2002年8月

狼の紋章 豹は走った 野獣死すべし
復讐のメカニック
死ぬにはまだ早い
リターナー  国際秘密警察 
指令第8号
超高層のあけぼの
みな殺しの歌より 
拳銃よさらば!
海は見ていた タイム・マシン(1960) 日本のいちばん長い日
タイムマシン(2002) 黒い画集 ある遭難 にせ刑事 黒い画集
あるサラリーマンの証言


狼の紋章


日時 2002年8月31日27:20〜
場所 浅草東宝
監督 松本正志

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

犬神明(志垣太郎)は実は狼人間。彼は東京のある高校に転校してくる。
ところがこの学校、ヤクザの息子(松田優作)が仕切っており、
その子分(伊藤敏孝)らは転校生の犬神をいびりだす。
女教師が一人犬神をかばいつづけるが松田優作はその先生を
誘拐し、犬神明をついにおびき出す。
そして二人の対決が始まった。


平井和正の原作は結構有名で、僕は読まなかったけど高校時代には友人が
はまっている奴もいてタイトルだけは知っていた。
そして映画が不評な事も。

この映画、一言でいうと「昭和残侠伝・狼人間第1号」ってことだと
思う。敵の挑発に乗らず、じっと耐え忍ぶあたりは高倉健、鶴田浩二の
世界だよ。
それで志垣太郎の犬神明が実は狼人間という事になればもうガス人間や
液体人間ののりですよ。

主役の志垣太郎はこのあと、映画ではあまり活躍せず、テレビのホームドラマとかに
移っていったけど、太い眉がりりしくて今みても男前。
V6の岡田さんをもっと骨太にした感じで、同時代に生きていたらファンに
なっていたかも知れない。
あと松田優作ね。これがメジャー第1作だったようで、この頃から
野良犬的ぎらぎら感はありますね。どっちみち好きじゃないから
あんまり評価しませんが。

またストーリーだけじゃなく、画的に言っても夜の闇にぽっかり浮かぶ
真っ赤な椿の花とか、ラストの松田優作の白い詰襟姿に飛ぶ真っ赤な血しぶき
の鮮やかなコントラストとかさ。
そして最初に志垣太郎が町のチンピラに指されて血を出して倒れるんだけど、
(狼人間はなぜか不死身なんだ)その血だまりのアップから高校の屋上に
翻る日の丸にオーバーラップしていくんだよね。
血しぶきとか日の丸の赤がやたら強調されていてなんだかよくわからないけど
すげー右翼的(皇居の近くでロケもしてるし)。

そういうやたら赤が強調されてるあたりがものすごく東映任侠映画っぽい。
ストーリーだけでなく画的なものも含めて東映任侠映画と東宝SFをミックスさせた
よくわからない作品と認定しました。




今回、東宝ニューアクションというか黒沢年男などに主演がシフトしてからの
70年代アクション映画ばかり4本観たわけだけど、みんなレイプシーン
(もしくはそれっぽいの)があって女性も上半身ぐらい裸になっている。
浜美枝や水野久美がヒロインの頃には考えられなかったよ。
70年代に入り、大映倒産、日活はロマンポルノ路線化と邦画も時代が大きく
変わってきており、こういうエロティックな演出も必要、というか「やっていい」
という作品の質も違ってきたのだろう。

70年代後半に角川映画が登場し、邦画が大作1本立て路線になる数年間、
各社は明るさより暗さ、明るいお色気からエロへ、コミカルからサディステック
なアクションへと混迷の様相を呈していたのだった。

(このページのトップへ)



豹は走った


日時 2002年8月31日25:55〜27:20
場所 浅草東宝
監督 西村潔

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

「豹は走った」と書いて「豹(ジャガー)は走った」と読むらしい。

南ネシアという架空の国ではクーデターが起こり
大統領がアメリカ亡命のため、日本に立ち寄ることになった。
滞在期間は3日間。日本警察は射撃の名手・加山雄三に
退職を命じる。なにがなんでも大統領を守らねば
ならないため、通常の警備では怪しい奴に先制攻撃が出来ない。
だから警官でなくなってもらい、一般人となって警備し、
怪しい奴を先制攻撃してもらいたいという任務だ。
クーデター側とも商売がしたい大日本物産はスナイパー(田宮二郎)
を雇う。
加山対田宮、どっちが勝つか?!


こんな感じのお話でスケールも大きく面白くなりそうな話なんだが
ストーリーにひねりがないので面白くない。
例えば映画「スターリングラード」(01)みたいに二人のスナイパーが
トラップを仕掛けてそれを破って・・みたいな駆け引きがあればいいのだが
そういった駆け引きはほとんどなし。
ラスト直前の横田基地付近での対決なんか双眼鏡で見つければいいって言うんじゃ
工夫のかけらもない。
また途中で加山は田宮と一夜を共にした女性を誤って殺してしまうという
失態を演じて、先制攻撃さえできればよいってもんじゃないって
気になってしまう。

加山=田宮の対決という以前では考えられなかった顔合わせだけに
それは魅力があるだけにこのシナリオの弱さは惜しい。

それにしても田宮は最後には加山に殺されるベトナムで戦死した米兵の
恋人女性とバーで知り合ってできちゃったりするんだが、この金髪女性との
会話が田宮のセリフのほとんどで、ずっと英語なんだな。
これって国際スターを目指していた彼なりの戦略、というか
希望だったんだろうか??

