出が奨励され、それについて行った日陰扱いの人たち、今度はその苦労に報いなければならないはずなのに切り捨てる。
この残酷さは「からゆきさん」だけでなく、他のことにも通じる。
名作である。
1974年はまだこういった映画が大資本で作ることが出来たのだと隔世の感を感じる。





阿片戦争


日時 2024年8月15日15:00〜
場所 国 映画アーカイブ
監督 マキノ正博
製作 昭和18年(1943年)


100年前の中国。イギリスはインドで製造したアヘンを中国で販売することで多額の利益を得ていた。しかしアヘンは麻薬のため、当然中国では治安が乱れ、阿片監視局を作ったが、広東地区ではその長官がエヘンの密売を手助けし自らも阿片を楽しむ始末。
中国の中央から派遣された広東地区総督の林則徐(市川猿之助)は大口客を装って麻薬商人に近づき、麻薬監視局が不正をしていることを突き止めた。林は麻薬を没収したが、予想より遙かに少ない数量だった。
残りは英国商館のある十三行にあると考えた林は荷物の運び出しができないように海上封鎖をする。
当然、イギリスの外交官チャールズ・エリオット(青山杉作)とイギリス艦隊司令官である弟のジョージは面白くない。ジョージは空砲による威嚇射撃を開始した。空砲とは言え軍艦から大砲が撃たれるのをみて住民は大混乱。そのさなか、盲目の妹・麗蘭(高峰秀子)の目の病気を治療しようと広東にやってきていた姉・愛蘭(原節子)は離ればなれになってしまう。混乱が去った後、麗蘭は麻薬商人の一味にとらえられてしまう。
林はチャールズとの交渉で平和に納めようとする。各国大使を招いての大宴会を開催。だが、夜の8時に集められた阿片を倉庫ごと燃やす光景をチャールズたちに見せる。チャールズたちは一旦は引き下がったものの黙っていられるはずがない。
報復の口実を与えないように林は十三行の安全を守るよう警備を強化する。しかし時は遅く、阿片中毒者によって英国商館に火が放たれた。
英国艦隊は砲撃を開始。そのさなか、麻薬商人たちは処刑される。麗蘭も処刑されかけたが、あわやというところで林の部下によって救出された。
林はイギリス軍の不正義はやがて歴史によって検証されるだろうと訴える。
こうして阿片戦争は始まったのである。


話は全部書いた。
題名だけは聞いたことがあった大作映画。まずイギリス人のシーンから始まるのだが、日本語話してるし、あまりイギリス人ぽくない。
でも日本人がイギリス人の役も演じてるのだと気づく。
中国人も日本語を話し、日本人のキャラクターは出てこない。変な感じだが、戦後の「釈迦」でも同じだから、気にしてはいけないのだろう。

イギリス人の東洋制覇計画にまず狙われたのは中国だった、イギリスは悪魔、鬼畜だというプロパガンダ映画である。
それにしても広東の町のセットは豪華だし、エキストラも何百人といて豪華である。

円谷英二はイギリス商館の全景のマットアートの合成、停泊中のイギリス軍艦のミニチュアなどを担当したと思われる。
アーカイブのチラシでは高峰秀子と原節子の件はD・W・グリフィス監督の「嵐の孤児」を翻案しているらしい。

脚本は小国英雄。
十三行を封鎖されたことに怒ったジョージが「砲撃してやる」といき巻くが、兄が「本当に切れる刀は鞘に収まってるものだ」とたしなめる。
あれ、「椿三十郎」の名台詞じゃん。脚本が小国だからかな?と思ったがWiki情報では黒沢もノンクレジットで参加しているらしい。道理で。
また阿片商人に捕まった麗蘭が言うことを聞かないが「(腹が減れば)熊だって山降りる」と「七人の侍」と同じことをいう。
こんなところで黒沢映画の片鱗を見るとは思わなかった。

またクレジットでは「演出 マキノ正博」の名前の横に「本木荘二郎」の名前がある。プロデューサーになる前の助監督時代の作品ということらしい。
映画全体は会話のテンポもたるく、やや眠気を誘うが、それにしても豪華なセットやエキストラで、長年気になっていた映画を鑑賞でき、満足だった。






