2012年8月

プロメテウス(2D)
月光の食卓 仮面の誘惑 海猿 BRAVE HEART 桐島、部活やめるってよ
死刑弁護人 汚れた心 少年は残酷な弓を射る かぞくのくに

プロメテウス(2D)


日時 2012年8月31日21:45〜
場所 新宿ピカデリー・スクリーン6
監督 リドリー・スコット

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


2089年頃、世界各所で発見された古代遺跡に、それぞれの遺跡の交流は考えられないにも関わらず、同じような絵が描かれていた。それは大きな人間が星座のようなものを指し示している絵だった。
エリザベス・ショウ博士(ノオミ・ラパス)とそのパートナー、デヴィッド(マイケル・ファスペンダー)たちは大企業ウエイランド・コーポレーションの資金提供により2年の旅をしてその星にたどり着く。
そこにはドーム状の巨大建造物があった。
中に入ってみると、外の大気と違い、人間が呼吸できる環境だった。
そこで巨人の死体を発見するショウ博士たち。
そして筒状のものが無数にある。これは一体何なのか?
嵐の訪れによって一旦船にかえるショウたち。
だが先に帰ろうとして中で迷ってしまった二人組は恐ろしい事態に遭遇する。

リドリー・スコットの「ブレードランナー」以来のSF作品。
予告とかポスターでは「古代遺跡に人類の起源を説く鍵があった!」的な書かれ方されていたので、今年観た「ピラミッド 5000年の謎」みたいな映画かと思ったらそうではなかった。古代遺跡についてはさらっと触れるだけ。
ちょっとがっかり。

で、その星についてみたら何やら不思議な物体。
これはもう怪生物の保管してある筒だ。
「エイリアン」の前日談なので、例のギーガーデザインの頭が後ろに長い奴が出てくると思ったら、白蛇のような奴が出てくる。
いや〜気持ち悪いねえ。
しかも「ドン!」という効果音とともに出てくるから、昔ながらのショック映画である。
正直、こういうのは実はちょっと苦手。体が大きくビクッと反応するたちだから、友人と観たらあとで笑いものにされる。

このプロジェクトのスポンサーのウエイランド社の社長というのが死んでいるかと思ったら実は生きていて、船に乗っていたという展開。
この爺が干からびた異様な顔立ちで、臓器移植などしまくって金をめちゃくちゃかけて130歳ぐらいまで生きてる感じ。(年は語られなかったけど、そのくらい。でもシャーリーズ・セロンが娘ってことは100歳過ぎても子供作ってたのかな)
こういう「自分だけは長生きしたい」という爺は「地球最期の日」を思い出した。
爺は人類の起源となる創造主たる宇宙人に会えば自分が永遠の命を得られると思っている。

結局宇宙人たちは人間を作ったはいいけど、滅ぼしたくなって、生物兵器を作成。だが逆に自分たちが襲われてしまったらしい。ではなぜ人類を造って滅ぼす気になったのか?
その辺はまったく謎のまま。

何か哲学的な答えを期待した私が甘かった。

出演ではエリザベス博士役のノオミ・ラパスにまるで魅力がない。華がない。スポンサーのお目付け役のシャリーズ・セロンの方がいいのでは?と思ったらパンフレットを読むとやっぱり最初はシャリーズ・セロンが予定されていたそうだ。それがスケジュールの都合で変わったとか。
これがシャリーズ・セロンが演じていたら、もっと印象は変わったと思う。
あと船長が最後に宇宙人の船に特攻したりしてかっこいいのだが、イマイチ活躍が弱い。
登場人物をもう少し減らして、ひとりひとりのキャラクターをもう少し引き立てればもっとよかったと思う。
「エイリアン2」に出てきたアンドロイドはいい奴だったけど、今回のアンドロイドは一癖ある奴でしたね。



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月光の食卓


(劇場公開タイトル「超いんらん 姉妹どんぶり」)
日時 2012年8月28日
場所 米国版DVD
監督 池島ゆたか
製作 平成(1993年)


朝倉和彦(佐々木共輔)は女性の性器を噛みちぎった猟奇的犯罪の犯人として逮捕され、取り調べを受けていた。
刑事の長谷川(佐野和宏)は問う。
「なんで性器に噛みきったんだ?」
それに対して朝倉は近所の倉庫のロフトに黒谷月子(吉行由美)、真夜子(水原かなえ)の姉妹が引っ越してきた話を始める。
「その姉妹が被害者の佐伯久美(東麗菜)とどう関係がある?」
「頼む、順序立てて話させてくれ」と朝倉は答えた。

