2002年9月

私は貝になりたい 社長太平記 君も出世ができる 喜劇 とんかつ一代
黒の奔流 ファンキーハットの快男児 
2000万円の腕
ファンキーハットの快男児 ウインド・トーカーズ
スター・ウォーズ 
エピソード2/クーロンの攻撃
白昼の襲撃 黒い画集 寒流 トータルフィアーズ

私は貝になりたい

 
日時 2002年9月28日26:40〜
場所 浅草東宝
監督 橋本忍

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

フランキー堺を語る時に「幕末太陽傳」と同じく避けて通れないのが
この作品だ。
最初TBSでドラマ化され芸術祭文部大臣賞を受賞した名作の映画化だ。
ドラマ版は以前、TBSの創立何十周年の企画の時に再放送されたのを見たが
映画版とは細部のキャストが多少違うだけで、主演のフランキー堺は同じだし、
それほど差異はない。
後に所ジョージにより再ドラマ化されたが、フランキー版の完成度には
程遠かったとだけ言っておく。

戦争末期、土佐の高知の田舎で理髪店を営む清水豊松(フランキー堺)だったが
ついに召集される。そんな時B−29が墜落し、乗組員が捕虜として
捕らえられる。豊松の部隊に処分命令が下され、豊松は仕方なく
捕虜の右腕を刺す。
戦争が終って元の床屋に戻った豊松だったがある日戦犯として逮捕され
巣鴨刑務所に拘留される。命令のために仕方なく捕虜を刺しただけの自分は
無罪を主張するが、判決は絞首刑だった。
再審の嘆願もむなしく、ついに豊松は処刑される。
「もしも生まれ変われるのなら、今度は深い海の底の貝がいい。戦争もない。
人間にいじめられる事もない。妻や息子の心配をしなくてもいい。
私は貝になりたい」
そう言い残して豊松は絞首刑台に上った。


東條英樹らをA級戦犯、そして豊松のような現場の兵士の戦争犯罪人をBC級戦犯と
呼ぶ。
もちろん名作だし今さら私が語る余地のない作品だ。

そんな中で敢えて言うならこの作品中に登場する人々の噂話だ。
豊松の出征以前、客の一人がこんなことを言う。

「実は海軍の人から聞いた話でここだけの話なんだが、近いうちに連合艦隊が
大反撃をするらしい。最近負けつづけているが、それはわざと負けつづけて
敵をひきつけてるんだ。ひきつけたところで一発逆転の作戦ですよ」

豊松を始め、聞いていた人間はそうかそうかと喜ぶ。

また巣鴨プリズンの中でもこんな噂が飛び交う。
「絞首刑になるっていって連れてかれた人たち、みんな生きてるらしいんですよ。
もともと戦争という大きな流れの中で起こった事件ばかりなのだから
我々を裁くのは筋違い。かといって何もしないわけには行かないから
絞首刑にするフリをする。そして釈放する。でもそんなことしてたらいつかは
ばれる。だからもうすぐ講和条約も結ばれる事だし、最近は処刑される
人がいないんですよ」

人々は希望の噂を信じつづける。その噂にしがみつく。
しかし無情にもその噂には裏切られる。
この描写は直接主題には関係ないところだが、希望にすがり付いて生きていきたい
市井の人々の気持ちがよくでてるような気がして忘れがたい。

時代に流される人々の代表として清水豊松を忘れられない。
そして時代は流れ、再び現代の戦争に巻き込まれる市井の人の代表が
「世界大戦争」のフランキー堺のハイヤー運転手だ。
フランキー堺主演という点から見ても、この「私は貝になりたい」と
「世界大戦争」はつながっていると言っても間違いではないだろう。


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社長太平記


日時 2002年9月28日24:55
場所 浅草東宝
監督 松林宗恵


(詳しい内容はキネ旬データベースで)

「社長シリーズ」って全部カラーかと思っていたが白黒作品も
あるのですね。この作品がそうで白黒画面が出てきたときは
正直少し驚いた。

実は「社長シリーズ」を映画館で見るのは(意外にも)多分初めて
なのだが、テレビで昔見たイメージ通り森繁社長に小林桂樹専務、
三木のり平、加東大介のおなじみのメンバーによる同じ味の作品。

森繁社長がバーのママや料亭の女将の手をさりげなく握って
ぴしゃりと手をはたかれるなどいつもの呼吸。
今回は女性下着メーカーが舞台で、三木のり平の営業部長が
新製品のブラジャーを社長の前で付けてみせたり、加東大介の
総務部長の指揮で火災避難訓練を行ったりするあたりが
笑いどころかな?

