2004年2月

ジョゼと虎と魚たち 零-ゼロ サブウェイ・パニック 半落ち

ジョゼと虎と魚たち


日時 2004年2月23日13:50〜
場所 シネクイント
監督 犬童一心

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この映画を見た人は皆同じような事を言っていた。
「いい映画だよ。でもラストは好き嫌いがあるね」
どんなラストが待ち受けてるだろうかと思っていた。
実を言うとてっきり二人のうちどちらかが死ぬと思っていたのだ。

違っていた。
でもみんなの言っていた意味は納得した。なるほど、そういいたくなるラストだ。
私はこのラストは好きになれなかった。
ジョゼと別れたあと、恒夫は道で大泣きしている。
何を泣いていたのだろう?
ジョゼを支えられなかった自分の非力さだろうか?
足の不自由な彼女より、お金持ちのお嬢様を選んでしまった卑怯な自分を
呪ったのだろうか?

大体、恒夫という奴は浮気者だ。
セックスまでいている関係のガールフレンドがいながら、お嬢様にも関心が
ある。そして不思議な魅力のあるジョゼにも惹かれていくのだ。
好感度の高いさわやかな妻夫木聡が演じているから、悪役な感じは薄れるが
違う人が演じていたらかなり印象が違っていたかも知れない。

二人の旅行の中で「車椅子買おうよ」という恒夫に「恒夫がおぶってくれるから
なくても構わない」と答える。恒夫は「お前はよくても俺が構うんだよ」という。
またトンネルのナトリウム灯に無邪気な喜びを見せるジョゼに「今運転中だから
うるさい」とそっけない。
思えばここらあたりから二人のすれ違いははじまっていたのだ。

とまあ映画を見た直後はジョゼを支えてやれなかった恒夫に怒りすら覚えた。
しかし考え方を返れば男女の仲に別れは付き物だ。
出会って一時期はうまく行く。しかし小さな喧嘩の積み重ねから別れが起こる。
そんなこと当たり前のことではないか。
そう考えれば、ジョゼを普通の女性として扱ったといえるのかも知れない。
障害者だからと言って恋愛も一回しか許されないわけではあるまい。
ジョゼも普通の女性としていろんな恋愛もしていいはずだし、またせねばならない。

ラストでジョゼは車椅子で町を走る。
そして(恒夫のおかげでバリアフリーの台所になったにも関わらず)再び
ダイブする。
恒夫を忘れて生きていこうとするたくましいジョゼが見受けられる。
頑張れよ、ジョゼ。

恒夫を演じるのは妻夫木聡。今年のキネマ旬報主演男優賞を受賞したが
それも納得の好演。
相手役のジョゼは池脇千鶴。この子は「大阪物語」の時もよかったが
今回も不思議な少女を魅力たっぷりに好演。恒夫でなくても惚れてしまいそうな
魅力がある。(しかもおっぱいも出しての熱演だ)
特に「帰れと言われてさっさと帰るような奴は帰れ!」と泣きながらすがる姿は
感動的。
初めて虎をみたジョゼのユーモラスなシーンもいい。

恋愛映画には基本的に関心のない私だが、これはよかった。


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零-ゼロ


日時 2004年2月15日18:30〜
場所 テアトル池袋
監督 井出良英

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昭和20年初夏、九州南部のある日本海軍航空隊、そこには特攻出撃をまつ
パイロットたちがいた。
その中で長谷川上飛曹(杉浦太陽)は数々の撃墜記録をもつ名パイロットだった。
やがて長谷川達の隊にも特攻命令が下る。

久しぶりの特攻隊ものの戦争映画。
日本軍の飛行服を着た杉浦太陽たちが大きく写ったポスターでタイトルが「ZERO」、
となればゼロ戦が中心の映画と思いきや、この映画にゼロ戦は出てこない。
白菊という練習機が登場するが、飛行シーンは10秒ぐらいのCGシーンが2、3回
あるだけで、映画全体を通しても1分もないんじゃないだろうか?
そんな感じだからゼロ戦映画にありそうな戦闘シーンのスペクタクルはない。

で杉浦太陽は芸者役の辺見えみりといい仲になっているが、ストイックな関係らしい。
ラスト、二人で駆け落ちしようと辺見えみりは杉浦を誘い駅で待つ。
しかし杉浦は来ない。
また杉浦と同じ隊の大西(矢部太郎)がこの時代の痩せこけた日本人らしい体型で
悲壮感が漂う。
大西のキャラクターと、杉浦を駅で待つ辺見えみりに雨が降ってきて全身が濡れて
しまうシーンはやや印象に残るが、それにしても映画全体のインパクトは弱い。