アメリカでDVD化されているピンク映画。
池島ゆたかの代表作に数えられるくらいらしい。
実際、よい。
セックスシーンが「絡みが必要だから無理矢理入れた」感がなく、実に話にとけ込んでいる。

朝倉に一体なにがあったのか?
黒谷姉妹の引っ越しを手伝ったことをきっかけに、朝倉は真夜子に惹かれていく。
月子はワインの輸入関係の仕事をしているらしく、彼女たちの部屋には見たことのないワインがいっぱいだった。
デートに誘ったが、真夜子は太陽に当たると皮膚がやられてしまう特殊な病気だとか。
しかし朝倉は真夜子と肉体関係を結ぶことが出来た。
夜、朝倉の行きつけのバーに真夜子を連れていったが、カクテルを飲んで調子を悪くする。
送っていった翌日、月子が朝倉の元を訪ねてくる。
月子は強引に朝倉を誘い、彼女は朝倉の唇を噛む。

要するにヴァンパイアものである。
月子たちはヴァンパイアの血筋なのだ。そして噛まれた朝倉もヴァンパイアになっていく。
そして性欲が異常に強くなり、男でも構わなくなる。
街で話しかけられたおじさんとホテルへ行ってそのおじさんのケツを朝倉は犯しまくる。

でもゲイ映画じゃないんだから、別に男を犯さなくてもいいんじゃないだろうか?
その辺の展開について今度池島監督に会う機会があったら聞いてみよう。

で、ラストに長谷川刑事が絡んだあるオチが付くのだが、これは予想通り。
だから正直、意外感はなかった。

しかしだからといってこの映画がつまらないわけではない。
朝倉の身になにがあったのか?
なぜに久美の性器に噛みつくに至ったのか?
黒谷姉妹とどう関わっているのか?
それらの謎が興味を引っ張り、最後まで飽きさせない。
池島監督の映画は数本見ているが、こういったホラーものあり、コメディありと実に多彩。
娯楽映画の職人監督だなあと思う。

もちろんすべてが面白いとは言わないけど、面白い映画もかなり多い。
まだまだ観てみたい監督である。



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仮面の誘惑


日時 2012年8月27日
場所 TSUTAYAレンタルDVD
監督 佐藤寿保
製作 昭和57年(1982年)

(詳しくはallcinema on lineで)

刑事の結城(佐野和宏)は放火犯の少年、木田たかし(碓田清司)の取り調べを頼まれる。たかしが黙秘を続けるためベテランの結城の出番となったのだ。
たかしは逮捕される直前、同居の姉に対してピストルを発砲していた。そのことを結城が問うと、「ロシアンルーレットをしてくれたらすべて話すよ」とたかしは言う。
結城は仕方なく応じ、二人はロシアンルーレットをし、たかしは供述を始める。
たかしは親がなく、会社社長の川崎まさあき(池島ゆたか)と結婚していた姉の計らいで、姉夫婦と同居と始めたのだが。

ゲイポルノ、ホモピンク映画だ。
だけど心理サスペンスとしての要素が強く、あんまりホモ映画って感じはしない。
そこがこの映画の魅力でもあるのだが。

たかしは姉のパンティに興味を持ちはじめ(それはどうやら女性がレイプされるのを目撃してから心にゆがみが生じ始めたらしいのだが、よくわからない)、やがて姉の使用済み生理用品にも興味を持つ。
姉のパンティを穿いているところ、義理の兄のまさあきに見つかり、もともと男も好きだったまさあきに犯されるようになる。
拳銃はまさあきが海外旅行に行ったときに密かに持ち帰ったものだった。まさあきのプレイはエスカレートし、やがてはSMプレイへ。
たかしの心はますます歪み始める。そして自分の家と同じような白い家に放火をするようになる。

という展開。
お話自体はそれほどでもないのだが、語り方がうまいのか、全体的に妙な緊張感が漂う。
それがこの映画の魅力なのである。
一体たかしに何があったのか?