キャラクターとしては中村伸郎が大日本物産の社長なんだが、この大日本物産、
以前は大統領の旧政府と取引があったんだが、新政権は政権が変わったために
入金してくれない。
だから今度は新政権と取引したいからその手土産代わりに大統領を
暗殺しようというすげー悪い奴。

また高橋長英が加山の部下で登場し、加山の腕時計の信号を鳴らせば
「1分で駆けつけます」というやや愉快なキャラで登場。
このコメディリリーフとしてもっと活躍させればよかったかも知れないが
イマイチ活躍がなくて残念。

あと小川安三の警視庁の拳銃保管係。「消音機つきならこのワルサーがお勧めです」
と言ったりしていたが、もっと今で言う「拳銃オタク」のキャラが発展されていれば
もっと面白かった。

結論としては細部に面白いところはあるのだが、肝心のスパナイパー対決が
面白くないので映画そのもの魅力がないのが残念。
企画としては面白かったのですけどね。

(このページのトップへ)




野獣死すべし 復讐のメカニック


日時 2002年8月31日24:25〜25:50
場所 浅草東宝
監督 須川栄三

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

次々と企業の重役が殺害される。
犯人は藤岡弘。果たして彼の目的は何か。

藤岡弘が時々裸になり見事にマッチョな体を見せてくれるのだが、
最近ではいない肉体派俳優ぶり。
今なら和製スタローンとか和製シュワルツネガーなどど形容された
ような魅力的な男だ。
ところが前半は殺しの目的が明らかにされないため、
単なる狂気の殺人者か目的があるのか判然としないのが惜しい。

同じ須川栄三でも水原弘の「拳銃よさらば!」だと目的がはっきりしているので
主人公に共感できるのだが、単なる快楽殺人者のようにも見えるので
その辺がちょっと感情移入しにくい。

実は藤岡弘は小松方正の大企業の社長にかつて父親の会社を乗っ取られ
父親は自殺し、その復讐で動いてるのだ。
小松の息子、村井国夫夫妻にも復讐するため、彼の妻とある画商で知り
あうんだけど、復讐の手段として強姦まがいにハメ撮りまでしてしまう。
(そのきっかけになる絵が随分グロテスクな気持ち悪い絵なんだ)
この頃の東宝ニューアクションのカラーなのか「エロと暴力路線」に
走っているのが、かつての明るい笑いの東宝アクション映画とは
えらい違いだ。

また藤岡弘は普段は大学で英文学の講師をしてるんだが、
学生に「人を心の中で殺すの誰でもできる。実際やって見てからでかい口叩け!」
みたいなことを言って、その学生が友人を「ブタみたいで気に入らない」
という理由で実際に殺そうとしたり、その学生に自分の復讐(殺人)を手伝わせたり
アナーキーを超えて半人道的な世界にまでイってしまっている。
70年安保というか学生運動の時代で「既成概念はぶち壊せ!」の
飛び火だったのかなあ。
同時代者ではないのではっきり断定はしないけど。

結局血しぶきとかそういう見た目の派手さばかりが目だつ、
「エログロ路線」に走った東宝ニューアクションの代表見たいな感じが
しました、ハイ。


(このページのトップへ)



死ぬにはまだ早い


日時 2002年8月31日23:00〜
場所 浅草東宝
監督 西村潔

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

これ、今日のオールナイト特番では一番の拾い物でした。
最初の20分ぐらいは(80分の映画なのに)挫折したレーサー
(高橋幸治)と不倫中の女(緑魔子)がどうしたこうしたという
話が続いて「トップクレジットになっている黒沢年男はいつ出てくるんだろう」
と思っていたら、高橋と緑がドライブイン「エンプティ」(空っぽって
意味だぜ、おい)に到着してから本題が始まる。

黒沢年男が店内に入ってきて高橋に「てめえ一人か?」と訊く。
そこへ警官がやってきて「この中に逃亡中の殺人容疑者がいます」と言って
事情徴収を始めようとすると、黒沢年男が突然警官を撃ち殺す。
彼が言うには自分はいま浮気した女房を殺してきて、この店で待ち合わせしてる
筈の相手の男を殺しにやってきたというのだ。

客は高橋、緑の他はイマドキの女の子2人組、江原達怡の新婚夫婦、
町医者の老人(若宮大佑) 、タクシーの運転手(石田茂樹)、一人でマッチの塔を
作ってる男(草野大吾)だ。
草野大吾がその浮気相手かと思われたが、どうやらその目当ての男は
まだ店に来てなかったらしい。

そのうちタクシーの運転手が腸捻転で苦しみ出したり、黒沢年男が狂気に走り、
「今夜はパーティだ!おまえらも飲め!」と飲めない酒を女性に無理矢理に
飲ませたりとサディスティックになりだす。
また緑魔子をトイレに連れ込んで強姦しようとしたり、老人の医者に江原達怡の
女房を「犯せ!」と言ったりする(老人が少し嬉しそうな顔をするのだ)