厳密に言うと1本1本違うのかも知れないが、似たような作品だなあ
という印象はぬぐえないこのシリーズ。
でももう5、6本は観てみたいなと思う、日本映画を代表する喜劇
シリーズである事は間違いない。


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君も出世ができる


日時 2002年9月28日23:05〜
場所 浅草東宝
監督 須川栄三
製作 1964年


(詳しい内容はキネ旬データベースで)

噂の日本映画唯一のミュージカル喜劇。
植木等も映画の中でよく歌を歌って踊っているが
いつも一人で歌っており、それはミュージカルというより
あくまで歌の振り付けとして踊っている域を出ていない。

しかしこの作品は違う。
フランキー堺や高島忠夫が歌い踊る。
彼らだけでなくシーンによっては総勢100人ぐらいで踊るのだ。
フランキーの動きなど実に軽やか。あの太っちょの体で
よくあんなに動けると感心してしまう。
(十朱久雄まで少し踊るシーンさえある)

ストーリーの方は観光会社がアメリカの大手旅行代理店との提携契約の
ためにライバル会社と接待合戦をして雪村いづみの社長令嬢との恋愛
もありの植木の「日本一」シリーズと似たようなもの。
植木がやりそうな役をフランキーがやり、谷啓の役どころを
高島が演じている。

しかしミュージカルシーンは出色の出来。
アメリカ帰りの雪村いづみが「これからはアメリカ風に合理主義に徹する」
という演説のあとの「アメリカでは」という曲のミュージカルシーンは
さすが!
総勢100人ぐらいの社員がオフィスで踊るシーンは圧巻だ。
ウソだと思うなら検索サイトでこの作品を検索するといい。
皆さんこのシーンを誉めてます。

あと一度仕事に失敗したフランキーが銀座で酔っ払うシーン。
こちらも総勢100人以上のサラリーマン姿の男たちが
夜の丸の内で踊るシーンもなかなか。

「この映画は『クレージー映画の彼らの歌のシーンを発展させよう』というところ
が企画の原点なのかな」などと考えていたら植木が最後の方でチョロッと
でてきたのには驚いた。(私は思わずアッと声を上げた)

この映画、公開当時は興行的には振るわなかったようで、この路線の
作品はこれ1本で終った。
しかし日本映画史上、ワンアンドオンリーの珍品として記憶に値する。
60年代東宝の作品のモダンさ、作品の幅の広さを証明する1品だ。
皆さんにも是非観ていただきたい一編です。


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喜劇 とんかつ一代


日時 2002年9月28日21:20〜
場所 浅草東宝
監督 川島雄三

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


今月の浅草東宝は男優特集。
今週は自分としてはあまり見ていない東宝喜劇の森繁久弥とフランキー堺
の特集という事で見に行った。

上野の老舗フランス料理店青龍軒の加東大介のコック長と元弟子で
今はとんかつ屋の森繁久弥は犬猿の仲で、加東大介の息子が
フランキー堺で、フランキーの姉のだんなが三木のり平で
怪しげなフランス人に岡田真澄、あとは団令子、山茶花究と益田喜頓
なんかが登場する喜劇。

要するにそうゆう映画だ。
森繁久弥がとんかつ屋のだんなの割には結構金を持っているのか
芸者遊びをしているのだが、「社長シリーズ」ほどデレデレ
するシーンはなく、森繁の面白さが生かされているとは思えない。

幾多の東宝喜劇の1本としか言いようがなく、その中でもつまらないほうだろう。
川島雄三監督なので何かを期待したが、何もなかった感じがする。

面白かったところは、クロレラ研究に没頭している貧乏科学者の
三木のり平のドタバタぶりが(敢えて言うなら)面白かった。



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黒の奔流


日時 2002年9月16日19:20〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 渡辺祐介
原作 松本清張
製作 1972年