八十八年目の太陽


日時 2024年8月14日15:00〜
場所 国立映画アーカイブ
監督 瀧澤英輔
製作 昭和16年(1941年)東宝


ペリー来航より88年目のこの年、東京でサックス奏者としてバンドマンをしていた深見コウキチ(大日方博)は故郷の神奈川県の浦賀に帰ってきた。時局柄バンド活動が出来なくなったコウキチは父の働く浦賀ドックで働くつもりで帰ってきた。家出同然で出て行ったコウキチを父・鉄平(徳川夢声)は快く思わなかったが、駆逐艦造船で人手不足の造船所でコウキチは見習い工として働き始める。
コウキチの弟の霧勝は出征した。それを見送る鉄平。
駆逐艦建造が海軍から急がせられることとなり、同時に作っていた商船は完成を遅らせることを先方に承知してもらった。
しかし優秀な工員は他の会社からも引き抜きがある。工員の中には兄の借金を肩代わりする代わりに高給で雇おうという引き抜き屋でも出てくる。
そんな頃、コウキチの弟の戦死の報告が届いた。
一度は完成を遅らせることになった商船の白山丸だが、こちらも最初の予定通り完成させるように軍から要請があった。
コウキチの妹の恋人が金に困って造船所を辞めようとしているのを知ったコウキチは「君のような優秀な溶接工がいなくなると船の完成が遅れる。それは日本の損失だ!」といい、コウキチ自身がやめた。
コウキチが辞めたことで喧嘩になった鉄平はドックから落ちて怪我をする。幸い大事には至らなかった。
工場を辞めたコウキチは幼なじみに頼み込み、また蒲田の町工場から職人を借りてきてくれた。
駆逐艦ユキカゼも白山丸も無事完成した。ユキカゼの進水式では軍艦マーチを高らかに演奏する楽隊の中にサックスを吹くコウキチの姿もある。


話は全部書いた。
国立映画アーカイブでの「返還された映画」特集の1本。スタッフ欄に圓谷英二の名前があったので鑑賞。
円谷さんの仕事は冒頭のコウキチが海岸で奥さんに話す「今年はペリーが来航して88年目」の説明のシーンでの「海に浮かぶペリーの船団」のシーンだと思う。
実はそこぐらい。

あとは浦賀ドックは実際にロケしたもの。
昭和16年公開だから、ハワイ真珠湾攻撃前の話である。
造船が急がされていた時期の国策映画。面白いのは妨害するのは敵国のスパイという話ではないのだ。

コウキチが東京を去った理由は明確に出てこないが、おそらく時節柄ダンスホールなどの仕事が減っていたのかもしれない。
海軍工廠と違ってここはあくまでも民間の造船所である。建前では公共事業の一つを受注したにすぎない。浦賀ドックはあくまでも民間工場だから工期の交渉や工員の退職は認められる。そこで優秀な工員の確保に頭を悩ませる。

「お国のために!」と精神論だけではやはり無理があると見えて、辞めようとする工員は「だって5時間も残業させられるし、転職すれば残業なしでこっちで残業するよりも給料がいい」と言う。
そりゃ辞めるよなあ。
そういうのも完全なる悪役として描かず、「そういう意見も認めるが出来れば国に協力してほしい」というスタンスで映画が出来てるのは興味深い。
まだこの頃は余裕があったんだなあ。

「なんで最後にコウキチは何十人も工員を連れてこれたんだ?」「工員が辞められた会社は大丈夫なの?」(2つ目の問いは「船が完成するまで」の期間限定なのかも知れないけど)という疑問はありつつも結局はハヤカゼも白山丸も完成する。

ラストのハヤカゼの進水式と出航は10分ぐらいかけて延々と写る。
もちろん本物だろう。ミリタリーファンは必見だろう。
出演では小杉義男が工員たちのリーダー役、進藤英太郎が会社の部長役、ノンクレジットかも知れないが花澤徳衛が工員の一人でいたように思う。