そして最後に緑魔子に「みんなの前で服を脱げ」と言ったあたりで「もうその辺で
やめとけ」と突然草野大吾が拳銃で黒沢年男を撃ち殺す。
「えっ、何で草野は拳銃を持ってるの?」と観客が疑問を持ったところで警官隊突入、
実は・・・・・・・
そしてラストに一人の男(中山仁)がやって来て・・・・というわけで作者のトラップ
(罠)が明かされる。

篭城物にありがちな警官隊との虚虚実実の駆け引きがないという批判はあるものの
80分の上映時間中、60分がドライブインのセットのみで話は進展するという
舞台劇のような濃密なお話。
名作というほどじゃないけど、結構拾い物なミステリーでした。

(このページのトップへ)




リターナー


日時 2002年8月31日21:00〜
場所 浅草東宝
監督 山崎貴

(公式HPへ)

古い日本映画を中心に観てるけど、新作にも興味がないわけじゃない。
今回は話題の新作「リターナー」だ。(本日封切り)
「どこかで観た事のあるようなシーンが多いが日本映画もここまで
きたかと思わせるような面白さ」と言うのが公開前にテレビなどで
聞いた評判だった。

確かにそのとおり。
リドリー・スコットの色調に、スローモーションの多いところや拳銃の構え方は
ジョン・ウーだし、樹木希林や高橋昌也が中国人なのは香港映画だし
金城武が長いコートのすそを翻しながらのアクションは「マトリックス」だし
それに「エイリアン」と「インディペンデンス・デイ」と「ET」と
「未知との遭遇」をミックスしてタイムマシン物にした映画。

金城武は最近の日本映画では観た事のないカッコよさ。
高橋昌也のチャイニーズ・マフィアも恐いが、それ以上に岸谷悟郎の昔の岸田森の
線を太くしてワイルドにしたような狂犬ぶりも記憶に残る。
この映画、金城武と岸谷悟郎をキャスティングできたことは幸福なこと
だったと思う。

テレビの評判では「ラストが泣かせる」とか言ってたけど、そうでもなかったよ。
僕はてっきり金城が鈴木杏の曾お祖父さんとかそういう風になるかと
予想しちゃったが違っていた。
あとジャンボが変形して宇宙船になるところ、あれ予告やテレビで紹介しちゃ
ダメだよ。あそこがいちばんの見せ場なんだから。

「所詮は摸倣でオリジナリティがない」「ハリウッドのマネばかりする必要も
なかろう」という批判もできるが、「すべての芸術は摸倣から始まる」という
観点に立ってこれを将来できるだろう名作のステップになると期待したい。
山崎監督は少なくとも「お金を払った人に楽しんでいってもらいたい」という
スタンスで映画を作っているようだから。

(このページのトップへ)





国際秘密警察 指令第8号

日時 2002年8月25日
場所 録画ビデオ
監督 杉江敏男

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

豊光物産はベトナムであるプラントの受注を受ける寸前だったが、
豊光物産に好意的な政府役人が反政府ゲリラに暗殺されてしまう。
そんな時国際秘密警察の一員北見次郎(三橋達也)はパリからある指令を
受けて日本にやってくる。
豊光物産のベトナム支店の秋元(夏木陽介)は日本に帰る途中羽田で
誘拐されてしまう。どうやら反政府ゲリラに関する情報をもっていたが
逆に反政府ゲリラ側に誘拐されてしまったようだ。
北見は反政府側に潜入し、また豊光物産は社員・江崎(佐藤允)に
秋元の行方を追うよう指示する。

こんな感じ。
三橋達也が主演だが、三橋は画面には登場するがその割には
あんまり活躍しない。むしろ活躍するのは佐藤允の商社社員。
単なるサラリーマンがこんな刑事か探偵まがいの行動をするか
という疑問はさておき、いくら潜入捜査とはいえ
国際秘密警察がおとなしくしてるのはいただけない。
ストーリー的な見所は水野久美が味方だと思ったら
敵になったり、また味方になったりするあたりかな。

出てくる秘密兵器も万年筆爆弾くらいで見所も少ない。
アクションとしても面白くないし産業スパイ物としても中途半端。
よく第1作がこれでシリーズ化されたなあ、という感じすらする。
まあ田宮二郎の「犬シリーズ」といいシリーズが進むにつれ
面白くなることも多いですが。

出演は殺し屋集団などに天本英世、大木司郎、伊藤久哉、浜村純、中村哲、
悪のボスにジェリー伊藤、ヒロインに水野久美といういつもの
東宝娯楽映画の面々。

後の国際秘密警察シリーズ(どれだったか忘れた)を見たこと
あるけど、三橋達也がお洒落に冗談言ってたりしてそれなりに
007の亜流として遊びの要素はあったけど、この作品ではまだ地味。
多分シリーズが進むにつれ昇華していったのだろう。
今後の作品に期待。

