2024年8月

   
八十八年目の太陽 ツイスターズ 田舎刑事(デカ) 時間(とき)よ、とまれ 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!
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八十八年目の太陽


日時 2024年8月14日15:00〜
場所 国立映画アーカイブ
監督 瀧澤英輔
製作 昭和16年(1941年)東宝


ペリー来航より88年目のこの年、東京でサックス奏者としてバンドマンをしていた深見コウキチ(大日方博)は故郷の神奈川県の浦賀に帰ってきた。時局柄バンド活動が出来なくなったコウキチは父の働く浦賀ドックで働くつもりで帰ってきた。家出同然で出て行ったコウキチを父・鉄平(徳川夢声)は快く思わなかったが、駆逐艦造船で人手不足の造船所でコウキチは見習い工として働き始める。
コウキチの弟の霧勝は出征した。それを見送る鉄平。
駆逐艦建造が海軍から急がせられることとなり、同時に作っていた商船は完成を遅らせることを先方に承知してもらった。
しかし優秀な工員は他の会社からも引き抜きがある。工員の中には兄の借金を肩代わりする代わりに高給で雇おうという引き抜き屋でも出てくる。
そんな頃、コウキチの弟の戦死の報告が届いた。
一度は完成を遅らせることになった商船の白山丸だが、こちらも最初の予定通り完成させるように軍から要請があった。
コウキチの妹の恋人が金に困って造船所を辞めようとしているのを知ったコウキチは「君のような優秀な溶接工がいなくなると船の完成が遅れる。それは日本の損失だ!」といい、コウキチ自身がやめた。
コウキチが辞めたことで喧嘩になった鉄平はドックから落ちて怪我をする。幸い大事には至らなかった。
工場を辞めたコウキチは幼なじみに頼み込み、また蒲田の町工場から職人を借りてきてくれた。
駆逐艦ユキカゼも白山丸も無事完成した。ユキカゼの進水式では軍艦マーチを高らかに演奏する楽隊の中にサックスを吹くコウキチの姿もある。


話は全部書いた。
国立映画アーカイブでの「返還された映画」特集の1本。スタッフ欄に圓谷英二の名前があったので鑑賞。
円谷さんの仕事は冒頭のコウキチが海岸で奥さんに話す「今年はペリーが来航して88年目」の説明のシーンでの「海に浮かぶペリーの船団」のシーンだと思う。
実はそこぐらい。

あとは浦賀ドックは実際にロケしたもの。
昭和16年公開だから、ハワイ真珠湾攻撃前の話である。
造船が急がされていた時期の国策映画。面白いのは妨害するのは敵国のスパイという話ではないのだ。

コウキチが東京を去った理由は明確に出てこないが、おそらく時節柄ダンスホールなどの仕事が減っていたのかもしれない。
海軍工廠と違ってここはあくまでも民間の造船所である。建前では公共事業の一つを受注したにすぎない。浦賀ドックはあくまでも民間工場だから工期の交渉や工員の退職は認められる。そこで優秀な工員の確保に頭を悩ませる。

「お国のために!」と精神論だけではやはり無理があると見えて、辞めようとする工員は「だって5時間も残業させられるし、転職すれば残業なしでこっちで残業するよりも給料がいい」と言う。
そりゃ辞めるよなあ。
そういうのも完全なる悪役として描かず、「そういう意見も認めるが出来れば国に協力してほしい」というスタンスで映画が出来てるのは興味深い。
まだこの頃は余裕があったんだなあ。

「なんで最後にコウキチは何十人も工員を連れてこれたんだ?」「工員が辞められた会社は大丈夫なの?」(2つ目の問いは「船が完成するまで」の期間限定なのかも知れないけど)という疑問はありつつも結局はハヤカゼも白山丸も完成する。

ラストのハヤカゼの進水式と出航は10分ぐらいかけて延々と写る。
もちろん本物だろう。ミリタリーファンは必見だろう。
出演では小杉義男が工員たちのリーダー役、進藤英太郎が会社の部長役、ノンクレジットかも知れないが花澤徳衛が工員の一人でいたように思う。