たかしを演じる碓田清司がいい。
いわゆるきれいな美少年ではないが、なにか陰を持った弱々しい少年ぶりが、実に本作にはあっている。
そして相手役の刑事の佐野和宏。
ネクタイをだらっとゆるめたアウトロー的な刑事だが、こういう役が佐野和宏は実にいい。
7月に観た「サイコドクター」でも同様な刑事役だが、ホント似合うなあ。

たかしが逮捕される直前、姉を拳銃で撃ったという話がでてくるが、後半で逮捕の状況が明かされる。
放火を見つかって追われたたかしは家に帰り、自分の部屋に逃げる。そこで入ってきた姉を撃つのだが、まさあきは拳銃に弾を入れてなかったはず。
では誰が弾をいれたのか?
実はたかしの姉がまさあきを殺そうとして弾を入れておいたというのだ。そうすればたかしが自分の夫を撃ってくれかも知れない。

自分の過去の恋人(男だよ)の面影をたかしに見いだしていた結城は事件が終わって彼に「一緒に暮らそう」と言う。
しかしたかしは拳銃で自殺してしまう。

よく考えると話が説明不足というかつじつまがあわない気もするのだが、そんなことを感じさせない緊張感が全編漂う。
そしてこの緊張感は心地よい。
面白かった。

ちなみに「碓田清司」をネットで検索すると「2006年に14歳の中学生をAVに出演させたAVメーカー社長」がヒットする。
この映画に出演してた碓田氏と同一人物かは解らない。
しかしこの映画のほかにはAV男優として活躍していた時期もあったらしいし、年齢も近いから同一人物の可能性は高い。
確証はないけれど。



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海猿 BRAVE HEARTS


日時 2012年8月25日21:20〜
場所 新宿ピカデリー・スクリーン9
監督 羽住英一郎

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)

今は海上保安庁の特殊救難隊の一員となった仙崎大輔(伊藤英明)。羽田空港待機の日常で、横浜で妻(加藤あい)と一人息子と幸せに暮らし日々だった。
昔からの同僚、吉岡(佐藤隆太)もキャビンアテンダントの美香(仲里衣紗)という恋人も出来、充実した日々を送っている。
ついに吉岡は美香にプロポーズ、しかし彼女は受けてくれなかった。
数日後、美香の勤務するシドニー発羽田行き206便ジャンボジェット機がエンジントラブルを起こし、飛行困難となった。なんとか羽田付近まで飛行したが、車輪が降りずに通常の着陸は断念。
胴体着陸が検討される中、仙崎の提案により海上の誘導灯を設置、海上着水を決行することに。
海面に不時着してから飛行機が沈むまでの時間はおよそ20分と推定される。
果たして全員救出はなるか?

2年ぐらい前に3作目を作って終わりの予定だった「海猿」。そんなヒットシリーズを見逃すはずはなく、4作目の製作。
正直、今までの中では一番面白かった。
和製パニック映画としてはよく出来ている。
よく出来ているということを前提に楽しめなかった点を書いておきたい。

「海猿」って海洋アクションレスキューものであると同時にラブストーリーなのが気に入らない。
さすがに結婚している仙崎ではもう「お前を守る」とは言わせられなくなったのか、そのポジションは今回は吉岡に。
たぶん次回は三浦翔平がやるのだろう。
救助活動に私情を絡ませるような展開は止めて欲しい。
「新幹線大爆破」の倉持さんの家族は別に新幹線に乗ってなかったぞ!

それからいちいちせりふで説明しすぎ。そしていちいち間の取りすぎ。
機長が今度子供が産まれてどうのと、ここでも個人的感情が爆発である。家族を無視しても仕事に専念して欲しい。
これが女性受けというのかなあ?
それとラストの時任三郎と国土交通省の矢島健一が「ありがとう」「いえ、ここにいるみんなのおかげです」っていちいちせりふで言いすぎ。うるさいなあ。
ここは彼らの顔と各地の隊員たちのカットでわかるだろ。

いちいちここでは書かないけど、一事が万事、そんなこんなでクドイのである。

それと出てくる人たちがみんないい人すぎて返ってシラケる。
何かと反対する人とか、「ジャンボの犠牲はやむを得ない」とか言って見捨てる人とか、救助活動の障害になる人とか、もっといろいろいてもいいと思うのだがなあ。

あと全員助からないでも一人くらい死んだ方が、ドラマは盛り上がると思うよ。

しかし航空機のセットとか、海上の船や飛行機などの画は実に迫力があってよかった。
だからこういう画を作るスタッフの力はものすごく日本映画はレベルアップしてると思う。
上に立つ監督、いや製作委員会が、映画をつまらなくしてると思う。
非常に惜しい作品だった。