ツイスターズ


日時 2024年8月13日18:30〜
場所 新宿ピカデリー・シアター8
監督 リー・アイザック・チョン


ケイト・カーター(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は仲間とともに竜巻の研究をして追いかけていた。水分を吸収させる素材を竜巻の中に入れれば竜巻を収めることが出来ると考え、発生した竜巻で実験してみたが、予想以上の大きさで仲間3人を失った。
5年後、今は気象予報会社につとめるケイトの元にかつての仲間のハビ(アンソニー・ラモス)がやってくる。軍に勤めてそのときに開発されたスキャナーを使えばもっと立体的に竜巻が観測できる、と言われ、1週間の約束でハビに協力することに。
竜巻が発生しやすいこの時期に発生しやすいオクラホマにやってきた。そこで竜巻を中継するユーチューバーのタイラー(グレン・パウエル)と出会う。
ハビのチームのスポンサーは不動産会社で竜巻の被害にあった人の家や土地を安く買いあさってると知り、幻滅するケイト。また最初はタイラーに反発したケイトだが、竜巻に襲われたときに助けてくれたことがきっかけでお互いを理解し合う。
ケイトが竜巻に水分吸収剤を投入し、竜巻を収める方法を考えていると知ったタイラーは、彼らのチームを使ってやってきた大型竜巻を制圧する実験を行う。


デザスター映画は大好きなので、本作も楽しみにしていたし、DVDで前作も鑑賞した。しかしがっかり。
もう作者たちと私の自然の脅威に対する考え方が違いすぎる。

冒頭のケイトたちからして竜巻を前にはしゃぎ回っている。バカ確定。
さらに登場したタイラーたちのチームがロック(と言っていいのか)をガンガンかけながらタトゥーしたヤバそうな見かけの兄ちゃん姉ちゃんが竜巻を面白がって中継して、さらには竜巻の中で花火を打ち上げる。
バカ確定。

とにかく私に言わせれば主人公がみんな自然をなめきっている。
ああいうユーチューバーってアメリカにはいるの?
日本で台風を面白がってネットで配信とかしたら炎上しようだけどなあ。

そんな感じで主人公が好きになれないので、完全に心が離れる。
そしてドラム缶が10個ぐらいに水分吸収剤を入れて、ラストに町に迫った大竜巻に立ち向かう、っていうクライマックスだが、心が離れているので「あんなもんで竜巻が制御できるの?それ実証されてるの?」と冷めた心で見てしまった。
とにかく1から10まで気に入らない。

Xで「ツイスターズ」で検索したら「4DXですごい体験した!」とか「人間ドラマもよかった!」とか出てきて世間とのずれを感じる。
どこが人間ドラマがいいのだろう?最初敵だったタイラーが「実はいい奴でした!」ってあたりなのかな?
今年のワーストワン候補です。
「あんなことで竜巻は収まりません」とかアメリカの気象庁みたいなところは言わないのかな。

追記
前作「ツイスター」とのつながりは特になし。強いて最初にケイトたちが使っていた観測装置が「ドロシー」を名付けられていたことぐらいか。







田舎刑事(デカ) 時間(とき)よ、とまれ


日時 2024年8月12日15:30〜
場所 シネマヴァーラ渋谷
監督 橋本信也
製作 昭和52年(1977年)


大分県の田舎刑事、杉山(渥美清)はある日ボクシングの中継を観ているときに観客席に15年前の殺人事件の犯人が写ったことに興奮する。
この事件の時効まであと10日。署長に頼み込み、東京への出張をさせてもらう。期間は5日。
警視庁では助手の刑事を付けてもらったが、若い女刑事の桜井(高橋洋子)。杉山は馬鹿にされたと心では憤慨。
桜井とボクシングジムに行き、録画した試合を見せてもらう。
杉山が犯人と言った男は宮城(小林桂樹)という男で、ここ10年ぐらいにのし上がってきた経済界の大物だという。
お茶会に出ている宮城を訪ねる杉山。「クニサキ!」と昔の名前で呼んでみたが宮城は動じない。
宮城の戸籍を洗ってみても故郷にも宮城のことを知っているものはいないようだ。宮城の会社が横浜にあったことから横浜での失踪人届けを洗ってみる。そこで当時のクニサキと同じ位の年の男が死んでいた。
きっとこの男の戸籍を買ったに違いない。
クニサキの大分時代に懇意にしていた女郎が今はストリッパーをしていて草加に訪ねる杉山。その女リリィ(市原悦子)を連れだし、ゴルフ場で宮城に会わせてみる。しかしリリィは「クニサキではない」と否定した。
時効が迫る。杉山はきっとクニサキがリリィに会いに来ると張り込みを続ける。