ツイスターズ


日時 2024年8月13日18:30〜
場所 新宿ピカデリー・シアター8
監督 リー・アイザック・チョン


ケイト・カーター(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は仲間とともに竜巻の研究をして追いかけていた。水分を吸収させる素材を竜巻の中に入れれば竜巻を収めることが出来ると考え、発生した竜巻で実験してみたが、予想以上の大きさで仲間3人を失った。
5年後、今は気象予報会社につとめるケイトの元にかつての仲間のハビ(アンソニー・ラモス)がやってくる。軍に勤めてそのときに開発されたスキャナーを使えばもっと立体的に竜巻が観測できる、と言われ、1週間の約束でハビに協力することに。
竜巻が発生しやすいこの時期に発生しやすいオクラホマにやってきた。そこで竜巻を中継するユーチューバーのタイラー(グレン・パウエル)と出会う。
ハビのチームのスポンサーは不動産会社で竜巻の被害にあった人の家や土地を安く買いあさってると知り、幻滅するケイト。また最初はタイラーに反発したケイトだが、竜巻に襲われたときに助けてくれたことがきっかけでお互いを理解し合う。
ケイトが竜巻に水分吸収剤を投入し、竜巻を収める方法を考えていると知ったタイラーは、彼らのチームを使ってやってきた大型竜巻を制圧する実験を行う。


デザスター映画は大好きなので、本作も楽しみにしていたし、DVDで前作も鑑賞した。しかしがっかり。
もう作者たちと私の自然の脅威に対する考え方が違いすぎる。

冒頭のケイトたちからして竜巻を前にはしゃぎ回っている。バカ確定。
さらに登場したタイラーたちのチームがロック(と言っていいのか)をガンガンかけながらタトゥーしたヤバそうな見かけの兄ちゃん姉ちゃんが竜巻を面白がって中継して、さらには竜巻の中で花火を打ち上げる。
バカ確定。

とにかく私に言わせれば主人公がみんな自然をなめきっている。
ああいうユーチューバーってアメリカにはいるの?
日本で台風を面白がってネットで配信とかしたら炎上しようだけどなあ。

そんな感じで主人公が好きになれないので、完全に心が離れる。
そしてドラム缶が10個ぐらいに水分吸収剤を入れて、ラストに町に迫った大竜巻に立ち向かう、っていうクライマックスだが、心が離れているので「あんなもんで竜巻が制御できるの?それ実証されてるの?」と冷めた心で見てしまった。
とにかく1から10まで気に入らない。

Xで「ツイスターズ」で検索したら「4DXですごい体験した!」とか「人間ドラマもよかった!」とか出てきて世間とのずれを感じる。
どこが人間ドラマがいいのだろう?最初敵だったタイラーが「実はいい奴でした!」ってあたりなのかな?
今年のワーストワン候補です。
「あんなことで竜巻は収まりません」とかアメリカの気象庁みたいなところは言わないのかな。

追記
前作「ツイスター」とのつながりは特になし。強いて最初にケイトたちが使っていた観測装置が「ドロシー」を名付けられていたことぐらいか。







田舎刑事(デカ) 時間(とき)よ、とまれ


日時 2024年8月12日15:30〜
場所 シネマヴァーラ渋谷
監督 橋本信也
製作 昭和52年(1977年)


大分県の田舎刑事、杉山(渥美清)はある日ボクシングの中継を観ているときに観客席に15年前の殺人事件の犯人が写ったことに興奮する。
この事件の時効まであと10日。署長に頼み込み、東京への出張をさせてもらう。期間は5日。
警視庁では助手の刑事を付けてもらったが、若い女刑事の桜井(高橋洋子)。杉山は馬鹿にされたと心では憤慨。
桜井とボクシングジムに行き、録画した試合を見せてもらう。
杉山が犯人と言った男は宮城(小林桂樹)という男で、ここ10年ぐらいにのし上がってきた経済界の大物だという。
お茶会に出ている宮城を訪ねる杉山。「クニサキ!」と昔の名前で呼んでみたが宮城は動じない。
宮城の戸籍を洗ってみても故郷にも宮城のことを知っているものはいないようだ。宮城の会社が横浜にあったことから横浜での失踪人届けを洗ってみる。そこで当時のクニサキと同じ位の年の男が死んでいた。
きっとこの男の戸籍を買ったに違いない。
クニサキの大分時代に懇意にしていた女郎が今はストリッパーをしていて草加に訪ねる杉山。その女リリィ(市原悦子)を連れだし、ゴルフ場で宮城に会わせてみる。しかしリリィは「クニサキではない」と否定した。
時効が迫る。杉山はきっとクニサキがリリィに会いに来ると張り込みを続ける。