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桐島、部活やめるってよ


日時 2012年8月17日19:50〜
場所 新宿バルト9・スクリーン4
監督 吉田大八

「桐島、部活やめるってよ」名画座に記しました。



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死刑弁護人


日時 2012年8月16日19:00〜
場所 ポレポレ東中野
監督 齋藤潤一

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)

安田好弘弁護士64歳。
彼は多くの死刑事件の弁護を引き受ける。
凶悪犯としてマスコミに報じられ犯人に対する憎しみを口にする世論の強さに、他の弁護士が引き受けないような事件も多い。
「和歌山毒入りカレー事件」「新宿西口バス放火事件」「名古屋女子大生誘拐事件」「光市母子殺害事件」「オウム真理教事件」そして「安田事件」
数々の事件を通し、安田の活動が紹介される。

安田弁護士は会ったことがある。阿佐ヶ谷ロフトAだったと思うが、死刑に関するイベントだった。(2009年1月26日の帝銀事件イベントだったと思う)

この映画は東海テレビ制作。
さすがにテレビ局制作のドキュメンタリー映画だけあって、機材はしっかりしている。家庭用のホームビデオで撮ったドキュメンタリー映画とは画質が違う。
そういう点ではまず安心して観れた。

上記の複数の事件が紹介される。
その中でも特に時間を割いているのは林真須美死刑囚の和歌山カレー事件だ。
この事件はこのまま放置しておくと林死刑囚は死刑になってしまう。
実はこの事件は冤罪の可能性が高い。

砒素を入れるチャンスのある人間は他にもいた
さらに林死刑囚には動機が全くない。
この事件を追うだけでも1本の映画は作れる。
是非実現してもらいたいと思う。

しかしこの映画自体はカレー事件ではなく、主役は安田弁護士だから、そこにばかり重きはおかない。
名古屋の誘拐事件は映画を観るまで忘れていたが、映画を観ていて思い出した。
死刑を引き延ばそうと恩赦の申請手続きをしている間に執行された。
安田は「私が恩赦ではなく、再審の請求をしていればまだ彼は生きていたかも知れない。私の責任だ」と自分を責める。
新宿バス事件の犯人は安田の力もあって無期懲役になった。
ほっとした安田だったが、数年後、受刑者は自殺する。
「判決が出てから彼のことはほったらかしにしてしまった。もっと寄り添っていれば彼は自殺しなかったかも知れない。自分の責任だ」と自分を責める。
どこまでも被告人に寄りそう。

安田は「どんな人間にも更正の可能性はある」「自分の家族が殺されても死刑は反対だ」と主張する。

世の中、最近は自分の不幸(特に不況からくる不満)のはけ口としてやたら正義を口にする。
殺人などを犯した人間を非難することによってあたかも自分が正義のヒーローになった気分になって憂さ晴らし。
被害者感情を考えようと言って犯人の厳罰化を望む。
そういう人に「あんたにゃ関係ない事件でしょ?」と言ってみたい衝動に私はかられる。

オウム真理教事件。
この弁護中に不思議なことがあった。
教団幹部の一人が「麻原にサリンをまくことを出来るか?と聞かれた」というもの。
これは麻原の弁護人としてなんとしても反対尋問を行って反論しなければならない証言。
しかし麻原は反対尋問をしないように主張し、結局反対尋問は行われなかったという。
その後、麻原は奇行を繰り返すようになった。
これは一体どういうことなのか?
この事実はなにを意味するのか?
なにか表に出ていない事件の真実があるのだろうか?

そして最後に紹介される安田事件。
なんと安田自身が逮捕されてしまう。
顧問をしている会社に資産隠しのアドバイスをしたということだ。
明らかに微罪で家宅捜索したり、安田の身柄を拘束することが権力側の目的であったと勘ぐりたくなる。
もちろんそんな証拠はないけれど。

映画を観終わって正直な感想は安田弁護士はかっこいい!ということである。
単なるルックスのかっこよさのことではない。
生きざまそのものに魅力がある。
今後も活躍して欲しいし、私には長く記憶に残る人となろう。