(詳しい内容はキネ旬データベースで)

若手の貧乏弁護士・矢野(山崎努)は野心を抱いていた。
彼は有罪間違いなしと言われた殺人犯・貝塚藤江(岡田茉莉子)の
弁護を引き受ける。この事件を無罪判決を勝ち取り有名になろうという
魂胆だ。
事件は矢野の努力の結果、無罪となり藤江も自分の事務所で雇い、
一躍時の人となる。藤江は矢野を愛するようになり、矢野との
関係が始まる。しかし矢野は大物弁護士・若宮(松村達雄)の娘(松坂慶子)
との結婚話があり、藤江と結婚する気はない。
それを知った藤江は矢野に復讐を始める。

前半の法廷シーンの藤江を無罪にするまでも緊迫感があって
観ていて息つく暇を与えない。
逆転また逆転の裁判は「白と黒」を思わせるような面白さだ。

しかし、無罪になってから藤江との情交が始まってからがちょっと
くどくなる。
東宝でも「黒い画集」などの松本清張物があるが、
この作品の方が「女の情念」と言ったものを強く感じちょっと粘っこい。
同じ松竹の「影の車」はさらに「子供の視線」も加わるので
どろどろ感はいっそう増す。
この辺はやはり恋愛物、女性物の松竹らしい路線なのだろう。

山崎努は野心バリバリの若手弁護士でこういった役はハマリ役。
岡田茉莉子はこういった薄幸の役ってどうかなあ。
僕の感じでは悪くはないがよくもない。
あとまだ若い松坂慶子がお嬢様役。
検事役の佐藤慶にはもうちょっと活躍してもらいたかったかな?



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ファンキーハットの快男児 2000万円の腕


日時 2002年9月16日16:25〜
場所 中野武蔵野ホール
監督 深作欣二

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

探偵事務所の所長を父に持つ天下一郎(千葉真一)
はファンキーハットをかぶった、女に弱いが腕っ節は強い青年。
今日も高校野球をテレビで観戦。
今年のエースは若葉高校の川原投手。
その川原投手だが甲子園終了後東京にやってきたが、
その日のうちにホテルを後にしていた。
同じ日、ある整形外科医のインターンは死体で川に浮かび、
その病院長も失踪した。
またあるタクシーの運転手は同じ日にある男を
引いてしまって一度は逃げてしまったが警察に自首したが
該当する事故は無いという。
天下は偶然スポーツ記者の美矢子(中原ひとみ)と知り合ったが
彼女と一緒に川原の行方を追い始める。
消えた3人の行方とインターン殺しの犯人は?


ファンキーハットシリーズ第2作にして最終作。
中原ひとみは前作に続きの登場だが、今回は設定も違うので
一応別人。(父親役が同じ十朱久雄なので混乱したよ)
相変わらずの千葉ちゃんの3枚目的はじけっぷりも楽しいが、
今回は消えた3人の男の行方というミステリーも加わり
作品としてはこちらのほうが上。

実はタクシーが轢いた若い男が川原投手で2000万円という
契約金が事故で故障した体の為にふいになるのを恐れ、
整形外科医も一緒に連れ去り、川原の故郷の顔役(神田隆)が
契約が成立するまで隠していたのだ。

プロ野球選手に高額の契約金、報道合戦など今と製作当時の昭和36年も
あんまり変わってないのですね。

ミステリーとしてもも面白く、SPとはいえ中々見所があるシリーズ。
若々しいまだ少年の面影を残した千葉ちゃんが楽しめる作品でした。



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ファンキーハットの快男児


日時 2002年9月16日15:30〜
場所 中野武蔵野ホール
監督 深作欣二

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

探偵事務所の所長を父に持つ天下一郎(千葉真一)
はファンキーハットをかぶった、女に弱いが腕っ節は強い青年。
ある日株の投資に目が無い女の子(中原ひとみ)と知り合う。
彼女は建設省の公共事業で近く着工する産業会館の受注をどの建設会社が
請け負うか注目していた。
そんな時、建設省のその工事の決定権を持つ小暮(加藤嘉)の息子が誘拐され
天下探偵事務所がその捜査に当たる。
身代金の受け渡しに現れなかった犯人だが、子供は帰ってきた。
天下一郎は同じ新聞に産業会館の受注決定の記事を見つけ、関連性を
考える。果たして真相は???