テレビ朝日の土曜ワイド劇場の1作目として放送。今回シネマヴェーラの戦争映画特集「家族たちの戦争」と題する特集の中での上映。「田舎刑事」はシリーズ化され3本ほど作られてる。その3作目「まぼろしの特攻隊」が森崎東監督作品で以前ヴェーラで上映された。その時に一緒にこの1作目も観たような気がしていたが、鑑賞記録がないので、あわてて見に来た次第。

この作品はリアルタイムでも観ている。アメリカで90分ほどのテレビ用の映画のような完結した作品が流行っていると伝えられ(「激突!」もその1本)それに模して日本でも映画的形式の作品の制作が始まった。
これがヒットし、後の2時間サスペンスの隆盛となる。
つまりテレビ史的には貴重な作品なのだ。

渥美清を主役の刑事持ってきたのは当時「刑事コロンボ」のような風采のあがらない刑事が注目されていたので、その日本版として企画されたのだろう。しかし「コロンボ」が本格推理に対し、本作はウエット。

初めて見たときから「砂の器」と「飢餓海峡」をミックスさせただけ、と印象が悪かったが、今回も同じ印象。
さらに音楽が「砂の器」の菅野光亮だから完全に重なってくる。
クニサキは満州の引き揚げ者で母は途中で亡くなり、妹は中国に残して来たという。この辺をセットで作った風景でやっているからとにかく安っぽい。(やっぱり「砂の器」は本物の大自然だから迫力が違いますよ)

市原悦子は完全に「飢餓海峡」の左幸子と重なってくる。ウエット、ウエット。ウエットすぎて私はもう逃げ出したくなる。
ゴルフ場でクニサキを否定した後、「こんな広か場所で踊ったら気持ちいいよねえ」と言いだし、芝生の上で踊るシーンは良いのだが、観ていていたたまれなくなる。

そして杉山は宮城の家に強引に入り、クニサキと対決する。
「君はそれでも刑事かね?」と言われて「どうして私を刑事とわかったんですか?いよいよしっぽを出したな」と言われて「いや、手錠を持っているから」と返されるシーンは放送当時観ていてもいたたまれない、イタいシーンだった。

とにかくミステリーとしては全くなってない。
いろいろと調べるのだが、すぐにわかるしね。「砂の器」のように一つわかったけど、また別の疑問が出てくる、という感じでもないし。

そういった感じで面白くはないのだが、やはり小林桂樹はすごい。
逮捕後の取り調べのシーンで「なぜ親切にしてもらった社長を殺した?」と言われ「社長に親切にしてもらってうれしかった。娘さんが満州に残してきた妹に似ていたのでおもちゃなど作っていた。しかしある日、作ったおもちゃを汚いもののように扱われてかっとなった」と自白するシーンは名優の迫力である。

それに続く市原悦子のシーンでも「なぜクニサキをかばった?」の問いに「あたしらはお国が進めるから満州に行った。戦争が終わってからは今度は石炭だった。そして今度は石油になってまた国から見捨てられた。クニサキさん一人が偉ろうなっても悪くはなか」というシーンではやはり迫力ですね。

こういう言い方はしたくないけど、小林桂樹や市原悦子と同じレベルで出きる役者がいるのか知らん?と思う。
男は役所広司か。

いろいろ欠点も多いけど、歴史的な作品であることは間違いない。
再見できて満足です。

追記すると今日の上映は73分の放送時間では21時から22時半の90分版。後にカットしたシーンを復活させて2時間枠で放送したこともある。こちらも観ている。(たぶん純粋には90分程度の尺だと思う)
覚えているのはガッツ石松のボクシングジムで最初にビデオを観るのだが、この前に桜井刑事に「テレビ局に行こう」と行って「テレビ局は見せてくれません」「そんな」「簡単に言えばテレビ局は警察の手先ではないということです」というシーンが加わってたことを覚えている。







新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!