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汚れた心


日時 2012年8月5日18:45〜
場所 ユーロスペース1
監督 ヴィンセンテ・アモリン

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


1945年8月ブラジルの日本人移民社会。
高橋(伊原剛士)はこの日本人社会で写真館を営み、妻ミユキ(常盤貴子)は子供たちに日本語を教えていた。
高橋夫妻は日本人農民たちの組合長・佐々木(菅田俊)やその妻ナオミ(余貴美子)、娘のアケミ(セリーヌ・フクモト)たちと家族ぐるみのつきあいをしていた。
佐々木と青木はブラジルでの放送で日本の敗戦を知る。しかししばらくこれは黙っておこうと決めた。
なぜならこの日本人社会で日本の敗戦を口にすることは許されない、いや日本が負けたと考えること自体、「汚れた(けがれた)心」を持つと非難されてしまうからだ。
当時、ブラジル政府からは日本人は弾圧されており、集会を開くことは許されていなかった。
ある日、元日本陸軍大佐・渡辺登(奥田瑛ニ)により日本人集会を開いていたところをブラジル人の伍長に弾圧される。その夜、渡辺は高橋たちを率いてブラジル人伍長に対抗しようとしたが、逆に逮捕されてしまう。
そのときにブラジル警察について通訳をしたのが青木だった。高橋は青木を「敵に協力する非国民」と非難する。

日本映画と思っていたのだが、ブラジル資本のブラジル人の監督によるブラジル映画である。
外国映画にありがちな「変な日本人」は全く出てこない。
見事である。
これが日本にはなじみのない日系の俳優が演じていたら印象も変わったかも知れないが、主要なキャストは日本でもおなじみの俳優ばかりだ。

多くの日本人がそうであるように、ブラジル移民社会で日本が戦争に勝ったと信じ続ける人々と負けたと言う人々の対立があったとは知らなかった。
ラジオ放送しかない当時だ。
日本不滅を信じる人々がいても不思議はない。
外国の日本人社会の方が日本以上に日本の習慣、行事を大事にすると聞いたことがある。
だからこそ当時のブラジルで日本以上に「大和魂」を声高に叫ぶ人がいても私は納得する。

やがて渡辺に指名され、高橋は青木を殺す。
それを妻に見られてしまう。
佐々木はみんなに真実を伝えなければ、と集会を開き「日本の敗戦」を伝える。
しかし今度は佐々木が再び高橋によって殺される。
真っ白な綿花の倉庫で殺される高橋。
綿花の山に倒れた高橋の血が、日の丸のように染まっていくカットが印象的だ。
やがて高橋も日本の敗戦を知り、自分の行動に疑いを持つ。すると渡辺に刺客を向けられる。

日本の敗戦を信じないなんておかしな人々にも見える。
しかし2012年の今見ると現在にもこういう人々はいるではないか。
未だに原発は安全だと言って動かそうとする人々だ。
日本が敗戦しても「日本が負けるはずがない。謀略だ」と主張する人々。原発が事故を起こしても「原発は安全だ。なくては日本社会が崩壊する」と主張する人々。

そういうメンタリティは全く変わっていない。
もちろん映画を作った人々はそんなことは考えていなかったはずだが、自分の主張の正しさを盲信して、現実を受け入れられない人々はいつの時代にもいるのだ。
あなたの周りにはそういう人はいませんか?
少なくとも私の周りにはいる。
だからこの物語は地球の反対側で起こった過去の物語ではなく、現代や未来の日本でも起こりうるのではないか?
そう問われているような気もした。



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少年は残酷な弓を射る


日時 2012年8月5日15:20〜
場所 日比谷シネシャンテ3
監督 リン・ラムジー

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


エヴァ(ティルダ・スウイントン)は世界を旅してその旅行記を書いている作家だったが、フランクリン(ジョン・C・ライリー)と結婚し、男の子、ケヴィン(少年期:エズラ・ミラー)が産まれる。
ケヴィンは赤ん坊の頃から母親に対して反抗的だった。
彼女の言うとおりには決して反応しない。
ボールを投げて投げ返すように言っても無言のまま。
耳が聞こえないのではと心配になったエヴァは医者に相談するが、大丈夫だという。
4歳ぐらいになって数を覚えても母親の聞く通りには答えない。でもケヴィンは父親フランクリンの前では実に素直でいい子なのだ。
しかしある日、ロビン・フッドの物語を読んだところ夢中になり、父親も弓のおもちゃを買い与えて夢中になる。
やがてエヴァは二人目を妊娠。ケヴィンに妹が産まれる。
そしてケヴィンの敵意は妹にも向かうように。
彼の邪悪な態度はエヴァの妄想なのか?それとも?