千葉真一が若い!デビュー当時の彼は2枚目半でファンキーで
女に弱い3枚目だがアクションスターらしく体つきも良く、颯爽としている。
しかも目がクリクリっとして何だか可愛い。
中原ひとみは家にプールまである豪邸に住んでる娘で、千葉真一がそのプールで
泳いだり、庭の鉄棒ではじけるシーンは水着姿がまぶしい。
その後も千葉ちゃんは裸にジャケットだけを羽織った姿でミョーにセクシーだ。

お話のほうは、身代金の受け渡し行われなかったのに子供が帰ってくるなど
ミステリーとしても合格点。
実は犯人は産業会館の仕事を受注した日の丸建設(の重役に神田隆)に金を
要求して裏取引を行っていたのだ。
犯人は建設省の役人と日の丸建設の癒着関係についてよく知ってる人間で・・・
ということでラストは犯人を殺そうとする神田隆たちと千葉ちゃんたちの対決!

テンポも速くストーリー展開はとてもスピーディー。
深作欣二の初期の作品として後の発展を予測させる作品だ。

蛇足だけど東映マーク(厳密にはニュー東映)が海の波でなく
火山からもくもくと煙が吹き出ていた。初めてみた。


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ウインド・トーカーズ


日時 2002年9月14日18:15〜
場所 新宿ミラノ座
監督 ジョン・ウー

(公式HPへ)

太平洋戦争さなか、アメリカ軍はインデアンのナホバ族の言語を
下敷きにした暗号を作る。
最前線の通信部隊にはその暗号を理解するナホバ族の若者がいた。
日本軍の攻撃からその暗号担当通信兵を守る役割を海兵隊の軍曹
(ニコラス・ケイジ)に命じられる。
しかし彼の使命はあくまで暗号を守る事。
いざとなったら日本軍に暗号がばれないよう、その通信兵を
殺す事も使命のうちだった。
やがて最前線への出撃が決まる。


面白そうな内容だが、なんか面白くないのだよ。
もちろん戦闘シーンは迫力あるし、戦友たちのキャラクターもなかなか
魅力的なのだが、なにか僕の中で今ひとつ盛り上がらない。
それはある程度結末が予想できるという事からだろうか?
インディアン対白人という差別を乗り越え、友情が成立するが
任務のためにその友情が引き去れかかるが・・・・
みたいな感じでなんとなく、先が読める展開なのだよ。

戦闘激化の戦場においてある兵士を守るという点において「プライベート・ライアン」
との類似性が感じられ、「プライベート〜」の太平洋戦争版といった印象は
ぬぐえない。

またこの映画に登場する日本軍がめずらしくやたら強いのだ。
なんとなく戦争後期に日本軍って圧倒的に負けつづけ、体格もへなへなで
「お話にならない」ような弱さが感じられたがこの映画の日本軍は強い強い。
米軍と互角に戦って苦しめている。

また途中主人公のナホバ族の青年が日本兵に変装して日本軍の陣地に
侵入するシーンがあるが、「そーかなあ?」という違和感があり、
絶対無理がある感じがした。
インディアン(という言葉を使っていた。今はネイティブアメリカンね)
と日本人は似てるようでやっぱり違うよ。

悪い映画ではなかった。
でもそんなに楽しめる映画でもなかった。


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スター・ウォーズ エピソード2/クーロンの攻撃


日時 2002年9月8日16:00〜
場所 新宿プラザ劇場
監督 ジョージ・ルーカス

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いや、すごかった。
何がって映像がだ。
前作ではどこかCGらしい質感のなさ、立体感のなさ、
マスク合成の線が見えるとか、なんとなく気になったが
本作では全く気にならない。

どこかあらがないかとそればかり気になり、ストーリーをあんまり記憶してないのだよ。
CGがあんまり見事なので、ヘイデン・クリステンセンは実在の人物なのか?
ひょっとしたら彼もCGなのではないかと思えてくる。
ロケも行われず、全篇ブルーバックのスタジオで演技していたような感じがするが
もしそうなら役者はやりにくかったろうなあ。