日時 2024年8月11日18:50〜
場所 (相鉄)ムービル2
監督 小沢啓一


文学好きの所結衣(藤吉夏鈴)はあこがれの名門櫻葉学園高校に入学。
高校生作家の「このは」に会いたいがためだった。早速文芸部を訪ねてみたがこのはは実は在籍していないという。文芸部には入部試験があり、試験中にドローンが進入してきて結衣にあたり、試験は受けられなかった。
しかし部長・西園寺茉莉(久間田琳加)のはからいでもしこのはを見つけてくれたら文芸部への入部を許可するという。
手がかりはこのはにインタビューしたことがあるという新聞部だった。しかしこの学園の新聞部は学校非公認で、学園内の不正やスキャンダルを記事にして学校からは疎まれていた。
壁に貼ってあった新聞部の新聞の「部員募集」の記事を見て新聞部を訪ねる。そこにいたのは部長のかさね(高石あかり)と副部長の春菜(中井友望)だけ。
早速かさねに同行して取材する結衣。飲み屋街に行き、先生たちが最近宴会を行った店で「いかにも体育教師って感じの人が女の先生を触っていた」というネタをつかむ。それを記事にしたかさね。
だがこのはのことは何も教えてくれない。ある日、かさねを尾行する結衣。行った先はある男子生徒の家だった。それは元文芸部の松山(綱啓永)だった。実は西園寺が最初にコンクールで優勝した作品は松山が書いたものだというのだ。2年連続の西園寺の受賞には不正があったようだ。
その裏には学園の評判を高めたい理事長沼原(高嶋政宏)の暗躍があった!


SPOTTED作品。
高校新聞部を題材にした青春映画だが、めちゃくちゃ面白かった。
完全に実社会とマスコミの縮図である。
教師のセクハラスクープなど単なるゴシップではないかと結衣は部長にくってかかる。部長のかさねは新聞記者の手記に感動して全部暗記している。
しかし黒幕の理事長が部長を退学にさせ、副部長を文芸部に入部を許可し、希望する大学の学校推薦を約束する。
結衣が新聞部を引き継ごうとするが、新聞部を正式な部活動として承認し、予算も付けるという。しかし学校の秩序を乱してはならず、「では新聞部の存在意義とは?」という結衣の問いに「風紀委員みたいなものか」と理事長は答える。

地位やポスト、予算で懐柔し、言うとおりにしようとする。
現実社会の完全な縮図だ。
しかし結衣はそれに抵抗する。
いいですねえ。

謎の作家、このはの正体は実は部長のかさね(これは読めたけど)。
松山も見方につけ、西園寺に迫る。
理事長も西園寺の3年連続優秀受賞をねらって審査員に実弾を渡す。
(この審査員の一人が「階段の先には踊り場がある」で滝田の同僚の大学職員を演じていた俳優さんだ)
そして授賞式で西園寺は「この作品のテーマは?」と聞かれて「まだ読んでいません」と答えて大混乱。

裏の裏をかいた部長の活動で理事長は失墜する大団円。
いや〜爽快ですねえ。

さっきも書いたけど本作は実社会とマスコミの縮図を描いている。
本物の全国の新聞記者諸氏にご鑑賞いただき、是非初心に立ち返ってもらいたい。
今年のベストワン級の面白さだった。