あとタイトルの「指令第8号」だけど、シリーズ1作目にして
「8」ってのは007を意識してのタイトルだろうと
友人から聞きました。納得。


(このページのトップへ)





超高層のあけぼの


日時 2002年8月24日
場所 録画ビデオ
監督 関川秀雄

(詳しい内容はキネ旬データベースで)

日本最初の超高層ビル、霞ヶ関ビルの建築に携わった男たちの
不屈の成功物語。
もちろん実話に基づく物語だ。
昭和44年の作品だけど、この頃は「黒部の太陽」とか
大型プロジェクト成功物語映画がよく作られましたね。

で、物語は中村伸郎の東大の建築学の教授が東大を退官する所から
始まる。彼は40年前の関東大震災を経験し、多くの被害者を見、
そして五重塔がびくともしなかった事から生涯を耐震性の高い
ビル建築の研究に捧げたのだ。
その研究の集大成とも言うべき超高層ビル・霞ヶ関ビル建設のために
鹿島建設に迎えられる。

教え子の木村功の耐震構造設計の研究者の力を借りながら準備をすすめていく。
コストを安く上げるためH型鋼を開発させたり、それが建設省の試験に
間に合わなくなりそうになったり、木村功が交通事故にあったりの
困難はあったがなんとか建設に着手する。
ここで第1部は終るんだけど、ここまではフィクション、ドラマ性があんまりなく、
まるっきり再現ドラマで大して面白くないが、霞ヶ関ビルのメカニズムの
秘密がうまく解説されていて物知りにはなれますね。

で第2部は実際の建設。
現場監督が池部良。この人はかつて「妖星ゴラス」で南極に地球を移動させる
ロケット基地を建設した方だから「今度もちゃんとやってくれるだろう」という
妙な安心感が出てくる。
でこの第2部になるとフィクションのドラマ部分が増してくる。
そのドラマの中心人物がなんと言っても田村正和!

今からすると考えられない役だけど、クレーンのオペレーター役で
ヘルメット姿で登場。ちょっとべらんめえな職人役なんだが、クレーンの荷物に
人が引っかかり怪我人が出たりして落ち込んだりするんです。
で、それをはげますのが山形より出稼ぎ・伴淳三郎。

またラストのクライマックスは雷が発生し、いちばん上にいるクレーンが
危険にさらされるというサスペンス。
クレーンには避雷針がついているので、外にさえ出なければ大丈夫だが
田村オペレーターは恐怖のため、パニックなり逃げ出そうとしてしまう
あたりが見せ場。

この他にも東京にはめずらしい大雪で工期が遅れたり、大風で建築機材が
飛ばされそうになったり、ビルのテナントが埋まらなかったりで発注元の
三井不動産が階数を減らそうかなどと弱腰になったりするが、どれも
何とか解決してゆく。

そして伊福部昭のオーケストラをバックに完成します。
でも鉄骨をくみ上げていくところなど、多分建築の実写フィルムが使われてたりして
高所恐怖症には見てるだけでも恐くなるようなシーン続出。

キャストも他に渡辺文雄、鈴木瑞穂、柳永二郎、松本幸四郎(先代)、
小林昭二、南廣、小林念侍、佐久間良子、新珠三千代などなど豪華な面々。
丹波哲郎先生も出てくるんだが、中村伸郎と立ち話するシーンが2回ほど
登場するだけで本筋には関係なく、ホントに顔見世だけだった。

企業の宣伝、ちょうちん持ち映画とバカにすることもできるけど、
娯楽映画としての楽しさも併せ持ってて上映時間が長い(2時間半以上)
の割には退屈せずに見れました、ハイ。

(このページのトップへ)





日時 2002年8月18日
場所 録画ビデオ
監督 森谷司郎

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


昭和19年1月。茨城県のある炭鉱で工夫頭が留置場で死亡し、脳溢血だと
診断される。
だが死因に不審な点があり、東京で活躍する弁護士、正木ひろし(小林桂樹)
にこの事件の調査が依頼される。
正木は東條内閣批判の雑誌を発刊しているような正義派の弁護士だ。
初めははそれほどやる気のない正木だったが、担当検事(神山繁)の
態度に逆に不審なものを感じ、本気でこの事件を担当する気になる。
しかし、死体は水戸の医者(大滝秀治)によってすでに解剖されていた。
再解剖を主張する正木だが、弁護士会などの力を借りようとすると
どうしても時間がかかる。その間に死体は腐ってしまう。
東大の解剖学の教授から脳溢血かどうかの診断は遺体全部の必要はなく、
頭部、つまり首だけで十分だと言う。
東大の職員、中原(大久保正信)をつれて遺体の埋葬現場に向かう正木たち。
発掘してるところはもちろん、東京に持ち帰る途中に誰かに見つかったら
すべてはおしまいだ。
果たして成功するか?


社会派弁護士正木ひろしの実話の映画化。
山本薩夫が扱いそうな題材だが、この作品はもっとサスペンス色豊かな
味付けとなっていて、サスペンス映画としても一級!!