テレビ朝日の土曜ワイド劇場の1作目として放送。今回シネマヴェーラの戦争映画特集「家族たちの戦争」と題する特集の中での上映。「田舎刑事」はシリーズ化され3本ほど作られてる。その3作目「まぼろしの特攻隊」が森崎東監督作品で以前ヴェーラで上映された。その時に一緒にこの1作目も観たような気がしていたが、鑑賞記録がないので、あわてて見に来た次第。

この作品はリアルタイムでも観ている。アメリカで90分ほどのテレビ用の映画のような完結した作品が流行っていると伝えられ(「激突!」もその1本)それに模して日本でも映画的形式の作品の制作が始まった。
これがヒットし、後の2時間サスペンスの隆盛となる。
つまりテレビ史的には貴重な作品なのだ。

渥美清を主役の刑事持ってきたのは当時「刑事コロンボ」のような風采のあがらない刑事が注目されていたので、その日本版として企画されたのだろう。しかし「コロンボ」が本格推理に対し、本作はウエット。

初めて見たときから「砂の器」と「飢餓海峡」をミックスさせただけ、と印象が悪かったが、今回も同じ印象。
さらに音楽が「砂の器」の菅野光亮だから完全に重なってくる。
クニサキは満州の引き揚げ者で母は途中で亡くなり、妹は中国に残して来たという。この辺をセットで作った風景でやっているからとにかく安っぽい。(やっぱり「砂の器」は本物の大自然だから迫力が違いますよ)

市原悦子は完全に「飢餓海峡」の左幸子と重なってくる。ウエット、ウエット。ウエットすぎて私はもう逃げ出したくなる。
ゴルフ場でクニサキを否定した後、「こんな広か場所で踊ったら気持ちいいよねえ」と言いだし、芝生の上で踊るシーンは良いのだが、観ていていたたまれなくなる。

そして杉山は宮城の家に強引に入り、クニサキと対決する。
「君はそれでも刑事かね?」と言われて「どうして私を刑事とわかったんですか?いよいよしっぽを出したな」と言われて「いや、手錠を持っているから」と返されるシーンは放送当時観ていてもいたたまれない、イタいシーンだった。

とにかくミステリーとしては全くなってない。
いろいろと調べるのだが、すぐにわかるしね。「砂の器」のように一つわかったけど、また別の疑問が出てくる、という感じでもないし。

そういった感じで面白くはないのだが、やはり小林桂樹はすごい。
逮捕後の取り調べのシーンで「なぜ親切にしてもらった社長を殺した?」と言われ「社長に親切にしてもらってうれしかった。娘さんが満州に残してきた妹に似ていたのでおもちゃなど作っていた。しかしある日、作ったおもちゃを汚いもののように扱われてかっとなった」と自白するシーンは名優の迫力である。

それに続く市原悦子のシーンでも「なぜクニサキをかばった?」の問いに「あたしらはお国が進めるから満州に行った。戦争が終わってからは今度は石炭だった。そして今度は石油になってまた国から見捨てられた。クニサキさん一人が偉ろうなっても悪くはなか」というシーンではやはり迫力ですね。

こういう言い方はしたくないけど、小林桂樹や市原悦子と同じレベルで出きる役者がいるのか知らん?と思う。
男は役所広司か。

いろいろ欠点も多いけど、歴史的な作品であることは間違いない。
再見できて満足です。

追記すると今日の上映は73分の放送時間では21時から22時半の90分版。後にカットしたシーンを復活させて2時間枠で放送したこともある。こちらも観ている。(たぶん純粋には90分程度の尺だと思う)
覚えているのはガッツ石松のボクシングジムで最初にビデオを観るのだが、この前に桜井刑事に「テレビ局に行こう」と行って「テレビ局は見せてくれません」「そんな」「簡単に言えばテレビ局は警察の手先ではないということです」というシーンが加わってたことを覚えている。







新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!