オレ達のこじらせメロディー


日時 2024年8月11日11:40〜
場所 光音座1
監督 吉行由実
製作 OP PICTURES


涼(山口雄大)には夏雄(光永勇輝)という恋人がいたが、夏雄は女性ともつきあっていて涼はいつも落ちつかない。今日もセックスの後にすぐに同居している女性の元に帰って行った。
ミュージシャンの真也(樹カズ)はレコード会社の杉田から曲の催促を受けていたが、未だに出来ていない。また杉田から体の心配をされている。実は大きな病気を抱えている疑いがあるのだが、真也は医者をいやがって行こうとしない。杉田から「とりあえず過去の未発表曲でも出しておいて、後で差し替えればいいですから何かありませんか?」と言われ、25年前のある出会いを思い出す。
その頃真也(山口雄大・二役)は毎日曲を作っていたがさっぱり売れない。そんな時に2階に引っ越してきた明(光永勇輝・二役)がたまたま耳にしてくれて誉めてくれる。それから毎日のように話すようになる二人。小説家を目指す明に作詞してもらうという話になり、海岸でキスをする二人。やがて体の関係になったが、真也の彼女に朝一緒に寝ているところを見つかってしまい、「二人で飲み過ぎて寝ちゃったんだ」とごまかした。そのことがあって疎遠になり、曲は未完に終わった。
涼の父は実は真也だった。真也は明との曲を完成させようと、当時使っていたギターを取りに家に帰る。そこで夏雄と出会う。夏雄は明にそっくりだった。
夏雄は真也とも仲良くなったが、涼はつい嫉妬してしまう。
真也は今作っている明との未完に終わった曲について夏雄に聞かれる。「友達が歌詞を書いてくれたけど途中で終わった。今その友達には会えない」。実は明は実家に帰ったときに交通事故で亡くなっていた。アパートの部屋に残されたノートには書きかけの歌詞が書いてあった。作曲に真也の名前があったので大家がそのノートを届けてくれた。しかしそのノートは当時つきあっていた彼女に「男が好きなの?」と問いつめられ、「違うよ!」と答えて捨ててしまったのだ。
ある晩、涼の家は停電になった。そのとき、夏雄の口から歌詞の続きが歌われた。まるで明が乗り移ったかのようだった。真也は亡くなった。
真也の死後、夏雄と涼はセックスの後、スマホで写真を撮る。その時に真也の声で歌が録音されていた。それは真也と明が作った曲「声を聞かせて」だった。


話は全部書いた。
大蔵ゲイ映画の夏の新作。てっきりロサで上映した「ヘヴンズXキャンディ」のタイトルを変更したのが出てくるのかと思ったら、完全新作である。

吉行さんの映画だから少女コミックのようなメロウなお話。その点は安心してみれるのだが、もう一つ足りない。縦糸(というか話の軸)がないんだな。
それと主人公は真也なのか、涼なのかはっきりしない。
だからどうも話がだらだらと進むだけで話に入れない。
その辺が惜しかったと思う。

話としては真也の亡くしたかつての恋人への想い、なのだからやはりファーストシーンは真也であるべきではなかったか。
涼と夏雄のセックスから始まったから、主人公が混乱する。
真也の視点から話を進めると夏雄に明を見いだすわけで、となると涼がますます影が薄くなる。

プロットというかテーマはよかったのと思うが、脚本の構成の段階で「若い男を主人公にしなくては」ということから混乱が起こったか。
ならば涼を主人公にするならば、「涼が父の秘密を知る」という形にしないとなあ。

最後は涼と夏雄のカラミがある。ここで「父親が死んだのに喪に服さないの?」とか思ってしまう。
さらに涼のスマホに父の曲が録音されていて「?」である。
今日、舞台挨拶があったので来館してた吉行監督に聞いてみたら、「あれは超常現象的なものです。最後に夏雄に明が憑依して曲が出来たようにそれがスマホに録音されたということで」という話でした。
それいるかなあ?

とにかく話のネタはよかったと思いますが、脚本化の段階で乱れたと思います。その点が惜しかった。

今日は樹カズさん、光永勇輝さんのミニライブ付き。映画に出てきた曲2曲は樹さんの曲だそうで、それを披露していただきました。
正月も新作があるようで、それも楽しみです。






兵六夢物語


日時 2024年8月3日
場所 国立映画アーカイブ・大ホール
監督 青柳信雄
製作 昭和18年(1943年)


鹿児島県に伝わる兵六という下級侍。兵六(榎本健一)は腕も度胸もあったが、どこか抜けていた。幕末の時代、いよいよ我らの出陣も近いということで、道場ごとに殿の御前で腕前を披露することになった。
その直前の練習中、師匠の盆栽をつい壊してしまった兵六は出場を止められる。しかしそれでは腕前を披露する機会がないと無理に出場し、案の定、失敗しかえって道場に恥をかかせてしまう。
先輩たちから「お前は追放だ」とも言われるが許してもらえる。そのことを知った母は少し離れた寺の和尚に手紙を届けろという。
しかしそこまでは時間もかかるし、もうすぐ日も暮れる。最近化け物がでるという山を越えねばならないのだ。
それでも母は行けという。仕方なく出かける兵六。
案の定、狐や狸や化け物が襲ってくる。