後半は「いくら冬とは言え早くしないと死体が腐ってしまう」と
とにかく時間との勝負となってくる。
このあたりの狂気にでも取り付かれたような小林桂樹の演技は
後の同じ森谷司郎監督の「日本沈没」の田所博士に通じるものがある。
「日本沈没」の時の森谷司郎にはきっとこのときの小林桂樹が頭にあったに
違いない。
そして死体発掘を実行、その首を持ち帰るあたりの成功するかしないかの
後半の盛り上がりはなかなかのもの。
社会派作品としてよりもサスペンス、ミステリー映画として充分楽しめます。

ラスト、正木は「こんなひどい事件が起きるのは戦争のせいだ。戦争が
人々の良心を狂わせてるからこんな事件がおきるんだ」と結論ずける。
しかし戦後の正木の姿は当時と何も変わっていない。
そしてナレーションが一言、
「案外、時代はそれほど変わっていないのかも知れない」
なんともいえない不気味さを残す一言だ。


また水戸の誤診を下す医者、大滝秀治は最近は好々爺の役が多いが
この作品では冷徹な表情で解剖、及びその説明をしなんとも不気味。
熊井啓の「日本列島」でも事件の黒幕を演じていたが今度の方が恐い。
あとは検事の神山繁ね。この方の恐さもなかなか。

そして首切り職人の中原がいい。ずっと無言でタバコを吸っていて愚鈍な
感じで見せているんだが、最後に首が入ってるバケツが見つかりそうに
なるところのかわし方に妙な説得力がある。
脇ではこの人が今回のベストプレーヤーです。


このところ「白と黒」「黒い画集・あるサラリーマンの証言」
小林桂樹主演のミステリー、サスペンス映画を見たけど、
検事、容疑者、弁護士と3つの異なる立場の役をやって、どれも
ぴったりハマッてるあたりの演技力、芸域の広さにはほとほと関心
させられます。
スターという方とはちょっと違う方ですが見事な役者ですね、小林桂樹は。

(このページのトップへ)




みな殺しの歌より 拳銃よさらば!


日時 2002年8月18日15:05〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 須川栄三
脚本 寺山修司
昭和35年製作

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


7人の男たちが墓場をあける。そこには彼らが一年前に銀行強盗をしたときの
お金と凶器のワルサーが隠されているはずだった。
だがない!この7人の中の誰かが場所を移したのだ。
強行派の田辺(丹波哲郎)は袋川(平田昭彦)を疑う。
そんな時、袋川の弟、恭介(水原弘)が刑務所から出てきたが、その晩に
袋川は田辺に呼び出された直後、自動車事故で死んでしまう。
兄の遺品からワルサー拳銃を発見した恭介は、兄の友人の元ボクサー坪田
(仲代達矢)から一年前の銀行強盗の話を聞き出す。
兄の死は銀行強盗の金の奪い合いが原因だと思った恭介は、田辺を手始めに
恭介の銀行強盗の仲間たちへの復讐を始まる。


主演の水原弘は髪型とか、なんか雰囲気が当時の大スター石原裕次郎風。
(もっとも当時は裕次郎風の男が多かったろうから、特に意識していたのでは
なかったかも知れないが)
で手に入れたワルサーを使ってみんなを殺していくんだが、殺す方法も
大村(仲谷昇)は走ってる車の中で射殺して車から落したり、舟橋(田武謙三)
の時は逃げてる車の中のトランクに隠れていてトランクの中から拳銃を撃つ
という物で見所がある。
特にトランクから撃って殺すシーンは持っていき方もよく、面白いシーンだった。
またラストの「誰が金を持っていったか」についてはやや想像がつくラスト
だったが、それにしても7人の殺される方法が面白いので十分面白かった。

また本筋とはあんまり関係ないが、初めて拳銃を持った日、それを見つけた
チンピラ(ジェリー藤尾)がビビりまくって、水原弘が拳銃の「力」を確信するところや
その拳銃が遊んでいる子供の手に一瞬渡って、引き金を引いてしまうのではないかと
ドキドキするあたりは「拳銃を手にすることによって得られる力」を
効果的に表現しているいいシーンだった。

全体的に後の寺山ワールド的なわけのわからんところはなく、娯楽作品としては
合格点の作品だろう。
寺山らしいところはボクシングファンの彼らしく、仲代達矢が栄光が忘れられない
ボクサーであるところや、7人の仲間の一人、時計職人の高橋(宮口精二)の
娘(画面には登場しない)が小児まひ患者だったり仲代が足が悪いといった
登場人物の一部が体にハンディキャップを背負っている点ぐらいか。

サスペンス作品としては充分楽しめる1編でした。


(このページのトップへ)



海は見ていた


日時 2002年8月14日19:30〜
場所 新宿東急
監督 熊井啓
脚本 黒澤明

(公式HPへ)

お新、菊乃は江戸深川の女郎。
ある日、若侍(吉岡秀隆)がお新のなじみの客になる。
若侍の優しい言葉に希望を見出したお新や菊乃は
若侍もお新に惚れていると思い込んでしまう。
ところが若侍には許婚がいて「お新といると楽しいから」という理由だけで
通っていただけだった。
それからしばらくして今度は良介(永瀬正敏)という不幸な身の上の男に
惚れてしまう。
ある日大嵐がやってきた。女郎屋も洪水で流され、逃げ遅れたお新、菊乃だったが
良介が船で助けに来る。船にはお新しか乗れず残される菊乃だが
お新を助けてやれた満足感で喜ぶ菊乃だった。


うわあ参ったなあ。
これがこの映画を見た感想だ。

「女郎屋で働く女性はみんな不幸で貧乏で幸が薄くて男の力を
借りずには生きられない弱くはかない生き物。
ああかわいそうだ何とかしてあげなきゃ!!」
これが黒沢、熊井の女性観なのだろうか?