日時 2024年8月11日18:50〜
場所 (相鉄)ムービル2
監督 小沢啓一


文学好きの所結衣(藤吉夏鈴)はあこがれの名門櫻葉学園高校に入学。
高校生作家の「このは」に会いたいがためだった。早速文芸部を訪ねてみたがこのはは実は在籍していないという。文芸部には入部試験があり、試験中にドローンが進入してきて結衣にあたり、試験は受けられなかった。
しかし部長・西園寺茉莉(久間田琳加)のはからいでもしこのはを見つけてくれたら文芸部への入部を許可するという。
手がかりはこのはにインタビューしたことがあるという新聞部だった。しかしこの学園の新聞部は学校非公認で、学園内の不正やスキャンダルを記事にして学校からは疎まれていた。
壁に貼ってあった新聞部の新聞の「部員募集」の記事を見て新聞部を訪ねる。そこにいたのは部長のかさね(高石あかり)と副部長の春菜(中井友望)だけ。
早速かさねに同行して取材する結衣。飲み屋街に行き、先生たちが最近宴会を行った店で「いかにも体育教師って感じの人が女の先生を触っていた」というネタをつかむ。それを記事にしたかさね。
だがこのはのことは何も教えてくれない。ある日、かさねを尾行する結衣。行った先はある男子生徒の家だった。それは元文芸部の松山(綱啓永)だった。実は西園寺が最初にコンクールで優勝した作品は松山が書いたものだというのだ。2年連続の西園寺の受賞には不正があったようだ。
その裏には学園の評判を高めたい理事長沼原(高嶋政宏)の暗躍があった!


SPOTTED作品。
高校新聞部を題材にした青春映画だが、めちゃくちゃ面白かった。
完全に実社会とマスコミの縮図である。
教師のセクハラスクープなど単なるゴシップではないかと結衣は部長にくってかかる。部長のかさねは新聞記者の手記に感動して全部暗記している。
しかし黒幕の理事長が部長を退学にさせ、副部長を文芸部に入部を許可し、希望する大学の学校推薦を約束する。
結衣が新聞部を引き継ごうとするが、新聞部を正式な部活動として承認し、予算も付けるという。しかし学校の秩序を乱してはならず、「では新聞部の存在意義とは?」という結衣の問いに「風紀委員みたいなものか」と理事長は答える。

地位やポスト、予算で懐柔し、言うとおりにしようとする。
現実社会の完全な縮図だ。
しかし結衣はそれに抵抗する。
いいですねえ。

謎の作家、このはの正体は実は部長のかさね(これは読めたけど)。
松山も見方につけ、西園寺に迫る。
理事長も西園寺の3年連続優秀受賞をねらって審査員に実弾を渡す。
(この審査員の一人が「階段の先には踊り場がある」で滝田の同僚の大学職員を演じていた俳優さんだ)
そして授賞式で西園寺は「この作品のテーマは?」と聞かれて「まだ読んでいません」と答えて大混乱。

裏の裏をかいた部長の活動で理事長は失墜する大団円。
いや〜爽快ですねえ。

さっきも書いたけど本作は実社会とマスコミの縮図を描いている。
本物の全国の新聞記者諸氏にご鑑賞いただき、是非初心に立ち返ってもらいたい。
今年のベストワン級の面白さだった。