大体、物語のアウトラインからして安易だ。
現代のある地方都市で自由学校という高校中退者の大学受験検定のための塾
みたいなのをやっている老教師(犬塚弘)が喧嘩ばかりしている杉浦太陽(2役)
に「俺がお前たちの年の時には特攻隊だった」と語るところからはじまる。
で、ラストは現代に戻って「未来をもって生きてくれ!」と頭を下げるのだ。

そういう年寄りの説教話風に言われてもなあ。
高い所から物を言われてもなかなか心には残りにくい。
具体的には言えないが、戦後約60年となった現在、もっと違ったアプローチの
仕方があるんじゃないだろうか?
というような不満はものの、腹が立つというほどの映画ではなかった。

最後に太陽ファンには怒られることを覚悟で言うが、太陽の演技について。
しゃべり方で言葉が間のびしすぎ。
「ていうか〜」みたなやたら言葉の語尾が延びる感じがするのだ。
現代劇なら気にならないのだが、こういう戦記ものだとそういうしゃべり方は
違和感がある。日本海軍軍人の雰囲気がいない。
もっと語尾をつめて言葉を一語一語切ってしゃべった方がいい。
でも髪はちゃんと切ったから頑張ったことは認める。

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サブウェイ・パニック


日時 2004年2月14日
場所 DVD
監督 ジョセフ・サージェント
製作 1974年

「サブウェイ・パニック」については名画座に記載しました。

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半落ち


日時 2004年2月1日17:05〜
場所 新宿スカラ座1
監督 佐々部清

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群馬県警にある男が妻を殺したと自首してきた。男の名は梶聡一郎、
元捜査一課の敏腕刑事で妻がアルツハイマー病になったのをきっかけに
警察学校の後進の指導にあたっていた。
現職警察官の殺人事件にマスコミは大騒ぎ。その上、梶は犯行に関しては
すべて自供したが、妻を殺してから自首するまでの2日間に関しては
一切語らない。
この二日間には何があったのか?

面白かった。
この映画の面白さは多分原作の力に負う所が多いとは思うが
原作を台無しにしてしまう映画だってあるのだから、原作の面白さを
損なわなかったという事は大いに評価されるべきだろう。
(映画を見終わった後、紀伊国屋に行って思わず原作を買ってしまったほどだ)

多くの人が言っている事だが役者がいい。
まず主演の梶聡一郎役の寺尾聰がいい。
映画の冒頭で自首してしまい、ほとんど動きのない演技が中心だが、
言いかけようとして唇を震わせるような微妙な演技はさすがである。
そして出演シーンこそ少ないものの被害者の姉、樹木希林も印象に残る。

事件は梶の事件としてだけでなく、この事件をきっかけに這い上がろうと
している男たちもいる。
佐瀬検事(伊原剛士)や植村弁護士(國村隼)だ。
梶の事件はその事件だけでなく、彼らの人生にも影響を与えていく。
報道陣の前で言葉をなくす國村隼はなかなかのもの。

またほとんどワンシーンしか出演のない検察事務官の田山涼成。
彼のキャラクターなどは梶の事件とは本来関係のないものだが、彼のような
キャラクターが存在していく事で映画に厚みが増していく。
そしてラスト、「梶さん」のセリフ一言だけだが、強く印象に残る笹野高史。
最後に笹野高史が出てきたときに「もう映画も終わりなのに笹野さんが出てきた
という事は何かやってくれるんじゃないか」と思ったら、ちゃんと見せ場が
ありました。

みんなが梶に同情的になり許していく。
しかし彼は殺人犯である。
若き判事の藤林(吉岡秀隆)は自身も父がアルツハイマー病に冒されている。
弁護士も検事も執行猶予がつくと考えた。
しかし彼は検察の求刑通りの厳しい判決を下す。
この判事の存在が作品のバランスを取っている。

このように原作の持ち味を生かしきった監督の素直な演出は大したもの。
やたらと奇抜な映像に走りがちな最近の監督とは違った映画の文法どおりの
作品だ。
奇抜な作品も悪くはないが、やはりこういったスタンダードな映画が私は
やっぱり好きだ。
映像のピントもしっかり合っていて(こんな当たり前のことが今の日本映画では
難しくなっているのだ)◎。

「日本にもまだこんな映画が作れる力があったのか」という感想をどこかで
読んだが誠にそのとおり。
ミステリーとしての意外性などの面白さはないけど、人間ドラマとして
一級の作品だ。


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