しかしやがて将来の映画はセットを組むという発想がなくなり、俳優はブルーバックの
前で演技させられるだけになる、そんな方法が当たり前になる時代が来るのではないか。
いや、俳優同士が共演という同じ空間にいて一緒に撮影するのではなく、
自分のパートだけを演技してあとで合成、編集する事も可能になるはずだ。

そのうち俳優も要らなくなるかも知れない。
過去の映像作品からデータを作り、CGで新たな演技をさせることも可能になるかも?
そして死んだ俳優同士を共演させるなんてありかな?
三船敏郎とハンフリー・ボガードの共演とかさ。

この「スターウォーズ」という映画、そんな映画の技術革新ばかりが目立ち、
あんまり映画としては楽しめなかった。
将来の映画は一体どうなっているのだろう????



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白昼の襲撃


日時 2002年9月8日13:15〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 西村潔

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


東映ヤクザ映画なども任侠物では仁義という絶対的な約束を守っていた。
人殺しという反社会的ではあったが彼らの社会の掟は守っていた。
「仁義なき戦い」は仁義はなくても組織はあった。
組織は守ろうとしていた。

しかし、この「白昼の襲撃」はすべてを否定する。
反国家であり反組織であり反ブルジョワジー(金持ちと言ったほうがいいか)で
アメリカ人の友人がいて国籍の壁さえ存在しない。
そして主人公・修(黒沢年男)についていく弟分は同性愛者で
その強い絆には男女の区別さえ存在しない。
人間のこうしたいという欲望があるだけだ。

しかし自分の欲望は他人の欲望と必ずぶつかる。
どちらかの欲望を貫こうとする時、絶対にぶつかり合う。
修は恋人を捨て、昔からの弟分と海外脱出をはかった時、
恋人の警察へのたれこみという形で社会からの反撃を受けるのだ。
そして主人公は警官隊との銃撃戦の上(このシーンはちょっとお寒い感じもするのだが)
元町繁華街の路上で血だらけになりながら惨めに死んでいく。

「自分のやりたいことだけをやる」
そんなユートピアを金もない、仕事もない若者が夢見るが実際にそれを
おこなおうとするとき、社会からの反撃にあう。
それが現実だ。
主人公の死にそんなむなしさが漂う。


主人公・修の黒沢年男のぎらぎらした感じがカッコいい。
その恋人役の高橋紀子は70年代ファッションの見本のような感じ。
で可愛くてなかなか魅力的だった。
弟分・左知夫(出情児)、あんまりオカマっぽくされても困るが
あんまり同性愛者っぽくなかった。
演技の問題より脚本、演出の問題だろう。
学生運動崩れの地下活動家の岸田森、彼のいちばんいい時代の虚無的な雰囲気を
かもしだして観ていて楽しい。

反社会、反国家の思想、また当時ファッションを含めて1970年という製作年
の時代が感じられる作品といえそうだ。


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黒い画集 寒流


日時 2002年9月7日
場所 録画ビデオ
監督 鈴木英夫

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

安井銀行の池袋支店の支店長に抜擢された沖野(池部良)は常務の桑山(平田昭彦)
とは大学同級生で学生時代からの付き合い。
だが桑山は親の七光りで重役になった男だ。
沖野は池袋支店の得意先の料亭の女主人奈美(新珠三千代)と知り合う。
美しい奈美に惚れた沖野だがいつしか二人は出来てしまう。
ところが学生時代から女癖の悪い桑山が奈美に惚れてしまった。
奈美をものにするために邪魔になった沖野を宇都宮支店に
左遷してしまう。
我慢が出来ない沖野は桑山に反撃を試みるが・・・・・・


タイトルの「寒流」とは会社内部の時流のたとえ。
「暖流」が主流派で「寒流」が反主流(冷や飯食いとも言うが)
という事になる。

以前見た時にあまりいい印象がなかったのだが、他の「黒い画集」と違って
殺人事件とか、話に派手さがないのでどうしても話が地味になりがちなのに
前半の説明が長いので見てるほうは退屈してしまう。