だとしたら随分男性上位の考え方だと思う。
「男が助けていなければ女性は生きていけない」という事は
裏を返せば「男性の助けがあってのみ、女性は生きられるのだ」
と言う事になり「女性が幸せに生きることができるのは男のおかげ」
ということになる。

この映画の女性、特にお新は常に男を求めているかのようだ。
「自分をここから救ってくれる白馬の王子」を待ちつづける
弱い女のように思われる。
周りの女もそれを口では「客に惚れちゃいけないよ」などと言いつつ
最初の男(吉岡秀隆)の時は客を取るのをやめさせてその分の稼ぎを
お新に渡し応援する始末だ。
善意もここまで来るとイヤミにすら感じる。

2番目の男(永瀬正敏)の時も菊乃(清水美砂)はお新と永瀬の旅立ちの時には
自分の貯金を全部渡してしまっている。
(しかも自分は助からないかも知れない方法を選んで喜んでるのはないだろう)

「客に惚れちゃいけない」などと口では言っておきながら惚れっぱなしじゃないか。
女ってそんなに男に頼らなきゃ生きていかれないのか???

僕としては、お新が吉岡秀隆の若侍をたぶらかし、貢がせて本気にさせて
最後に「あたしに惚れるなんてバカだねええ。まだねんねの赤ん坊だね」
と嘲笑するぐらいの逞しさが欲しかった。

「女は男が守らなきゃ生きていけない、弱い生き物」と黒沢=熊井が
考えているとしたら一見フェミニストのようだが、実は心の中では
女性を男性より下に見た男性中心主義に思える。

ましてや女郎がそんなに不幸だったのかねええ。
もちろん幸福ではなかったのかも知れないがそんな逆境の中でも希望を作って
生きていくような逞しい女性像を描いて欲しかった。

きっと黒沢も熊井も女郎屋遊び、風俗遊びなんかしたことないのだろう。
結局はそういうことなんだな。
あまりにも勘違いして美化しすぎてる気がする。

(このページのトップへ)


タイム・マシン(1960)


日時 2002年8月14日
場所 DVD
監督 ジョージ・パル
製作 1960年アメリカ

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


先日、リメイクされた「タイムマシン」も見たし、最近のDVDブームで
1500円と安かったので他のDVDと一緒に衝動買いしてしまいました。

イヤー、2002年のリメイク版よりこっちのほうが面白かったです。

ストーリーは前半はかなり違っていて、「恋人が殺されたからもう一度会いたくて
タイムマシンを作る」などと言う不純な動機ではなく、主人公は純粋に研究のために
タイムマシンを完成。
まずは模型を作って、友人たちの目の前でそれを作動させる。
予想通り消えたので「これは未来に行ったのだ」
と説明しても「手品だろ」と信じてくれない有り様。

それで仕方なく自らが旅に出ることになる。
窓の外の景色が徐々に変わっていくところは全く同じ。
花が咲いていく様子はコマ落しで撮影され、例のショーウインドウの服が変わっていく
所は全く同じだ。ビルが建っていくところはパペットアニメで撮影され、
小規模ながら登場する。

2002年の「タイムマシン」が「今までのタイムトラベル物は『気がついたら未来だった』
という演出がなされているがこの作品は違う」なんて事を宣伝では抜かしていたが
このジョージ・パル版でもすでにおこなわれているじゃん。
ウソを言ってはいかんよ。

2002年版「タイムマシン」の2030年の図書館や2037年の月崩壊シーンは
なく、この作品では1966年に核戦争で人類は滅びる事になっている。
何故80万年後に言ったかの説明が2002年版では「マシンの操作ミス」など言う
アホな理由だったが、こちらは「核戦争で火山の爆発があり、溶岩に埋もれてしまい
山がなくなるまで外に出れなかった」という説得力のある理由。

でも1966年の核戦争の描写で「火山が爆発して溶岩が街を溶かしていく」といった
ところが同時代の本多=円谷コンビの「世界大戦争」に似ており、どちらかがどちらかの
影響を受けている可能性は高い。

で到着した80万年後。
ボロボロの服を着て樹上生活をしていかにも「太古に戻った」と言う感じでなく、
レモンイエロー、ライトグリーンの服を着てのどかに色鮮やかな果物を
食べている様子はまさに「地上の楽園」といった感じ。
たぶんにカラー映画なので色を意識するあまりにそうなったのだとは思いますが、
それにしてもかつて人類が経験した事のないようなのどかな感じがいたします。
まるで「大霊界」に出てくる極楽のイメージですね。