「返還された映画コレクション」の特集上映で鑑賞。戦前戦後にアメリカに接収されていたフィルムが日本に戻ってきた作品群だ。
戦時中の国策映画が多いらしい。私は「円谷英二」のクレジットのある映画をチョイスして観ていこうと思う。(本作のクレジットは「圓谷英一」)

話の方は山に入ってから身の丈10mはあるような大男が登場し、その大男を向き合った二人の画面などは合成です。
また人間の姿として出てくる狐は高峰秀子が演じている。
その高峰秀子が小さくなって兵六の手のひらに乗ったりする。

あとは火の玉が浮いているようなカットも合成ではないだろうか?
そして嵐のカットで木々が揺れるのはミニチュアかなあ?
特撮としては戦争映画ではなく、「孫悟空」の延長にあるファンタジー路線だ。

結局朝になって寺の和尚に手紙を届けることは出来た。和尚はすべてをわかったようでそのまま兵六を返す。
たぶん母親は兵六に魔物と戦う、という実戦をさせて成長させたかったのだろう。

そして最後には兵六も勇ましく「初陣だ」と出発するところで映画は終わる。
アーカイブの作ったチラシでは獅子文六の児童小説を映画化した道徳映画」とある。戦時中の映画らしく、「みんなも兵六のようにがんばって兵隊になろう!」という主張は全面的に伝わってくる。

この映画、市川崑が製作主任(助監督)としてクレジットされている。
圓谷英一と市川崑という組み合わせは非常に珍しい。こういうつながりが後の「太平洋ひとりぼっち」につながっていったのか。







ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ


日時 2024年8月3日14:40〜
場所 キノシネマ新宿・スクリーン1
監督 アレクサンダー・ペイン


1970年のボストン近郊の名門男子校バートン校。クリスマスも近づき2週間の休暇になる。しかし家庭の事情などで家族の元へ帰れない、帰らない学生が毎年数人いた。そのために教師の一人が監督として残らねばならない。今年は他の教師が嫌がったため、生徒にも同僚にも嫌われている古代史の教師ハナム(ポール・ジアマティ)が担当することに。
学校に残るのは家族と旅行に行く予定だったが、当日になって居残りになってしまったアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)、寮の料理長のメアリー・ラム(ダヴィン・ジョイ・ランドルフ)。最初は他にも学生がいたが、そのうちの一人が家族とスキーに行くのに誘われて出て行ってしまった。アンガスは両親と連絡が付かず、許可を得られない以上寮から勝手にでるわけにもいかなかったのだ。
ついに3人だけになった寮。寮の従業員の家でクリスマスパーティをするというので誘われて出かける3人。だがベトナム戦争で最愛の息子を亡くしていたメアリーはクリスマスに息子がいない寂しさに取り乱してしまう。
仕方なくメアリーを寮に連れて帰るハナムとアンガス。
クリスマスも過ぎた頃アンガスがなんとか寮を抜け出そうとしている。どうしてもボストンに行きたいという。「社会見学の一環として」という口実を作って3人は寮を出る。妹夫婦の家で過ごすというメアリーは抜けてボストンに向かうハナムとアンガス。
アンガスの目的は両親が離婚した父親に会うためだった。


完全にノーマークだったのだが、いまおかしんじ監督に会ったときに誉めていたので急遽「ツイスターズ」を止めてこっちを観た。

まあ、ヒューマンドラマである。
孤独感を感じる3人がお互いの孤独の原因を知りお互いを理解し助け合うようになる、という話だ。
嫌われ者の堅物で偏屈なハナム。ボストンでアンガスといるときに「おい30年ぶりだなあ」と声をかけられる。ハナムはハーバード大学の卒業論文を同じクラスの学生に「盗作した」と言われた。実は言った方の学生がハナムの論文を盗作したのだが、その学生の父親が多額の寄付をしていたため、ハナムが悪者にされたのだ。怒ったハナムはその学生を車にぶつけたため、大学を退学になっていたのだった。今30年ぶりに会った友人には「今はどうしてる?」と聞かれ「世界各地で講師をしているよ」と適当に答えてしまう。それに話を合わせてくれるアンガス。
ハナムの過去がわかり、現在につながるエピソードである。