「少年は残酷な弓を射る」というタイトルと美少年が上半身裸で弓を射る顔のアップのポスターに惹かれて観に行った。売り方がなんとなく「耽美的」じゃないですか。
映画の内容は別に耽美的ではない。
心理サスペンスだ。ちょっとだまされた。

この映画、わざと時制をバラバラにしているので、予備知識なしで観ると解りづらい。
少なくとも18年ぐらいに渡る話なのだが、エヴァの年齢の変化をまったく感じないのだな。
だからさらに今いつ頃なのかが解りづらい。

実を言うとラストはケヴィンがついに妹や自分を弓で殺そうとしたのでエヴァがケヴィンを殺す(または殺そうとした)というクライマックスを迎えると思っていたので、ぜんぜん話が違う方(でもないか)に行ったので意外だった。
ケヴィンのエヴァに対する敵意がエヴァの妄想なのか、真実なのか判然としないところにサスペンスや謎があると思っていたので。

ラストでケヴィンが学校で生徒を体育館に閉じこめ弓を連射するという凶行を演じるなら、少なくともエヴァが感じたケヴィンの異常性は真実だった訳で、私の期待したサスペンスはまったく期待はずれになるわけですから。
これは作者の責任というより、こっちの勝手な期待が悪い訳ですけど。

それにしてもケヴィンの幼児期、5歳ぐらい、高校生の時期を3人で演じるわけだが、同じ顔をしていて違和感が全くない。
この3人の子役をそろえたのはすごいと思った。



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かぞくのくに


日時 2012年8月4日19:00〜
場所 テアトル新宿
監督 ヤン・ヨンヒ

(詳しくはムービーウォーカー・データベースで)


1997年。在日朝鮮人のリエ(安藤サクラ)は25年前に北朝鮮に帰った兄ソンホ(井浦新)を日本で迎える。
25年前、リエの父は日本生まれのソンホを「北」の「帰国」させたのだった。
5年前に脳に腫瘍が見つかったソンホはピョンヤンでは治療が難しい病気のため、日本での治療が特別に認められ3ヶ月の滞在が許されたのだった。
病院で医師(吉岡睦雄)の診察を受けるソンホ。
3日後の検査の結果が分かるまで、昔の同級生などとの再会を楽しむ。
しかしソンホには「北」から監視人ヤン同志がついてきたいた。ソンホと二人きりの場所でヤンは言う。
「あの事も忘れるなよ」


「ディアピョンヤン」で朝鮮籍を持つ父を描いたドキュメンタリー映画を撮ったヤン・ヨンヒ監督の劇映画デビュー作。
リエのモデルはもちろんヤン・ヨンヒ監督。
実際にヤン・ヨンヒ監督の兄は北朝鮮に帰国しており、事実を元に映画は作られているそうだ。
(もちろんフィクション、演出もある)

北朝鮮と日本の関係(というか北朝鮮という国の体制)を家族のレベルで描いた秀作だ。
映画自体は大事件があるわけでもなく、アクションもあるわけでもなく、淡々と日常を描いていく。
しかし圧倒的な迫力をもって見るものに迫る。

ソンホのもう一つの仕事というのはリエに工作員になれと言うこと。
リエは即座に断る。そして表で監視しているヤンの言う。
「あなたもあなたの国も大っ嫌い!」
しかしヤンは答える。
「あなたの嫌いなその国で私もソンホも生きていくんです、これからもずっと」

リエとソンホの会話を聞いた父(このシーンは映画的にはやや安易だが)は兄をしかる。
しかしソンホは「なにがわかるって言うんだ!」と激怒する。
また同級生たちとの同窓会で「25年間どうだった?」と質問攻めにされ、苦笑するしかないソンホ。
その語らなさが返って彼の北朝鮮における立場の難しさが伝わってくる。

やがて「北」からくる指令。
ソンホと同時に日本にやってきた者も含めて全員即刻「北」に帰国だという。
今回の帰朝命令にも素直に従うソンホ。
「あの国じゃよくあることなんだよ」

別れの朝、ソンホの監視人ヤンに「これからも世話になる人だろうから」とスーツを渡す母(宮崎美子)に絶大なる母の愛情を感じる。
そして最後の別れで車にソンホが乗り込んでも腕をつかむ
リエに彼女の無言の怒りを感じる。

ラストカット、大きなスーツケースを持ったリエに未来を感じる。

総じていい映画で好きななのだが、手持ちカメラで画面のぶれが多すぎ。
何らかの制限があったのか、それとも監督のドキュメンタリーでの慣れなのか、カメラマンの意向なのか、それはさっぱり解らないが、やたらと画面が揺れるのが耐えられない。
私は手持ちカメラよりフィックスのしっかりした画面が好きなのでこの点だけは許せなかった。



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