後半の30分、沖野が桑山に反撃を開始してからが面白くなるが
それまでの1時間は奈美と沖野が出来て、沖野は病気の妻がいて
やがて桑山が奈美にちょっかいを出し始めて・・・という
前フリばかりでちっとも面白くない。
この辺の説明をもうちょっと簡単にするか、沖野が桑山に反撃を
始めるところから映画がスタートしてどうしてそうなったかを
回想で見せるかなどして前半をうまくやればもっとよかったと思う。


池部良は淡々としていて、常務に反撃を試みる時も激しく感情を
表に出すことはない。この辺の乾いた感じが鈴木英夫の特徴と
いえるのかな。

常務の桑山役の平田昭彦、めずらしく女癖の悪い金持ちの2枚目の役どころ。
コイツが悪い奴なんだな。反撃に出た沖野をヤクザ(丹波哲郎)を使って
脅しをかけたり、最後まで負けない。
そして沖野が協力も頼んだ総会屋(志村喬)や桑山の敵、副頭取(中村伸郎)に
うまくしてやられたり、立ち向かう相手のほうが常に2枚も3枚も上手。

あと主役じゃないけど、銀行の支店長に近づき、今度はさっさと常務に
乗り換える料亭の女主人・奈美の逞しさ。
「その場所に女ありて」においても発揮された「男なんかに負けない、むしろ男を
利用してでも生きてやる」という逞しい女性像は、この作品の奈美に通じるものがあり
これが鈴木英夫流といえるかも知れない。

前半のだらだらをもう少しうまくやれば面白くなった気がするだけに惜しい作品だ。


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トータル・フィアーズ


日時 2002年9月2日21:55〜
場所 ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘
監督 フィル・アルデル・ロビンソン

(公式HPへ)

面白かった。
期待を裏切らない面白さだった。
この映画は面白かったという前提の上に敢えて3,4ケチをつける。

1、ベン・アフレックがよくない。
何しろこの人は「パール・ハーバー」(01)というひどい作品の
イメージがあるので、なんとなく最初から印象悪いのだ。
「突然大プロジェクトに参加させられた新入社員」という感じだが、
あんまり知的な感じがしないので、その辺でイメージが違うのだ。
なんとなくメガネをかけた机に座ってるだけの人生を送ってた感じが
僕のジャック・ライアンのイメージだったので、ああいう体育会系の男は
ちょっと違うのだよ。

2、ラストの危機回避がジャックライアンの説得だけで回避される所。
1とつながるけど、ラストで米ロ首脳をチャットみたいなので説得
するだけってのは、ちょっと弱い。もう一ひねり欲しかった。

3、スタジアムの爆破。
スタジアムでタバコの自動販売機が爆発するところだけど、
タバコが「5個発売されたら爆発する」とかいう設定だったら
もっと盛り上がったと思う。ここも残念。

4、核爆弾爆発。
今までもテロリストものってあったけど、みんな爆発寸前で止まってたし、
せいぜい普通の爆弾ぐらいだったから、今回の「核爆弾爆発」ってのは
ここまできたか!というエスカレートした感じはある。
しかしねえええええええええ。
日本人の感覚から言うと(僕だけでなくみんな思ったようだが)
核爆弾が爆発したらもっとすごいよ。

人間が溶けちゃうんだよ。
影が壁に焼き付いちゃうんだよ。
放射能の後遺症がすごいんだよ。
ジャック・ライアンが核爆発のあとに車で行くけど、
あんなことしたら、絶対髪の毛抜けるよ。

所詮アメリカ人には核爆弾は普通の爆弾のちょっと大きい奴ぐらいの
認識しかないし、映画の作り手にも核爆弾の現実をみんなに
知らせようという意欲もない。
この映画のメインスタッフは今すぐ広島、長崎の原爆資料館に行くように。


と言う風に注文はつけたくなるところは多いけど、娯楽映画としては
実によく出来ていた。サスペンス映画としては今年度ベスト1だろう。

蛇足だけど一緒に見た友人と帰りの話の中に出てきた類似ジャンルの映画。
「博士の異常な愛情」「未知への飛行」「ウォー・ゲーム」
「世界大戦争」「ブラックサンデー(未見だけど)」「シュリ」・・・・
結構ありますね。みんな好きだけど。


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