オレ達のこじらせメロディー


日時 2024年8月11日11:40〜
場所 光音座1
監督 吉行由実
製作 OP PICTURES


涼(山口雄大)には夏雄(光永勇輝)という恋人がいたが、夏雄は女性ともつきあっていて涼はいつも落ちつかない。今日もセックスの後にすぐに同居している女性の元に帰って行った。
ミュージシャンの真也(樹カズ)はレコード会社の杉田から曲の催促を受けていたが、未だに出来ていない。また杉田から体の心配をされている。実は大きな病気を抱えている疑いがあるのだが、真也は医者をいやがって行こうとしない。杉田から「とりあえず過去の未発表曲でも出しておいて、後で差し替えればいいですから何かありませんか?」と言われ、25年前のある出会いを思い出す。
その頃真也(山口雄大・二役)は毎日曲を作っていたがさっぱり売れない。そんな時に2階に引っ越してきた明(光永勇輝・二役)がたまたま耳にしてくれて誉めてくれる。それから毎日のように話すようになる二人。小説家を目指す明に作詞してもらうという話になり、海岸でキスをする二人。やがて体の関係になったが、真也の彼女に朝一緒に寝ているところを見つかってしまい、「二人で飲み過ぎて寝ちゃったんだ」とごまかした。そのことがあって疎遠になり、曲は未完に終わった。
涼の父は実は真也だった。真也は明との曲を完成させようと、当時使っていたギターを取りに家に帰る。そこで夏雄と出会う。夏雄は明にそっくりだった。
夏雄は真也とも仲良くなったが、涼はつい嫉妬してしまう。
真也は今作っている明との未完に終わった曲について夏雄に聞かれる。「友達が歌詞を書いてくれたけど途中で終わった。今その友達には会えない」。実は明は実家に帰ったときに交通事故で亡くなっていた。アパートの部屋に残されたノートには書きかけの歌詞が書いてあった。作曲に真也の名前があったので大家がそのノートを届けてくれた。しかしそのノートは当時つきあっていた彼女に「男が好きなの?」と問いつめられ、「違うよ!」と答えて捨ててしまったのだ。
ある晩、涼の家は停電になった。そのとき、夏雄の口から歌詞の続きが歌われた。まるで明が乗り移ったかのようだった。真也は亡くなった。
真也の死後、夏雄と涼はセックスの後、スマホで写真を撮る。その時に真也の声で歌が録音されていた。それは真也と明が作った曲「声を聞かせて」だった。


話は全部書いた。
大蔵ゲイ映画の夏の新作。てっきりロサで上映した「ヘヴンズXキャンディ」のタイトルを変更したのが出てくるのかと思ったら、完全新作である。

吉行さんの映画だから少女コミックのようなメロウなお話。その点は安心してみれるのだが、もう一つ足りない。縦糸(というか話の軸)がないんだな。
それと主人公は真也なのか、涼なのかはっきりしない。
だからどうも話がだらだらと進むだけで話に入れない。
その辺が惜しかったと思う。

話としては真也の亡くしたかつての恋人への想い、なのだからやはりファーストシーンは真也であるべきではなかったか。
涼と夏雄のセックスから始まったから、主人公が混乱する。
真也の視点から話を進めると夏雄に明を見いだすわけで、となると涼がますます影が薄くなる。

プロットというかテーマはよかったのと思うが、脚本の構成の段階で「若い男を主人公にしなくては」ということから混乱が起こったか。
ならば涼を主人公にするならば、「涼が父の秘密を知る」という形にしないとなあ。

最後は涼と夏雄のカラミがある。ここで「父親が死んだのに喪に服さないの?」とか思ってしまう。
さらに涼のスマホに父の曲が録音されていて「?」である。
今日、舞台挨拶があったので来館してた吉行監督に聞いてみたら、「あれは超常現象的なものです。最後に夏雄に明が憑依して曲が出来たようにそれがスマホに録音されたということで」という話でした。
それいるかなあ?

とにかく話のネタはよかったと思いますが、脚本化の段階で乱れたと思います。その点が惜しかった。

今日は樹カズさん、光永勇輝さんのミニライブ付き。映画に出てきた曲2曲は樹さんの曲だそうで、それを披露していただきました。
正月も新作があるようで、それも楽しみです。






兵六夢物語


日時 2024年8月3日
場所 国立映画アーカイブ・大ホール
監督 青柳信雄
製作 昭和18年(1943年)


鹿児島県に伝わる兵六という下級侍。兵六(榎本健一)は腕も度胸もあったが、どこか抜けていた。幕末の時代、いよいよ我らの出陣も近いということで、道場ごとに殿の御前で腕前を披露することになった。
その直前の練習中、師匠の盆栽をつい壊してしまった兵六は出場を止められる。しかしそれでは腕前を披露する機会がないと無理に出場し、案の定、失敗しかえって道場に恥をかかせてしまう。
先輩たちから「お前は追放だ」とも言われるが許してもらえる。そのことを知った母は少し離れた寺の和尚に手紙を届けろという。
しかしそこまでは時間もかかるし、もうすぐ日も暮れる。最近化け物がでるという山を越えねばならないのだ。
それでも母は行けという。仕方なく出かける兵六。
案の定、狐や狸や化け物が襲ってくる。