そんな世界だから川におぼれかけてる人を誰も助けなかったり
モーロックに連れ去られてもなんとも思わない様は、余計にシチュエーションに
コントラストがあり不気味な感じは強いです。

モーロックは60年代SFによく登場しそうな着ぐるみのモンスターでこれは
2002年版の方が軍配は上がっているか。
でも2002年版に登場したジェレミー・アイアンズがやったようなモーロックの
親玉は登場せず、なにやらこ難しい哲学問答はない。
でもこの方がすっきりしててわかりやすい。

で、主人公はモーロックを倒したあと一度1899年に戻ってくるのだよ。
でも友人たちにはまた信じてもらえずに、隣人の親友だけが主人公の持ち帰った
花が19世紀には存在しない花であることから彼の話を信じる。
そして主人公はまた80万年後に戻っていく。
その時に本を3冊持っていく。
本が3冊なくなったことに家政婦のおばちゃんが気づくのだが、何の本かはわからない。
親友が言う。

「あなただったらどんな本を持っていきますか?」

そんな微妙な余韻を残して映画は終る。
全部書いちゃったけど今回のリメイク版よりジョージ・パル版の方がよく出来てると思う。
円谷=本多作品も一通り観たことだし、今度はジョージ・パルにはまってみようかな。

(このページのトップへ)




日本のいちばん長い日


日時 2002年8月10日
場所 レーザーディスク
監督 岡本喜八

「日本のいちばん長い日」については名画座に記載しました。

(このページのトップへ)

タイムマシン(2002)


日時 2002年8月8日19:10〜
場所 新宿ピカデリー2
監督 サイモン・ウエルズ

(公式HPへ)

1899年のNYの大学で教鞭をとる科学者アレクサンダーは
結婚を申し込んだ恋人を強盗に殺されてしまう。
それから4年、彼は恋人が殺されないように過去に戻るために
タイムマシンを製作する。
完成し過去に戻ったアレクサンダーだったが、やはり恋人は死んでしまう
運命にあった。
この歴史の流れを変える事ができるのか?という疑問の答えを得るために
彼は未来への旅をはじめる。


こんなお話。
結局2030年に一度行くがそこでは答えが見つからず、西暦80万年まで旅を
してしまう。
80万年の世界は「猿の惑星」(63年のチャールトンヘストンのほう)
になっている。人間たちは森の中で暮らしていて時々怪しげな怪物に
襲われて・・・みたいな感じ。

SF映画に出てくる未来像ってなんだか暗いものが多い。
人間はもともと未来に対して漠然とした「得体の知れない不安」を抱いているので
話を作るとこうなってしまうのだろう。
またそういう物語を作る人の根本的な動機は「今、おたおたしてると未来は
こうなってしまうぞ!こうなりたくなかったら『今』を努力しよう!」
って言う事だから暗い話になるのだろうが。
(だったら地球温暖化に対して何とかしろよ!って感じだ。これは目の前に迫ってるよ)

僕としては後半の80万年後の世界より途中少し出てきた2030年代のNYの方が面白かった。
自転車で通勤するニューヨーカーがアレクサンダーのタイムマシンを見て一言、
「エスプレッソマシン?」
確かにイタリア製のエスプレッソマシンにはあんな感じのが多いね。
図書館のシーンも面白かったが、ほんの数分しか出てこない2037年の
月崩壊のシーンがよかった。
月が崩れ落ちてくるカットのスペクタクルはすごい。
「月の乱開発による崩壊」だけで1本映画を作ってもらいたいなと思う。

それといちばん期待していたタイムトラベルのシーン、NYの摩天楼が
出来上がっていく様とかグランドキャニオンみたいなのが形成されていく
シーンとかのCGは見ごたえがあった。でももう少し時間的に長いかと思っていたので
ちょっと物足りない感じは否めなかったです。ハイ。

(このページのトップへ)



黒い画集 ある遭難

日時 2002年8月4日
場所 録画ビデオ
監督 杉江敏男

「黒い画集 ある遭難」は名画座に掲載しました。

(このページのトップへ)



にせ刑事


日時 2002年8月4日12:45〜
場所 ラピュタ阿佐ヶ谷
監督 山本薩夫

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


警官・千田(勝新太郎)は一本気な性格で困った人を見ると
助けずにはいられない。ある日、川でおぼれてる子供を助けようと
腰の拳銃を外し川に飛び込んで子供を救出した。
ところが助けにいってる隙に拳銃を盗まれてしまう。
その拳銃が犯罪に使われてしまったために同僚に惜しまれつつも
退職せざるを得なくなる。
退職後、元同僚の警官(山本学)の結婚式の帰りの電車の中で
若い女性・美恵子がチンピラに絡まれているのを見て、電車の中や駅のホームで
チンピラ相手に大乱闘を演じてしまい、チンピラは退治したものの
その中で美恵子も怪我をしてしまう。
千田の武勇伝は新聞で報道され彼は一躍、町の英雄に。
しかし、美恵子が働いている幼稚園で、恵美子が入院で休んでいるため
子供の送迎が少し手薄になり、そのせいもあって子供が誘拐されてしまう。
責任を感じた千田は自らも独断で捜査を開始する。