そしてアンガス。アンガスの父親は若年性認知症などの病気で入院していたのだった。母親は当初は看病していたものの、諦めて離婚し今は再婚してしまっている。アンガスは父親に面会に行ったが、「食べ物に毒を入れられてる」などとおかしなことを言われてしまう。
アンガスの複雑な事情を知るハナム。

新学期が始まり、父親を訪ねたために父親がその後施設で暴れるようになってしまったと攻められる。
「自分が父親に会うべきだ」と言ったとうそをつき、退職させられるハナム。
このあたりの展開に泣ける人は泣けるんだろうけど、俺はそれほどでも亡かったかな。悪い展開ではないと思うけど。

それよりこの映画、1970年が舞台だが、特に冒頭で示されるわけではない。最初に出るユニバーサル映画のマークが今のマークではなく、70年代のマークだったし、何となくフィルムっぽい画質だったから、一瞬70年代の映画のリバイバルかと思った。
フィルム画質に関しては仕上げの段階でそういう画質にしたそうです。
ってことはユニバーサルのマークもわざとしたんだろうなあ。
そこは面白かった。






ブロウアップヒデキ


日時 2024年8月3日
場所 BS松竹東急録画
監督 田中康義
製作 昭和50年(1975年)


1975年の夏の西城秀樹の日本縦断ツアーを追ったドキュメンタリー映画。
7月末の富士山麓での野外コンサートから始まって8月末の大阪球場でのコンサートまでを描く。
この映画、調べてみると75年10月10日公開。
ツアー終了から映画公開まで1ヶ月ちょっとである。いかにスピードだったか。

西城秀樹は70年代を席巻したアイドルだが、80年代のたのきん登場でトップの座は奪われた感がある。
映画の途中で「昭和30年 広島生まれ」と紹介されるからこの頃20歳。
80年代では25歳を越えているから、当時としてはもうフレッシュさという点では世代交代だったのだろう。今はアイドルのデビューも年齢が高くなって25歳でCDデビューもさほど珍しくない。

で、この映画。
尺が足りないのか最初の18分は延々と西城秀樹が出てこない映像が出てくる。
富士の野外ステージを作るスタッフの姿を延々と写す。
東京からこのコンサートのバスツアーがあったようで、バスが出発してバスの中でファンのみんながヒデキの歌(たぶん)を歌う。運転手も足でリズムを取る。
野外ステージの周辺では屋台が出てジュースやかき氷を売っている。
それを食べるファンの映像にファンのインタビューが重なる。
「ヒデキのどんなところが好き?」「かっこいいところ」「ファンに優しいところ」などなど。
こんな映像が18分続いてやっとヒデキのコンサートスタート!

今の歌手のライブDVDでもそうだけど、どうしても望遠レンズで撮るしかない。今はやたらと編集で短いカット(それこそ1秒無いようなカット)が続くが、そういうことはない。

でも野外の昼間のステージはいいのだが、続く札幌、沖縄、広島は厚生年金会館とか郵便貯金会館でのコンサートでは映像が暗い。よくわからないカットもある。

そんな感じで進んでいってラストの大阪球場でエンディング。
当時はコンサートのライブビデオなんて存在しなかったから、コンサートを行った人がもう一度味わったり、行けなかったファンが楽しむにはこういったコンサート映画も必要だったですね。
ただしそういうのが多かったかというとそうでも無かったなあ。
アイドルではないが、アリスのコンサート映画もあったけど、あれソフトかされたんだろうか?もう一度観たい気もする。

映画とは直接関係ないけど、西城秀樹ってセクシーなんだなあ。
また衣装も70年代の衣装でタイトなものが多いが、その中でも上着は胸のあたりまでしかなく、ヘソ出し(お腹出し)の衣装も多い。そして足はホットパンツを履いていたりすると完全に色っぽい。

西城秀樹の曲は「傷だらけのローラ」とか「激しい恋」ぐらいしか知ってる曲もなかったけど、今はいない西城秀樹の全盛期をかいま見ることが出来、よかったと思う。