「返還された映画コレクション」の特集上映で鑑賞。戦前戦後にアメリカに接収されていたフィルムが日本に戻ってきた作品群だ。
戦時中の国策映画が多いらしい。私は「円谷英二」のクレジットのある映画をチョイスして観ていこうと思う。(本作のクレジットは「圓谷英一」)

話の方は山に入ってから身の丈10mはあるような大男が登場し、その大男を向き合った二人の画面などは合成です。
また人間の姿として出てくる狐は高峰秀子が演じている。
その高峰秀子が小さくなって兵六の手のひらに乗ったりする。

あとは火の玉が浮いているようなカットも合成ではないだろうか?
そして嵐のカットで木々が揺れるのはミニチュアかなあ?
特撮としては戦争映画ではなく、「孫悟空」の延長にあるファンタジー路線だ。

結局朝になって寺の和尚に手紙を届けることは出来た。和尚はすべてをわかったようでそのまま兵六を返す。
たぶん母親は兵六に魔物と戦う、という実戦をさせて成長させたかったのだろう。

そして最後には兵六も勇ましく「初陣だ」と出発するところで映画は終わる。
アーカイブの作ったチラシでは獅子文六の児童小説を映画化した道徳映画」とある。戦時中の映画らしく、「みんなも兵六のようにがんばって兵隊になろう!」という主張は全面的に伝わってくる。

この映画、市川崑が製作主任(助監督)としてクレジットされている。
圓谷英一と市川崑という組み合わせは非常に珍しい。こういうつながりが後の「太平洋ひとりぼっち」につながっていったのか。







ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ


日時 2024年8月3日14:40〜
場所 キノシネマ新宿・スクリーン1
監督 アレクサンダー・ペイン


1970年のボストン近郊の名門男子校バートン校。クリスマスも近づき2週間の休暇になる。しかし家庭の事情などで家族の元へ帰れない、帰らない学生が毎年数人いた。そのために教師の一人が監督として残らねばならない。今年は他の教師が嫌がったため、生徒にも同僚にも嫌われている古代史の教師ハナム(ポール・ジアマティ)が担当することに。
学校に残るのは家族と旅行に行く予定だったが、当日になって居残りになってしまったアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)、寮の料理長のメアリー・ラム(ダヴィン・ジョイ・ランドルフ)。最初は他にも学生がいたが、そのうちの一人が家族とスキーに行くのに誘われて出て行ってしまった。アンガスは両親と連絡が付かず、許可を得られない以上寮から勝手にでるわけにもいかなかったのだ。
ついに3人だけになった寮。寮の従業員の家でクリスマスパーティをするというので誘われて出かける3人。だがベトナム戦争で最愛の息子を亡くしていたメアリーはクリスマスに息子がいない寂しさに取り乱してしまう。
仕方なくメアリーを寮に連れて帰るハナムとアンガス。
クリスマスも過ぎた頃アンガスがなんとか寮を抜け出そうとしている。どうしてもボストンに行きたいという。「社会見学の一環として」という口実を作って3人は寮を出る。妹夫婦の家で過ごすというメアリーは抜けてボストンに向かうハナムとアンガス。
アンガスの目的は両親が離婚した父親に会うためだった。


完全にノーマークだったのだが、いまおかしんじ監督に会ったときに誉めていたので急遽「ツイスターズ」を止めてこっちを観た。

まあ、ヒューマンドラマである。
孤独感を感じる3人がお互いの孤独の原因を知りお互いを理解し助け合うようになる、という話だ。
嫌われ者の堅物で偏屈なハナム。ボストンでアンガスといるときに「おい30年ぶりだなあ」と声をかけられる。ハナムはハーバード大学の卒業論文を同じクラスの学生に「盗作した」と言われた。実は言った方の学生がハナムの論文を盗作したのだが、その学生の父親が多額の寄付をしていたため、ハナムが悪者にされたのだ。怒ったハナムはその学生を車にぶつけたため、大学を退学になっていたのだった。今30年ぶりに会った友人には「今はどうしてる?」と聞かれ「世界各地で講師をしているよ」と適当に答えてしまう。それに話を合わせてくれるアンガス。
ハナムの過去がわかり、現在につながるエピソードである。