勝新の千田という男は刑事ドラマにあこがれて刑事になったような
単細胞な男。テレビのアクション刑事ドラマを見てニコニコしてるような
子供のような男だ。
こういった真正直だが単細胞、悪い人間ではないが難しい事はよくわからなくて
口より手が先に出る乱暴な善人、というのは勝新にぴったりのキャラクター。
こういった役は勝新=若山兄弟以外、うまく演じられる人間はいない。
いまじゃいないね、こういったキャラクターの人は。

誘拐された子供(「大魔神」の大ファンと言うところが大映らしくていい)を
単独捜査で救出するあたりはご都合主義の偶然に助けられるので
ミステリーとしては弱いのだが、勝新の主人公のキャラクターが見ていて楽しく
その辺のマイナス分を差し引いて全体としては楽しめる。

結局、誘拐事件の真相は金より子供の父親(大坂志郎)である銀行支店長が
持っている「内閣官房長官よりの不正融資依頼の念書」が目的だったと言うあたりが
常に巨悪を追求する山本薩夫らしい。
伊藤雄之助、山本学の刑事たちが不正融資の家宅捜索に行くところで映画は終る。

巨悪を追求する山本薩夫らしい作品ともいえるが、今回彼が主軸としたかったのは
前半のチンピラにからまれた恵美子を誰も助けようとしなかったシーン
ではないかと思う。
乗客のほとんどが知らん振りを決め込む中、ただ一人女性を救おうとする勝新。
それを見る乗客のリアクションがよく表現されている。
女性のとなりに座っていた中年男(汐路章だったと思う)が勝新に加勢しようと
してやっぱり躊躇して座ってしまうシーンや、駅で降りていった勝新たちを電車から
心配でずっと目で追うシーンなど本筋とは関係ないのに丁寧に描写される。

やがて事件が新聞報道され勝新の家にたくさんの激励の手紙がやってくる。
その中で件の中年男から手紙が届く。「勇気をもって立ち向かえなかった自分が
恥ずかしい。これからは自分も勇気を持ってああいう時に立ち向かっていきたい」
このシーンの前後で勝新の父(加東大介)や捜査課長(伊藤雄之助)が
「みんながみんな、ああいった奴(勝新の事)になる必要もないが、多少は
ああいうのがいてくれたほうがいい」という主旨のことを話す。

巨悪を追求した山本だが、いちばん恐いのは「無関心を装う人間の心」だと
考えていたのではないか。「人々が自分の事だけでなく、もう少し世間のことを
考えて行動してくれたらもっと世の中はよくなるはずだ」そういう山本の
ため息がなんだか聞こえてきそうな、小品だが見逃せない作品だった。
面白かった。

(このページのトップへ)



黒い画集 あるサラリーマンの証言


日時 2002年8月3日
場所 録画ビデオ
監督 堀川弘通

(詳しい内容はキネ旬データベースで)


松本清張原作、「黒い画集シリーズ」第1作
この作品のあと「寒流」「ある遭難」と3本が作られた。

主人公の石野(小林桂樹)は丸の内の中堅企業の管財課長。
上司の部長(中村伸郎)も最近重役になり、うまくいけば定年までに
部長ぐらいにはなれるかも知れない身分だ。
だが彼は一方で部下のOLと不倫関係を続けていた。
新大久保の彼女のアパートに行った帰り道、近所に住む杉山と
ばったり会う。
数日たって杉山は向島で起こった殺人事件の容疑者として
逮捕される。犯行時刻はちょうど石野と新大久保と会った時刻だ。
ところが石野は不倫関係が公になるのを恐れて杉山には
会ってないと証言してしまう。
しかし今度は運命のいたずらで石野は別の殺人事件の容疑者にされてしまう。


小林桂樹のどこにでもいそうな、「折角課長ぐらいにまで出世したんだから
少しぐらい遊んだっていいじゃないか」という中年男を好演。
前半の若い彼女を相手に食事しながらキスをするあたりの
スケベ中年ぶりが決まってる。
また一旦は「会ってない」と証言したものの、自分の証言いかんでは杉山が
無罪になると知り、今度は良心の呵責に苦しめられ苦悩するところは
さすが。

「白と黒」(製作としてはこの「〜証言」の方が先だが)にも登場する
西村晃の刑事のねちねちぶりは見ていて思わずにんまりしてしまう。
特に後半、別の事件の殺人容疑者になった小林桂樹を「映画?あんたまた
映画を見てたって言うの?あんたの話にはいつも映画が登場するねええ」と
イヤミたっぷりにいたぶるシーンは絶品。
どう見ても後の「水戸黄門」には見えない意地悪ぶりは惚れ惚れする。

事件の展開の意外さ、スピーディーさでは「白と黒」に見劣りするけど
それにしてもミステリー作品としては上出来の作品。
最近お勧め作品が多いけど、これも見て損はさせない面白さです。



(このページのトップへ)