そしてアンガス。アンガスの父親は若年性認知症などの病気で入院していたのだった。母親は当初は看病していたものの、諦めて離婚し今は再婚してしまっている。アンガスは父親に面会に行ったが、「食べ物に毒を入れられてる」などとおかしなことを言われてしまう。
アンガスの複雑な事情を知るハナム。

新学期が始まり、父親を訪ねたために父親がその後施設で暴れるようになってしまったと攻められる。
「自分が父親に会うべきだ」と言ったとうそをつき、退職させられるハナム。
このあたりの展開に泣ける人は泣けるんだろうけど、俺はそれほどでも亡かったかな。悪い展開ではないと思うけど。

それよりこの映画、1970年が舞台だが、特に冒頭で示されるわけではない。最初に出るユニバーサル映画のマークが今のマークではなく、70年代のマークだったし、何となくフィルムっぽい画質だったから、一瞬70年代の映画のリバイバルかと思った。
フィルム画質に関しては仕上げの段階でそういう画質にしたそうです。
ってことはユニバーサルのマークもわざとしたんだろうなあ。
そこは面白かった。






ブロウアップヒデキ


日時 2024年8月3日
場所 BS松竹東急録画
監督 田中康義
製作 昭和50年(1975年)


1975年の夏の西城秀樹の日本縦断ツアーを追ったドキュメンタリー映画。
7月末の富士山麓での野外コンサートから始まって8月末の大阪球場でのコンサートまでを描く。
この映画、調べてみると75年10月10日公開。
ツアー終了から映画公開まで1ヶ月ちょっとである。いかにスピードだったか。

西城秀樹は70年代を席巻したアイドルだが、80年代のたのきん登場でトップの座は奪われた感がある。
映画の途中で「昭和30年 広島生まれ」と紹介されるからこの頃20歳。
80年代では25歳を越えているから、当時としてはもうフレッシュさという点では世代交代だったのだろう。今はアイドルのデビューも年齢が高くなって25歳でCDデビューもさほど珍しくない。

で、この映画。
尺が足りないのか最初の18分は延々と西城秀樹が出てこない映像が出てくる。
富士の野外ステージを作るスタッフの姿を延々と写す。
東京からこのコンサートのバスツアーがあったようで、バスが出発してバスの中でファンのみんながヒデキの歌(たぶん)を歌う。運転手も足でリズムを取る。
野外ステージの周辺では屋台が出てジュースやかき氷を売っている。
それを食べるファンの映像にファンのインタビューが重なる。
「ヒデキのどんなところが好き?」「かっこいいところ」「ファンに優しいところ」などなど。
こんな映像が18分続いてやっとヒデキのコンサートスタート!

今の歌手のライブDVDでもそうだけど、どうしても望遠レンズで撮るしかない。今はやたらと編集で短いカット(それこそ1秒無いようなカット)が続くが、そういうことはない。

でも野外の昼間のステージはいいのだが、続く札幌、沖縄、広島は厚生年金会館とか郵便貯金会館でのコンサートでは映像が暗い。よくわからないカットもある。

そんな感じで進んでいってラストの大阪球場でエンディング。
当時はコンサートのライブビデオなんて存在しなかったから、コンサートを行った人がもう一度味わったり、行けなかったファンが楽しむにはこういったコンサート映画も必要だったですね。
ただしそういうのが多かったかというとそうでも無かったなあ。
アイドルではないが、アリスのコンサート映画もあったけど、あれソフトかされたんだろうか?もう一度観たい気もする。

映画とは直接関係ないけど、西城秀樹ってセクシーなんだなあ。
また衣装も70年代の衣装でタイトなものが多いが、その中でも上着は胸のあたりまでしかなく、ヘソ出し(お腹出し)の衣装も多い。そして足はホットパンツを履いていたりすると完全に色っぽい。

西城秀樹の曲は「傷だらけのローラ」とか「激しい恋」ぐらいしか知ってる曲もなかったけど、今はいない西城秀樹の全盛期をかいま見ることが出来、よかったと思う。